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【ドキュメント】世界はそのへんに 02 「日本人すぎるイタリア人おじさん」東京・蒲田

朝、留学前から利用していた「ハロートーク」という言語交換アプリで、ひとりのイタリア人のおじさんと会話をしていた。

言われるまで日本在住なのだろうと、信じて疑わなかったほど、彼のタイムラインは日本各地の写真で毎日埋められていた。

彼は年に3回ほど日本にきているイタリア在住の人だった。ただ、その時ちょうど日本に遊びにきていて、「今、天王洲アイルにいる」と連絡をくれた。

それから、「一杯お茶しませんか?」「ご都合がよかったら教えてください」と日本人みたいな誘い方でメッセージをくれた。

わたしはその日、これと言った予定もなかったので、いいよ!と二つ返事した。

指定された場所はまさかのjazz喫茶店。しかも、駅から少し離れた商店街のアーケードの中にあるような、ローカル感満載な空気のするところ。

イタリア人らしくなく、待ち合わせの少し前から彼は店の前で待っていてくれたようだった。「2人なんですけどー」と、私よりも先に店に入って、そう伝えてくれた。

久しぶりにイタリア語がしゃべれると期待していたが、彼の日本語しゃべりたい欲がすごかったので、私は時々イタリア語で返事をしたりした。

さっきまで何してたの?観光?と聞くと、彼は退屈そうな顔をして、「大変でした。役所に行って、日本に住むためにどうしたらいいか、聞いたけど、誰もわからなかった」と言った。「英語も喋れる人がいなくて」と彼。

こんなこと言っちゃいけないけど、イタリアはそういう公的なものでも決まりがテキトーだったりするし、知り合いに頼んだらなんとかなったりするし、イタリア語喋れなくても英語で対応してくれるし、なんでも柔軟で、掻い潜る方法がどこかにあったりした。割となんでもどうにかなる国だったなと思う。日本はなんとか、とかないもんね。ルールはルールです。そういう国だ。でも、それによって守られている私たちの身の回りのこととかが沢山あるんだろう、と思ったりして、簡単にどっちがいいか悪いかなんてことは言えない、と思う。

「僕からしたら、ここは天国の天国だから」と、悲しそうな悔しそうな、そういう顔をしながら言う彼の顔に胸がぎゅっと詰まる思いがした。

結婚できたらいちばん楽なのにね、という返事しか返すことしかできなかった。でもそれが他人事みたいで申し訳なくて、半分冗談、半分本気で、うちのママなんてどう?と実母を勧めたりしてみた。「写真を見たい!」とちょっと乗り気でおもしろかった。

私より東京のローカルな場所に詳しくて、日本語上手で、スマホの音量とかまでちゃんと気にしちゃう、日本人みたいなイタリア人。駅の前で、ciao!と二人で交わす。大きな背高のっぽが群衆の中へと吸い込まれていった。

写真に映らないように避けてくれてる
イタリア人のおじさん

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