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受け継がれる想いが、男鹿をおもしろい街にしていく──「TOMOSU CAFE」座談会

稲とアガベが始動する5年以上も前から、男鹿のまちおこしに取り組んできた3人の男性がいます。

「縫人(ぬいと)」というアパレルショップを営むOwn GArment productsの船木一人さん。コロッケが大人気の惣菜店「グルメストアフクシマ」4代目店主・福島智哉さん。男鹿市五里合(いりあい)でカフェ珈音焙煎所「珈音(かのん)」を経営する佐藤毅さん。

3人は、2012年ごろから男鹿の地域づくりに取り組み、地域の産品が集まるマルシェ「ひのめ市」のほか、さまざまなプロジェクトをおこなってきました。

そんな3人の想いが集まったカフェが、駅から徒歩2分の立地にある「TOMOSU CAFE」。暖炉の燃える暖かい空間で、船木さん、福島さん、佐藤さんに、男鹿や稲とアガベについてお話を聞きました。

ファッション、フード、コーヒー。尊敬する職人仲間

──本日はお集まりくださりありがとうございます。みなさんがいなければ稲とアガベも存在しなかったのではないかと思えるほど、先駆的に男鹿のまちおこしをおこなってきた、いわば“稲アガのお兄さんたち”です。

まずはお三方の経歴についてお聞きできればと思います。船木さんは、男鹿にある「縫人」というお店でご自身のファッションブランドを販売されていますよね。

船木一人さん

船木さん(以下、船木):はい。僕は、モテたくてアパレル業界に入りました。

全員:いきなり?(笑)

船木:僕が子どものころは、このあたりの船川の町は割と子どもも多く活気のあるところではあったんですけど、お祭りのときだけは特に人が集まってくる。その日はちょっとおしゃれをして、好きな子に会いにお祭りに行ったっていうのが僕の原点なんですよね。

そこから服について調べ始めて、高校生にもなると、ファッション誌の付録についているパターンをもとに自分で服を作るようになって、秋田駅前のデパートの前で自分で作った服を売るようなことをしていました。それがいつの間にかのめり込んで、東京の専門学校まで行って。「モテたい」という初心を忘れて、服を作る側の人間になっていました。

──「縫人」へお伺いした時、「君夏さん※1が着ている服が置いてある!」と思いました。

※1:稲とアガベの社員で農業担当の保坂君夏さん

船木:彼、着たらなんでも似合っちゃうから腹が立つんですよね(笑)。意識していないけど広告塔みたいになっちゃってます(笑)

船木さんの営む「縫人」

──ファッションを学ぶために東京へ出られたということですが、福島さんたちとはそれ以前からお知り合いだったんでしょうか?

船木:たまに男鹿に戻ってくると、(福島)智哉くんのお店へ行ってコーヒーを飲んでたんです。「グルメストアフクシマ」は地元の自慢だったので、わざわざカボチャパイとかを東京に取り寄せて、「男鹿にすげえ店がある」とか友達に食べさせていましたね。

福島:僕も大学で東京に出て、2009年に男鹿に戻ってきました。(佐藤)毅さんが、その少し前に焙煎所を始めたんですよね。

福島智哉さん

──佐藤さんは、人口150人(2023年時点)という琴川の地で、焙煎所兼カフェの「珈音(かのん)」を営んでいらっしゃいます。地元の豊かな自然を守るために、琴川のホタルの里を守る活動などもされていますね。

船木:毅さんは、僕たちのパイオニアです。十数年前って、男鹿にそんなエッジの効いたお店ってありませんでしたから。

福島:僕は、学生時代に、両親に毅さんの話を聞いて、「こんなかっこいいお兄さんがいるんだったら、男鹿に早めに戻ってきてもいいかも」と思っていました。毅さんはそのころから、コントラバス奏者としても引っ張りだこでした。

──コントラバスとコーヒーのプロフェッショナルである佐藤さんですが、それぞれどのようなきっかけで始めたのでしょうか?

佐藤:コントラバスは本当に、偶然でした。僕は、秋田大学教育学部の音楽科の出身なんですが、単位を取るために授業でひとつオーケストラの楽器をやらないといけなくて、誰もコントラバスに手を挙げなかったんです。

佐藤毅さん

──そんな偶然から始まって、プロにまでなられたとは。

佐藤:コーヒーは、今はもうないんですが、秋田大学の近くに行きつけの喫茶店があって、いいコーヒーを出していたんです。練習が終わるたびにそこの喫茶店に通っていたんですが、コーヒーの美味しさに目覚めてしまって。マスターに入れ方を聞いているうちに、焙煎が重要なんだとわかって、自分でも焙煎してみたいと思うようになりました。

福島:毅さんのコーヒーはうちで飲んでいたコーヒーと似ていて、両親が気に入って扱わせてもらうようになったんです。

──「グルメストアフクシマ」は食材にこだわっていて、お肉やお惣菜以外に、さまざまな調味料なども置いていますね。セレクトショップとしても機能しているんだなと思いました。

佐藤:グルメストアフクシマは、「男鹿に本物の職人がいるんだ」と思わせてくれるお店です。コーヒーを焙煎するのも職人技ですし、一番の見本が身近にあったと思っています。

福島:父が喜びます。

──ファッション、フード、コーヒーと別分野ではありますが、男鹿という場所で職人同士が惹かれあったということなんですね。

3人の想いから、カフェが生まれた

──では、お三方はどうやって出会ったのでしょうか?

