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45-4.ポリヴェーガル理論forトラウマ理解と支援


注目新刊本「編者」オンライン研修会

セラピーのためのポリヴェーガル理論を学ぶ
−脅威に対して安全と絆を築く−

 
【日時】2024年5月18日(土曜)9:00~12:00
【講師】花丘ちぐさ(国際メンタルフィットネス研究所 代表)

【注目新刊本】『わが国におけるポリヴェーガル理論の臨床応用:トラウマ臨床をはじめとした実践報告集』(岩崎学術出版社)
http://www.iwasaki-ap.co.jp/book/b628370.html

【参考書】『セラピーのためのポリヴェーガル理論:調整のリズムとあそぶ』(春秋社)
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365618.html

【申込み】
[臨床心理iNEXT有料会員](1000円):https://select-type.com/ev/?ev=lMdVNf0I6oU
[iNEXT有料会員以外・一般](3000円):https://select-type.com/ev/?ev=1SC-VsEPhLo
[オンデマンド視聴のみ](3000円):https://select-type.com/ev/?ev=aUfvtLp04bU

臨床心理iNEXTオンライン研修会

現場で役立つ発達障害のアセスメント
―支援につなげるために―

【日時】2024年5月12日(日曜)9:00~12:00
【講師】井澗知美(大正大学教授)

【申込み】
[臨床心理iNEXT有料会員](1000円):https://select-type.com/ev/?ev=bH6GcKPI4og
[iNEXT有料会員以外・一般](3000円) :https://select-type.com/ev/?ev=8jlY0PQdFAI
[オンデマンド視聴のみ](3000円) :https://select-type.com/ev/?ev=YMZjHVW4G1k

オンライン講習会:「セルフ・コンパッション」体験プログラム

セルフ・コンパッションを体験し、習得する

【日時】全4回 各回9時〜10時30分の90分
① 5/11 (土曜) 『マインドフルな気づき』
② 5/25(土曜)『共通の人間性』
③ 6/8(土曜)『しんどい感情との付き合い方』
④ 6/22(土曜)『他者へのコンパッション』

【講師】中野美奈(福山大学准教授)

【申込み】
🔸臨床心理iNEXT「有料」iCommunityメンバー(無料)
 ☞ https://select-type.com/ev/?ev=-OkaFZZpuhk
※「有料iCommunity」メンバーとは、臨床心理iNEXTの有料会員で、かつiCommunityに登録されている方々のことです。

🔸上記以外の心理職を含む対人援助職及び一般の方(4000円)
 ☞ https://select-type.com/ev/?ev=k0UeNagqoog


オンライン講習会(オンデマンド配信)

なぜLGBTQは、相談に行けないのか?
−自死や自傷に至る“生きにくさ”を援助職は理解できているか−

【紹介PV】https://youtu.be/1PvgmgeTu34?si=buPul93qsmefZhui
【日程】4月28日(日)の9時〜12時
【講師・ゲスト】みたらし加奈/松岡宗嗣/石丸径一郎
【申込】<オンデマンド視聴※> 2000円
https://select-type.com/ev/?ev=xbDAPp-0iYw

※)当日参加者との意見交換場面を除く部分の録画の配信 

1. 私たちは、脅威の中で生きている

今年2024年の元旦は忘れ得ぬ日になりました。車の運転中、ラジオのアナウンサーが「津波が来ます。逃げてください」と悲壮な声で繰り返すのを聞きました。能登半島での地震の被害の状況がニュースで刻々と入ってきました。そして、羽田空港での衝突事故。何が起きるのかわからない現実を目の当たりにしました。

改めて考えてみると、私たちはいつ何時脅威に襲われてもおかしくない中で生きています。不安の中で生きているのが現実だと実感します。PTSDの診断基準となっている「死の危険を感じる」体験まで至らなくても、我々はさまざまな逆境やストレスの中で脅威を感じています。例えば、子どもは、厳しい養育や虐めなどの不適切な対応をされて「安全」を感じることができない逆境に置かれると、虐待でなくとも、トラウマ的な経験となってしまいます。

脅威を受け続けていると不安や抑うつの感情や体調不良が生じます。それは、病気ではなく、むしろ正常な反応ともいえます。他の人よりも繊細であったり、発達障害があったりして脅威を余計に感じる人は、このような反応が出やすくなります。


