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映画『ソニックVSナックルズ』は最高の「ゲーム原作映画」!

はじめに

ついに映画『ソニック・ザ・ムービー/ソニックVSナックルズ』が日本でも公開されましたね!

日本公開日はトーゴ共和国に次いで世界で2番目に遅く、4月にワールドワイドで公開されて以降悶々としていた方も多いのではないでしょうか。

全世界興行収入544億円第3弾の公開日決定など、海外から入ってくる情報にきっと多くの人が期待に胸を膨らませたことでしょう。

筆者は6月末の試写会で鑑賞することができましたが、はてさて、映画本編はその期待に沿う内容であったのでしょうか……

ネタバレなしレビュー

結論から言うと、期待に沿うどころか、期待を大幅に上回る最高の出来でした。
もう上映が終了してから劇場を出るまで(出た後も)興奮がとんでもなかったです。ソニック歴の長い友人と鑑賞したのですが、まあお互いとてつもない満足度でしたね。

ソニックファンならきっと喜ぶであろうという点は全てしっかり押さえられていて、少なくとも上映直後はまったく何の後腐れもなく「良かったー!」と思えることでしょう。

もちろんソニックをあまり知らない人でも、見たいものがしっかり提供されますし、コメディも面白く、最初から最後まで笑顔で鑑賞することができる良質なキッズ・ファミリー映画として楽しむことができると思います。
(筆者は人生で一番好きな映画としてよくモンスターズ・インクを挙げるのですが、ああいった作品が好きな人は多分映画ソニックシリーズも好きだと思います)

しかし、一体何がそこまで良かったのでしょうか?
アクションシーンのクオリティやシネマトグラフィーといった魅せ方など、褒めるべき点はたくさんありますが、主な評価点としては以下の2点ほどが挙げられます。

キャラクターの魅力

この映画、まぁキャラクターがみんな魅力的です。
ゲームでお馴染みのソニック、テイルス、ナックルズ、エッグマンに加えて、エージェント・ストーンやワカウスキー夫妻、レイチェル、ウェイドなど前作から引き続き登場する人間キャラもみんな総じて好きになれます
恐らくある程度存在が目立っているのに活躍の場を与えられなかったというキャラクターは存在しないのではないでしょうか。

個人的には警官のウェイドがお気に入りだったりします。
彼の登場場面は毎回場が和むといいますか、思わずクスッとしてしまうこと間違いなし。ソニックとの絡みも微笑ましいです。

お気に入りキャラのウェイド

しかし、誰よりも魅力的に描かれているのが、やはりソニック・テイルス・ナックルズの3人です。というのも、他キャラの活躍とは少しニュアンスが違うといいますか、ただ印象に残る良いキャラであるだけでなく、この3人は人としての成長がしっかり描かれているんですよね。

人生の大半を孤独に過ごし、最近まで「個人」でしかなかったソニックが、「ヒーロー」として自分以外の他者とどう向き合うべきなのか。
臆病な性格故に一歩前に踏み出せないテイルスが、自分とは対極に位置するソニックという存在に触れ、どう殻を破っていくのか。
ただ一つの使命に囚われ、忠義を尽くすためだけに生きてきたナックルズに対して他人との関わりがどのような変化をもたらすのか。

それぞれが内側に乗り越えるべき課題を抱えていて、それが明確に提示されていきます。そして、それぞれの成長が密接にお互いの関係に繋がっていく

実はこれ、近年のソニックのゲームでは中々表現する機会がなかったといいますか、現在のゲームシリーズにおいてソニックを含むメインキャラクターは、ソニックアドベンチャーシリーズなどを通してほぼ全員精神的な成長を経てしまっているので、既存キャラの葛藤や苦悩を描くというのは中々難しいものがあったんですよね。(今冬発売のゲーム『ソニックフロンティア』や今年配信予定のCGアニメ『ソニックプライム』ではそういった描写もあるそうですが)

なのでゲームシリーズのファンとしては、彼らの成長を一から見届けることができるのが凄く新鮮であり、嬉しかったりもしました。
それでいて、ソニックとナックルズの浅からぬ因縁など、ゲームでは存在しなかった映画特有の関係性なども構築されており、原作の表面をなぞるだけではない深みが感じられる点も、映画としてかなり評価できる点なのではないのかなと思いました。

また内側の部分だけでなく、外面的(ビジュアル)な部分においても表情やしぐさからキャラの肉付けがしっかり感じられ、比較的自由に表情を動かせる映画ならではの魅力も表現されているようにも思います。

こういった、映画だからこそ描けるキャラの魅力というものが遺憾なく発揮されているため、恐らくゲームのキャラ付けに慣れ親しんだ方でも、今一度改めて彼らのことを好きになることができるのはないでしょうか。

(エッグマンに関しては、相変わらず憎めない悪役という感じで、予想通り良い味を出しているのであまり語ることはありませんが、少なくともジム・キャリーの演技は前作の倍以上パワーアップしています

