蘇我星河

1988年生まれ。日本人の名前を研究している命名研究家。研究歴約14年。今は会社勤めを…

蘇我星河

1988年生まれ。日本人の名前を研究している命名研究家。研究歴約14年。今は会社勤めをしながら、在野で研究を続けて、同人誌で発表したりしています。 東京大学文学部言語文化学科日本語日本文学(国語学)専修課程卒。漢字検定一級。日本語検定一級。語彙・読解力検定準一級。

最近の記事

二重敬語の行く末

私は暇な時よくヤフーニュースを見ています。 最近こんな記事を読みました。 「お客様がお見えになられました」と言ってはいけない…多くの人が陥りがちな日本語の間違った使い方 名刺交換で「ちょうだいいたします」は大間違い…ビジネスシーンで頻繁に見かける「恥ずかしい日本語4」 まあよくある「使ってしまいがちな誤った日本語紹介」記事です。 このような記事で私が毎回気になってしまうのが、二重敬語の扱いです。 上の記事のタイトルに含まれる表現も、二重敬語だから間違いという結論になっ

    • 女子名の選択性を拡げるにはどうしたらよいのか

      前回の記事で、ガラクタネームは女子名に比較的多いことに触れ、それは伝統的な女子名に選択肢が少ないためであると考察しました。 また、女子名の名前で人気の「は」や「る」という一音に対して、人名に使える漢字の選択肢が少ないことも指摘できます。たとえば「は」だと訓読みのものは「葉」や「羽」程度しかありません。「刃」というのもありますが、女の子の名前にあえてこの字を使いたい人もまずいないでしょう。「歯」はなおさらです。音読みでは「波」、「八」、「巴」などが好まれ、「芭」、「杷」、「琶

      • どうしてガラクタネームは生まれてしまうのか

        ガラクタネームとは現在「キラキラネーム」と一般的に呼ばれている名前は、一昔前まで「DQN(どきゅん)ネーム」と呼ばれ、褒められることの一切ない、誹謗中傷の対象でした。そういった名前を良いものとして、擁護するために生まれたのが「キラキラネーム」という呼称です。「DQN」と呼ばれる低能で下賎な名前ではなく、将来キラキラ輝くようにという願いが込められた尊い名前なのだというのが、「キラキラネーム」という名称を与え、推進している側の主張です。 しかし「DQNネーム」と呼ぼうが「キラキ

        • 「柊」が末尾につく名前にはロクなものがない

          「柊」は人名用漢字に含まれるため、現代の名づけに用いることができます。個人的には、実際にかなり人気がある部類に入ると感じています。 この「柊」という漢字の読み方は、音読みが「シュウ」、訓読みが「ひいらぎ」です。 漢字辞典を引きますと、「柊」は本来「小ぶりな木槌」、「才槌」という意味の字であると説明があります。これに従えば「柊(つち)」と読むこともできるでしょう。「ひいらぎ」の意味に当てる用法は中国になく、日本固有のようです。また音読みのうちでも、漢音が「シュウ」で呉音が「

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          人名中の形容詞

          まずは奇をてらわずにこちらの名前を読んでみてください。 ・良弘 ・隆康 ・忠俊 ほとんどの方はすんなり良弘(よしひろ)、隆康(たかやす)、忠俊(ただとし)と読めたと思います。 しかし考えてみれば、この名前には不思議なところがあります。それは、すべて形容詞で構成されているのに、「ひろ」、「たか」、「やす」、「ただ」が語幹だけであるのに対し、「よし」と「とし」だけが活用語尾まで含まれている点です。 日本の人名に使われる形容詞要素は、 かた ← かたし(かたい、固い) き

          人名中の形容詞

          字音の字訓化について

          字音(じおん、音読み)とは、漢字の発祥地・中国での発音が元になった読み方です。字音の中にも、呉音(ごおん)、漢音(かんおん)、唐宋音(とうそうおん)という種別があり、たとえば「行」という字では、「行事」の行(ぎょう)が呉音、「行為」の行(こう)が漢音、「行脚」の行(あん)が唐宋音です。 ざっくり言って、呉音が古期、漢音が中期、唐宋音が新期の発音であり、漢字が断続的に日本に伝わった事情により、違う読み方が混在しています。 古代~中世の日本で、行政文書や儒学の書と共に広まった

          字音の字訓化について

          人名の重箱読みと湯桶読み

          重箱読みとは「重(ジュウ)箱(ばこ)」のように、前半が音読み・後半が訓読みになっている熟語、湯桶読みとは「湯(ゆ)桶(トウ)」のように前半が訓読み・後半が音読みになっている熟語を指しますが、音訓が入り混じった言葉をまとめて重箱読みと呼ぶこともあります。 また、音読み訓読みにあえて触れる文脈では、上記の例のように音読みをカタカナで、訓読みをひらがなで書くこともよく行われますので、今回はこの書き方に従います。 よい名前のつけ方に「音訓統一」が挙げられることがあります。私も名前

          人名の重箱読みと湯桶読み

          戸籍法の改正要綱案がまとまったようです

          以前の記事で触れた、戸籍の氏名に読み仮名をつけようとする戸籍法の改正案の要綱がまとまったと、昨日ニュースで見ましたので、思ったことを取り急ぎ書き留めてみます。 キラキラネームに一定の制約「一般的な読み方を」 法改正要綱案 ↑ヤフーニュース(毎日新聞)に飛びます 私の感想としては「ま、この辺がお上の落としどころかな」といったところで、特別に歓喜も落胆もしていません。 要綱案には「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」と明記されて

