いなげな #文学フリマ東京38【お-16】

アンソロジー『文章講座植物園』参加メンバーを中心に結成された創作サークルです。「変な、…

いなげな #文学フリマ東京38【お-16】

アンソロジー『文章講座植物園』参加メンバーを中心に結成された創作サークルです。「変な、おかしな」という意味の広島弁で、我らが師匠である津原泰水先生の出身地にあやかり名づけました。経歴もジャンルもばらばら、という「いなげ」な集団ですが、どうぞお見知り置きを。

マガジン

  • inagena vol.1 「音」

    「音」をテーマにした、ジャンル横断アンソロジー『inagena vol.1』(2024/5/19開催〈文学フリマ東京38〉にて発売)、全収録作品の冒頭が試読できます。

  • inagena vol.0

    ジャンル横断アンソロジー『inagena vol.0 準備号』(文学系イベントで無料配布中)掲載作品(一部)を掲載しています。

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【2024/5/19】「文学フリマ東京38」に出店します!【逐次更新】

文学作品展示即売会「文学フリマ」に初出店します! (当サークルの出店情報はすべてこのページに集約しますので、是非ブックマークのご登録を!) 【文学フリマ東京38】 日時:2024年5月19日(日曜)12:00~17:00 会場:東京流通センター(東京都大田区平和島6-1-1) 入場料:1,000円 https://bunfree.net/event/tokyo38/ 当文芸サークル「いなげな」は、複数の作家がさまざまなジャンルの短編小説を持ち寄った作品集(アンソロジー)を

    • 不知火黄泉彦「武器ではなく、楽器を」

       ライフルの音が響いた。  タカタカタン。タカタカ、タカタカ、タカタカタン。  五連符と十三連符だからファイヴストロークとサーティーンストローク、いや、遅めのアレグロだからシングルストロークのほうがクリアに鳴らせる、と反射的に考えてしまった自分が自分で嫌になる。  見ると、迷彩服姿の人々が重なって倒れている。二〇人まではいないだろうか。微塵も動かない。ゴムのようだ。アスファルトに散った血痕のシルエットのほうが、よほど生命感がある。 「またかよ」つまらなさそうに弟が言うと、 「

      • 小山智弘「空へ」

         飛行機に乗る。通路を挟んだ隣に若い男女がいて、赤子を抱いていた。  それから時が何年も過ぎた。  長期休暇を申請し、ハワースに訪れた。 「おじさん、日本人?」  日本語が聞こえる。  だいたい14歳ぐらいの青年がいた。 「そうだけど」 「うあー久しぶりやな。俺も日本人なんだ。生まれてすぐにイギリスに来て、それから日本なんて行ったこともないんだけどね」 「そのわりに日本語が上手いじゃないか」 「ボイチャばっかりしてるからね。アニメも見てるし。おじさんはどこにいくん」 「

        • 恣意セシル「産声のカノン」

           遠くから、ゆっくりと何かの音――いや、声が近付いてくる。  おぎゃあ、おぎゃあ、……ああ、これは産声だ。私がこの世に転び出て、初めて出した声だ。不思議なことに、見えないはずの目でも、周りの人々の笑顔が見える。  私は祝福されて生まれて来たのだ。少なくとも、あの瞬間だけは。  びゅおおおおおおおおと、両耳を大気の切り裂かれる音に支配される。高度何万メートルから私は落下しているのだろう? わからない。わからない。まま、私は生身でただただ落下し続けている。  わからないことより

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        【2024/5/19】「文学フリマ東京38」に出店します!【逐次更新】

        マガジン

        • inagena vol.1 「音」
          7本
        • inagena vol.0
          4本

        記事

          Sonnie「心臓」

           奏でられる鐘の音。まばゆい白い壁がそびえ立ち、教会内を光り輝かせている。空気には神聖な雰囲気が満ち溢れ、慈愛に満ちた思いが包み込まれていた。この美しい教会では、今日一組の新郎新婦を迎え入れる準備が整っていた。  これから新郎新婦が登場する聖堂の入口には、白い花が豪華に飾られ、光に反射してキラキラと輝いている。祭壇の前には、カラフルな装飾が施されたキャンドルが並び、その明かりが優しく会場を照らしている。  客席に座る人々は、様々なドレスやスーツを着ており、祝福の空気を一層引き

          増田邯鄲「パンド・羅・生の鐘」

           夕暮れどきのことである。女が、塔に吸い寄せられるように、街道のはずれを歩いていた。脂ぎった髪を垂れ下げ、土埃にまみれた履物を引きずっている。小刻みに吐き出される無声の呼気が、整えられていない前髪をふわりと跳ね上げる。 「ぁ……」  女が地面に足をとられた。躓きかけた女の発した、僅かな有声の音が空気を震わせる。周囲に波紋が広がる。虫、小動物、鳥。音を感知するあらゆる種々が彼女の側を遠ざかっていく。 「うぅ!」  女は苛立ちに足を踏み鳴らし、右手にある木々に向かって獣のような声

