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■パニッシャー:ウェルカムバック・フランク Part 1

■The Punisher: Welcome Back, Frank
■Writer:Garth Ennis
■Penciler:Steve Dillon
■翻訳:田中敬邦
■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BNW38ZFP

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第24号は、刊行当時(2001年)、DCコミックス社にて『ヒットマン』&『プリーチャー』という2大ドンパチング・キル・キル作品の連載を完結させて名を挙げていた無頼派ライター、ガース・イニスと、『プリーチャー』のメインアーティストだったスティーブ・ディロンを起用するという、臆面もない采配によってマーベル・コミックス社の古参クライム・ファイター、パニッシャーを現代的に再生させた『ザ・パニッシャー』リミテッド・シリーズを初邦訳。

 収録作品は『パニッシャー(vol.5)』#1-6(12/2006-5/2007)。リミテッド・シリーズ全12話の前半部。

 ちなみに、本書の表4には、収録作品が『パニッシャー(vol.3)』#1-6と書かれている一方、4ページ目には収録作品が『パニッシャー(vol.4)』#1-6と書いてあるが、どちらも間違いである(しっかりしろ)。

 と、いうわけで、今回と次回(『パニッシャー:ウェルカムバック・フランク Part 2』)のエントリでは、この『パニッシャー(vol.5)』に至るまでの、歴代『パニッシャー』シリーズ(vol. 1~vol. 4)の歴史をざっくりと紹介していきたいと思う(今回はvol. 2まで)。


 そもそもパニッシャーは、マーベル・コミックス社の看板作品『アメイジング・スパイダーマン』#129(2/1974)にて初登場した。

 同号での彼は、当時の『アメイジング』誌のメイン・ヴィランであるジャッカルに雇われて、“善良な市民ノーマン・オーズボンを殺した犯罪者”であるスパイダーマンを始末しようとする暗殺者……という役回りのゲストキャラクターであった。

 作中、2度に渡りスパイダーマンと戦ったパニッシャーだが、スパイダーマンの持ち前の超能力により割合アッサリと退けられてしまう(ライフルによる遠距離狙撃→スパイダー・センスで察知され失敗、10人がかりでも引き千切れないワイヤーを発射する銃で捕獲→10人力以上の怪力でワイヤーを千切る)。

 一方のスパイダーマンは終始余裕で、「市民らしく話し合おう」と語りかけたりしつつ、ちょっと本気を出した一撃でパニッシャーを無力化。手早く縛り上げた彼にこんこんと状況を説明し、パニッシャーがジャッカルに騙されていたことに気づかせる。

 こうしてパニッシャーと和解したスパイダーマンは、直後、彼が何らかの事情を抱えてギャングと戦っていることを察し、お節介を焼こうとするが、パニッシャーは「お前には関係ねぇぜ、スーパーヒーロー」「俺はただの戦士……孤独な戦争を戦う戦士だ……」などとニヒルなセリフを口にして立ち去っていく。


 余談ながら、「パニッシャー」というネーミングやそのキャラクターは、クリエイターのジェリー・コンウェイによれば、1969年に第1巻が刊行された、当時のベストセラー・アクション小説『ジ・エグゼキュージョナー』シリーズ(作・ドン・ペンドルトン)に多大な影響を受けているという。

 同作は、ベトナム帰りの歴戦の兵士マック・ボランが、死んだ身内の復讐をきっかけに、無数のマフィアを壊滅させていく物語(日本では東京創元社から『マフィアへの挑戦』シリーズとして刊行)で……まあ、その後に設定されるパニッシャーのオリジンの原型的な話である。

 ちなみに当時は、『エクスキュージョナー』シリーズの他にも、アクション小説『デストロイヤー』(作:ウォーレン・マーフィー&リチャード・サピア。秘密組織キュアのエージェントとなったレモ・ウィリアムズが、東洋の武術シナンジュの極意を身に着け、悪と戦う。東京創元社から『殺人機械』シリーズとして刊行)なんかもヒットしていたので、「〇〇-er」的なネーミングのキャラクターが流行していたのだろう。


 で、従来のスパイダーマンの登場キャラクターとは少々毛色の異なるニヒルなキャラクター像が読者に好評を博したか、パニッシャーは半年後の『アメイジング・スパイダーマン』#134-135(7-8/1974)にも再登場している。

