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■補足:『アルティメッツ』の物語の流れ

 さて、今回は、『アルティメッツ』vol.1(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」vol.4)に始まる、ヒーローチーム・アルティメッツの歴史を大雑把に紹介していく。

▼1:「アルティメッツ」

『アルティメッツ』最初のシリーズ。全13話。元々は全2巻で単行本化されていたが、現在では全1巻の「アルティメット・コレクション」の方が、入手しやすいだろう(電子書籍も出ているし)。「マーベル グラフィックノベル・コレクション」は、全2巻版を底本としており、既発売の第4号と、第 21号「アルティメッツ:ホームランド・セキュリティ」の全2号で刊行される(なお、続刊の刊行予定はない)。

 合衆国麾下のヒーローチームとして創設されたアルティメッツだが、メンバーとして集められた“ヒーロー”らは、いずれも問題を抱えた者たちであった。やがて、地球侵略を目論む異星人チタウリとの戦いでチームは一応のまとまりを見せていく。


▼2:「アルテメット・ウォー」

 当時の「アルティメット」レーベルの看板作品のひとつ『アルティメット・X-MEN』誌と『アルティメッツ』誌とのクロスオーバー・イベント。全4号(2, 2, 3-4/2003、隔週刊)。

 本来は『アルティメッツ』#13の刊行後にスタートする予定のシリーズだったが、肝心の『アルティメッツ』の刊行が遅れに遅れため、アルティメッツの完結を待たず、本シリーズの導入となる『アルティメット・X-MEN』#25(1/2003)の刊行翌月に、当初の予定通りにスタートした(なお『アルティメット・ウォー』#1の刊行時点で、『アルティメッツ』は#8(11/2002)が出たところ)。

 そのため、本シリーズは『アルティメッツ』#13よりも前に刊行された作品ではあるが、物語の時系列では『アルティメッツ』#13の後に起きた出来事になる。

 X-MENの仇敵であるマグニートーが復活を遂げる。元来、マグニートーに対抗するために組織されたチームであるアルティメッツだが、単身現れたマグニートーに完全敗北(キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソーの3人がかりで一方的に蹴散らされた)。その後アルティメッツは、ミュータント集団X-MENの創設者であるプロフェッサーXの逮捕には成功する……といった具合な話。

 アルティメッツはマグニートーの強さを示す物差しであり、またヒーローであるX-MENに嚙みついて苦難をもたらすという、モヤモヤする役回り。

 なお、この話は『アルティメット・X-MEN』#26-33の「リターン・オブ・キング」編に続き、X-MENとマグニートーとの因縁の戦いは、アルティメッツとは無関係に決着がつくこととなる。


▼3:「アルティメッツ2」

 第1シリーズの完結から10ヶ月後に改めてスタートした『アルティメッツ』の第2シリーズ(創刊号カバーデート:2/2005)。全13号。作家陣は前シリーズから引き続き、マーク・ミラーとブライアン・ヒッチが担当。

 刊行が遅れに遅れた前シリーズに引き続き、本シリーズも後半から刊行ペースがグダグダになり、創刊から2年をかけてようやく完結した。

 上に貼った単行本は、やはり「アルティメット・コレクション」版で、『アルティメッツ2』全13号と、増刊号『アルティメッツ』アニュアル#1(10/2005)を収録。

 元々人格的に問題のある者たちの集まりだったアルティメッツは、チーム内の裏切り者や、欺瞞の神ロキの策謀により、崩壊寸前となる。やがてアメリカを憎む多国籍ヴィランチーム、リベレイターズの陰謀が明らかとなり、再結集したアルティメッツは悪を凝らす。


▼4:「アルティメッツ3」

 第2シリーズ完結から1年後にスタートした、第3シリーズ(創刊号カバーデート2/2008)。全5号。従来のミラー&ヒッチのコンビに代わり、ジェフ・ローブ(ライター)と、ジョー・マドレイラ(アーティスト)のコンビが製作を担当。

 なお、本シリーズでも後半から刊行ペースに遅れが生じ、最終号の#5(11/2008)が出たのは#1の刊行から9ヶ月後のことだった(ちなみに本作は、マドレイラのアートが遅れるのを見越し、ペン入れの過程を省いて、マドレイラのペンシル画をスキャンしたものにデジタル彩色を行うという工程で製作されていた模様……それでもスケジュールは破綻したが)。