2. 精神科診断は脅威/逆境体験を隠す

精神科領域では、不安や抑うつの感情や体調不良が長引き、生活の支障が出てくると、医学モデルに基づいて「精神障害」として診断します。病気として診断をされると、それは、環境とは切り離されてその人個人の障害として個人化されます。そうなったのはその人の問題であり、その人が治す責任を負うものとなります。さらに、病気であるから、薬で治すことが推奨されることになります。そうなると、人間を苦しめる脅威や逆境の存在が隠されてしまいます。

脅威は、多くの場合、その人が生きている環境にあります。ところが、医学モデルでは環境の問題は不問にされがちです。その個人の健康管理の問題となり、個人化されてしまうのです。しかし、近年では、多くの精神科診断の背景に「複雑性PTSD」、さらには「発達性トラウマ」のようにトラウマ反応がある場合が多いことが注目されています。しかも、発達障害がある場合には、トラウマ反応がより深刻になります。むしろ、これまで精神障害と診断されていた状態が、実はトラウマ反応の2次障害であったということも少なからず見られます。
 
したがって、心理職にとっては、医学モデルに基づいて問題を病気として個人化するのではなく、脅威の影響(トラウマ反応)に気づくこと、脅威への対処のあり方を人々と共有すること、脅威に対処できるようになることが重要となります。そのような観点から近年注目されているのがポリヴェーガル理論です。


3. ポリヴェーガル理論とは

ポリヴェーガル理論は、1994年に行動神経科学者のスティーブン・W・ポージェス※)によって提唱された「恐怖への反応」「感情調節」「社会的つながり」における迷走神経の役割に関する理論です。
※)https://www.shunjusha.co.jp/author/a208587.html

従来の見方では、自律神経系は行動の活性化に関連する「交感神経」と、沈静化に関連する「副交感神経」に2分されるとされていました。それに対してポリヴェーガル理論では、副交感神経は、「腹側迷走神経経路」と「背側迷走神経経路」という、さらに2つの異なる枝に分かれ、全体として3系統の自律神経系があるとみなします。
このようにポリヴェーガル理論は、 poly(=多重) + vagal(=迷走神経の)という意味を持ち、副交感神経の主要な構成要素である脳神経の迷走神経に由来するとされるので、その点では神経科学的理論です。しかし、それだけでなく人間の種の進化的発展に根ざす点では進化論に由来しており、トラウマ反応などに関わる点では心理学に由来する仮説理論です。
ポリヴェーガル理論では、「否定・非難・恥をかかされること」や「孤立・疎外・排除・無力・支配されること」などを含めて社会的・生命的な安全が脅かされる状況の程度によって、上記の3系統の自律神経系が切り替わって環境に対応すると説明されます。 


4. 脅威とポリヴェーガル理論

脅威の強さは、①「命が脅かされる危機的状況」②「危険を感じる状況」③「安心を感じられる状況」に分けられます。これらの3状況に反応する自律神経系の3系統の特徴を要約すると下記のようになります。

① 「背側迷走神経経路」:命が脅かされる危険状況に反応し、生命維持のために受動的な鎮静・弛緩である「凍りつき」や「シャットダウン」反応を引き起こす。

②  「交感神経」:脅威に対する能動的な覚醒・緊張として、危険の合図に反応して「闘争/逃走」行動を活性化させる。

③  「腹側迷走神経経路」:安全な状況に反応し、安心感や社会的つながりの感覚をサポートし、コミュニケーションなど向社会的行動を促す。

進化論的には、①「背側迷走神経経路」は古代の脊椎動物の祖先にも認められる最も古いものであり、②「交感神経系」はその後硬骨魚の時代に現れたとされ、そして③「腹側迷走神経複合体」は哺乳類のみに見られる新しい迷走神経とされます。
③「腹側迷走神経複合体」にしっかり根付いているときは、私たちは安全でつながりがあり、落ち着いて人と関わります。逆に危険を感じると、つながりを感じられる状態を離れ、②「交感神経系」が脅威事態に反応し、安全な状態に戻ろうとして闘争/逃走の行動をとります。さらに、生命の危険を感じる深刻な状況では、①「背側迷走神経経路」に引き戻されて動きが取れなくなります。この状態になると臓器が不調に陥り、思考が乱され、感情の調整が困難となり、安全な社会的感覚に戻るのが困難になります。これがトラウマを抱えた状態です。


