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『冬期限定ボンボンショコラ事件』(米澤穂信) 感想 ~小市民よ永遠に!~

『冬期限定ボンボンショコラ事件』(米澤穂信) の感想です。物語の内容に言及しているので、未読の方は是非読了後にお読みください。前半にメモをのっけて後半でちょっとまとまった感想を書いてます。
 勢いのまま書いたので文章とっ散らかっています。読みにくかったらごめんなさい。


感情が高ぶった時にだけ残すメモ

<外観>

 うわ分厚い! え、厚いよ! すごい、たっぷり!! 手に取ったずっしり感が全然違う。
 冬期限定は電子よりもせっかくなので物理で味わうとええですよ。この手にとったずっしり感というか、この厚みや重みを読む前にしっかり堪能して欲しい。片手でページをめくろうとするとてからこぼれそうになるのは小市民シリーズで初めてかもしれない。
 あ、あと、もしかして今回初めて天アンカットじゃない! 上がツルっとしてる。

<目次>

 目次細かい! 1ページに収まりきってない。なんか海外ミステリ小説みたい (海外ミステリは目次が細かいイメージ。偏見かもしれない)

「第二章 わが中学時代の罪」
←小鳩君の過去が明かされる! 予想はしていたけど期待が高まる!!

「第三章 わたしたち本当に出会うべきだったのかな」
←出会うべきでした!!! 全く読んでないけど絶対で合うべきだよ!!!

「第四章 小鳩くんと小佐内さん」
←ふわーーー!!!! 連ドラやアニメの最終回のタイトルじゃん!!

「第五章 秘密さがしにうってつけの日」
←"うってつけ"ってタイトル見ると「なんかミステリっぽい!」ってなる。元ネタはフリーマントルの『殺人にうってつけの日』かな?

「第二部 狼は忘れない」
←第二部のタイトルはクリスティの『象は忘れない』のオマージュ?

「第十章 黄金だと思っていた時代の終わり」
←おわらないでー!!!

「第十一章 報い」
←え、最後の章題がこれ……不穏だ……これまで比較的長い章題が続いてきて最後の最後で短いタイトルがつけられるの好きです。

 地図! ミステリだ!!! (地図や見取り図が出てくるとミステリを期待してしまう生き物)
 というか「渡河大橋」って河渡橋やんけ!!(この瞬間にgooglemapを開き、事故現場の様子を確認)

序章 小市民空を飛ぶ

P9「小佐内ゆきーーぼくと同じ、高校三年生だ」
←高校三年生!? あの二人が?? 信じられん!!!

P11「小佐内さんはどうやら、京都の大学を目指しているようだ」
あかーん!!! 京都がおしまいcityになってしまうぞ!!! 興奮しすぎて宮川大輔になってしまった……

第一章 置手紙によると小佐内さんは

P43 調書 「すごい。ぼくが喋った言葉がほとんど使われていない」
←と、トニイパンディ〜〜〜!!!

P52 「三行目の「ゆるさないから」の冒頭に吹き出しがついていて、「犯人を!」という一言が付け加えられている。」
←小佐内さんらしいかわいさがにじみ出ている……直後の忍者に扮した小佐内さんとあわせてしみじみかわいい……しみじみ……

第二章 わが中学時代の罪

58 「ぼくは幼い頃、少しだけ剣道をやっていたので、竹刀の持ち方や防具の付け方ぐらいは知っている」
←小鳩くん剣道やってたんだ!

P73 「なぜか"FIGHT"だけは大文字で書かれている」
←これ未だになぜかわかっていない……

P76 「目当ての四〇三号室はすぐに見つかった」
←403なのにすぐに見つかるんかい!

第三章 わたしたち本当に出会うべきだったのかな

P105 「同学年ならわかったと思うから、たぶん一年生です」
←藤寺君が小佐内さんを勝手に一年生と誤解するの良すぎる。ここでは事故に巻き込まれた女子は小佐内さんと明記されてなかったけど、この発言で女子が小佐内さんであることを確信した。

P115 「『ドラマティックまるわかり総天然色完璧解説 自動車のしくみ』という、とても印象的な題名の本があった」
←こんなアホみたいな題名の本があってたまるか

第四章 小鳩くんと小佐内さん

P122 「じゃあ小鳩くん、改めて言うね。わたしと、互恵関係を結んでくれない?」
←その時歴史が動いた。松平定知もそう言っています。NHKで特集が組まれるべき。

P125 「<オモテダナ>と書かれた看板がかかっている」
←こんなアホみたいな名前の喫茶店があってたまるか

P125 「通報されないかな」
←喫茶店に入るだけで通報されるかもしれないと怯える昔の小鳩君かわいい

P136 「おわあ、こんばんわ」
←おわあ!

P137 「道、間違えた」
←そっか間違えちゃったか。そういうこともあるよね。それはともかく、道を間違えることくらい本当にどんな小説の登場人物でもするはずで、ただし普通はストーリーに関わらないので省かれる。でもそれを書いちゃうのが〈小市民〉シリーズなのです。

第五章 秘密さがしにうってつけの日

P169 「渡河大橋をくぐり、(アンダーパスだ!)」
←覚えた言葉を何度も何度も使いたがる小鳩くんかわいい。

第六章 痛くもない腹

208 「どなっ」
←どなっ!!!!