 ちなみに本シリーズは、全5号という、普通の単行本1冊に収まる内容なので、従来のような分厚い「アルティメット・コレクション」は出ていない。

 アルティメッツのメンバーであるスカーレット・ウィッチが何者かに殺され、アルティメッツは彼女の父親であるマグニートーと、彼の率いるブラザーフッド・オブ・ミュータント・スプレマシーと敵対することとなる。アルティメッツ、ブラザーフッド、事件の黒幕との三つ巴の乱戦の末に、マグニートーは死んだ子供たちへの復讐を誓う。

 この時期のジェフ・ローブは、私生活で息子を亡くしたショックでヒドい内容の作品しか書けなくなっていたので、本作も無駄にグダグダしており、登場人物は露悪的に惨い目に逢わされ、無意味に死んでいく。最終号で何の伏線もなく黒幕の正体が明かされたと思ったら、ラストページで「実はコイツ(アルティメッツと何の関係もない人物)が真の黒幕でした」的な暴露がされるのも、この時期のジェフ・ローブっぽい。


▼5:「アルティメイタム」

『アルティメッツ3』完結から2ヶ月後にスタートした全5号のミニシリーズ。ライターは『アルティメッツ3』と同じくジェフ・ローブ。アーティストはデヴィッド・フィンチ。

 アルティメッツとX-MEN、ファンタスティック・フォーの3大チーム+スパイダーマンのクロスオーバー・イベント(スパイダーマンはあまり本筋には関わらないが)で、『アルティメイタム』本編に、オンゴーイング・シリーズ『アルティメット・スパイダーマン』、『アルティメット・X-MEN』、『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の3誌がタイイン。

 いわゆる「アルティメット・ユニバース」の一時代の終わりとなるイベントで、このシリーズの完結と共に『アルティメット・スパイダーマン』、『アルティメット・X-MEN』、『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の3誌は休刊、特別号『アルティメイタム:レクイエム』を挟んで『アルティメット・スパイダーマン(vol.2)』や、『アルティメイトX』といった次世代の物語が開幕する。

 怒れるマグニートーの引き起こした大津波で、ニューヨーク市が水没。大量の一般人と、ヒーローの関係者が死亡。続くブラザーフッド・オブ・ミュータンツや、ドサクサに乗じたヴィランとの戦いで、さらにヒーローとヴィランが死ぬ。最終決戦で人気ヒーローが残酷に死に、マグニートーも当然死に、エピローグでヒーローが死に、事件の陰で暗躍していたヴィランも死ぬ。そして何の伏線もなく、1人が生き返る。ある意味、この時期のジェフ・ローブの頂点。

 この事件の結果、アルティメッツは解散、ファンタスティック・フォーはミスター・ファンタスティックとインビジブルガールが破局し解散、生き残ったX-MENも散り散りとなる。


▼番外:「アルティメット・アベンジャーズ」

 上掲は『アルティメイタム』の完結後に、アルティメット・ユニバースの次世代のシリーズとして創刊された新オンゴーイング・シリーズ、『アルティメット・アベンジャーズ』の単行本。全18号分の話を、6話ずつ3巻の単行本に収録。

 なお本作のライターは、『アルティメッツ』の創造者であるマーク・ミラー。

 S.H.I.E.L.D.の元長官ニック・フューリーが独自に創設した、アルティメッツの後継チーム「アベンジャーズ」の活躍を描く。同チームのメンバーは、創設者の指向を反映して、ホークアイ、ウォーマシン、パニッシャー、ブラック・ウィドウと、ヒーローというよりエージェント的なメンバーが中核を占める(初期はキャプテン・アメリカも所属していたが、チームが本格的に指導する前に諸事情により離脱。チームの初任務は、逃亡するキャプテン・アメリカと、彼に関わるヴィラン、レッドスカルの確保となる)。

『アルティメッツ』の系譜を継いだシリーズとして始動したものの、実質、別チームであるため番外とする。マーク・ミラーの『アルティメッツ』が好きなら読むのもいいだろう。


▼6:「アルティメット・ニューアルティメッツ」

 2010年に創刊された全5号のリミテッド・シリーズ。ライターは『アルティメイタム』のジェフ・ローブ。

 キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ホークアイらによって新生アルティメッツが誕生。トロールを率いて人界に侵攻する欺瞞の神ロキと戦う。ダラリと続く戦いのさなか、チーム内から裏切り者が出たり、メンバーが死んだり、『アルティメイタム』で死んだ旧メンバーが生き返ったり発狂したり、本作の中盤で死んだメンバーが生き返ったりした挙げ句、ロキは報いを受けて死ぬ(でも神なので死なない)。この時期のジェフ・ローブの標準的な話。


