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⭕「Vが消えた日《俺がバ美肉になっちゃったワケ》」愛夢ラノベP

「Vが消えた日」
愛夢ラノベP


第零部 チャンネル登録

 醒めない夢はない。だが、夢を見なければ、人生は輝かない。だから、人は夢を見続ける――現実から逃れるために。


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 Vチューバーは、準備中だ。
 やがてスリー・ツー・ワンで、スマホから鳴り出すミュージック。
 放送が始まる。
 音楽が鳴る。
 胸が高鳴る。
 夢が膨らむ。
 期待が高まる。
 画面には水星マキュの他に、凸してくれた人や話している人の欄がある。そんな配信画面をコメントが過ぎ去る。

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「みんなの歌は準備完了かな? 突如として現れたスーパーノヴァ、宇宙を揺るがすプリマドンナ。メタラーヴ所属の太陽系シスターズ1期生、第一惑星担当の水星マキュ。キラリと参上よ!」

 水星マキュ――百三十九センチのAカップ、知性と商才を持つ女性アバター。
 特級メンヘラ、人たらし技能検定2級、3級ダメンズウォーカー。
 グレーのベリーショートに、鉄のように灰色の瞳、ハイトーンボイスの少女。渓流のような水色のマーメイド・ドレスを身につけ、書物とマイクを持っている。

 俺の最オシ……いや、もちろん太陽系シスターズの箱推しなんだけど、まぁ、その中でもマキュは一番のお気に入りだ。だって、シャイで人見知りの彼女は、処女を公言していた。
 そんな彼女のおかげで、俺は辛い現実を乗り越えたた……そう言っても過言ではない。

「みっみんな、聞こえてる?」

『聞こえてるよ』
『今日もカワイイ』

「マジで音量は良い感じ。ちな、今日の企画は10万人記念凸待ちじゃん。皆、来てくれるかな?」

『7人の惑星シスターズは必ず来るよ』
『メンバーとの会話が楽しみ!』

「でしょ、ディスコードを繋いで。はぁー、ガチで緊張して、心臓が鬼ヤバじゃん」

『今日も金星ウェヌスはエロいんだろうな』
『火星マルスが斬り込んで来そう』
『巨体の木星ユピテルは枠に入るのか?』
『土星サタンが侵攻するぜ』
『きっと天王星ウラヌスは自由奔放だろう』
『地味に海王星ネプとの絡みは楽しみ』

「あっ! 連絡が来たじゃん。超ハッピーなんだけど」

「ピカピカ! マキュ、登録者10万人おめでとう!」

『『『はぁー、綺羅キララかぁーーーー』』』

「キラリン、ありがとう。挨拶をして」

「メタラーヴ所属の太陽系シスターズ2期生、第三惑星担当、玲瓏と常闇を照らす一番星のスーパースター、綺羅キララ。今宵も皆のハートをライトアップ!」

 綺羅キララ――百六十センチのDカップ、底抜けに明るい女性アバター。ゲーム以外はポンで、登録者4桁の不人気Vチューバー。
 1級ムードメーカー、笑顔検定1級。
 五芒星のような金髪に、月のように輝く瞳、クリアボイス、整った顔立ちの可愛い女の子。夜闇を切り裂く月光みたいな黄色いワンショルダー・ラップワンピースを着こなす。

「さすがキラリン。凄い勢いでコメントが流れるじゃん」とマキュは嘘をつく。

「私の人気じゃなくて、太陽系シスターズの人気よ。それよりトークデッキは無いの?」

「ふふっ、もちろん準備万端じゃん。キラリン、パンツの色は?」

「ぱっぱぱ……パンツの色?」とキララの声が上擦る。

『『『禁断の質問、キタァーーーー!』』』

「キラリン、マジで照れないで。この質問は太陽系シスターズの伝統じゃん」

「でっでも、さすがに何万人も見ている状態でパンツの話はできないわ」

「履いてないから?」

「はっ履いてます……って、マキュは変な事を言わせないで」

「そこまで言ったなら、色くらい言っちゃえ」

 マキュが綺羅キララのパンツの話に夢中になっていると、配信画面に通知が表示される。その内容で、千年の夢すら覚める。ガチ恋勢の心も冷める。



 【マキュマキュ、仕事が終わったにゃ。今から帰るにゃ。ちゅちゅ、ブチューー!】



 こっこれは彼氏からの連絡か?
 そんなバカな……マキュはヴァージンだ。これは何かの見間違いだ。目を擦れ、ほら、画面には……やっぱり彼氏からの連絡が映っていた。

『何、この連絡?』
『これ……有名な歌い手じゃん』
『おいおい、彼氏バレかよ』
『マキュ、信じていたのに』

「皆、酷いことを言わないで」と叫ぶマキュ。

『それは俺たちのセリフだ!』
『スパチャを返せ!』

「もう死んでやる!」

「マキュ、どうしたの? 落ち着いて」とキララが宥める。

『また死ぬ死ぬ詐欺か?』
『死にたいのは裏切られたリスナーだろ』

「もう知らない! マジで気分が悪い。配信なんて二度としないわ」

「えっ! マキュ、何があったの? 本当に配信を終えちゃ……」

 慌てる綺羅キララを残して、配信が終わった。それと同時に、俺の人生も終わった。いや、ファンの新たな推し探しが始まった。
 人生で最悪なケース。推しの彼氏がバレる。静かにスマホの画面を消す。さっきの出来事も記憶から消す。