5. トラウマ回復に役立つポリヴェーガル理論

このようにポリヴェーガル理論は、人間の「心」と「体」を分けるのではなく、自律神経系を通して心身が結びついて全体として機能していることを説明します。また、「腹側迷走神経経路」の発達を通して人間的つながりの形成を説明します。

適切な養育環境と社会的交流の中で③「腹側迷走神経経路」は育ち、人とのつながりができていきます。逆に大切な成長の過程で適切な関わりあいがなされない場合には、人とのつながりが難しくなります。さらに虐待や虐め等によって闘うことも逃げることもできない状況に晒され続けると③「腹側迷走神経経路」の発達が不十分となり、“生きづらさ”を感じるようになります。むしろ、①「背側迷走神経経路」によってトラウマ反応が継続し、動きの取れない事態となります。

このようにポリヴェーガル理論は、近年注目されている複雑性PTSDや発達性トラウマ等を理解し、問題の改善に向けての指針を得るのに役立ちます。そこで、臨床心理iNEXTでは、冒頭に示したように『セラピーのためのポリヴェーガル理論を学ぶ−脅威に対して安全と絆を築く−』と題するオンライン研修会を開催します。講師は、我が国におけるポリヴェーガル理論の第一人者である花丘ちぐさ先生にお願いをしました。参考書は、花丘先生の訳書『セラピーのためのポリヴェーガル理論:調整のリズムとあそぶ』※)としました。以下に臨床心理iNEXT代表の下山晴彦が花丘先生にインタビューした対談記事を掲載します。
※)https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365618.html

花丘先生のポリヴェーガル理論関連の著作紹介(一部)

◾️ソマティック・エクスペリエンシング入門 (2024 著書)

トラウマを癒す内なる力を呼び覚ます
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365724.html
 
◾️発達障害からニューロダイバーシティへ (2022 訳書)
ポリヴェーガル理論で解き明かす子どもの心と行動
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365687.html
 
◾️その生きづらさ、発達性トラウマ? (2020 著書)
ポリヴェーガル理論で考える解放のヒント
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365625.html

◾️ポリヴェーガル理論入門(2018 訳者)
心身に変革をおこす「安全」と「絆」
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365540.html


6.    ポリヴェーガル理論の魅力

【下山】私は、花丘先生が訳された『セラピーのためのポリヴェーガル理論−調整のリズムとあそぶ–』を拝読し、とても刺激を受けました。本の帯には「トラウマを自律神経系から癒す」とも書かれていましたが、まさに「従来の心や脳でトラウマを理解するのとは異なる、新たな地平が開けてきた」と感じました。
 
近年、PTSDに限定されずに複雑性PTSD、愛着障害、発達障害等と関連してトラウマの影響の深刻さが注目されています。そのような中でポリヴェーガル理論の意義は、益々重要になってきています。そこで、まずはポリヴェーガル理論の魅力を教えてください。
 
【花丘】やはり、人間の在り方の根本的な部分を説明してくれているところが魅力ですね。私たちには皆、神経系があります。ポリヴェーガル理論は、その神経系がどのように動くのかを教えてくれます。ですので、私たちが毎日の生活の中で何をするにしても、意識の下の神経系において何が起きているのかについて、そのメカニズムがわかります。しかも、ただ単に何が起きているのかを説明してくれるだけでなく、どうしたら良いのかがわかる。それがすごく魅力だと思いますね。 


7.  ポリヴェーガル理論の特徴

【下山】私は、最近PTSD関連の問題の心理相談を受けているときに、従来の方法だと限界があると思っていました。私が専門としてきた認知行動療法は、意識的に認知や行動を調整して現実に適応するための方法です。その点で自己コントロールが前提になっています。しかし、PTSD関連の問題では、意識では調整できない感情や身体の混乱が生じてきます。
 
それに対してポリヴェーガル理論は、人間の在り方を脅威に対する反応として見ていますね。しかも、それを意識下の次元にある神経系の反応として捉えている。その点で我々の意識の土台となっている身体の次元の反応として問題を捉えている。その反応の一側面として意識も行動もあるという見方ですね。そこで、3つの神経系ということが前提となっています。この点について、簡単に説明していただけますか。
 