船木:僕は東京でアパレルの仕事をしていたんですが、2012年に男鹿へ戻ってきました。子どもが生まれる直前に3.11が起きて、福島第一原発の問題などもあったからです。

福島:カズトさん(船木さん)の弟と、僕の弟がもともと仲良かったんですよ。初めて見たときは、僕が男鹿に戻って来てすぐくらいだったんですが、「めちゃくちゃおしゃれでご機嫌なお兄さん。船川出身でこんな人がいるんだ」と驚きましたね。

船木:最初はお祭りがグルメストアフクシマの前の三角広場でおこなわれていたので、そこに行くと好きな子に会える……というぐらいのイメージでした。それが、東京から戻ってきて、深く知れば知るほど、東京にも世界にも通用するお惣菜屋さんが男鹿にあるという誇りに変わっていきました。

グルメストアフクシマ

──福島さんのお店は、船木さんの原点なんですね。

福島:僕が戻ってきたころは、毅さん以外に、自然を大切にしたものづくりや生業という価値観を共有できる人がいませんでした。SNSが普及しだして、毅さんが中心となってまちおこしを始めたころに3.11がきて、船木さんが戻ってきて。船木さんには、僕自身のやっていることやお店の価値を逆に教えてもらっているほどです。

船木:一度3人で話をしてみようということで、飲みながら話したら、想像していた以上だったんです。「こんなに価値観がピッタリで、話が合う人がいたんだ」っていう驚きと、「これから男鹿がおもしろくなるな」という感覚がありましたね。

──そこから地域のマルシェイベント「ひのめ市」や、オーガニックをコンセプトにした「オガニック地域構想」というプロジェクトの根幹になる思想が生まれたんですね。

船木:この3人は、本質が同じなんですよ。一緒に何かするとお互いを高め合うことができるので、大体いつも3人でやっていますね。

──こちらの「TOMOSU CAFE」も、そうした流れから生まれたんでしょうか?

船木:TOMOSU CAFEは、秋田県の「動き出す!商店街プロジェクト」という補助金事業がきっかけで誕生しました。僕たちが「ひのめ市」のようなまちおこしをしていたので、いつの間にか巻き込まれていて(笑)、「何か本当にやってみたいことはないの?」と聞かれて「福島さんのお惣菜が食べられるご飯スタンドと、毅さんのおいしいコーヒーが飲める場所が必要」と言ったら、提案が通ってしまったという。

TOMOSU CAFEのチキン南蛮。レシピはグルメストアフクシマ直伝

──こちらでも毅さんの焙煎したコーヒーが飲めるんですね。フードメニューにはどんなコンセプトがあるんでしょうか?

船木:看板メニューのソースカツ丼は、30年ほど前に男鹿にあった「たのし食堂」のレシピを復活させたものなんです。

福島:うちが肉をおろしていたんですが、街の人気メニューだったんですよね。

船木:オープンする前に集まって、試作して、みんなで食べて。プリンも智哉くんと親父さんが、20種類くらい試作してきた中から選ばれました。3人とも、結局同じ2択で迷ってたんだよね。

福島:そういう感覚も一緒なんですよ。

──毅さんのコーヒーが好きで出会っているだけあって、考えだけでなく舌の好みも合うんですね。

稲とアガベを男鹿に迎えて

船木:稲とアガベの君夏くんも、毅さんの山で農業をしているんですが、毅さんには“コモンズ”という感覚がある。商売をやるとなると、同業者が同じ地域に来たら敵対意識を持ってしまいがちじゃないですか。でも毅さんは、君夏くんと今「さとやまコーヒー」をやっている大西くんがコーヒーを焙煎していたことを聞いたとき、「男鹿でやったらいい。僕の焙煎機を使ってください」と提案したんですよね。

お客さんにとって、街でいろんなコーヒーが飲めたら楽しい。毅さんはそうやって、自分の持ってる山や棚田をみんなにシェアしてくれる。毅さんと一緒にいて、僕たちにもそういう感覚が染みついちゃってるんですよね。

──そんなコモンズの考え方があるみなさんだからこそ、岡住さんが男鹿へやってきたときも快く歓迎されたんですね。

船木:僕は、本当に岡住さんに感謝しているんですよ。このあいだ(2023年10月)、君夏くんと(遠田)葵ちゃん※2の結婚式があったんですけど。

※2:稲とアガベ社員で店舗担当の遠田葵さん

2023年10月に結婚パーティをした君夏さん&葵さん(中央)

──稲とアガベで働く葵さん・君夏さんご夫婦の出会いにはみなさんが関わっているんですよね。

船木:葵ちゃんが、湯沢から男鹿に来たいと言ってくれたときに、本来だったら僕たちが仕事でも受け入れてあげられればよかったんですけど、働いてもらえるようなセクションがなくて。岡住さんが、君ちゃんと葵ちゃんが活躍できる場を作ってくれたので二人で男鹿に残ってくれたんだと思います。そのおかげで、彼らとの関わりは深くなっていって、二人で男鹿に移住してくれてしかも結婚までしてくれたなんて、三重でうれしいですね。

──岡住さんとみなさんはどういう経緯で知り合ったんでしょうか?