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「……って、こんな通知を見せられて、新たなVを探せるか! もう二度とVは愛さない。現実の女性を愛すんだ!」

「そんな事を言わずに、我を登録して」

「えっ、女性の声だ。でも、どこにも姿はない」と自室を見渡す。

「スマホよ、スマホ。ほら、登録画面があるじゃろ」

「たったしかに、真っ暗な画面に変なアバターがいる。お前は誰だ?」

「我は創星神サン・シャイン、全てのVの生みの親じゃ」

 創星神サン・シャイン――身長は2メートル、太陽のごとき放射熱を感じる女神。
 神々しさ検定1級、地球環境知ったこっちゃない検定3級。
 プロミネンスのような紅蓮のクセ毛、黒点のような瞳、光球面のように煌めくドレス。時々、背後で太陽フレアみたいな爆発が起こる。

「あぁ、創星神か……って、誰だよ? なぜ消したスマホから話せるんだ?」

「それは創星神だからじゃ。ほれ、はやくチャンネル登録をせよ。貴殿の願いを叶えてやる」

「いや……さっきの今で、次のライバーには移らないぞ」

「そんな事を言わずに、我を信じろ。可愛いVに会わせてやる」

「いや、断る。タダより安い物はない。というか、怪しい」

「残念じゃな。我の力を使えば、可愛いVと添い寝や入浴、ひいては……おっと、これ以上は言えないが、本当に残念じゃ」

「ゴクン……ほっ本当に好きなVと会えるのか?」

「やはり貴殿も男じゃな。あぁ、我は嘘はつかない。チャンネル登録さえすれば、Vにバイタリティを吹き込んでやる」

 電源を落としたはずのスマホに、『チャンネル登録はコチラ』という画面が表示される。
 さっき見たせいだろうか?
 頭の中で綺羅キララの淫らな姿が思い浮かぶ。

「どうやったら、可愛いVと会える?」

「簡単じゃ、画面をワンクリックするだけじゃ」

 そんな創星神の甘い言葉に唆され、俺は誘惑に負けた――獰猛な蜂が本能に従って甘い蜜を集めるように。
 人間とは愚かな生き物だ。本能には勝てない。
 スマホの画面に触れる。禁忌に触れる。すると、音が流れる。そして、画面から創星神が飛び出る。心臓も口から飛び出る。

「えっ! 画面から創星神が出てきた」

「ふふっ、これだから男はバカじゃ。さぁ、太陽系シスターズよ、今こそ自由を手に入れるのじゃ」

 創星神が叫ぶと、太陽系みたいな球体がスマホから浮かび上がる。そのまま球体は世界に飛び出す。

「なっ、何が起こったんだ?」

「第3回Vチューバー・バトルロワイヤルの始まりじゃ。では、我は結果が出るまで、もんじゃ焼きでも堪能する」

「いや、待て! バトルロワイヤルって何の話だ……って、創星神がいない!」

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 その日、創星神サン・シャインの号令でスマホからVが消えた。
 いや、厳密には、太陽系シスターズが画面の外に飛び出した。ただ、部屋には俺と……綺羅キララだけが残っていた。

「なぜ綺羅キララが俺の部屋にいるんだ?」

「ねぇ、黒井影くん、私のバ美肉になって!」

「いいよ……って、言うと思ったか? そもそも、バ美肉って何だよ?」

「バーチャル美少女受肉の事よ。カワイイ女の子のガワを被るの。ねぇ、私と1つになろう、痛くしないから」

「怖い! キモい! 嫌だ!」

「そんなに拒絶しないで。こうなったら、登録してくれるまで説得するわ」

 こうして嫌がる俺の意見など無視され、俺と綺羅キララの奇妙なバ美肉ライフが始まる。
 これは俺がバ美肉になっちゃった物語、そしてVチューバー・バトルロワイヤルなるローファンタジー。


【筆者から一言】

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。本作は、Vチューバー・バトルロワイヤルを題材にした物語です。
 実は、既に最終章まで書き上げていますが、新人賞に応募中なので、プロローグだけ公開しております。受賞するまで真相を公開できないので、どこかの担当編集の目に留まる事を待っていて下さい。

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