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エクソソームと新型コロナウイルス

前回、エクソソームについて簡単に説明させてもらったついでに、新型コロナウイルス関連のエクソソーム研究を調べてみたので紹介しよう。

繰り返しになるが、エクソソームというのは様々な細胞から放出される小さな構造体である。細胞膜と同じく脂質2重層で形成される小胞であり、その内部には様々なタンパク質やRNAが含まれている。放出されたエクソソームは唾液や血液など様々な生体系に分布し、別の細胞(近くのみならず離れた部位に対しても)に運搬されることによって機能的変化や生理的変化を引き起こす。例としては、感染性病原体や腫瘍に対する免疫応答の媒介や組織修復などが示唆されている。

この感染性病原体に対する免疫応答の媒介については新型コロナウイルスについても報告がある。良くも悪くも新型コロナウイルス感染後の患者血液中には炎症反応を引き起こすエクソソームが含まれている様だ。
「COVID-19 plasma exosomes promote proinflammatory immune responses in peripheral blood mononuclear cells」
(Sci. Rep. 2022; 12: 21779.)

この論文では新型コロナウイルス感染患者の血漿エクソソームがウイルスRNAを含んでいることを示している。過去に説明した通り、ウイルスRNAというのは核酸認識受容体を介して自然免疫応答を強力に活性化する。そのため、このエクソソームは細胞に振りかけることでインターロイキン-6(IL-6)、IL-8、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、その他の炎症性サイトカインやケモカインの産生を強く誘導したとされている。この様な機序は感染による直接的な免疫活性化だけではなく、細胞間相互作用によるより強力な全身性の炎症反応を誘導するものであり、病態の進行や重症度、および長期にわたる症状に関連するサイトカイン産生の上昇に寄与する可能性があるということだ。もちろん一つの仮説であり、考えられる機序の一つという話だが。

また、核酸だけでなくウイルスタンパク質を発現するエクソソームについても報告がある。
「Exosomes Recovered From the Plasma of COVID-19 Patients Expose SARS-CoV-2 Spike-Derived Fragments and Contribute to the Adaptive Immune Response」
(Front Immunol. 2022 Jan 17:12:785941.)

この論文では中等症と重症患者由来のエクソソームを比較している点も興味深い。どちらのタイプのエクソソームもウイルスのスパイクタンパク質由来ペプチドを効率的に発現しているが、中等症患者のエクソソームのみが抗原特異的CD4+ T細胞応答を効率的に刺激できることを示している。網羅的タンパク質解析によるとそれぞれのエクソソームが含むタンパク質のパターンには違いがあるらしく、疾患の重症度によっても産生されるエクソソームがどの様に機能するかは異なるということだ。

この様に感染症や免疫応答においても複雑かつ多様な意味を持つエクソソームであるが、前回の記事でも紹介した通り、エクソソーム自体を薬に応用するという試みも盛んにおこなわれている。これはワクチン分野においても同様である。上記の通り、エクソソームは自然な状態でもウイルスRNAやウイルスタンパク質を発現する場合がある。これは人為的にウイルスRNAやウイルスタンパク質を発現するエクソソームを作り、それをワクチンに利用するというアイデアに結びつくのだ。実際にこの様な研究は世界的に進められている。

これについては最後に国内の一例を紹介しておこう。

金沢大学ではエクソソームにウイルスのスパイクたんぱく質を競合的に結合する分子とI型インターフェロンであるIFN-βを同時に発現させる事で、効率良く免疫応答を誘導しながら感染を阻害するエクソソーム医薬品の研究を進めている様だ。詳細は上記Webサイトを参照してもらえばよいと思うが、この様な改変エクソソームを応用する取り組みもこの分野では盛んに行われている。

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