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リモートワークに必要なのは「約束」だ

在宅で仕事をする時の一番の課題、それは自分を律して仕事に集中することだ。

家で仕事を始めてすぐにはっきりと分かったのは私は本当にものぐさだということだ。
オフィスに行っていた頃には、出社した時点で仕事のスイッチが自然にオンになっていたし、周囲に同僚達の存在もあって、仕事に向き合うのはたやすいことだった。
しかしどうしたことだろう。
家にいると、仕事モードに自分を起ち上げるのも、「ちょっと休憩」から帰ってくるのも、驚くほど上手くいかない。

家には集中力を途切れさせる邪魔者が無数にある。
すぐに手の届くところに私用スマホがあり、ちょっと気にかかる家事があり、キッチンに行けば買い置きのチョコレートがある。
誘惑を断ち切って仕事に集中し始めた瞬間に読みたかった本がAmazonから配達される。
…私は実に弱い人間なのだ。届いた段ボールをすぐに開けずにはいられない。

 *

一人の空間で集中するにはどうすれば良いのだろう。
フリーランスで翻訳を生業とする人に尋ねてみた。一人で仕事をすることのプロフェッショナルだ。
「キッチンタイマーを数十分おきにかけてみたり、立って仕事をしたり、いろいろ試してみたけれど、一番効力があるのは『締め切り』かな」
シンプルだけれど、そりゃそうだよなと思った。

結局のところ、集中するために手っ取り早いのは外圧を作ることだ。
つまり、自分以外の誰かと約束をすること。
二時間後に資料を出しますと宣言してしまったり、できれば先送りしたい重い打合せの予定を早々に入れてしまったりする。
誰かとの約束があれば、強制的に仕事のエンジンをかけざるをえない。

 *

思い起こすと、これまでも「約束」は私の行動をいつでも後押ししてくれた。

高校生の頃、ギターを買ってすぐに、コードを鳴らすことすらできないのに友人達とバンドを組んだ。
スタジオでみんなで演奏しようという約束を果たさなくてはならない。
結果、私は必死に練習してギターが弾けるようになった。

海外との仕事に関わり始めた頃、欧州との電話会議に一人ぼっちで放り出されることになった。
日本の状況を報告したり欧州の状況を聞いたりするという約束を果たさなくてはならない。
結果、私はぶるぶる震えながらブロークンイングリッシュを話すようになり、そんな経験を重ねるうちに一人の海外出張も怖くなくなった。

約束はかくも強力なのだ。

 *

仕事には、約束を作る仕事と約束を守る仕事の二種類がある。

そう教えてくれたのはかつての勤め先の上司だった。
約束を守ること、つまり決まった仕事を期日通りにやりきることだけであっぷあっぷしている新人の私に向けて、彼はこう続けた。
「僕たちにとって大切なのは、約束を作る仕事なんだ」

先を見通して何をすべきかを考えられなくては、約束を作ることはできない。
約束する相手との信頼関係がなくては、約束を作ることはできない。
そして何より、約束を作らなくてはそれを守ることができない。
約束を守るために仕事に取りかかることすらできない。
約束していないメロスは走り出すことすらできないのだ。

この一年で仕事の環境は大きく変わったけれど、改めて教えられたことを思い出す。
在宅勤務であってもオフィスで働いていても、自ら約束をコントロールして作り出す力はとても本質的だ。
約束を味方につければ、思いもよらぬ力が出たりスピードが出たりする。

約束を力に。
Amazonの段ボールを今すぐに開けたい衝動にも、約束を武器にすればきっと勝てる。

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