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健康診断の採血でダウンして、ビスコをもらって復活した話

僕は健康診断が苦手だ。
「健康診断の日程が近づいています。所定の場所で〇月〇日に受けて下さい。」という封筒が家に届くと、気持ちがどんよりしてくる。
"健康"診断のために、メンタルが不健康になる。

昔から、擦りむいたヒザの傷を見たりするのも嫌だった。ゾワゾワして、お尻のあたりが寒くなる。
そもそも、「採血」という行為が、とにかく気持ち悪くて仕方ないんだ。

注射針が刺さると、顔が青ざめ、視界が狭まり、コンディションが悪い時には、意識を失ってしまう。

「あーーーーーー!もう!採血なしで診断できねえのかよ!違う世界線ではできんだろうな、どうせ!地球人だけだろ、こんなことしてんの!」と頭の中では発狂している。

イスに座って採血した際、失神してしまい、看護師さん3人がかりで、腕を叩かれ、頬をぶたれ、リンチ状態にあったことがある。特殊なプレイかよ。
「あなた、ビンタでお願いします。あなたはつねって下さい。」なんて打ち合わせしてないぞ。年末のガキ使の蝶野さんじゃないんだから。ガッデム。

採血を普通にできる体質が羨ましいよ。ほんと。
抜かれていく赤い血液、白い看護師さん、青ざめる顔。なんだよ、もう。
赤、白、青の「採血トリコロール」なのね。フランスの国旗かよ。毎回、フランス状態。どうせなら、トランス状態になりたい。

いくら苦手とはいえ、「採血が嫌なので行きません。」という主張は、大人として言ってはいけない気がするので、今年も頑張って出向いた。

結論からいえば、案の定、採血をしてすぐに「ぐったりまったりストップThe健康診断」

採血のあと、具合が悪くなった僕はビスコを食べて復活できた。今回はその話を書きます。

会社指定の会場へ着き、靴を脱ぐ。「消毒済みです。」とかかれたスリッパを手に取り、受付へ。

「今回はしっかり意識を保つぞ、大丈夫。俺は長男だぞ、次男だったら我慢できないかもしれないけど、長男だからいける。」と、流行りの炭治郎スピリットで鼻息を荒くしながら受付へ問診票を出す。
すると、受付の女性が「はい?」みたいな顔をして、こちらを見ている。

受付の女性「まず、スリッパを履いて頂いてよろしいですか?」

僕「あ、す、はい。すいません。そうですよね。スリッパ…えへへ…」

長男なのにスリッパを履いていなかった。次男だったら履いてただろうな。受付の段階でやらかした。

受付の女性「履いて頂いてありがとうございます。問診票と保険証もありがとうございます。」

スリッパを履いただけで感謝をされてしまった。後ろに並んでいる中年男性に少し笑われている。
僕は「健康診断のスコアでは、あなたに絶対に負けないのに…」と苦虫を噛みつぶしたような顔をして、うつむいた。

問診票を確認し、「朝ごはんは抜いてきたか」等の定型質問を一通りこなしたあと、イレギュラーな質問がきた。

受付の女性「今回、札幌市から補助金が出ておりまして、B型肝炎、C型肝炎の検査が無料で受けられます。追加しますか?」

僕「あ、じゃあお願いします。」

受付の女性「では、こちらにサインを。」

どうやら、今回は、B型肝炎、C型肝炎の検査がオプションでつけられるようだ。検査してもらえるなら、してもらった方が良いと思ったので、同意した。

受付の女性「ご署名ありがとうございます。では、こちら血液検査になりますので、採血の際、一緒にとりますね。」

僕「さ、採血?血液?あ、はい。はい。」

ここから僕の頭の中は、バグったファミコンのゲームのように、ガーガーピコピコしだした。

え?採血なの?肝炎のやつね、うん、血液みるんだもんね、追加したってことは2倍とられるの?B型肝炎とC型肝炎で分けてとるとか?そういう意味?そうなると3倍?結局なに?プラン変更しないとまずいのか?採血ダメな人間なのに、いいの?この選択は…?かっこつけて全然大丈夫です、みたいな顔しちゃったけど?