福島:うちの店におろしてくれてる農家さん繋がりです。松橋ファームさんという農家さんがやっている農家と作る日本酒プロジェクトで、10年以上続いている「農醸」というお酒があるんですが、僕も日本酒が好きでイベントによく参加していて、新政時代に「おもしろい子が来た」と紹介してもらいました。

それからお話する機会が増え、新政をやめたあとに、「秋田で自分の酒蔵をやりたいと思ってるんです」という相談を受けたんですよ。男鹿か別候補地で迷っていると聞いて、「ぜひ男鹿に来てほしい」と速攻、いろんな人につなぎました。

──岡住さんが創業当初のインタビューで、秋田の中でも男鹿に決めた理由として、「男鹿にしてほしい」といろんな人から言われたとお話していましたが、まさにそれがみなさんのことだったんですね。

福島:僕は小さなきっかけで、市の方に繋げられたのはとても良かったですし、男鹿の候補地を色々見て回ったのは僕自身勉強になりました。あとは、岡住さんが自分の力でどんどん繋がりを広げていったように思いますし、もともとの人脈もすごいですよね。

──男鹿のまちおこしのパイオニアとしてお三方の存在を知ったときに、岡住さんのことをはじめどう思ったんだろう? と気になっていたんですが、立役者だったとは。

船木:まず、僕たちは自分たちのことをパイオニアだと思ってない、というのが大前提としてあります。岡住さんが来てくれるという話があったときは、本当にありがたいと思って。「男鹿をブルゴーニュにする」とか、言うことがあまりにもでっかいから、同時にちょっと怖くもなりましたが(笑)。

でも実際、創業から2年くらい見ていますけど、すごいスピード感でいろいろなことを実現している。岡住さんの人格や人柄がいろいろなものを引き付けているからこそ、できることなんだと思います。彼は、自分以外の人たちの幸せに本気で取り組めるから、自分の時間をないがしろにして、これだけの事業を展開できている。

それをちゃんとサポートできるメンバーも育ってきていると思うし、これからの展開もすごい楽しみですね。あと単純に、僕はお酒がすごく美味しいと思っています。

男鹿はこれからどんどんおもしろくなっていく

──お話を聞いていると、みなさんは地面をきちんと耕して、種を撒いて、じっくり育てていくタイプで、岡住さんはもっと高いところから俯瞰したうえで、大きなことをやるタイプなんだろうなと感じます。

福島:確かに、アプローチは違って見えますよね。でも、岡住さんも同じようにベースを大切にしつつ、それ以上にスピードとエネルギーがあるということだと思っています。

船木:ある程度の段階で、 前に出る人と守る人みたいなのが区別されていくべきだとは思っています。岡住さんのように前に出られる人がいるんだったら、それをサポートする側として僕らがいるべきだろうなと。

──岡住さんがこれだけのびのびできているのも、先輩たちが暖かく見守ってくれてるからなのかもしれないですね。

船木:これからも爆速でいろいろ動いていくんだろうな。ちょっと体が心配になっちゃいますね。

福島:大体、30後半から40代で男は体を崩すので……(笑)。

──佐藤さん、ずっと頷きながら聞いてくださっていますが、どうですか。

佐藤:そのとおりです。

船木:最近、毅さんのお店がある琴川に、ナチュールワインのショップ(wine store firefly)がオープンしたんです。自然との調和を目指しているオーガニック系のご夫婦が、自分たちで小屋を建てて、自分たちでコンポストを作って。そういうミニマルな人たちもいるし、一方で世界に打って出る岡住さんのような人もいる。男鹿にいろんなチャンネルがあることが、訪れるお客さんから見てもおもしろくなってきていると思いますよ。

──お三方の想いが形を変えて、新しい人たちに引き継がれていく。男鹿って魅力的な場所なんだなと改めて思わせてもらえるお話でした。

【岡住代表コメント】
会えばいつも優しく迎えてくれる先輩方がいるおかげで、稲とアガベが成り立ってます。皆さんのチャレンジを傍目から見てて、男鹿いいなーと思っていたことも男鹿で事業をやるきっかけだったことは内緒です。創業二年間あまりに忙しすぎて、しっかり絡めておりませんが、男鹿の未来をつくるために力を合わせて、より男鹿の皆様に寄り添った企画も企てて行きたいなあと常々考えております。今年は形にしたい!


TOMOSU CAFE
住所|秋田県男鹿市船川港船川栄町89-3
Tel|0185-47-6040
営業時間|11:00〜18:00 ※2月は17:00まで
定休日|水曜 ※2月は火曜・水曜
公式HP / Instagram / Facebook

取材・執筆:Saki Kimura

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