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勝負曲

noteに《お題》というのをみつけて、ちょうど僕の音楽遍歴の「つづき」にもなりそうだから書いてみようと思った。
僕の音楽遍歴の「つづき」を誰が気になっているかは、さておき。

《私の勝負曲》というお題。
自分の人生で「ここぞ」という場面を思い浮かべた。

ちなみに僕は《私の勝負映画》が明確に存在する。
フィンチャーの「ファイトクラブ」もしくは、コッポラの「ハート・オブ・ダークネス」だ。
「ここぞ」の時、眠たくてもDVDを引っ張り出してきて観る。

おい!
また映画の話になりそうだな、自重&割愛!
(いつもこの調子で割愛したら、映画の話できなくなるんじゃない?)
「自重&割愛」という漫才コンビでも組もうかしら、などと思いながら《勝負曲》について語らせてもらうとしよう。

アガる曲?

パッと思い浮かんだのはB'zの曲の数々だ。
僕が熱唱する姿を目撃した人も、僕の《勝負曲》と聞いてピンときたのではないだろうか。
「ZERO」「LOVE PHANTOM」などは、もう僕の曲と言って過言ではない。

あとはレッチリ
以前にも雑記した通り「Can't Stop」「Parallel Universe」など、否応なく音量をあげて服を脱いで走りたくなる

これらはドクドクと血液が流れる音が体内から、外側に響き渡って、モジモジしていた魂が衝動に駆られて走り出す、そんな曲だ。
つまりアガる曲、間違いない。

では、これが《勝負曲》なのか?
実はちょっと違う気がする。
なんか腑に落ちない、ひねくれた僕の心。
アガるけど《勝負曲》と、言われると、なんだか違う。
思い出がそんなにないからかな(いや、ちょっとはあるけど)。

思い出の曲?

高校生の頃、Zepp大阪で初めてライブに行った。
ランシドのライブだ。
保健の先生に「目が痛いんです」という謎の仮病を使って早退してZeppに向かった。
入場口のボディーガードがビスケット・オリバのような化け物2人で、色とりどりのモヒカンと革ジャンに囲まれた初めてのライブは、最初こそちびっていたが、いつのまにか汗びちょで最前列にいる、そんなホットな体験だった。
多くの人が退場した会場には、服や靴が散乱していて、ゴリゴリのモヒカン兄ちゃんたちが「この靴、誰のんですかー」と大きな声で持ち主探しをしている光景に優しい事のカッコよさを感じた。

以来、僕もライブ終わりには、その時のゴリモヒ兄ちゃんのマネして落とし物を探したり、ゴミを拾ったりして帰るようになった。

というわけで私の勝負曲は「RUBY SOHO」です!

というのも、なんか違うんす。
違うねんなー。

感動する曲?

35歳くらいの時かなあ、神戸のフェス港町ポリフォニーで号泣した

二階堂和美のライブ。

僕らケミカルクッカーズ(ウシチョコの連中とやっていたヒップホップクルー)も、そのあとに宮内優里さんとのジョイントライブが控えていたのだが、出番までの間、ちょうどニカサン(広島繋がりで面識があった)のライブでも観ようかな、くらいのスタンスで会場にいた。

いや、すごくって。

それまで色々なライブ会場で、色々なパフォーマンスを観たけど、一体感っていうのかな、うねりがすごくって。
どんどん前の方にいってむちゃくちゃハッピーな気持ちで楽しんだ。
ライブ終盤、そろそろ僕たちも準備しないといけないんだけど。

会場を出ようとしたとき「いのちの記憶」がはじまった。

何度も聴いたことのある、ジブリの主題歌、あの曲だ。
僕みたいなひねくれ者は「メジャーな曲」に偏見がある。

しかし、この時は、圧倒的に胸に刺さった。
もう刺さったなんてレベルじゃなくて、押しつぶされた、しかも優しく。
こんなのあり?

