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「猟奇的な彼女」を観て、飲みやすい生酛造りのお酒を思う

ここ数年で変わった生酛造りの日本酒

数年前までは「生酛造り」の日本酒というと、見た目が黄色く濃い色で、旨みも酸も強く全体的に力強くてどちらかというと通好みのお酒という印象でした。
私自身も、そういったお酒を燗で飲むのは好きでしたが、常温や冷たい状態で飲むのは結構辛くて、誰にでもお勧めできるお酒ではないなあと思っていました。
でも最近では、生酛造りでもフレッシュで親しみやすい味わいのものが多く造られており、たまに日本酒を飲むというライトユーザーにも飲みやすいものが増えています。

そうなってくると、そもそも生酛造りの特徴というのは何なのか?という話になります。以前私が思っていた濃厚でどっしりとした味の生酛と、ここ数年で増えたそこまで重さがなく、むしろ飲みやすい生酛。この2つは一見全く違い、同じ製法で造られたものとは思えません。
飲みやすい生酛が出てきた頃、飲みやすいお酒を造りたいのであれば、生酛で造る必要はないのではないかとすら思っていました。

一見無関係なものが深みをもたらす

もう20年前になりますが、「猟奇的な彼女」という大ヒットした韓国映画がありました。

当時私は苦手なジャンルだと思い避けていたのですが、最近になってようやく観てみたところ、観終わった後にふとここ数年多くなった飲みやすい味の生酛造りの日本酒のことを思い出しました。

「猟奇的な彼女」は大学生の恋愛話の諸々を描いたラブコメで、途中までは楽しい映画だな、というくらいの感じでしか観ていなかったのですが、一番最後には、それまで取るに足らないと思っていたことが全て集約される結末が待っています。それを観た時に、積み上げられてきた出来事が結末のこのカタルシスのためにあったのだと、この話の作り方に感動しました。(話自体も面白かったのですが)
中にはそんなに面白いと感じない場面もありましたが、それらも結末のために準備された場面であり、それらの場面がより結末の感動を強くしています。

飲みやすい生酛造りの日本酒はギャップが魅力

なんで「猟奇的な彼女」を観て生酛造りを思い出したかというと、この2つは一見何ていうことない、観やすい映画であり飲みやすいお酒であるけれど、最後に思いもしなかったことが待っているという共通点があるから。
最近増えた飲みやすい生酛造りの日本酒は、面倒な作業がある生酛造りでわざわざ造らなくても速醸酛でもいいのでは、と思うこともあるのですが、料理と合わせた時や燗酒にした時に驚くような底力を見せます。

飲みやすいタイプの日本酒は肉や濃厚な味付けの料理には負けてしまうことが多いのですが、同じ飲みやすい日本酒でも、生酛で造ったものはそれらの料理にも負けず、更に合わせることによってお酒だけ飲んでいる時には感じられなかった力強さや複雑さが出てきます。
燗酒も一緒で、温めることで日本酒の味が飛んでしまうのではないかと思ったら、全く逆でコシのある力強さが前面に出てきます。

これらの力強さや複雑さは、全て生酛造りという工程の多い造り方から生まれたもの。料理と合わせたり燗酒にした時に初めて飲みやすいお酒を生酛造りで造る意味が理解できました。

最初から分かりやすくそのものの持つ本来の意味を出すのではなく、それではないものを前に出しておいて、最後にその意味を理解させ、そのギャップがより魅力を感じさせる、ということを「猟奇的な彼女」と飲みやすい生酛造りのお酒から学びました。
年末年始、良かったらぜひ生酛造りの日本酒片手に「猟奇的な彼女」を観てみてください。笑


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