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プロモデラーの師匠と情けない俺の話    第四話 ~プロの作業場~

前にも話したがプロモデラーの作業場は、都内のオフィスにあると思っていたが地元の田舎の何の変哲もない民家のガレージにあった。表から見たらとても日本屈指のおもちゃメーカーバンダイから受注を受けているなんて想像もつかない。

ガレージを改築した作業場のインターホンを鳴らすといつも師匠自ら出て来て下さった。入口から入ると最初に三畳ぐらいの部屋があり事務用デスクが1つパソコンが1つ二人掛けソファーが1つあった。主に仕事の受注や事務作業をするところであるが、徹夜仕事のときの仮眠室でもあった。自宅の隣だが自宅で仮眠すると集中力が切れちゃうのかな?なんて思ったりもした。

最初の部屋を抜けるとメインの作業場があった。奥にもう1部屋あってパーツを複製する為の機械があったようだが俺は入ったことが無いので詳細はわからないが二番弟子さんの仕事だった。メインの作業場は今思い出すと20畳ぐらいの広さだったと思う。壁2面に工作机が2つずつあり、作業スペースが4組あった。1つだけ塗装専用のスペースで残りは工作スペースだった。工作スペースはシンプルでカッターマットしかない。現代みたいに模型店に行けば様々な用途で使える親切な道具が売っている時代ではなかったので道具もシンプルで自前で揃えた。OLFAのデザインナイフ、ニッパー、OKボンド、紙やすりをステンレス製の定規に両面テープで貼ったものを番違いで3組これが基本で他にはほとんど使わなかった、教えてもらわなければ知ることも出来なかった師匠の神器である。今流行りのBMCタガネもなければスジボリ堂も無いしアルテイメットニッパーもない。タミヤぐらいしか模型用品なんて無かった時代である。スジボリ用のタガネはマイナスドライバーを研ぎ出してオリジナルの道具を使用したりしていた。ほとんど技術で何とかしていた、とてもまねできるような芸当ではなかった。

師匠はデザインナイフ一本でほとんどの作業をしていた。ダボ取り、面出し、スジボリの彫り直しなど職人技が凄すぎて見ているだけで一日過ごしてしまったこともあった。それだけ見惚れてしまう作業だった。師匠はよく口癖のようにデザインナイフだけでなんでも出来るようになれ!と言われていたが俺は恥ずかしながら未だに大して技術が進歩していない。

塗装は特に凄かった。塗装に適した室温と湿度を維持するためにエアコンと石油ストーブを併用する徹底ぶり。塗装は普通は二回、三回の重ね塗りがあたり前だが師匠は一発塗りだった。一発塗りでもとても綺麗な塗装でその界隈では評判が良かったらしい。面出しや下地処理と同様に常識破りの塗装作業もいつまでも見てられるものだった。塗装ブースにはサーフェイサー、ベースホワイト 赤、青、黄、緑、金属色などなど大まかな色別にエアブラシのハンドピースが何個もあり木の板をくり抜いたハンドメイドのホルダーに引っ掛けてあり、その様はいかにもプロの道具という印象でいつか自分も揃えてみたいと思っていた。

地方のFMラジオが流れるこんな作業場でだいたいいつも一番弟子さんと雑談しながら二人で作業をしているところに俺がお邪魔していた。

どんなに悔やんでも、もう二度とは戻れない場所である。

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