P210 「それもいいけど、バイパス沿いの〈メイルシュトロム〉にするよ」
『可燃物』の「本物か」に登場したファミレスだ!

P222 「ぼくは見た。店員さんが離れるのを待って、小佐内さんがちいさく、ばんざいのポーズをしたのを」
←この描写の真価は小佐内さんがサンデーを目の前にしてばんざいをしたことそのものよりも、店員さんが離れてからばんざいをしたこと。すなわち、店員さんの前でばんざいをするのは恥ずかしかったという小佐内さんの羞恥心が描かれているところにあると思います!!!!

第七章 乾いた花に、どうぞお水を

P253 「惜しまれる。気づくのが後十分早ければ、僕の思考能力は藤寺くんを驚かしただろうに」
←事件を解決することよりも思考能力で人を驚かせたい気持ちが前面に出てしまっている小鳩君かわいいね。

第八章 幸運のお星さま

P280 「黄葉高校は歩道のある道路に面していて、校門には、アーチ状のオブジェクトが架けられていた。校舎の敷地にはレンガが敷き詰められていて、三階建てに見える大きな体育館には、「8」の字を縦棒が貫く校章が掲げられている」
←もしかして済美高校???

第九章 好ましくない人物

P307 「では午後四時、伊奈波川ホテルのラウンジで」
←たぶん都ホテル 岐阜長良川。ウエディングをやっていて階数も比較的高く、高級路線のホテルはここくらいしかない気がする。

第十章 黄金だと思っていた時代の終わり

P350 「おわあ、こんばんわ」
←おわあ、こんばんは

第十一章 報い

P389 「いい時もあれば、悪い時もあるの」
←サスペンスの真犯人が言いそうなセリフベスト80くらいに入りそう。

終章 小市民は空を飛ばない

P416 「わたし、京都がいいと思う」
←あかーーーーん!!!!!! 京都がおしまいcityになってしまうぞ!!! 興奮しすぎて宮川大輔になりそう……

P418 「夜の底から、鐘の音が聞こえてくる」
←え!? もしかして、鐘の音とボンボンという洒落で締めるの……?? という冗談は置いておいて、春夏秋冬の物語を除夜の鐘で締めるのは美しい終わり方だなあ……

感想

 春期→夏期→秋期と徐々に作品内で描かれる罪の重さが上がっていくけれども、冬期の犯罪は轢き逃げ。これほ放火よりは罪が重いのか……と思ったけど、もしかして罪の重さって小佐内さんが復讐する動機としての罪のレベルが上がっていくことなんじゃ無いですか?? そうすると、自転車を取られたことよりも誘拐されることよりも、自分にキスしようとしたことよりも、小鳩くんを轢き逃げした罪の方が重いと捉えているわけじゃ無いですか……ふえー……
(追記: 殺人未遂と放火だと量刑の程度は同等ですが、非現住建造物等放火罪の場合だと殺人未遂の方が重罪なのでこの解釈は違う気がしてきた……)

 犯人についてですが、これは結構メタ的な解き方をした人もいたんじゃないかなと思っていて、米澤穂信の物語には小市民シリーズに限らず「プロフェッショナリズム」が根付いている。つまり、作品世界内において専門職としての職業規範が高いレベルで維持されている登場人物が多い。逆に言えば、プロ意識の低い人間はその低さに何らかの理由があるケースが多い気がする。今回の「ベリーショートの看護師」もその一つで、看護師として患者の利益を第一に考える態度を通底しきれていない振る舞いが見られる部分が多かった。これが他の作家の作品であれば「ああ、この人はそこまでプロ意識の高い人では無いんだな」で済ませてもいいけれども、米澤穂信の作品となると「この人のプロ意識はなぜ低いのか」に自然と目が行ってしまう。ここで「あ、この人は怪しいぞ」と目星をつけてこの看護師に注目することで犯人を当てた人は少なくないのではないのかと思う。

 ミステリ的な仕掛けとしては、同じ味のチョコレートを2回食べる伏線が好きですね。伏線の臥せられ具合もあからさま過ぎず分かりにくすぎず、ちょうどいい。あと、今回初めてスイーツそのものが時間のトリックと関わってるのいいっすね (いちごタルトもトロピカルパフェも栗きんとんも、事件そのものとは本質的に無関係であった)。

 それから「無い伏線」(←名前これで合ってるの?)が好き。どういうことかというと、書かれないことで張られる伏線大好き。和倉先生、宮室先生、理学療法士の馬渕さん、清掃員の山里さんと、ほとんど登場しないような病院関係者ですらほぼ全員に名前がついている中「ベリーショートの看護師」だけは名前が付けられてない。こういう書かれないことで張られる伏線っていいですよね。最初に発明した人は天才だと思う。

P.S.
 既刊で巻いた伏線が回収しきれてないけどこれは続編が出るということでいいですよね? 期待していますよ!

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