有名な曲ってどうしても、既存のイメージが払拭できんやん。
秦基博「ひまわりの約束」なんかも、もったいないことに「ドラえもん」がチラチラするよね。

この時、一瞬もジブリの映像が頭をよぎることなく、二階堂和美の息遣いが、血が、思想が、その曲に力強い「いのち」を吹き込んでいて、号泣してしまった。

舞台上のニカサンの姿を直視できなくなって、その場から去りたいキモチと、ずっとここにいたい気持ちがナイマゼになって、うつむいて動けなくなっていた、それほど心が震えていたのだ。
すると、ポンと肩をたたかれた。

「あっくん行こうか」

ケミカルクッカーズのリーダー、やっさんが僕を呼びに来た。
そう、行かないといけない。
僕は振り返った。
すると、やっさんも号泣していて、ワロタ。

「ライブであんなに泣いたことないわ」
2人のオジサンが口を揃えて、肩を組んで会場をでたのだ。

二階堂和美「いのちの記憶」これが《勝負曲》なのか。
うーーーーん
だいぶ近い気がするけど《勝負曲》ではないな。

ほんと、A2Cったら寄り道が好きね。
「うん、寄り道した方がデートの時間、長くなるじゃん」
(「はあ、こいついきなり、なに言うてんねん」って思った人、挙手!)

「ここぞ」とは?

僕の《勝負曲》はズバリ!
トム・ウェイツ「Grapefruit Moon」です。

「ここぞ」の時に、この曲を聴いて、立ち返る
僕の《勝負》は舞台だった。

*****

僕の所属していた劇団で、僕はここでは初めての舞台。
阪神大震災を題材にした家族の物語。

阪神大震災の前夜、友人の家に泊まっていたボクは、あの日、震災によって命を落とすことになる。
最期と知らぬ最期の夜「でっかい月やな」そう言ってボクは、夜空を眺めて眠りについた。そして、地震が起こり、ボクは二度と目を覚ますことはなかった。

僕はボクだった。

ボクが友人と布団に入り眠りについて、地震のモチーフが舞台で静かに表現されている時に、この曲が流れ、現代のシーンに戻る。
この、とても難しいシーンで、トム・ウェイツの「Grapefruit Moon」が流れるのだ。

演出家のKさんに「俺の芝居を潰す気か!」と灰皿を投げつけられながら、このシーンを何度も稽古した。
本番1週間前、深夜まで、やはり、このシーンを繰り返し稽古していた。
何度やってもOKが出ない。
シーンが終わっても、何も言われずにまたトム・ウェイツがかかり、繰り返し稽古する。
こういう、大きな動きがない場面では特に、明確なダメ出しは存在しない。
僕らは感じあって、作品上で生きるしかないのだ。

OKが出ないまま、もう何度繰り返したかわからないが、ある時、稽古場の蛍光灯が付いた。
するとKさんは涙を流していた。

「もう、何回か前にOKやったんやけどな。もっと観てたくなって、しばらく演ってもらったわ。」

いいシーンになった。感動した。
Kさんは、そう言って、翌日、朝いちばんに他のメンバーにも観てほしいと、また、このシーンを演じた。
僕らの成長に、ポカンとした空気が流れたのを覚えている。
涙を流しているメンバーもいた。
役者として、一皮剥けることができた。
僕が目指すべき表現の世界の第一歩と感じた。

「Grapefruit Moon」を聴くと、当時を思い出す。
他人と感動を共有した経験が蘇り、自分を優しく包みこむ。

舞台の本番はいつだって怖い。
必ず、この曲を聴いて、静かな気持ちで本番を迎えるようにした。

月のほのかな光は、暗い袖幕の足元を照らしてくれた。
不安な時に、これから進む自分の信じられる道を教えてくれる曲

*****

「ここぞ」って時はアゲるでも泣くでもなく、フラットに立ち返る。
そして勝負に挑む。
20歳そこそこから、ちょっと背伸びして、そんな発想でやってきた。
《立ち返る》というのは《勝負》に対してすごく大事だと身に染みている。

《勝負曲》難しいお題だったなー。

僕の《勝負パンツ》は蜂がいっぱいプリントされオレンジ色のパンツです。
ちょっとモケモケしていて質感が気に入っています。

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