休日は家で過ごすことがなかった。
当初は疲れて出掛ける気力すら残らないだろうと思っていたが、人間の適応能力というのはすごい。
職場がすぐ近くにある閉ざされた空間から脱出したい一心で身体の疲れなどさほど問題ではなかった。

電車に飛び乗っては三重県内の街をぶらぶらしたり、レンタカーで和歌山の南紀あたりまで行ったりもした。
鳥羽、伊勢、松坂、熊野、名張、津、四日市…。
実際に街を歩いてみて初めて三重は南北に長く、雰囲気が異なることを肌で感じた。
以下、それぞれの街の雰囲気、印象である。

鳥羽は水族館がある大きな通りはなんの変哲もない観光地なのだが、花街だった通りのあたりは怪しげな飲み屋の看板があったりして歩くのがおもしろい。

そこに江戸川乱歩館というちょっとした文学資料館があって、名は江戸川乱歩を冠しているが、もともとは岩田準一(画家であり、民俗学者)の家である。さらっと南方熊楠から岩田に宛てた手紙が展示されていて、後に訪れた南方熊楠記念館では南方熊楠と後年まで手紙のやり取りをしていた人物らしいと伺ったが、岩田についての功績や足跡は江戸川乱歩のおまけ程度しかなかった。岩田の家に居候していた江戸川乱歩は大出世である。江戸川乱歩様様なのだ。

伊勢は宇治山田駅で降りて明倫商店街を冷やかしながら散歩するのが定番コースだった。

とにかく通いたくなるおいしいお店が多かった。キッチンクック、鳥長のからあげ、つたや、美鈴…。味だけではなく人柄もまた魅力的だった。献血ルームのスタッフまで気さくで、わたしはその人たちに会いたくて通っていたような気がする。他にもナチュラルに道端のゴミを拾う人がいたり、お伊勢さんの名に恥じぬようにみたいな意識があるのか、気持ちのいい人ばかりだった。

松坂は城下町の面影が残る街並みが素敵だ。江戸で大流行したという松阪木綿はわたしにもどストライクな渋さで、レンタルして粋な街歩きを楽しんだのである。

熊野といえば景勝地があったり、神社があったりと見どころも多いのだが、海沿いの道をドライブするのが好きだった。熊野、尾鷲あたりの街は味のある路地が多く、夜歩いたらよい居酒屋さんがありそうな予感。

今でも酸っぱいさんま寿司が食べたくなる。

名張こそ江戸川乱歩の生誕の地であり、江戸川乱歩推しだった。街はなかなか渋い雰囲気である。車道に古い鳥居があったり、松が生えていたり、形容しがたいが畑が広がる殺風景な田舎ではない。

文化の香りがする。が、どことなくそっけない。それから、酒蔵が多い。このお酒どこの？って思うと名張の酒蔵ってことが多かった。

津の駅前はオフィス街で全然街歩きには向いていない。スーツを着たサラリーマンばかりである。バスで三重会館まで行って大門のあたりをぶらぶらするのが楽しいのだ。

天むす、手羽先、こういうところに名店がある。小腹が空いたら出来立ての蜂蜜まん(¥60)を食べる。ここにもスーツのサラリーマンが現れて10個20個買い求めて去っていく。お土産に重宝するらしいのだ。

四日市は三重の中で一番の繁華街である。駅ビルがあって、かつその中に無印良品が入っていて、アーケードがあって、駅前で一通り揃いそうな感じがする繁華街は三重では四日市だけである。そして、四日市はただの繁華街ではない。
四日市には萬古焼がある。掘り出し物を探すのだ。

さらにトンテキ。賞味期限が短い長餅。東海道の名残を感じつつ、激動の昭和、そして我が平成の時代へ想いを馳せる街歩きができるのだ。と最後はなんの根拠もなく勢いでまとめてしまったが、工業地帯や繁華街だけではない魅力がある街である。

初めのうちは仕事から逃れるために出掛けていたのだが、
ページをめくればめくるほど次が気になるといった具合で三重に魅了されたのであった。
ただ、乗り物はほぼ公共交通機関であったり、熊野方面に関しては車だったので感じ方に偏りはあるかもしれない。歩いてみる街、車で行ける場所、速度によって印象は変わる。
車がないと不便ではないかと不思議がられるが、ゆっくり街を歩いてみようと思えるので車を持たないのもなかなかよいものである。もちろん不便に思うこともあるが。

また、こういう生活をしているとどんな生活なのかとか休日どうしてるのか聞かれることが多い。この記事は「休日の過ごし方」について書こうと思ったのだが、書いていたら三重への愛が溢れ出してきて気づけば「三重の過ごし方」になってしまった。

三重にリゾバに行く方、
伊勢神宮だけじゃない三重の旅をお考えの方、
ぜひ参考に…(なったらいいな)。

つづく(たぶん)