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コラム:ノーベル賞 2023+追記

さて今年もノーベル賞の季節がやってきた。そして言うまでもなくノーベル賞も地に堕ちたと感じる今日この頃である。

去年もノーベル賞について記事を書いた。

その中で述べた通り、ノーベル医学生理学賞は「医学・生理学の分野で重要な発見」に対して贈られる。そして、過去の受賞テーマを分類してみても「きわめて重要な生理学的な基礎知見」「革新的な治療法や分析手法の発見」「病原性微生物の発見や感染症における重要な知見」が殆どであり、それこそがノーベル賞の本来あるべき姿であった。逆に言えば、「凄い薬を作った」などは基本的に医学生理学賞の対象にはならないという事である。それは多くの人を助けたとしても、賞の対象はその根本にある原理や生理現象に関する基礎的な発見であり、「極めて重要な生理学的基礎知見」から応用されただけの「発明」は対象にはなるべきではない。話題の核酸ワクチンなどはその最たるものであり、それが受賞するようであればそれは選考委員会も含めて世論や政治に対する「忖度」であり、ノーベル賞は実質終わりということを意味している。

一年前にも書いた通り、生物学・生理学の研究は進んでおり「本当に凄い基礎的な発見」というのは「そもそも残っていない」時代に来ている。そういう意味で言えば、これからは「発明」や「応用」へと対象が移っていくのかも知れないと言ったが、このタイミングでの核酸ワクチン受賞など政治的理由以外の何物でもない。あくまでも偉大で基礎的な発見こそがノーベル賞に相応しいと感じるし、世の中としても基礎研究を蔑ろにすることは許すべきではないと断言する。今日は世界の衰退がはじまる第一歩であった。

<追記>
具体的な研究内容を踏まえて少し追記したい。ついでに下記の記事を紹介しよう。

記事で紹介されている大阪大学の先生はパターン認識受容体の研究で有名だった研究者である。自然免疫の活性化に関する記事で紹介した通りだが、RNAなどの異物をマクロファージや樹状細胞が認識する際に特有のパターンを認識して免疫系が活性化する仕組みを明らかにした人だ。

TLRと呼ばれる一群の発見は基礎研究として非常に意義が深いとされ、ノーベル賞受賞の候補にもなっていた。だが、2011年に樹状細胞や自然免疫の活性化に関する研究がノーベル賞を受賞した際に省かれてしまい、受賞の可能性は無くなったと言われている。

RNA分子はこのTLRのひとつであるTLR7によって認識され、免疫を活性化する。今回のノーベル賞受賞についても建前としてはRNA分子のウリジンを修飾することでTLR7による認識を回避するという研究について焦点が当てられているのだ。結果としてはこの研究が核酸ワクチンに結びついた訳だが、それはあくまで結果論であって基礎研究としての順序や歴史を考えればTLR7によるRNAの認識という根本的な発見の後に続く、数多ある継続的研究の一つに過ぎない筈である。記事にある共同研究の話でも、TLR7やその下流のシグナルに関する実験材料を大阪大学から提供されていることが読み取れる。今回の受賞がいかに基礎研究としての凄さという視点を欠いた、政治的な受賞であるかがよく分かるだろう。


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