【花丘】古くから、私たちには交感神経と副交感神経があることがわかっています。運動会で一生懸命走るといった活動と関わるのが交感神経ですよね。そして、くたびれてお風呂に入ってゆったりして寝ます。眠っているときは副交感神経が優位となります。交感神経と副交感神経は拮抗すると言われています。どちらかが高いと、どちらかが低くなります。つまり、シーソーのように動いていると、私たちは学んできています。
 
ポリヴェーガル理論の面白いところは、ゆったりすることに関連する副交感神経の方に実は二つの枝があるとしていることです。それは、ポリヴェーガルの名前の由来でもあります。「ポリ(poly)」は“複数”、「ベーガル(vagal)」は“迷走神経”という意味の言葉なのです。つまり、ポリヴェーガルとは、「副交感神経の多くの部分を占めている迷走神経の枝が二つあります」という意味なのです。 


8.  迷走神経の進化過程と二つの枝

【花丘】1つの枝は、背側迷走神経です。これは、5億年ぐらい昔の無顎魚類という、“うなぎ”のような古い魚類の頃からある神経系です。私たちが元気で安全を感じている時は消化吸収をしたり睡眠したりということに関わっています。しかし、危機に瀕した場合には、あまり酸素を使わないでじっと物陰に隠れて危機が去るのを待つ、といったことに関わっています。これは、“凍りつき”と言われる、動けない状態になります。
 
もう一つの枝は、哺乳類になって初めて出てきた腹側迷走神経です。この腹側迷走神経は、それ以外の神経のバランスをとる役割をしています。活発に動くことと関わる「交感神経」と、普段は消化吸収と関わっているが、脅威に晒されると凍りつくことになる「背側迷走神経」の二つの、進化的に古い神経系のバランスをとる指揮者のような役割の神経系です。
 
この腹側迷走神経は、「みんなで仲良くしましょう」といった社会交流とも関連しています。これは、哺乳類特有の動きです。トカゲのような爬虫類が、皆で仲良くしているのを見たことないですよね。哺乳類は、たとえば、オオカミとかサルなどはグループ単位で行動するようになりますね。人間は、ものすごく複雑なグループを構成するようになります。そして、みんなと協力しながら頑張って生きていきましょうとなるわけです。それは、この腹側迷走神経のなせる技ですね。

 

9.    背側迷走神経と腹側迷走神経の機能

【花丘】進化の過程で、まず、背側迷走神経が出てきます。次に交感神経が出てきます。そして副交感神経の中で腹側迷走神経が出てきました。このような順番で神経系が進化してきました。そして、ポリヴェーガル理論では、私たちは何か困った時には、この進化の逆向きを辿ると言っています。
 
例えば、困った時には、最初は「話し合いましょう」、「何か誤解があるみたいだし、話せば分かるよね」となる。これは、腹側迷走神経の社会交流システムを使っているのですね。次は、「それで話してもダメだ」という事態になる。極端な場合は、クマにガオーと襲われそうな場面です。そういう時は、交感神経が優位となって、「闘うか逃げるか」といった対応になる。これは、進化のもう一段古い、交感神経の段階に戻っていることになります。さらに、闘うことも逃げることもできない生命の危機に陥ると、背側迷走神経で“凍りつく”状態になります。
 
背側迷走神経で凍りついて動けなくなっている場合や、交感神経が関連していつもイライラして過覚醒になっている場合が、トラウマの症状に相当します。私たちが健やかさを取り戻すためには凍りつきから出て、交感神経の活性化も通って、社会交流システムで皆仲良くできるようになる過程が必要となります。そのような流れになっています。 


10.  人間全体の理解に役立つポリヴェーガル理論

【下山】ポリヴェーガル理論は、進化の過程を取り込んでいる点では、とてもスケールが大きい理論ですね。それと同時に、自分の身体においてそれらの神経が今の生活環境に反応して動いているという点では、とても現実的な理論だと感じます。単なる進化の歴史ではなく、今ここでそれが動いていることを実感できます。
 
さらには、脅威に対する反応という点では、ウクライナや中東で起きている世界の紛争とも関わってくる。ポリヴェーガル理論は、歴史や世界という大きな視点を持ちながら、具体的に一人の人間の在り方を理解する枠組みを提供してくれると思います。全体の中で動いている自分を具体的に把握できる不思議なマップを示してくれるという印象です。
 