 ──ていうかまあ、パニッシャーは初登場の時点で、

・冒頭から「俺は殺すべき人間しか殺さない」という矜持を示し、「単なる暗殺者とは違うぜ」感を出してた。

・作中で、何らかの事情によりギャングに戦争を仕掛けているという背景が説明される。

・スパイダーマンと戦いつつ、「自分は海兵隊に3年間勤務していた」などと言及する。

 ……と、単発のゲストにしてはやけに重い過去を背負ってそうな(そのくせ作中では特に説明しない)雰囲気を漂わせてて、今後再登場させるつもりで出してる感は強かったのだが。


 んで、さらに翌1975年には、マガジン・サイズ(「ニューズウィーク」なんかのA4変形の雑誌を思い浮かべると良い。対象年齢層は普通のコミックブックよりも少し上)のモノクロ誌『マーベル・プレビュー』#2(8/1975)の巻頭に、パニッシャー単独の短編(ライターは生みの親のジェリー・コンウェイ)が掲載され(表紙も飾ってる)、いきなり主役としての活躍を見せる。

 ちなみにこの短編で、パニッシャーのオリジン──家族で公園を散歩中にギャングの処刑現場を目撃してしまい、妻と2人の子供を殺され、以来、復讐に走る──が、初めて語られた。

 ……ていうかこの号、『ジ・エグゼキュージョナー』の作者、ドン・ぺルドンのインタビューも掲載されており、あからさまに同作の人気に便乗してパニッシャーを押し出そう、という意図が見える。この臆面のなさが大衆文化というものだろう(褒めてる)。


 続いて、やはりマガジン・サイズの『マーベル・スーパーアクション』#1(1/1976)の巻頭にも、パニッシャー主役の短編(モノクロ)が掲載される。が、この雑誌は1号が出たきりで、続刊は出なかったので、「『ジ・エグゼキュージョナー』の読者層に向けてパニッシャーを売り出す」的な目論見は、それほど手応えがなかったのかもしれない。


 その後、同年の末に、パニッシャーは古巣『アメイジング・スパイダーマン』誌の#161-162(10-11/1976)に帰還。続いて翌1977年の『アメイジング』#174-175(11-12/1977)、そして多少間をあけて『アメイジング』#201-202(2-3/1980)、『アメイジング・スパイダーマン』アニュアル#15(10/1981)と、そこそこコンスタントにゲスト出演していく。

 これら『アメイジング』でのゲスト出演回が、いずれも2話分のちょい長めのストーリーラインだったり、アニュアル(ページ数の多い増刊号)に登場しているあたり、多少、格上のゲスト感がある。


 他方、1980年代に入ってからのパニッシャーは、『キャプテン・アメリカ』#241(1/1980)や、『デアデビル』#182-184(5-7/1982)といった他のタイトルへの出張、それにスパイダーマン第2のオンゴーイング・シリーズである『ピーター・パーカー:スペキュタクラー・スパイダーマン』の#81-83(8-10/1983)にもゲスト出演と、露出の幅を広げていき、ついには1986年、初の単独シリーズとなるリミテッド・シリーズ、『パニッシャー(vol.1)』全5号(1-5/1986)が刊行されるのだった。

 このリミテッド・シリーズは、当時気鋭のライター、スティーブン・グラントと、マイク・ゼック(当時は『シークレット・ウォーズ』のアーティストとして名をあげていた)という、旬なコンビが担当しており、マーベルがこの作品に気合を入れていたことがうかがえる。

 ちなみにこのリミテッド・シリーズの1号で、長らく謎だったパニッシャーの本名が「フランク・キャッスル」であることが明かされている。


 なお、これまで紹介してきた、パニッシャーの初期の登場話は、2017年に刊行された分厚いハードカバー単行本(720ページ!)、『パニッシャー:バック・トゥ・ザ・ウォー オムニバス』にすべて網羅されている。

 収録話は、

・『アメイジング・スパイダーマン』#129:初登場話。ジャッカルに騙されてスパイダーマンと戦う。

・『アメイジング・スパイダーマン』#134-135:南米出身のテロリスト、タランチュラを倒すためにスパイダーマンと共闘、最初はスパイダーマンがタランチュラの仲間だと勘違いして銃を向ける。

・『アメイジング・スパイダーマン』#161-162:謎のテロリスト(正体は将来的にパニッシャーの仇敵となるジグソー)を追うパニッシャーがスパイダーマン&ナイトクロウラーと共闘する話。例によってパニッシャーは、スパイダーマンとナイトクロウラーをテロリストと勘違いして銃を向ける。

