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【三題噺 お題】雷雨 目 しっぽをふる 【作戦】

塾の帰り道の雷雨の中、目にいっぱいの涙をためている迷い犬がいた。首輪がついていたので、飼い犬だとわかる。
なんだか、汚なそうで僕は犬の前をさっと素通りした。
後ろに何か動物的なものの気配を感じる……。
何かが僕の後ろをついてくる。ずっとついてくる……。
さっきの犬だ……。
きっとママに怒られる……。
まだ、ついてくる……。
あの角を曲がると、もうすぐ家だ。
さっと振り返ると、まだついてくる……。
角を曲がって家に着いた。
ついてきちゃった……。
「ただいまぁ。ママぁ。ついてきちゃったよぉ」
「おかえりなさい。何がついて来ちゃったの?」
「犬……ごめんなさい……でもね、でもね、この犬雨の中で泣いてたの……」


「そうなの。可哀想よね。きっと飼い主さんも探してるだろうから飼い主さんが見つかるまで家で預かろっか?」
「うん」

ママは半年もの間、犬の飼い主を探してくれたのだった。半年経っても僕の後をついてきた犬の飼い主さんは見つからなかった。
ママとパパが話し合って僕の家の犬になった。名前は「ワン太」になった。
家には先住猫の「セロ」がいた。

先住猫セロとワン太は話をしていた。

「僕はあの時目にゴミが入ったから、ゴミをとろうとして目をこすったら、たまたま目に涙が溜まっていたんだ。
その目のままで、僕はあの子の後をついて行っただけだったんだ。そしたら、優しいあの子が泣いていると勘違いしたんだよ」
「う、うん」
「人間の世界では、こう言う諺とかいうものもあるらしいよ。
犬も歩けば棒に当たるって。
僕は犬だけど、本当にたまたま棒にあたっただけさ。わざとあたりに行ってみたんだけどね。
人間たちの世界のどこかの国では、生きてゆくために男の人がわざと女の人を演じて生きる人間もいるらしいからね。
これも、僕たちの世界で生きてゆくための作戦だよ。サ、ク、セ、ン」
「ワン太くんって、可愛い割には結構怖いんだね……」
「え?人間なんて、もっと怖いよ?」
「……」

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