後ろには列が出来ていたので、それ以上会話のターンを続けるわけにもいかず、足取り重く更衣室へ。

検査着に着替え、視力検査からスタート。僕は視力の良さだけが自慢なので、毎回、両眼とも1.5なのだが、今回は右目が1.2だった。普通の採血とB型肝炎とC型肝炎の合計の採血量が気になって全く集中できなかった。

身長体重を測る。身長160.5cm、体重47kg。
血圧を計る。少し低いと言われた。スコアだけ見ていくと、完全に女子である。低血圧の痩せOL。性別を隠して、健康診断のスコアのみでマッチングアプリをやればモテる自信がある。

淡々と検査をこなしていく痩せOLで長女の私。ついに地獄の門「採血の扉」をくぐる。
就活みたいに、あらかじめ言うセリフは決めていた。
「採血で具合が悪くなるので、横になりたいです。」これだ。これさえ言えばラクになる。

採血担当の女性「今まで採血で具合わ…」
僕「採血で具合が悪くなるので、よk」
採血担当の女性「あ、はい。かしこまりました。」

食い気味で宣言してしまったために、若干かぶってしまった。人の話が聞けない独りよがりな人間になってしまった。最終面接なら落とされてるぞ、これ。

カーテンで仕切られたベッドに案内された。
僕はベッドに横たわり、天井を見上げる。

採血担当の女性「今日の体調どうでしょう?心の準備とかも含め」
幼稚園児に話しかけるような優しい口調で言われた。

僕は言った。
「あの、えー、受付で、なんかオプション?とかでつけれるB型肝炎とC型肝炎の検査あるじゃないですか。あれって、その、いっぱい血とられちゃいますかね?いや、えっと、2回?3回?そこが気になってます。はい。」
我ながら稚拙すぎる表現で、幼稚園児が答えているのかと思った。

採血担当の女性「心配いりませんよ。1回でとれちゃいます。オプションはつけてもつけなくても、抜く血の量は変わりませんので。」

ここまでの心配がスカッと晴れた。あの視力検査をやり直したい。この晴れた視界と頭なら、視力1.5は余裕で叩き出せる。

採血担当の女性「それでは、チクッとしますね。大丈夫ですよ〜」

僕「だ、はい…」

採血担当の女性「もう少しとりますy、ま…なっ…ときって、いつ…か?」

僕「え、あ〜…え?」
採血の中盤ぐらいで、ふんわり意識が飛びかけた。完全にブラックアウトはしなかった。

採血担当の女性「終わりました。体調どうでしょうか?ゆっくりでいいですよ。」

僕はゆっくり起き上がろうとしたが、本調子で力が出ない。顔が濡れたときのアンパンマンの気持ちがわかる気がした。

採血担当の女性「少し横になって休憩していいですよ。リラックスして下さい。」

そう言って、紙コップに入ったお茶と、ビスコをくれた。

医療用の棚からビスコが出てくるとは思いもしなかった。

香ばしアーモンドと書かれたビスコ。いつも見る赤いパッケージのビスコとは違う。ふらついた後だったので、自分の目がおかしくなって、赤いビスコが茶色に見えているのかと、一瞬思った。

ふやけたアンパンマン状態の僕は、力を振り絞ってビスコのパッケージをちぎった。5枚のうちの1枚を静かにとり、そっと口に入れる。
歯でグググッと砕けるビスコ。美味い。こっそり出されたビスコが美味い。

ビスコを食べてお茶を飲む。ビスコを食べてはお茶を飲む。健康診断にきているのに、ビスコとお茶をずっといただいている。色々と申し訳ない。
かれこれ10分くらい休憩をした。

あんなに力が出なかったのに、ビスコを食べたおかげで自力で立ち上がることが出来た。

「ビスコを食べて強くなる」は本当だった。
ビスコを食べて強くなった僕は、健康診断を無事に乗り切ることができた。
採血して下さった方と、ビスコの開発者には、心の底から感謝したい。

ただ、一つだけ残念なことがある。
ビスコを見る度に「採血」を思い出す身体になってしまったこと。
80年愛されてきた大ヒット商品、ビスコ。そのぶん、見かける確率はかなり高い。
ビスコを見る度に、僕は採血のことを思い出してしまうんだ。
ビスコで蘇生した代償は大きい。

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