・『アメイジング・スパイダーマン』#174-175:J・ジョナ・ジェイムソンの暗殺を依頼されたヒットマン(直球な名前)と交戦。ラスト、窮地に陥ったスパイダーマンと、ヒットマン(実はパニッシャーの恩人だった)のどちらの生命を救うかという選択を迫られたパニッシャーの決断と、その後のヒットマンのニヒルなセリフがとても良い。

・『アメイジング・スパイダーマン』#201-202:恩人を殺したギャングのボス、ロレンツォ・ジャコビを殺そうとするパニッシャーとスパイダーマンが共闘する話。#174-175と同様、パニッシャーの重い過去にスパイダーマンが巻き込まれる感じの話で、ライターもパニッシャーの掘り下げに力を入れており、「そろそろゲストじゃなくて、パニッシャー単独のシリーズを持たせたいなぁ」という雰囲気が漂っている。

・『アメイジング・スパイダーマン』アニュアル#15:ライターがデニス・オニールで、アーティストがフランク・ミラーという、ハードボイルドな1冊(ミラーが初めてパニッシャーを描いた話でもある)。強力な毒物を用いた大量テロを目論むドクター・オクトパスを、スパイダーマン、パニッシャーがそれぞれ阻止しようとする話。後半、警官に銃を向けられたパニッシャーが、「俺は警官は殺さない」と、銃を捨てて投降するシーンが印象的(けど、物語の本筋には全く関係ない)。

・『マーベル・プレビュー』#2:モノクロの短編。この話でパニッシャーが自身の戦いを記録した「ウォージャーナル」を書いてることが判明する(以降のコミックでは、パニッシャーのウォージャーナルの記述がモノローグとして引用される演出が定番となる)。

・『マーベル・スーパーアクション』#1:やはりモノクロの短編。

・『キャプテン・アメリカ』#241:ギャングのボスたちの会合への急襲を目論むパニッシャーに対し、「彼らにも生きる権利はある!」と、キャプテン・アメリカが阻止しようとする話。キャプテンの戦士としての信念に、元海兵隊のパニッシャーが心を動かされる、というキャラクターの掘り下げがポイント。

・『デアデビル』#182-184:フランク・ミラーが脚本&アートを担当していた黄金期の『デアデビル』より、「チャイルズプレイ」編。少年たちを麻薬で蝕んでいく密売人ホグマンを巡り、デアデビル(デアデビルとしての活動で証拠を固めつつ、本業の弁護士としてホグマンに法の裁きを与えようと目論む)、パニッシャー(ホグマンを殺すことで事態の解決を図る)、そしてビリー少年(友達の復讐のため、銃を手にホグマンを狙う)の行動と葛藤を描く佳作。

・『スペキュタクラー・スパイダーマン』#81-83:ニューヨークの暗黒街の帝王キングピンを殺そうとするヴィジランテのクローク&ダガーをスパイダーマンが制止しようとする話。パニッシャーもキングピンを殺そうとするが、話の焦点はクローク&ダガーなので、パニさんはなんかいつの間にか倒されてる微妙な役回り。#83後半、裁判所で自身のスタンスを叫ぶパニッシャーが一応の見どころ。

・『パニッシャー(vol.1)』#1-5:パニッシャーの名前を冠した初のシリーズ。#1の冒頭は刑務所に送られたパニッシャーが、囚人たちを牛耳ってたジグソーらの暴動を制止する話で、多少間は空いてるけど『スペキュタクラー』の後日談ぽい。なお、オリジナルのコミックブックは、#1-4までは毎号の表紙に「全4号のリミテッド・シリーズの第X号」というアオリを書いておきながら、#4では全く話が終わっておらず(ラストページはパニッシャーが絶体絶命のピンチに陥り、「次号、完結!」とのアオリが)、翌月普通に#5が出て、表紙には「全5号のリミテッド・シリーズの第5号」と、臆面もなく書かれていた。どういうことだ。

 ……といった具合。

 要はこれ1冊でパニッシャーの最初期の登場話を全て読める、非常に資料性の高い1冊なのだが、今のところハードカバー単行本しか出ておらず(無論、現在では入手困難)、電子化もされていないのが惜しい。


 で、このリミテッド・シリーズ『パニッシャー(vol.1)』が好評を博したのを受け、翌1987年に、満を持してパニッシャー初のオンゴーイング・シリーズである『パニッシャー(vol.2)』が創刊される(7/1987、ライター:マイク・バロン、アーティスト:クラウス・ジャンソン)。