【花丘】おっしゃる通りだと思います。紛争という点では、聖書に出てくる、あのカインとアベルの逸話でもわかるように、人類の最初から争いはあるわけですね。つまり何かというと、闘争/逃走を引き起こす交感神経優位な状態となるわけです。それは、相手がやったらやり返すという復讐の連鎖になっています。そこを神経学的に考えると、腹側迷走神経優位な社会交流システムに持っていくことができたら良いわけです。このようなことを言うと、単純すぎるかもしれませんし、楽観主義に過ぎるかもしれませんが、社会交流ができるようになることで、紛争は解決できると思うのです。多くの犯罪者の言葉を見ても、さらには無差別殺人やテロリズム等も、自分が、あるいは自分たちが酷い目にあったから、やり返すという思考回路なのです。そのようなときでも、闘争/逃走の神経から社会交流の神経に持っていくことができたら、理論上は、争いは地球上からなくなっていくということになります。 


11. 「ポリヴェーガル理論」研修会のワークの内容

【下山】ポリヴェーガル理論は、そのようなスケールの大きな枠組みを提示してくれますね。しかもPTSDだけでなくて、さまざまな問題の支援において具体的に役立つ視点と方法を提供してくれるので研修会で詳しく学べることをとても楽しみしています。今回の研修会の後半では、ポリヴェーガル理論においてどの神経をどのようにして活性化するのかを、ワークを交えて具体的に教えていただけるという理解でよろしいでしょうか。
 
【花丘】まずはセラピストが、「自分は今どのような神経系にいるのか」に気づくことをします。そのための手がかりを一緒に考えることで、自分の状態を体感していただけるといいなと思っています。
 
【下山】私は、色々なことをフル稼働でやっているので、もう交感神経がかなり疲弊していますね。もう少し落ち着いて人との“つながり”を大切にしたいと思ったりしています。そのためには研修会でのワークを楽しみにしています。
 
【花丘】そうですね。参加する皆さんで楽しめるようなワークをしたいですね。それを通して「ポリヴェーガル理論とは、こういうことだったのか!」と分かるようなワークができるといいなと思っています。 


12.  ポリヴェーガル理論を通して全体を見る

【下山】楽しむということと関連して、花丘先生が訳された『セラピーのためのポリヴェーガル理論−調整のリズムとあそぶ–』(春秋社)において、箱庭を使ったセラピーワークが解説されていました。それを読んでポリヴェーガル理論の幅の広さを感じました。その点で、ポリヴェーガル理論は心理療法の個別の学派に囚われない、幅広い視野や場を提供してくれると思いました。
 
【花丘】そうなんです。箱庭療法、自律訓練法、認知行動療法などの様々な介入方法がありますが、そこにはすべて神経系が関わっているのです。そしてポリヴェーガル理論は、本当に基本的な、人類普遍のメカニズムをテーマにしています。
 
ですから、皆さんはそれぞれのご専門があると思うのですが、ポリヴェーガル理論を学ぶことで、その専門性が深まると思います。理解が深まるのは、「私の専門的活動では、自分の、そしてクライアントの身体の、この神経系を活性化しているのだ」と分かるようになります。それと同時に、他の方法との“つながり”も見えてくると思います。それによって相互に分担すると良い部分も見えてきます。
 
ポリヴェーガル理論を知ることで、人と人、あるいは学派と学派が争うことが少なくなってきます。自分を主張するのではなくて、全体の中で、どのように自分を位置づけていけばいいかということが見えてきます。そのような“つながり”も見えてきます。ポリヴェーガル理論は、そのような魅力のある理論だと思います。
 
【下山】なるほどね。本当にそうですね。結局、右手が左手を批判してもしょうがないわけでね。なぜなら、私たちは、一つの体として動いているからです。ところが、全体を見ることができないと、右手と左手が勝手に動いて闘うようなことが起きてきますね。ポリヴェーガル理論は、自分の心身の反応の全体を見るだけでなく、脅威を与える環境とは何かに気づくことを通して社会や時代の全体を見る視点を与えてくれる理論だと思います。ポリヴェーガル理論の学びを通して仲間内で闘うような争いが少しでも無くなればと思っています。ますます研修会が楽しみになってきました。

■記事校正 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
■デザイン by 原田優(臨床心理iNEXT 研究員)

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臨床心理マガジン iNEXT 第45号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.45-4

◇編集長・発行人:下山晴彦

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