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『孤狼の血 LEVEL2』はフレッシュ俳優たちによる下剋上

『孤狼の血 LEVEL2』
監督:白石和彌 主演:松坂桃李
公開年:2021年 上映時間:139分 製作国:日本

 昭和63年を舞台に広島の架空都市である呉原でのヤクザ抗争と警察組織を描いた前作『孤狼の血』から3年後の物語。役所広司演じるマル暴の伝説的な刑事・大上章吾の意思を引き継いだ松坂桃李演じる日岡秀一のその後を描いている。前作は柚月裕子の同名小説を原作としているが、今作は完全映画オリジナルのストーリーとなっている。
 監督は前作から続投の白石和彌が担当。前作は白石監督の持ち味であるアウトローたちの狂気と暴力性を圧倒的なキャスティングとエグ味全開の演出で描いていた。

 続報や予告編を見たときから懸念していたのは、役所広司という圧倒的存在感のある役者不在による温度感の低下だった。今作では鈴木亮平や村上虹郎、西野七瀬などの若手俳優がメインを務め、ビジュアルを見た限りでは前作ほどの迫力は期待できそうにないというのが正直な感想だった。
 鑑賞してみると前作『孤狼の血』の続編としてはあまりにも作品の趣旨が違いすぎることに戸惑い拍子抜けしてしまった。初見時ではあまりこの作品を肯定的に捉えることができなかった。だが冷静になって考えてみると、この作品は非常に挑戦的で野心溢れる意図のもとに作られたのではないかと思える要素があった。

 その要素とはまさにキャスティングである。主演の松坂桃李は前作に出演した辺りから爽やかイケメン俳優枠を脱却し、演技派としての地位を確立しつつある。今作でも大上の意思を受け継ぐアウトロー刑事という難しい役柄を見事に演じきっていた。

 鈴木亮平に関しても、カメレオン俳優としてNHK大河の主役に抜擢されるなど演技力に定評はあるものの、いまいちこれといった代表作に巡り会えていなかった印象がある。いまだに鈴木亮平=変態仮面のイメージが強いという人も多いのではないだろうか。園子温監督の『TOKYO TRIBE』でもアウトローを演じていた鈴木亮平だが、今作は注目度含めてそれ以上の当たり役であったことは間違いない。

 西野七瀬も元トップアイドルとは思えない役柄を演じている。乃木坂46を卒業して以来、テレビドラマを中心に女優として活動しる西野七瀬だが、出演したドラマや映画の役柄はどれも「別に西野七瀬じゃなくてもよくない?」と思えるものばかりだった。今作でも正直、色気や存在感という意味では前作の真木よう子や阿部純子には及ばない。しかし、悲壮感という部分では西野七瀬が一歩リードしているように感じた。それはもちろん“元トップアイドル西野七瀬”というバックボーン込みでの見方ではあるが、初めて西野七瀬でなければ成立しない役柄だったのではないだろうか。

 『孤狼の血 LEVEL2』では前作に比べてよりエンタメ性が重視されていたように思う。キャスティングの部分でもそうだったが、演出も前作よりも派手でわかりやすいものになっていた。終盤の日岡と上林の対決シーンなどは顕著だろう。カーチェイスからの決闘シーンはまさにアクション映画である。こうした路線変更は人によって好みが分かれるところではあるだろう。先にも述べた通り、前作からの続編として見るとこうした派手さのあるアクションは陳腐に見えるだろうし、ストーリー展開にしても意外性がないと感じる部分も多々ある。
 しかし、今作はある種の新規開拓であり世代交代であり、若手俳優たちによる下克上なのである。そう思わずにはいられないほど、作品内外での事柄がリンクしている。同じようなことを続けていても仕方ないじゃないかという制作陣の叫びなのである。山の中で絶滅したはずの狼を追いかけるという抽象的なラストも、そう考えると非常に印象的に思えてくる。

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