▼7:「アルティメット・アベンジャーズvs. ニューアルティメッツ」

 『アルティメイト・アベンジャーズ』#18(3/2011)と、『アルティメット・ニューアルティメッツ』#5(3/2011)が完結した翌月から始動した、全6話のリミテッドシリーズ『アルティメット・アベンジャーズvs.ニューアルティメッツ』#1-6(4/2011-9/2011)を収録。ライターはマーク・ミラー。

 当時『アルティメット・スパイダーマン』誌で展開されていた「デス・オブ・スパイダーマン」編のタイインとして刊行されており、こちらで起きた出来事が、「デス・オブ・スパイダーマン」の本編にも関わってくる。

 ニック・フューリーが悪事をしていると吹き込まれたニューアルティメッツと、キャロル・ダンバース(ニューアルティメッツの指揮官)が悪事を目論んでいるとの情報を得たアベンジャーズが直接対決するが、実は2チームの対立を画策した真の黒幕がいた……という、クロスオーバー・イベントの定石通りな話。やがて黒幕の陰謀により、北朝鮮でスーパーヒューマンによる暴動が勃発、ニューアルティメッツとアベンジャーズが共闘してこれに立ち向かう……というクライマックスは、ミラーらしい悪趣味さ。

 ちなみに、中盤のアベンジャーズとニューアルティメッツとの戦いで、たまたま付近を通りがかったスパイダーマンが、キャプテンアメリカをかばってパニッシャーの放った銃弾を受けてしまう(同月に刊行された『アルティメット・スパイダーマン』#157(6/2011)では、このシーンがスパイダーマン視点で描かれている)。この時の負傷のために、スパイダーマンは「デス・オブ・スパイダーマン」本編の最終決戦でフルの実力を発揮できず、死亡する。

 こちらの単行本が、「デス・オブ・スパイダーマン」の本編。


▼8:「アルティメット・コミックス:アルティメッツ」

「デス・オブ・スパイダーマン」イベントの完結を受け、「アルティメット・ユニバース」のコミックは更なるリランチが行われ、新スパイダーマン(マイルズ・モラレス)を主人公とした『アルティメット・スパイダーマン(vol.3)』#1(11/2011)に、『アルティメット・コミックス:X-MEN』#1(11/2011)、そして『アルティメッツ(vol.2)』#1(10/2011)の3誌が新創刊される(なお『アルティメッツ(vol.2)』は、#3から『アルティメット・コミックス:アルティメッツ』に、『アルティメット・スパイダーマン(vol.3)』は#4から『アルティメット・コミックス:スパイダーマン』に誌名が変更)。

 この新生『アルティメッツ』誌は、#1-12の1年分のエピソードを、SF志向の強いライター、ジョナサン・ヒックマンが担当し、彼らしい話を展開していった。

 S.H.I.E.L.D.の司令官に復帰したニック・フューリーの元で再編成されたアルティメッツ(ソー、アイアンマン、ホークアイ、スパイダーウーマンが中核メンバー)は、超進化人類集団「チルドレン・オブ・トゥモロー」を率い、地球の支配を目論むマッドサイエンティスト「ザ・メイカー」と交戦するが、実は彼の正体は、元ファンタスティック・フォーのリード・リチャーズ(ミスター・ファンタスティック)だった! ……というあたりが、実にヒックマン。

 上に貼った『アルティメット・コミックス:アルティメッツ バイ・ジョナサン・ヒックマン』vol.1、vol.2は、ザ・メイカーとアルティメッツとの戦いを描いた『アルティメット・コミックス:アルティメッツ』#1-12(10/2011-8/2012)を収録。


▼9:「ディバイデッド・ウィー・フォール」「ユナイテッド・ウィー・スタンド」

 当時の「アルティメット」レーベルの3誌のクロスオーバー・イベント。前半の「ディバイデッド・ウィー・フォール」編と、決着編の「ユナイテッド・ウィー・スタンド」の2部構成の大長編。なお、このストーリーから、『アルティメッツ』誌のライターは、サム・ハンフリーが担当する。

 上掲の単行本は、『アルティメット・コミックス:X-MEN』#13-18に、『アルティメット・コミックス:アルティメッツ』#13-18、それに『アルティメット・コミックス:スパイダーマン』#13-18の全18話が収録された、全365ページものブ厚い一冊。

 ザ・メイカーの配下による攻撃、それに『X-MEN』誌の方で展開されたニムロッド・センチネルの軍団の襲撃で、本土に大ダメージを負ったアメリカは、テキサス州が独立を宣言し、内戦状態に陥る。この事態を収拾すべく、ヒーローたちが共闘していく。やがて、謎の人物に率いられるテロ組織ヒドラが撃退され、キャプテン・アメリカはアメリカを一つにするため、合衆国大統領に就任する。


