地域の文化をビジネスに!? 文化保全とビジネスの関係性
Hello, people.
今回のテーマは「地域の文化をビジネスに!?文化保全とビジネスの関係性」です。人口減少や衰退化による地域文化の担い手不足が社会問題になっています。その中で、ビジネスの手法を取り入れた今の時代にマッチする文化発信・文化保全に取り組む方々がいます。
そこで実践的ビジネスコミュニティ GDA(Good Days Association)では事例を交え、上記のテーマについて紹介するウェビナーを開催。プロの阿波踊り集団『寶船』(たからぶね)の米澤渉さんとまちづくり会社『株式会社シーナタウン』の日神山晃一さんに登壇いただきましたので、その内容をお届けします!
地域文化を守る存在としてのビジネス
米澤 今、あらゆる地域が直面している問題に、地域文化の担い手の減少が挙げられます。徳島の伝統芸能である阿波踊りも同様です。昔から祭りは集客の大きな手段だったので、商店街が阿波踊りのスポンサー・担い手となってきました。ところが今、高齢化に伴い閉店する店も増えています。代わりに全国チェーン店が進出していますが、そうした店は「地域文化の保全」に対して積極的ではありません。だからこそ、私たち『寶船』はプロとして阿波踊り集団を発足させる必要があると思いました。
日神山 私たち『シーナタウン』が活動拠点としている豊島区椎名町も、かつては若者が多く住む活気のあるまちでした。ところが、現在は単身高齢者が多く、商店街が多いにもかかわらず空き店舗が増加。また、世代間の関わりが薄いために人口も流出し、都内にありながら「消滅可能性都市」とまで言われています。
このままではまちが育んできた地域文化が廃れてしまう。そこで『シーナタウン』では、互いの顔が見える関係を再構築し「外貨を稼ぐこと」「地域に愛着を感じてもらうこと」を目標としました。
プロの阿波踊り集団を率い、海外公演も行う『寶船』米澤さんの事例
米澤 『寶船』の前身は徳島県出身の私の父が、子どもたちに阿波踊りの文化を伝えていきたいと、東京で発足したグループでした。阿波踊りは地域の人たちが祭りで踊るもので、生業として行う集団はいなかったのですが、2012年に初のプロ集団として発足。以後、世界20カ国61都市を周り年間250ステージをこなすまでに成長しました。
非言語であり、世代や文化を超えて誰でも楽しめる体験型の日本文化は、海外の方にとても受け入れられています。テクノロジーとエンタメ、デザインをかけ合わせたコラボレーションイベントに参加したり、時にはロックフェスなどに参加することもあります。
こうした自由な発想でイベントに参加できるのは、プロ集団だからこそ。時には海外だけでなく「イベントの出演をお願いしたいが、まち同士のパワーバランスを考えると徳島のどの団体に依頼したらよいかわからない」と頭をかかえる自治体から、中立的な立場の私たちに声がかかることも少なくありません。
地域の交流拠点をつくり、文化を再編集するまちづくり会社『シーナタウン』日神山さんの事例
日神山 『シーナタウン』では「まいにちを再編集」を基本理念として、商店街に泊まり、東京の"日常”を体験する宿『シーナと一平』、ブリュワリーパブ&ラジオ&アートギャラリー『西池袋マート』、飲食店やコワーキングスペースを併設した『ニシイケバレイ』などを手掛けてきました。
『シーナと一平』では、地域の人たちに空き家を掃除してもらうことから始め、手づくりで一緒につくり上げることで顔の見える関係を構築していきました。オープン後は、宿泊した外国人とミシンで布小物などを一緒につくったり、「わたしの」オススメ飲食店を紹介するなど、旅行の枠組みを超え、まちの日常を価値に変える取り組みをしています。
『西池袋マート』はクリエイティブな熱量が集まるサロンとして、つくった場所です。実は豊島区は数多の著名漫画家を輩出した『トキワ荘』や新進気鋭の芸術家たちが暮らしていた『池袋モンパルナス』があることで有名な「愛すべき変な人」が集まる地域。また、まちの人たちはそれを受け入れ見守ってきた歴史があります。そこで豊島区最大級のブリュワリーを設立し、地域のアーティストが自分を表現できる場としてギャラリー&ラジオをスタートさせました。
これからの社会と文化の関係性
日神山 地域文化は長い歴史の中で醸成されていくものなので、外部から来た人間がビジネスとして再構築していくのは、さまざまな点で困難が伴います。米澤さんはそのあたり、どう捉えていますか?
米澤 私たちが最初に決めたことは『抹茶プラペチーノになろう!』ということでした。海外のジャパンエキスポでは日本のポップカルチャーのブースには多くの若者が集まる一方、茶道や琴、三味線のような洗練された伝統文化のブースには特定の人しか来ない。敷居が高いと思われているんですね。そこで『寶船』はその壁を取っ払い、2つの文化を融合させる存在になろうと決めました。
阿波踊りは「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソン」という掛け声がある通り、歌舞伎や日舞のように黙って客席から鑑賞するものではなく、一緒になって踊る体験型の文化です。ですから、参加する人やイベントに合わせてパフォーマンスを多少改変しながら、ライトに楽しめるようにしています。「そんなの阿波踊りじゃない」という批判を受けることもありますが、伝統文化を『守る』ことは、冷蔵庫の中にしまっておくことではありません。今もなお、地続きで存在しているものなんだ、ということを感じてもらいたいです。
実は徳島の高齢の方々ほど「そうそう、昔はこんな風に自由に踊っていたよね!」と言ってくれるんです。450年以上続く伝統芸能でありながら、昔はジャズの要素を取り入れていた時期もあるほど、元来は自由な発想で踊るものだったんですね。和の文化は「和える文化」。ほかの要素を取り込みながら発展させていくことこそ、これからの社会に必要なことであり、自分たちに与えられた使命だと思っています。
日神山 地域文化の「保全」に主軸が置かれるあまり、記念碑やミュージアムの設立といったことで終わってしまうということは、豊島区でも見られることです。もちろん、それは行政がやるべき役割として必要なことなのですが、トキワ荘は「今振り返ってみると、混沌とした時代やまちの空気感の中で、若者が夢に向かって切磋琢磨していた場所だった」というだけで、当時はそういう認識はなかったはず。だとすると、次の時代に残すべきものは「人と人が繋がり、夢を実現できる場所」であり「池袋の西側地域に昔から存在するパッション、空気感」だと思っています。
まちの遺産として、過去のものとして切り離すのはもったいない。米澤さんの言うように、地域の文化を地続きにあるものとして残していくことが、求められているのかもしれませんね。
まとめ
地域文化の保全を、ビジネスの視点で行ってきたお二人。新しい手法を取り入れながら今の時代に合わせて「地続きの文化」を継承していく姿が印象的でした。文化を通して顔の見える関係性を構築していくことは、多様性の時代だからこそ、人々をつなぎとめる大きな鍵となりそうですね。
登壇者紹介
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