          増田邯鄲「パンド・羅・生の鐘」

          古川慎二「心神を痛ましむること莫れこの故に」

           晴れた日の昼休み。 「慎吾くん。私のために歌って」  亜香里は面白いやつだ。誰に対してもこんな調子のお調子者で、素敵な人だ。  どうしてと尋ねたら、 「だって歌、得意って言ってたじゃん。確かめさせて」 「いいよ」  俺は最近流行っている歌を歌ってみた。 「笑える」  笑われた。 「どうせなら、『空の彼方』歌ってよ」 「タイトルしか知らない」 「やば。おもろ」  彼女は携帯で曲をかけた。  どこにでもいそうな男の、どこかで聞いたような歌声のありふれたヒットソングが流れる。  

          古川慎二「心神を痛ましむること莫れこの故に」

          あらみきょうや「かばね」

           正体は茸である。蒲根、と表記するがこれは近代以降に成立した当て字であり、蒲の繫累に名を連ねるものではない。むろん根菜でもない。山中の水辺に群生し、じっさい蒲の根元などにも見られることから名づけられたとする説もあるが、これは些か信憑性に欠ける。蒲はなくとも茸は生える。  従来カワネ、あるいはカワノネと呼ばれていたものが時を経て転訛したのであろう、とは教授の弁だ。真偽のほどは不明である。唯一の論拠は神社の蔵で見つけた江戸時代の書翰だという。何しろ生息域が狭く、採集や栽培を生業と

          不知火黄泉彦「あとがき」「夢魔」

          あとがき  名刺代わりの作品を、ということで拙作の中で最もいなげな――良識を疑われる――作品である「夢魔」に即決したまではよかったのですが、読者はさておき、他のメンバーが眉を顰めるのでは、と危惧していたところ、あっさり「津原先生の『天使解体』が出版されているわけですし」と杞憂に終わって失笑したことが記憶に新しく、そんないなげで寛大な朋輩に恵まれたことに感謝しています。  というわけでいなげな私にとっては「普通」こそ最もいなげなので、第一号には極めていなげな普通の作品を載せる

          不知火黄泉彦「あとがき」「夢魔」

          恣意セシル「夜の少年」 ※全文公開

           雨が上がった後の夏の夜の空気はとても重い。てのひらを泳がせると、纏わりついてくる。ぴたりと張り付いて皮膚の上でもぞもぞと蠢くのを、手でぺりっと引き剝がす。カットバンを取った時みたいな感触。夜は生き物だ。  あまりたくさんの夜をそうやって張り付けるとやがて全身を呑まれて帰れなくなるから、こんな風に闇の濃い夏の夜に出歩いてはいけないと、よく、ばあちゃんが言っていた。 「おい、もうそろそろ行くぞ」 「まって。まだもうちょっと」  だけど僕たちはそんなの構わなかった。  夜を体に纏

          恣意セシル「夜の少年」 ※全文公開

          小川三十一「ノットゥルノ -Notturno-(一部)」

           人間はやりたいこととやっていることが 完全に一致していることはめったに無い。食べるとか寝るとかの生理現象は別にして、いや別にしなくてもたとえば食事にしても今食べているものが今食べたいものと完全に一致していることは少ないはず。いや自分はいつも好きなものを食べているよと言う人もいるかもしれないけれど、そういう方は無意識のうちに今食べられるものを食べたいと思うように思考が慣らされているのだと私は思っている。誰でもそれがかなうなら毎晩でも星付きのレストランで出てくるようなものを食べ

          小川三十一「ノットゥルノ -Notturno-(一部)」

          あらみきょうや「世界猫の日」 ※全文公開

          「今日は世界猫の日なんだって。知ってた?」 「セカイネコ?」 「そう。この世の涯には世界中の猫を統べる世界猫がいて、とこしえの眠りを貪っているんだ。何でも山のように巨大な猫で、その寝返りは大地を揺るがし、欠伸ひとつで嵐を巻き起すのだとか」 「災害の元兇じゃないか。一刻も早く滅ぼさないと」 「ところが世界猫にはどの国も手を出せないんだ。条約で保護されているんだって」 「ふうん、何て条約?」  しばらく待ってみても返答はない。ぼくは諦めて質問の趣旨を変えた。「それで、今日はその世

          あらみきょうや「世界猫の日」 ※全文公開