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イタリアの北東部のエミリア=ロマーニャ州にあるフォルリー= チュゼーナ県クゼルコリの山間地。標高210mにあるファジョリー農場に出かけた。ゆるやかな山の上にあり、宿泊ができる農家(アグリツーリズム)を実施し、地域の農村観光のモデルとなっている。ここを拠点にワイナリーやチーズ工房、乗馬、農家レストラン、町などを周遊し、またパスタやパン作り体験などを連携し多くの観光客を呼ぶ仕組みになっている。この取り組みはイタリアで広がり、今では農家の宿泊は2万軒以上ある。農村地帯に多くの観光客を呼び入れ、また地域の特産品も売れ、農業に若い人を呼び込む力にもなっている。今回の旅は関係者の話も訊き、イタリアの農業を活かした観光と産業の仕組みを学ぶというセミナー形式のツアー。コーディネーターは中央大学法学部工藤裕子教授で、もう10年以上前からゼミ生と、それに希望の一般人が参加する形で続けられている。
 参加は2度目で、前回の旅で一緒だった方もいて楽しい時間となった。メンバーは約20名。農家宿泊というと、日本の場合、農家の家で、農家の方と一緒に寝食をともにするというイメージだが、イタリアでは異なる。私たちが泊まるところは別棟になっていて、部屋数も5つあり、キッチン、トイレ、シャワー、ベッドが、それぞれについていて、快適に過ごせるようになっている。
 今度の訪問で印象に残った自治体(コムーネ)にベルティノーロ(Bertinoro)がある。エミリア=ロマーニャ州の丘陵地帯を含む57万キロ㎡の豊かな地域にあり、人口は1万2000名。丘陵の上の石垣に囲まれたところに役場がある。広場には12個のリングのある柱があり、ホスピタリティの町としての象徴になっている。話によると13世紀に12の貴族が、町を訪れる巡礼者を、どこがもてなすかいつも揉めた。巡礼者は他国の情報をもたらし地域の経済活動にも重要な人たちだった。あまりに毎度揉めるので有力な2つの貴族が広場に12の貴族を表すリングのついている柱を立て、巡礼者が馬を繋いだところが、もてなすということとなったという。
 このホスピタリティの精神は今も受け継がれ、9月にある1週間の祭りでは、各地から来た人たちを食事に招いたり泊めたりという習慣がある。町には大学があり、留学生が、やがて町の人たちと打ち解けて、家の食事に招かれるということもあるという。
 役場は高台にあり町を一望することができることからエミリア=ロマーニャ地域のベランダとも呼ばれている。
 町の役場の取り組みが実にユニーク。ベルティノーロの役場は古い建物のなかにあり、副市長から町の紹介がされたのだが、細身でカジュアルなジャケットと細いネクタイ、タイトなスラックスと、お洒落な服装のスタイリングの良さが目を引き、同時に気になったのは、後ろにあるガラス張りの小さな空間で、ワインがずらりと並んでいる。
ロマーニャ州では、白ワインのアルバーナ・ディ・ロマーニャの産地。もひとつは、赤ワインのサンジョベーゼ ディ ロマーニャが栽培されている。
 役場にあるワイン、実は、農家が、その年、最高のワインを持参して並べているのだそう。ここに、著名なワインガイド『ガンベロロッソ』の担当者を始め、ジャーナリスト、バイヤーなどを招き試飲会が年2回実施されて、プロモーションをしているのだという。
 部屋の入り口には、ワインが掲載されたガイドブックがずらりと並んでいる。役場には委託したレストランがあるが、条件が地元の食とワインを出すことが条件になっている。

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 そもそもベルティノーロという町の名前の由来は「黄金の盃でワインを飲む」。昔、訪れた聖人に素焼きの器でワインを差し出したところ「これは黄金の盃で飲むべきに値する」と、その極上さを絶賛したという。
 町ではワイン農家を集めてコンソーシアム(共同事業体)を作った。2006年のことだ。これは、農家が集まって生産・販売をするという従来の集まりではなく、ともに地域のワインを対外的にプロモーションしていくためのもの。4月にヴェローナで開催されるイタリア最大のワインの祭典ヴィーニタリーへの役場職員と農家がでかけたりもしている。
 またソムリエが集まり3日間の試験、ティスティング、プレゼンを行い、ナンバーワンを決める大会や、ソムリエのコースなども実施され大人気というから、その仕組みとワインにかける情熱に圧倒された。ひととおりの説明があると、「さあ、ワインを」と、極上の白ワインが提供されたのだが、そのぐっとしまって果実のような膨らみを持ち、なめらかで、芳醇な香りが漂い、そして実に爽やか。体中に喜びがあふれるようだった。

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