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我が国の非特恵原産地規則

 我が国の非特恵原産地規則は、関税法第7条の2第1項(申告の特例)を受ける形で、政令の関税法施行令第4条の2(特例申告書の記載事項等)にその根拠を有します。

《関税法施行令第4条の2(特例申告書の記載事項等)》

 法第七条の二第一項(申告の特例)に規定する特例申告書(以下単に「特例申告書」という。)には、次に掲げる事項を記載しなければならない。

 二 特例申告貨物の原産地

4 第一項第二号に規定する原産地とは、次の各号に掲げる物品の区分に応じ当該各号に規定する国又は地域(第三十六条の三第一項第二号、第三十六条の四第二号、第五十一条の四第一項第二号、第五十一条の十二第一項第二号及び第五十九条第一項第二号において「原産地」という。)をいう。

 一  一の国又は地域において完全に生産された物品として財務省令で定める物品
 二  一の国又は地域において、前号に掲げる物品以外の物品をその原料又は材料の全部又は一部としてこれに実質的な変更を加えるものとして財務省令で定める加工又は製造により生産された物品

《関税法施行規則第1条の6(完全に生産された物品の指定)》

令第四条の二第四項第一号(特例申告書の記載事項等)に規定する財務省令で定める物品は、次に掲げる物品とする。

一   一の国又は地域(その大陸棚を含む。)において採掘された鉱物性生産品
二   一の国又は地域において収穫された植物性生産品
三   一の国又は地域において生まれ、かつ、成育した動物(生きているものに限る。)
四   一の国又は地域において動物(生きているものに限る。)から得られた物品
五   一の国又は地域において狩猟又は漁ろうにより得られた物品
六   一の国又は地域の船舶により公海並びに本邦の排他的経済水域の海域及び外国の排他的経済水域の海域で採捕された水産物
七   一の国又は地域の船舶において前号に掲げる物品のみを原料又は材料として生産された物品
八   一の国又は地域の船舶その他の構造物により公海で採掘された鉱物性生産品(第一号に該当するものを除く。)
九   一の国又は地域において収集された使用済みの物品で原料又は材料の回収のみに適するもの
十   一の国又は地域において行われた製造の際に生じたくず
十一  一の国又は地域において前各号に掲げる物品のみを原料又は材料として生産された物品

《関税法施行規則第1条の7(実質的な変更を加える加工又は製造の指定)》

令第四条の二第四項第二号(特例申告書の記載事項等)に規定する財務省令で定める加工又は製造は、物品の該当する関税定率法(明治四十三年法律第五十四号)別表の項が当該物品のすべての原料又は材料(当該物品を生産した国又は地域が原産地とされる物品を除く。)の該当する同表の項と異なることとなる加工又は製造(税関長が指定する加工又は製造を含む。)とする。ただし、輸送又は保存のための乾燥、冷凍、塩水漬けその他これらに類する操作、単なる切断、選別、瓶、箱その他これらに類する包装容器に詰めること、改装、仕分け、製品又は包装にマークを付け又はラベルその他の表示を張り付け若しくは添付すること、非原産品(一の国又は地域において生産された前条各号に掲げる物品及びこの条に規定する加工又は製造がされた物品以外の物品)の単なる混合、単なる部分品の組立て及びセットにすること並びにこれらからのみ成る操作及び露光していない平面状写真フィルムを巻くことを除く。


 法令としての非特恵原産地規則は、以上の3つの規定にとどまります。財務省令である関税法施行規則の下に財務省関税局長通達があり、税関での執行に統一性を確保しています。HS項(4桁)変更の基本ルールに加え、化学反応、捺染・浸染等の加工工程基準を通達ベースで規定しています。

 また、原産地の虚偽表示等に係る原産地決定は、関税法施行令第4条の2第4項を準用することが通達で定められています。

《関税法基本通達68-3-5~9》

68-3-5 (協定税率を適用する場合の原産地の認定基準)

協定税率を適用する場合における輸入物品の原産地の認定については、令第4条の2第4項、規則第1条の6及び規則第1条の7によるものとするが、これらの規定による用語の意義等については次による。

(1)  令第4条の2第4項各号に定める、「一の国又は地域」とは、外国貿易 等に関する統計基本通達別紙第1(統計国名符号表)の国又は地域をいう。

(2)  物品の生産が二国以上にわたる場合は、令第4条の2第4項第2号及び 規則第1条の7の規定を適用して原産地を決定するが、この場合、実質的な変更をもたらし、新しい特性を与える行為を行った最後の国を原産地とするものとする。

