Immunity

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歌を歌うことも文章書くことも好きです。 下のリンクからよろしくお願いします🎞 https://bit.ly/3e31UwJ

最近の記事

最高傑作になる日まで

その日、初めて家を出た。東京に行く朝。 母ちゃんとの最後の朝。 最後じゃないけど、最後みたいな朝。 その日は伊藤さんとるりちゃんが迎えに来てくれた。薄い桃色のワゴン車から降りた二人の姿が見えた。 伊藤さんとるりちゃんは、通っていた都夢という喫茶店のご夫婦。 数日前に東京に行くことを話したら、駅まで乗せていってもらう事になっていた。 「ごめんな〜!!ほんまにありがとう、お世話になります。よろしくね」母ちゃんと伊藤さんが話しているのを車の窓から眺めていた。 「よし、ほ

    • 土足な君は永遠をも通り過ぎる #2000字のドラマ

      さっきまで動いてなかったような気がしていたのに、心臓は正直だ。 駅の下のすぐ近くにあるコンビニの前に彼女は居た。 普段は真っ直ぐに整えられている髪は、今日は軽くウェーブがかったように見えた。 「早かったね!お腹すいた〜!なに食べる?」 僕に微笑みかけている。 彼女はいつも僕の心に土足で入ってきた。 高校に通う電車の中で、目の前に立っていた彼女のイヤホンから、銀杏BOYZの「夢で逢えたら」が尋常じゃない音量で流れていた。僕は絵を描くとき、銀杏BOYZを同じように垂れ

      • 愛すべき名称

        自転車の後ろで背中に甘えながら、眠りこけていた事くらいしか覚えていないけど、今のこの自分の感情を思うと、とても楽しく、とても幸せで、優しさで溢れた日々だったんだと想像できる。 私の母はとても感情的な女性だ。喜怒哀楽がとてもはっきりしている。 怒る時は海外ドラマの彼女のように、爆発して激怒するし、悲しい時は子供みたいに涙を流すし、嬉しい時や、楽しい時は踊ったり、明らかに語尾に♪が付いていて分かりやすい。母のそういう所がとても女性的で、本当に綺麗だなと思う。女性的な脆さを持ち

        • 嘘の行方

          「最近恋人が出来まして、なんと結婚することになりました」友達にメッセージを送った。 そう、四月一日。一年の間でクリスマスの次にワクワクする一日。エイプルリフール! この日だけは大事な人にも大嘘をついても許される大大大イベントだ。今年はどんな嘘にしようか悩んだ結果、恋人ができスピード結婚したというネタを思いついた。 「てかさ、自分でもびっくりしてるねんけど、最近恋人が出来まして、結婚することになりました!」 「え、どゆこと?」 「え、ほんま?」 「え、どゆこと?大丈

        最高傑作になる日まで

          理解は沈黙の中に

          最近職場に新しい人が入ってきて、私の方が年も上そうだし、なんとかしてお話を広げられないかなと思い他愛もない話をしてみたんですが、「どういうところで今まで仕事してたんですか?」「〇〇でしてました」「どんなことしてたんですか?」「〇〇です」「休みの日とかは何してるんですか?」「〇〇と〇〇してました〜」という感じで全く話が続かない。 これは結構やばめなんじゃないかと思い、何か話を膨らませそうな発見がないだろうかと、その人をじっくり観察してみると、首にとてつもなくキスマークが付いて

          理解は沈黙の中に

          660円の宝物

          お店の中はカウンターとテーブル席が三つだけ。テレビが流れていて、綺麗なお花がいくつか飾られている。漂っている空気感やお店の雰囲気、モーニングに出してくれるパンが好きでよく行く。近所の常連さん達が集う都夢という喫茶店。 そこで最初に仲良くなったのが、小学生のお孫さんがいる紫ヘアーが素敵なおばあちゃんと、いつも洋服の色の合わせ方とか、自分の中のスタイルが確立されているシックでお洒落なおじいちゃん。そしてお店のママの旦那さん、伊藤さん。 初めは寡黙で少しぶっきらぼうな人だと勝手

          660円の宝物

          結局窮鼠は猫を噛めない

          性的描写が細かく描かれているものに、感情移入が何故か上手く出来ない。窮鼠はチーズの夢を見るを見た。生々しく性というものが表現されているのに、性的魅力に翻弄されない自然体の愛がずっと漂っていた。親と見たら気まずくなるシーンベストオブベストだと思うけど、綺麗で思わず泣いてしまった。それくらいにはすっぽりと落とし穴に落ちた気分。勝手に隣で見ていた母ちゃんに、ベットシーンで泣くなんてこいつ正気の沙汰じゃねえと思われた事だけが心外だったけど、本能よりも理性でただ好きな人と繋がりたいとい

          結局窮鼠は猫を噛めない

          自分で乗ると迷わない

          電車に乗る前に、お土産を買って行こうと思って改札口の近くをうろうろとしていたら三店舗ほど今だけ設置された出店があった。ラインナップはリクローおじさんと、もみじ饅頭と、お団子屋さん。リクローおじさんは要冷蔵だし、いつでも食べれるし。お団子も要冷蔵だし、いつでも食べれるし。少し悩んでいたら、もみじ饅頭のレジの前で、全身紫色の服を着たマダムが「皮が本当に美味しかったのよ〜」と店員さんに向かって言っていたので背中を押されその列に並ぶ事にした。妙に説得力があった。店員のおじさんはとても

          自分で乗ると迷わない

          薄汚れた優しさを抱きしめる

          布団にこのまま沈み続けて液体になって溶けてなくなってしまいそう。無痛なんやったらそれでもいいかなって今日は思うけど、SF映画ではデモゴルゴンがやられた時はきちんと成仏したみたいに蒸発するのに、自分はベタベタな液体だけになったらどうしよう。とか誰が後片付けするん。とか意味のわからない事をずっと考えている。枕の方に目を向けると、昔母ちゃんに買ってもらった犬のぬいぐるみがこちらを見ていた。母ちゃんと近所のファミレスでご飯を食べた後に、誕生日は何が欲しい?と言われて、レジの横に陳列さ

          薄汚れた優しさを抱きしめる

          恋は生きる活力になり得るか

          隣に住んでいる男性は、夜になると、弾き語りを小一時間ほどした後にいつも眠りにつくようでした。割としっかりと聞こえてくるので、思わぬ観客がいるとは知らなかったと思いますが、私も寝る前に、歌ったりギターを弾いたりしているので、何だか仲間意識みたいなものが芽生えてきて、知ってる曲が聞こえてくると、慌ててコードを見つけて一緒に弾いてみたりしました。調子がいい時なんかは勝手にハモったりもしていました。そして今日も、いつもの心地のいい音が聞こえてくるはずでした。何故かギターを持った彼はそ

          恋は生きる活力になり得るか

          無傷では生きれない秋

          「そのバンドでは成功しなかったんだ?」 オーディションが終わった。全ての審査が終わって、審査員の方が話してくださったとても優しくて率直で悲劇のような話を頭で何度も思い出している。 意気消沈しつつ体の軸が今日はぐだーっとしていて、飲むカフェラテはいつにも増して美味しいし、今日はゆっくり聴こうと溜めに溜めていた新しく見つけた音楽や、大好きな作家やアーティストのインタビューをじっくり見るつもりでいた。そしてまた明日から立ち上がるのだ。とか思っていたけど、失礼します、閉店のお時間

          無傷では生きれない秋