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【本紹介】川上 浩司:不便益のススメ 新しいデザインを求めて

□紹介する本

不便益のススメ: 新しいデザインを求めて (岩波ジュニア新書)
川上 浩司 (著), 2019/2/21
岩波書店

□メモ

便利と不便、害と益という2つの軸でデザインを評価する思考法を学べる。
いずれの軸の評価も、その人の立場や感性、その時の価値観、状況に合わせて変化するため、一概にこうに決まるとか、こうあるべきという話ではない。

不便益とは何か?
不便益の例として、
マニュアル車:オートマ車と比べて運転している感じを実感できるところが益である。
他にも多数の例が挙げられている。

不便なことで生じる益はなにか?
これをデザイン段階で考えることを勧めている。便利で楽な方向、最短の方向を探るのも良いが、あえて不便にするとどんな益が生まれるのかを考えること。

便利で楽な方向、最短の方向を探ると、最終的には、それは地蔵のように、植物のように動かないことになる。それは本当に人間として幸せなのか?それが問われているのだ。
本では映画 Wall E と、漫画 火の鳥 から、これらの問題提起を行う。

安心・安全について。
安全だからといって安心ではない。
安全にするために制約をつけるが、それは必ずしも安心ではない。
信号機が青だからと言って、本当に安心なのだろうか?

不便益という観点を持つことで、これまでと違った見方でデザインされたビジネスや製品などを見ることができることを指南している。さらには、読者にも不便益の観点で生活を見直してみることも勧めている。

□思ったこと

この本の欠点とも言えるのが、益についての議論が足りてないことだ。
もはや,デザインが結果として何か益をもたらすのであれば、不便と便利を一旦忘れてよく、全て益の方向に進めることができればそれで良いわけだ。

益とは何か?これは哲学、心理学になるだろうが、おそらくはこの本でも語られているように、何か経験、体験などの実感があることがある。

例えば、

  • スキル向上(広義的に、気づきや発見があることも含む)

  • アフォーダンス(環境からのフィードバック、教え)

  • 癒し体験

  • 主体的操作により安心・信頼につながる

  • パーソナライズ(自分用にアレンジ可能、愛着を持てること)

  • リハビリにつながること

  • スポーツ的な楽しさ、ゲーム性があること

不便益という観点は薄々感じており、あえて徒歩通勤したり、デジタルデトックスを試みるなど、それらの益を改めて整理して理解できた。

不便益もちょくちょく利用した生活を続けたい。

本では不便益は自然環境(これも広義的に人間の心理、欲求も自然と言えるだろう)と人間との調和をもたらし、多様性につながることを示唆している。
我々は不便、便利と言った時、確かに自然との断絶を行うことが多い。これを調和させる力が不便益にはあるのだろうか。

#読了日
23.08.05

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