          戸籍法の改正要綱案がまとまったようです

          葵の呪縛

          前回の記事で、ガラクタネームの中で最も改造がひどいのに最も広まっているのは陽葵(ひまり)であると言いました。 今一度、改造の過程を振り返りますと、陽葵(ひまり)という名前は、向日葵(ひまわり)→陽日葵(ひまわり)→陽葵(ひまわり)→陽葵(ひまり)、という経過をたどって誕生したものです。 ところが、こう書く名前の中には陽葵(ひなた)と読むものが存在します。しかも少なからず。 こちらに至っては、何がどうなってるのかもうわかりません。 さらには叶葵(かなた)なんかも出てきた

          9割が勘違い!? 出始めと今とでこんなにも違う“キラキラネーム”の定義

          個性的すぎて読めない名前を指す用語として「キラキラネーム」が一般的になり、この呼称が日常的に使われるようになって久しくなりました。今や「キラキラネーム」という用語は完全に市民権を得ています。しかし、こういった名前が出始めた約20年前には、ネット上で「DQNネーム(どきゅんねーむ)」と呼ばれ、賛否両論の「キラキラネーム」と異なり、完全に嘲笑の対象でした。 「DQN(どきゅん)」とは、「目撃ドキュン」という番組名に由来する「『目撃ドキュン』に出演するような低学歴で非常識な人たち

          9割が勘違い!? 出始めと今とでこんなにも違う“キラキラネーム”の定義

          古代日本の人名を研究した本の販売を始めました

          題して『上代人名構成要素等考察集』。 上代(奈良時代以前の日本)の、人の名前の構成要素(パーツ)について考察した研究書です。 今回のテーマは、第一章が「島」、第二章が「継」・「勝」で、間に随筆的思い巡らしが二編あります。 言ってもまあ同人誌ですし、しかもイベントで100冊も売れないレベルなので、販売場所も書店や名の知れた通販ショップではありません。 BOOTHというピクシブが運営する同人誌や自作グッズの販売サイトで、自家通販を行っております。 私、蘇我星河のサークルは

          古代日本の人名を研究した本の販売を始めました

          古代の名前を理解するための基礎講座4

          前回、前々回に引き続き、古代の日本語の基本法則のお話です。 今日のテーマは母音連続忌避です。 古代日本語には、母音連続は徹底的に避けられるという現象が見られます。この法則の説明には、ローマ字を使った方がわかりやすいので、ローマ字を交えて説明していきます。 たとえば、金打(かねうち、kaneuchi)、高市(たかいち、takaichi)といった言葉には、下線部のように母音(a,i,u,e,o)が連続している箇所があります。古代人はこれが本当に嫌いなので、何とかしてこの状況

          古代の名前を理解するための基礎講座4

          古代の名前を理解するための基礎講座3

          前回に引き続き万葉仮名のお話です。 万葉仮名の中には、現代の音訓と違う読まれ方をするものがあります。その中でも、人名に多く現れるものの一つが「尼」です。「尼」の字音は、比丘尼(びくに)、尼僧(にそう)などに見られるように尼(に)ですが、万葉仮名としては尼(ね)として用いられます。 たとえば、安尼豆売という名前があったとしたら、これは「安い」こととも「尼さん」とも「豆」とも「売る」こととも関係がありません。すべて万葉仮名で、安尼豆売(あねつめ)と読みます。そして前回言った通

          古代の名前を理解するための基礎講座3

          古代の名前を理解するための基礎講座2

          現代人は名前をつける時、響きと漢字の両方を重視する傾向がありますが、上代人は漢字表記のことなどほとんど考えていませんでした。 古代のコミュニケーション手段は、ほぼすべて音声です。 漢字が伝来するまで日本に文字はありませんでしたし、漢字が伝わってからも、日常的に文字を記すのは役人や写経に従事する人などに限られていました。 今の日本は高い識字率を誇り、すぐ手に届くところに辞書やネット検索がありますが、古代の一般庶民にとっては文字自体がそもそも慣れ親しめる存在ではありませんでし

          古代の名前を理解するための基礎講座2

          古代の名前を理解するための基礎講座1

          私は今『上代人名構成要素等考察集』という同人誌を執筆中です。 初めてのコミケサークル参加で『日本人名の歴史と、時代別創名法』、次の参加で『「やまとなまえ」をふつうに読む』という、コミケで誰がこんなもの手に取るんだろうと思う同人誌を出したのですが、たった50部とはいえまさかの完売。こういう分野に興味がある層ってのはいるもんなんだなぁと実感した出来事でした。 最初からそういう層向けに書いていたわけではないので、一応、冒頭に凡例とか読み方なんかも付けてはあるんですが、欠片でも興

          古代の名前を理解するための基礎講座1

          キラキラネーム可認案、意見募集開始

          「戸籍法等の改正に関する中間試案」への意見募集(パブリックコメント)が始まりました。 この試案のパブリックコメントへのリンクはこちらです。 (URLは、 https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=300080273&Mode=0 です。リンクやURLが信用できない方は「戸籍法等 改正 パブコメ」で検索してください。) この中間試案の中で最も重大な問題は、名前の漢字

          キラキラネーム可認案、意見募集開始