「ゲーム原作映画」であるということ

言うまでもなく、この映画はゲームを原作としており、原作ゲームで見ることのできる要素がふんだんに取り入れられています。
しかし、この映画シリーズには、原作の物語をそのまま再現しないという特徴があります。

簡単に言えばリブート(再構築)です。

ただの再現ではなく、原作の要素を机に並べて、一つ一つ取捨選択しながら組み立て直すといったイメージ。そして、そこに映画として描く上で足りないものを独自に付け足していく
したがって、諸々の設定はゲームと共通しているものの、プロット自体は大幅に異なっていたりします。実際前作は全くのオリジナルストーリーと言っても過言ではなかったと思います。

そして、それは今作に関しても言えることで、ゲームでもお馴染みのお約束は守られているものの、物語の大枠または細部に関しては独自の路線が取られています。色んな作品の設定がミックスされていたり、時系列が変わっていたり、設定が再解釈されていたり、トムなど原作には存在しないキャラが大きなウェイトを占めていたり。作り手が伝えたいメッセージや尺に合わせて、都合よく組み立てられています。

しかし、だからこそ一本の映画として違和感なく絶対に必要なものだけで綺麗にまとめられており、ゲームファンも美味しいところを味わえる、絶妙な塩梅で物語が仕上がっているのです。
「原作のシナリオをそのまま映画尺に収めようとすることで、尺が足りていなかったり、もしくは余ってしまったりする」「原作の表面をなぞっただけの薄っぺらい内容になっている」なんて問題が起こらないように、原作を象徴的にしている要素に対して忠実でありつつも、丁寧に作り直すことができているということです。

それに加えて、今作はゲーム原作映画として更に一歩先へ進むための工夫が取り入れられています。

それが、ゲームプレイを映像作品の演出として落とし込むことです。

基本、ゲーム原作に限らず実写化作品において、ファンが満足できる仕上がりになっているか否かに関する議論は、先ほども述べた物語の部分や、キャラクターの台詞、性格描写を中心にしていることが多いと思います。
しかし、ゲーム原作映画だからこそできる、レベルデザインやステージギミック、アクションなどを演出として上手く落とし込むという手法もあるということは何かと忘れられがちではないでしょうか。

詳しくはネタバレになるので語ることができませんが、誰しもソニックやそれ以外のゲーム(ソニック以外でも)において「あのステージ難しかった」とか「あのギミックとあのアクションは面白かった」って記憶はあるのではないでしょうか。
恐らく実際にゲームをプレイしたことがある限り、そういった思い出は何かしらあると思います。

ここでいう「ゲーム原作映画だからこそできる手法」とは、「そういった思い出を刺激し、自然にゲームとのつながりを感じさせる」ということです。
前作にも一応、ソニックがダメージを食らってリングが散らばるといったゲームらしい演出がナチュラルに取り入れられているシーンがあったりしましたが、今作はさらに貪欲といいますか、隙あらば私たちがゲームで体験したもを映画なりの演出にして落とし込んでいます。
それも、明らかなファンサービスというわけでもありません。
実際にゲームをプレイしていなければ恐らく誰も気づかないレベルに自然な流れで、特徴的なアクションが繰り出されていきます

「あ、これ多分ゲームプレイしている人なら嬉しいんだろうな」と気づかれるほど露骨ではなく、実際に自分の手でゲームをプレイしていた人だけが思い出して「おっ」ってなる最高の塩梅です。
ゲームというプレイする媒体を基にしているからこそ取り入れられるさりげない演出に、かつてのプレイヤーは密かに盛り上がること間違いなしです。

物語的な部分でもそうでしたが、この映画は「ゲーム原作映画」であるという根底を大切にしつつ、それを映像作品としてごく自然に表現することにとても長けていると思います。

そういった「老若男女全世代誰でも楽しめるように一から作り直し、かつ原作ファンにも喜んでもらえる作品に仕上げていく」という実は非常に難しいバランスをクリアしている点が、最高のゲーム原作映画と言われる所以なのではないかと、私は考えます。

ネタバレあり感想

さて、ごちゃごちゃ色々言いましたが、ここからはネタバレありで映画の内容に触れていこうと思います。































「50年前」
「プロジェクトシャドウ」

この二つの言葉で隣に座っていたソニック好きな友人は気が狂いそうになっていました。

いや、まさか、明確に50年前がどうだとか、プロジェクトシャドウがどうだとか、拾ってくれるとは思わないじゃないですか。
映画の時間軸ではG. U. N.がつい最近発足したというのもあって、恐らくソニックアドベンチャー2からストーリーはいくらか変わってくるとは思いますが、はっきりとアド2を想起させる言葉が出たのはかなり驚きました。

しかも、このシーンのコンセプトアートには映画では映っていない部分が描かれているのですが、そこにはゲームと全く同じジェラルドの計算式があったりします。
制作陣のリサーチがいかに入念なものであるかがうかがえますね。https://www.artstation.com/artwork/yJWJe5

