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僕が年間100回以上も金融機関に話をしに行く理由

お金を貸してと言われて、僕は誰に貸すだろうか。

みなさんは「お金を貸してくれ」と言われた経験はありますか?

「トラブルのもとなので絶対に貸さない」という人もいれば「あげるつもりで貸して縁を切る」という人、「親しい人間なら〜円までOK」など、さまざまでしょう。もちろん貸す貸さないの判断は自由。ただ、誰しも「自分なりの基準」は持っているんじゃないでしょうか。

個人間はさておき、ビジネスではお金の貸し借りは当たり前に行われます。どんな業界であれ、会社の規模拡大や新規事業のチャレンジに向けて金融機関から融資を受けようとします。そんな時、経営者が悩むのは「誰になんと言って借りるか」でしょう。僕自身、創業から数年間はどうやって融資を受けるかずっと試行錯誤してきました。その結果、すごく当たり前なことですが「相手の基準をクリアするための準備と関係づくりを徹底的に行うことが一番の近道」だと考えるようになりました。

今回はそんなお金に関するお話です。

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四半期に1度、取引銀行に情報開示に行くことを自分のルールにした

経営計画書に関するnoteでもお話しましたが、僕たち不動産ディベロッパーはビジネスとして取り扱う金額が大きいこともあって、いかに金融機関からの融資をもとに事業拡大していけるかが経営の舵取りのポイントになっています。だからこそ大切にしているのが金融機関との付き合い方。と言っても、何か特別なノウハウや交渉術があるわけではなく「愚直に頻度高く担当者と情報共有すること」を徹底しているだけです。

現在、僕の会社ではお取引いただいている金融機関の数が30を超えていますが、ちょうど5月末の決算が確定して事業計画に反映できる今月後半から、1件ずつご挨拶にうかがう銀行行脚の旅が始まります。この暑い時期にスーツを着込んで複数の取引先を巡るのはまさに修行!ですが、それでも何年も続けているのには理由があります。

そのひとつが「日常的に金融機関との信頼関係を築いておく」こと。どんな業種でも金融機関から融資を受ける場合は「稟議」が必要になりますが、いざ融資をお願いする段階で担当者に理由を説明したり必要な資料を用意するのと、日常的に会社の状況を共有しているのとでは、会社に対する信頼感も稟議のスピードも段違いだと感じています。

決算報告を皮切りに3ヶ月ごとに顔を合わせていると、当たり前ですが担当の方ともそれなりに親密になります。金融機関は部署移動などで担当者が変わることも多いですが、関係性が築けていれば後任の担当にもスムーズに引き継いでもらえますし、支店長など決裁者の方との面談もセッティングしやすくなります。これは金融機関巡りを何年も続けてきたことで実感しています。いくらデジタル化が進んだとしても、泥臭いお金の貸し借りの話は、どこまでいっても人と人との信頼関係ありきだと思っています。

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相手が欲しい情報を先回りして資料をつくる

そんな訳で年間を通して100回以上も金融機関との面談を行なっているのですが、手ぶらで行くことはありません。「相手の基準をクリアする」のが目的なので、そこに合わせた資料を揃えて臨むようにしています。既存先か新規開拓かによって提出する資料はまちまちですが

● 会社の事業計画書
…… 会社のビジョンや中長期の事業計画をまとめたもの
● 財務関連資料
…… 上記に付随した数値目標と四半期の実績、直近の決算数値関連
● 物件在庫の管理表
…… 仕入れが完了している販売予定の保有物件に関する情報
● 過去の物件販売実績
…… これまで取り扱ってきた物件の売買情報

に関しては常に最新のものを用意するようにしています。

決算資料の表紙はこんな感じ

これに加えて、実際に融資をお願いする場合は「該当案件の事業計画書(物件の売買の目的や期間・金額など)」を添えてご説明にあがります。同業他社がどんな風に銀行とお付き合いされているかは分かりませんが「今村さんのところは他と比べて経営管理や数値計画がしっかりしている」「稟議書が書きやすい」というご担当者の声を聞くかぎり、一定の信頼はいただけているのでは、と感じています。

融資をお願いして稟議を回してもらうには、言うまでもなく「この会社にお金を貸して大丈夫かどうか」が第一の指標になります。とはいえ、決算関連の膨大な資料をすべて見せたとしても読み解くのに時間がかかってしまう。いかにぱっと見て理解してもらえるかを意識して、レイアウトや図表の作り方にもこだわって資料を作成しています。例えば決算説明の資料では会社のビジョンやミッションにはじまり、前期のトピックス、業績報告、市場動向と業績予想、成長戦略や投資計画などをできるだけ簡略化してまとめています。