(3)  規則第1条の6第6号から第8号に規定する「一の国又は地域の船舶」とは、当該一の国又は地域の旗を掲げて航行する船舶とする。

(4)  規則第1条の7に規定する「税関長が指定する加工又は製造」とは、次に掲げる製造とするものとする。

(イ)  天然研磨材料について、その原石を粉砕し、かつ、粒度をそろえる加工
(ロ)  糖類、油脂、ろう又は化学品について、その用途に変更をもたらし、又はその用途を特定化するような精製
(ハ)  関税率表の第6部又は第7部の物品について、化学的変換を伴う製造
(ニ)  革、糸又は織物類について、染色、着色、シルケット加工、樹脂加工、型押しその他これらに類する加工
(ホ)  単糸からの撚ね ん糸の製造
(ヘ)  関税率表の第68.12項又は第70.19項に属する物品について次に掲げる製造
  ⅰ  繊維からの糸の製造
       ii  糸からの織物の製造
      ⅲ  織維、糸又は織物からの衣類その他の製品の製造
(ト)  関税率表の第71.01項から第71.04項までに属する加工してない物品からの当該各項に属する物品の製造
(チ)  合金にすること
(リ)  金属のくずから金属の塊の製造
(ヌ)  金属の板、シート又はストリップからの金属のはくの製造
(ル)  関税率表の第71類(貴金属に限る。)、第74類から第76頼まで又は第78類から第81頼までに属する物品(インゴット、棒、線その他同表の第72.03 項、第72.05項から第72.17項まで、第72.28項又は第73.01項から第73.26 項までに掲げる物品の形状のものに限る。)の製造(ただし、同表の第72.03 項、第72.05項から第72.17項まで、第72.28項又は第73.01項から第73.26 項までにおいて鉄鋼を当該製造の原料又は材料である金属に読み替えた場合において、当該製造前の物品と製造後の物品とが同一の項に属することとなる製造を除く。)
(ヲ)  関税率表第96.01項又は第96.02項に属する加工品からの当該加工品と同じ項に属する製品の製造

(5) 自国産以外の2種類以上の原料又は材料(以下「原材料」という。) を使用した製造において、当該原材料の中に当該製造後の物品に特性を与える重要な構成要素となるものとそうでないものとがある場合において、重要な構成要素となる原材料からみて、当該製造が規則第1条の7に規定する実質的な変更を加える加工又は製造(税関長が指定する加工又は製造を含 む。)に該当するときは、当該製造は規則第1条の7に規定する実質的な変更を加える加工又は製造(税関長が指定する加工又は製造を含む。)とみなすものとする。

68-3-6 (協定税率を適用する場合の原産地の証明に関する用語の意義)

68-3-7 (協定税率を適用する場合の原産地認定の方法)

68-3-8 (原産地証明書の有効性の認定)

68-3-9 (原産地証明書の取扱い等)

71-3-1 (原産地の虚偽表示等に関する用語の意義)

 米国のNAFTAマーキング・ルール、EUの非特恵原産地規則と比較すると、我が国の原産地規則は非常に簡素な成り立ちです。すなわち、技術的規定がほぼ存在せず、実質的変更としてHS項変更のポジティブ例外とネガティブ例外の事例を規定するにすぎません。また、レジデュアル・ルールと考えられる規定も存在しますが、どのような場合にも原産国が決定できる欧米のレジデュアル・ルールとは異なります。

 我が国の非特恵原産地規則は、WTO非特恵原産地規則の調和作業の終了と同時に調和規則を全面的に採用する予定であったことから、調和作業の遅延、中断、最終的には頓挫してしまった結果として、改正のタイミングを失い、業界からの強い要請もなく、極めて簡素な規定が維持されています。米国、EUの非特恵規則と比較してみても、項変更を満たさない場合に最終的な原産国を決定する規定が存在しないことは、問題点として指摘されています。一方、品目別規則を持たないメリットとして、5年毎のHS改正に合わせて品目別規則を微調整する必要もありません。

 業界単位の動きとしては、日本繊維輸出組合が繊維製品に係る原産地証明書を発給しています。

 我が国の非特恵原産規則を法制面から整理すると、以下の総括表のとおりです(注)。

(注)財務省関税局「原産地規則ポータル」、協定税率適用のための原産地規則  https://www.customs.go.jp/roo/text/wto/index.htm (最終検索日:2022年3月19日)

【総括表】日本国の非特恵原産地規則

我が国の品目別非特恵原産地規則

 我が国の非特恵原産地規則は、例外事由を除けば、次の関税法施行規則第1条の7(昭和41年大蔵省令第55号)及び関税法基本通達68-3-5(協定税率を適用する場合の原産地の認定基準)がすべての品目に対して一律に適用されます。

 基本通達の(5)は、一種のデミニミス規定と考えることができます。2種類以上の非原産材料を使用した製造において、当該非原産材料の中に当該製造後の物品に特性を与える重要な構成要素となるものとそうでないものとがある場合において、重要な構成要素となる非原産材料からみて、当該製造が規則第1条の7に規定する実質的な変更を加える加工又は製造(税関長が指定する加工又は製造を含む。)に該当するときは、当該製造は規則第1条の7に規定する実質的な変更を加える加工又は製造(税関長が指定する加工又は製造を含む。)とみなすとしています。すなわち、最終製品としての特性を与える非原産材料に焦点を当てて、当該非原産材料が項変更等の規定を満たす場合には、重要でない材料の関税分類変更に関わりなく、原産性を与えるというものです。

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我が国との二国間貿易のみならず、第三国間のFTAの活用を視野に入れた日・米・欧・アジア太平洋地域の原産地規則について、EPA、FTA、GS…

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