加えて、ソニックが氷の洞窟で解いていた石碑のパズルに描かれた模様がソニックライダーズ シューティングスターストーリーに登場するバビロン一族の石碑の模様と同じであったり、終盤ソニックたち3人が繰り出すアクションがソニックヒーローズソニック・ザ・ヘッジホッグ(2006)を参考にしているように思われるものであったり、実はクラシックソニックをリスペクトした作品に見えて、モダンソニックに対してもかなりのオマージュがなされていたりします。

バビロンの石碑

また、脚本家のPatrick Casey氏とJosh Miller氏曰く、次回作はソニックアドベンチャー2とシャドウ・ザ・ヘッジホッグからの要素を取り入れて書いていく予定だそうです。
『ソニック・ザ・ムービー』や『ソニックVSナックルズ』を担当した彼らがそれらの作品をどのように再解釈し、調理するのか今から楽しみです。


ちなみに、Patrick Casey氏は以前に「シャドウは精神的に傷を負っていて、怒りと復讐によって駆り立てられている。友情がどうのこうのというのが通用するキャラではない」と語っており、シャドウに対する高い理解度を見せていたので、次回作のキャラクター描写に関してもソニック・テイルス・ナックルズ同様に安心できるものになっていると思います。https://www.murphysmultiverse.com/sonic-the-hedgehog-writer-teases-shadow-as-sonics-biggest-challenge/

それから、話は変わりますが、やっぱりラストのスーパー化は良かったですよね。
負の感情でエメラルドを利用したエッグマンと、正の感情でエメラルドの真の力を引き出したソニックという対比は、ソニックアドベンチャーのパーフェクトカオス戦を想起させますし、戦い方そのものはソニックX 26話を思い出しました。
狙ってやっているのかはわかりませんが、これまたハッキリとは伝えないところが上手いなあと。

最終決戦後のベースボールのシーンも個人的に好きでした。
確かここでソニックがテイルスのことをマイルス“テイルス”パウワー呼びしていたと思うのですが、前作でロボトニックをエッグマンと呼んでいた場面と同様に、なぜか中川ソニックのボイスでソニックキャラの名前を聞くと感動するんですよね。映画版のソニックはまだまだ成長過程にあって、その過程の中でゲーム版のソニック(クラシックでもモダンでも)に近づくまでのマイルストーンとして名前が機能しているような気がしているといいますか。ソニックキャラの名前を呼ぶことがソニックをソニックたらしめているといいますか。これに関しては完全に個人的な所感なので、全くそういった意図はないと思いますが、一応述べておきたいポイントではありました。
それと、ベースボールのシーンといえばナックルズがブドウについて言及する台詞がありましたが、ナックルズの好物なんてファンも忘れてそうな設定よく覚えているなと。

とにもかくにも、どの場面を切り取っても、制作陣の原作への理解度の高さと愛の深さを感じられる素晴らしい映画だったと思います。

終わりに

さて、ここまで長々と色んなことを書いていきましたが、つまるところ、要点は以下の通りです、

・映画だからこそ描けるキャラの魅力を遺憾なく発揮しており、原作をなぞるだけでは生み出せない深みがある。
・ゲーム原作映画として最良のバランスで物語・設定・演出が再構築されている。
・ファンでも気づかないような細部までとことんこだわりを持って作り込まれている。

また、上では語りそびれていましたが、日本語吹き替えのクオリティも最高の出来だったと思います。
中川大志さんの演技はもはやソニックそのものがしゃべっていると言っても過言ではないと言えるほどドンピシャにはハマっていますし、広橋涼さんのテイルスはお馴染みの声でありながら初対面の初々しさを表現されていると感じましたし、木村昴さんはナックルズの「決して頭が悪いわけではなく、純粋に世間知らずなだけで、情にアツい良いヤツ」という性格を的確に表していると思いました。
(あと今作はコメディ映画で、セリフの間や細かなニュアンス、ダジャレで笑いを取る場面がたくさんあるため、そういった点で比較的制限の少ない吹替版をオススメしたいです)

日本語版主題歌に関しても涙がでるほど感動しました。
特に英語エンドロール後の日本語吹き替え版エンドロールで、日本語版の歌詞が流れながら、ソニックチーム含む日本のスタッフがクレジットされているのを見て、凄く実家感といいますか、とてつもない安心感を覚えました。

監修などで携わったセガ・ソニックチームの方々にも最大限の感謝を表明したと思います。
本当にありがとうございました。


それでは、長くなりましたが、映画『ソニック・ザ・ムービー/ソニックVSナックルズ』の初日レビューはこれにて終わりとさせていただきたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

追記:イオンシネマで観たらフロンティアの最新映像が流れました。どの劇場で流れてどの劇場で流れないのかは分かりません。

(超一流アーティストたちによる公式カバーアルバム『Sonic the
Hedgehog Tribute』や、SKY-HIさんとm-flo ☆Taku Takahashiさんによる公式インスパイアソング『Fly Without Wings』もお忘れなく!)


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