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[エッセイ]可哀想なササ

(犬が怪我をする話です)

小3の時に、同居していたお爺ちゃんがチャウチャウだと言ってもらってきた犬は雑種犬だった。

その子犬はふわふわの焦茶の巻き毛で、ところどころに金色の斑点があって、それはチャウチャウの特徴だとお爺ちゃんは嬉しそうに言った。お爺ちゃんは寡黙な人で、滅多に笑わないし、それどころかいつも怒っているか、まじめ腐った顔で人民大会堂の会議を映したニュースを見るかだった。
でもそのお爺ちゃんは動物が好きだった。

「この犬は十中八九、いや恐らくチャウチャウだ…それかまたはシャー・ペイかな?」日が経つに連れ子犬の背中にある金色の斑点が薄くなるので、お爺ちゃんは珍しく自信なさそうだった。そして犬に「沙沙(ササ)」という名前をつけた。チャウチャウではなく、シャー・ペイに由来した名前だ。

ササはすぐに大きくなった。芝犬よりも一回り大きくて、黒く短い毛で覆われて、耳はとんがっていた。写真で見たシャーペイではなさそうだし、ましてやチャウチャウではもちろんなかった。ササは多分雑種犬だ。

雑種であろうと、お爺ちゃんも私もササを可愛がった。でもササはバカな犬だった。
家の人が帰ってくるたびに喜びのオシッコを漏らしていたし、散歩に連れて行くと度々脱走を図った。

ササは女の子で、生理が来ていた。獣医とかペット病院があるような時代じゃなかったので、ササの生理になすすべがなかった。お婆ちゃんは女の子用のパンツを買ってきて、尻尾のところをハサミで切り、女性用ナプキンを敷いて履かせるぐらいしかできなかった。私は性教育を受けたことがなくて、お婆ちゃんと暮らしていたので月経の存在を知らなかった。ササを見て月のものというのを知った。

ササは度々脱走を成功させた。住んでいた小区(団地群)に何匹か野良犬がいたので、ササは妊娠して帰ってきた。ササが帰ってきた時生理が来ていたので、お婆ちゃんは妊娠して帰ってこなくてよかったと漏らしたのを覚えている。でも誰かが(多分二番目の伯父さん)犬は妊娠すると出血するからまだ油断しないでと言ったのも覚えている。その通りになった。

ササは4匹子犬を産んだ。古い大きな湯桶を探して古い服を何枚か入れてあげた産屋をお婆ちゃんが拵えてあげた。バカなササだったけど、一生懸命子供を産んで、一生懸命お乳をあげた。2匹の子犬に貰い手が見つかり、2匹は育てていけなくお爺ちゃんが間引きをした。お婆ちゃんが涙を流しながら子犬の亡骸をどこかへ持っていた。ササは子供を探していたように思う。私はササが可哀想だと思った。お爺ちゃんは酷い人だとも思った。

結局ササはまた脱走をした。子犬の父親のところに行ったのかどうかわからないけど、とにかくまたいなくなってしまった。帰ってきた時、驚いたことに大怪我をした状態だった。小区の他の人から野良犬のケンカがあったと聞かされた。野良犬の阿花(アホー)に噛まれたと別の人が言った。私はアホーという犬を知っている。白地に狐色のブチがついている折れ耳の、大人しそうな犬だった。私は時々アホーを撫でることもあった。アホーがササを噛んだのだろうか。
ササがあまりに大怪我を負っていたので、お爺ちゃんはツテを探して犬を診れる人を探した。ササは半年ぐらいかけてようやく傷を癒した。

ササはもう一度逃げた。でももう帰ってこなかった。これで可哀想なササの話はおしまい。

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