はじめにトピックスをまとめている



少し話はそれますが、今村不動産の前期のトピックスは5つあり、なかでも「資本金の増資」「私募債の発行」「SDGs宣言」などは銀行にとってもプラスの要素として取り組めた出来事だったと思います。たまに「ここまで自主的に情報開示してくる会社は少ない」と担当の方に言われますが、真っ当に商売をしているからこそ隠すべきものはないし、むしろこちらから情報開示をすることが信頼醸成につながるのではないかと考えています。

もうひとつ「融資稟議書を書きやすいか」も関係づくりのポイントだと個人的に思っています。稟議書の内容はその目的や融資金額、担保、金利や利幅、融資形態、返済ルールなどの基本的な内容をベースに、融資に対する担当者の見解が記載されます。もちろん僕は銀行マンじゃないので実際のところはわかりませんが、この稟議書を書くのってめちゃくちゃ面倒だと思います。それこそ、まともな資料もなく経営者からの聞き取りを中心に資料をつくっていくのは骨の折れる作業でしょう。担当の方の不動産業界に対する融資の理解度にもよりますが、拠り所になる資料がなければ独断やイメージで進めるしかありません。そんなお客さん僕だったら嫌になって、積極的にサポートしようと思いません。なので、僕はいつも先回りして稟議書を書きやすいように「該当案件の事業計画書」を持って面談するようにしています。極端に言うと「そのまま写せば稟議書ができる」くらいの情報を揃えます。

「ここまで資料が揃っている面談はあまりない」と言われますが、それぐらい、少なくとも同じ不動産業界では融資相談に関して資料を揃えている会社は少ないのかもしれません。逆を言えば、こうやって案件毎に資料をきっちりと揃えられる体制があることは、僕ら今村不動産の大きなアドバンテージになっているとも言えます。「きちんと計画があって、信頼できて、稟議書も書きやすい」。そう評価いただいている金融機関からは、タイミングによっては逆に融資のオファーをいただける場合も出てきました。

少数精鋭の会社だと、どうしても社長自身が現場に目配りをしながら実務も背負いがちですが、組織作りの早い段階から役割を明確に分けて、金融機関との関係構築を僕の主業務にしたことは、結果的に会社としても良かったなと感じています。

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たった3ヶ月でも世の中の状況はガラっと変わる

僕が金融機関巡りをするもうひとつの目的に「不動産業界に対する融資動向のチェック」があります。たった3ヶ月でも市場は常に変化しているので、金融機関の融資動向も移り変わっていきます。例えば去年末の日銀による長期金利変動幅の上限0.50%の決定。ニュースで取り上げられた内容を受けてどんな見解を持っているかは、担当者に直接聞くのが手っ取り早いものです。実際、ほとんどの銀行が短期的には金利は上がらず融資の大局には影響なしとの判断でしたが、慎重な姿勢の銀行もありました。

市場の変化だけではなく各金融機関の体制によっても融資動向は変わってきます。銀行はそれぞれ融資のポートフォリオを持っていますが、金融庁の検査・監督によって不動産分野の融資が引き締められることもあります。担当者や支店長、審査部などの人事異動によって、それまで積極的だった銀行や支店の融資スタンスが渋くなることもあります。逆に、銀行によっては目標ノルマ達成のために融資に積極的なタイミングが訪れたりもします。

こういった細かな機微は、膨大なインターネットの情報にも載っていません。地道にヒアリングで拾っていかなければ見えてこないものです。けれど時間も労力もかかるので、おそらく同規模の同業他社はやりたがりません。それを愚直に頻度高く行っているからこそ「高く評価いただける→融資動向を把握できる→素早く事業展開できる」というサイクルが、今村不動産ではできているのだと思います。

また、少し専門的な話になりますが、ひと言に不動産業への投資といっても金融機関によってスタンスも微妙に異なります。一般的に、ただ土地建物を取得して販売(いわゆる転売)や立ち退きが絡むケースは融資してもらえないことが大半です。銀行の大義名分としては「付加価値を生む経済活動に融資する」からですが、すべての銀行が右へ倣えというわけでもありません。他にも解体が必要なケースの解体費や、不動産の担保評価額がつかない借地なども対象外の場合が多いのですが、銀行によっては融資が下りることもあります。

融資先の金融機関といっても千差万別。融資が事業拡大の鍵になり、さらに取り扱うケースも幅広い不動産ディベロッパーにおいては、実績を積み重ねながら取引先の金融機関を増やしていくことが、チャンスを逃さず事業を動かしていくための重要な経営戦略です。

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みなさんの事業に融資計画は含まれていますか?
自分が担当だったらお金を貸しますか?

融資や金策の話題になると一歩引いてしまう経営者の方も多いかもしれませんが、どんな業界であっても融資は経営とは切っても切れない関係です。

僕自身、資料の作り込みやプレゼンテーション方法などまだまだ改善は多いですが、会社の将来にとって重要な武器として、学び続けていきたいなと思っています。

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