 なお創刊号の表紙には「アンリミテッド・シリーズ第1号!」と書かれ、前のリミテッド・シリーズの表紙のアオリをイジっていた。


 しかもこの『パニッシャー』オンゴーイング・シリーズの人気はすさまじく、早くも翌1988年には、第2のオンゴーイング・シリーズである、『パニッシャー:ウォージャーナル』が創刊される。

 ちなみに、両誌の担当編集者だったカール・ポッツ(『ウォージャーナル』の初期のライターも担当)は、結構な慧眼の持ち主で、『パニッシャー(vol.2)』のメイン・アーティストにデビューしたてのウィリス・ポータシオを起用し、また『ウォージャーナル』誌のメイン・アーティストには頭角を現しだしたジム・リーを起用したりと、積極的に若い才能を抜擢しオンゴーイング2誌のクオリティをより向上させた。


 なお、初期の『パニッシャー(vol.2)』誌は、500ページ越えの分厚い「エピック・コレクション」の単行本にまとめられている。

 こちらはその第1巻。収録内容は、リミテッド・シリーズ『パニッシャー(vol.1)』#1-5に、『パニッシャー(vol.2)』#1-10、それにパニッシャーがゲスト出演している『デアデビル』#257に、同時期の描き下ろしグラフィックノベル『パニッシャー:アサシンズ・ギルド』(12/1988)。

ついでに第2巻。『パニッシャー(vol.2)』#11-25と、『パニッシャー』アニュアル #1-2を収録。

 ちなみに『パニッシャー:ウォージャーナル』は、「エピック・コレクション」などでまとめられてはいない(初期の話でパニッシャーとウルヴァリンが共闘する話があり、そのエピソードだけが何度も単行本化されてる)。

 辛うじて上に貼った『パニッシャー:ウォージャーナル バイ・カール・ポッツ&ジム・リー』に、初期の話がそこそこまとまって収録されている。収録話は『パニッシャー:ウォージャーナル』#1-19と、『パニッシャー』アニュアル#2に掲載された、ジム・リーによる短編。


 んで、『ウォージャーナル』創刊から4年後の1992年には、第3のオンゴーイング・シリーズ『パニッシャー:ウォーゾーン』までもが創刊される(3/1992)。

 かくて『パニッシャー』誌は月3冊のオンゴーイング・シリーズを抱える大人気フランチャイズ・シリーズとなる(月4冊刊の『スパイダーマン』や月8冊の『X-MEN』には及ばないが、月2冊の『アベンジャーズ』よりも格上になってしまった)。

 でで、この頃(1990年代前半)には、悪党に容赦ない暴力をふるう、エッジでダークなヒーロー、あるいはカッコいいヴィランをもてはやす「バッドガイ・ブーム」も到来しており、パニッシャーはその代表格として人気を加速させ、オンゴーイング・シリーズ3誌の他にも、増刊号、ワンショットが次々と刊行されるわ、他のエッジなタイトルにもゲスト出演するわと、バンバン露出を増やしていくのだった(1993年にはカプコンからアーケードゲーム『パニッシャー』もリリースされた)。

 上に貼った『ゴーストライダー/ウルヴァリン/パニッシャー:ハート・オブ・ダークネス』(1991年刊)は、この「バッド・ガイブーム」期を象徴する1冊だろう。内容的には、『デアデビル』誌で初登場したクールな悪役キャラクターである悪魔ブラックハートの地上侵攻計画に際し、ゴーストライダー、ウルヴァリン、パニッシャーという当時の大人気キャラクターが立ち向かう話。

 ただまあ、人気のエッジなキャラクターが集うだけで、物語的にはそれほど深みがない……というのもこの時代の“空虚な盛り上がり”を象徴してる(ミもフタもない)。

 こちらの単行本は、『ゴーストライダー/ウルヴァリン/パニッシャー:ハート・オブ・ダークネス』と、その続編として1994年に刊行された『ゴーストライダー/ウルヴァリン/パニッシャー:ダークデザイン』を収録。

 ちなみに『ハート・オブ・ダークネス』&『ダークデザイン』は、小学館プロダクション(現・小学館集英社プロダクション)より、1995年に『ゴーストライダー』第3巻として刊行されている(なお、邦訳版『ゴーストライダー』第2巻でもパニッシャーはゲスト出演している)。


 そんな感じで、人気キャラクターとして1990年代前半を牽引していったパニッシャーだが、1990年代中頃には、早くもその勢いを失速させていくのだった……といったところで次回に続く。



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