▼10:「リコンストラクション」

『アルティメット・コミックス:アルティメッツ』#18.1と、#19-24に渡り展開された「リコンストラクション」編を収録。

 スティーブ・ロジャース大統領が合衆国の再建に邁進し、トニー・スタークは新ヒーロー「アイアン・パトリオット」となり、ブラック・ウィドウがS.H.I.E.L.D.の新長官となる一方、アルティメッツは謎の男スコルピオに率いられるヒドラ残党と戦う。


▼11:「ディスアッセンブルド」

 新ライター、ジョシュア・ヘイル・フィアルコフによる『アルティメット・コミックス:アルティメッツ』の最終章。『アルティメット・コミックス:アルティメッツ』#25-30を収録。

 超宇宙的アイテムである6つのインフィニティ・ジェムを巡り、謎の人物カーン率いるダーク・アルティメッツとアルティメッツが戦う。『アルティメッツ』オンゴーイング・シリーズの総決算的な話で、カーンの正体や、ダーク・アルティメッツのメンバー等々、見どころは色々とあるが、何故か電子書籍はないし、紙の単行本も重版されていないので、結構入手は困難。


▼12:「カタクリズム」

 2013年のマーベル・コミックス社の大型イベント『エイジ・オブ・ウルトロン』によって生じた時空間の歪みにより、アース-616の「星ぼしを喰らう巨神」ギャラクタスと、アルティメット・ユニバースの超宇宙的存在ガー・ラク・トゥスが合一。一層のパワーを得た巨神はアルティメット・ユニバースの地球を喰らわんとする……という、2013年のアルティメット・ユニバースのクロスオーバー・イベント、「カタクリズム」の単行本。

 本編であるリミテッド・シリーズ『カタクリズム:アルティメッツ・ラスト・スタンド』#1-5と、タイイン・タイトルである『カタクリズム:アルティメット・スパイダーマン』#1-3、『カタクリズム:アルティメイト・X-MEN』#1-3、『カタクリズム:アルティメッツ』#1-3、それに『ハンガー』#1-4、『カタクリズム』#0.1、そしてエピローグである『サバイブ!』#1を収録(379ページ)。

 この戦いで、アルティメッツの重鎮が死亡し、アルティメッツは再び解散する。


▼13:「オールニュー・アルティメッツ」

『カタクリズム』の終結後、「アルティメット」レーベルは更なるリランチ(通称「アルティメット・マーベルNOW!」)を敢行し、『アルティメットFF』#1(6/2014)、『マイルズ・モラレス:アルティメット・スパイダーマン』#1(7/2014)、そして『オールニュー・アルティメッツ』#1(6/2014)の3誌が創刊される。

 で、この『オールニュー・アルティメッツ』は、スパイダーマン(マイルズ・モラレス)、新ブラック・ウィドウ、キティ・プライドらが中心の、通称「ヤング・アルティメッツ」と呼ばれる若手チームの活躍を描くシリーズで、まあ、従来のアルティメッツとは全く毛色が異なる。

 上掲の単行本は、このシリーズ全12号を、6号分ずつ収録した単行本。


▼14:「シークレット・ウォーズ」そして……

 やがて、『オールニュー・アルティメッツ』は#12(3/2015)で完結し、数ヶ月後、2015年のマーベル・コミックス社の大型クロスオーバー・イベント『シークレット・ウォーズ』が開幕する(なお本作のライターは、ジョナサン・ヒックマン)。この『シークレット・ウォーズ』#1のラストで、「アルティメット」レーベルの舞台であるアース-1610は崩壊した。

 こちらはヴィレッジブックスから刊行されていた、『シークレット・ウォーズ』の邦訳版。

 そんな訳で、2000年にスタートした「アルティメット」レーベルの展開も、ひとまずここで幕を閉じることとなる。

 なお、『シークレット・ウォーズ』のタイインとして、アルティメッツ、ヤング・アルティメッツが登場するリミテッドシリーズ『アルティメイト・エンド』#1-5(7-10/2015, 2/2016)が刊行されたが、こちらは「アルティメット・ユニバースにとてもよく似た別のアース」が舞台の物語であるので注意。

 さらにその後、2016年に創刊された『アルティメッツ(vol.3)』#1(1/2016)で、アース-616のキャプテン・マーベル(キャロル・ダンバース)、ブラックパンサー、ブルー・マーベル、ミズ・アメリカらを中心とする、新たな「アルティメッツ」が始動し、この新生アルティメッツの物語の中で、ザ・メイカーによって旧アルティメッツも復活を遂げるのだが……まあ、本稿ではここまでとしたい。



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