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■ドクター・ストレンジ:ジ・オース

■Doctor Strange: the Oath
■Writer: Brian K. Vaughan
■Penciler: Marcos Martin
■翻訳: 田中敬邦
■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN: B0BMW3KS31

 「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第23号は、刊行当時(2006年)、『Y:ザ・ラストマン』や『エクス・マキナ』などの作品で、高い人気を誇っていたブライアン・K・ヴォーンをライターに迎えたリミテッド・シリーズ『ドクター・ストレンジ:ジ・オース』を初邦訳。

 収録作品は『ドクター・ストレンジ:ジ・オース』#1-5(12/2006-4/2007)。


 さて、本作が刊行された2006年末頃のドクター・ストレンジは、長らくオンゴーイング・シリーズも持てず(1988~1996年にかけて刊行されていた『ドクター・ストレンジ:ソーサラー・スプリーム』全90号が終了して10年)、時折リミテッド・シリーズやワンショットが刊行されたり、かつてストレンジが所属していたチーム、ディフェンダーズの流れを汲むチーム誌に出演したり、大型のクロスオーバーに「味方側のお役立ちサポートキャラクター」として登場したりといった、地味目の立場に甘んじていた(まあ、完全に出番がなくなるよりはマシではあるが)。

 で、本作『ドクター・ストレンジ:ジ・オース』が高い評価を受けたことで(今では本作は『ドクター・ストレンジ』のオールタイム・ベストの筆頭に挙げられる評価を受けている)、ようやく注目を浴びる訳だが、それで即座に新オンゴーイング・シリーズが刊行された訳ではなく、そこからさらに8年を経た2015年に、ようやくジェイソン・アーロンによる新オンゴーイング・シリーズ『ドクター・ストレンジ(vol. 4)』が創刊され、以降、コンスタントにオンゴーイング・シリーズが刊行される格のキャラクターとなる。

 本エントリでは、その不遇の約20年(1996~2015年)を、簡単に紹介してみたい(と、思っていたが、書き上げてみたら余裕で2万5千字を越えていた)。


 まずはオンゴーイング・シリーズ『ドクター・ストレンジ:ソーサラー・スプリーム』が休刊した1996年から2004年頃までの約8年間。

 この時期のストレンジは、「良い感じのサポートキャラクター」というポジションにすら就けず、マーベル編集部が散発的にワンショットやリミテッド・シリーズを刊行して、「ドクター・ストレンジは売れるかどうか」を測り、その売り上げを見て「まあ、売れなそうだから今は見送ろう」という結論に至り(多分)、またしばらく間を開けてから「今度はどうだ」と、別のワンショットやリミテッド・シリーズを試す……という、露出も散発的な時期だった(後は、『ゴーストライダー』などのオカルト系のコミックや、『スパイダーマン』のオカルト要素の強い回にゲスト出演したりもしていたが、まあ、次に繋がるような画期的な活躍はしなかった)。

 それらワンショット、リミテッド・シリーズの嚆矢として、1997年に刊行されたのが、ファンタジー・コミックスの大家、P・クレイグ・ラッセルがアートを担当したワンショット、『ドクター・ストレンジ:ホワット・イズ・イット・ザット・ディスターブズ・ユー・スティーブン?』#1(10/1997)である。

 この作品は、元々ラッセルがマーヴ・ウルフマン(ライター)と組んで1976年に送り出した『ドクター・ストレンジ』アニュアル#1(12/1976)掲載の話を、ラッセル自身がアートを1から描き直してリメイクしたもので(妙に長いタイトルに繋がる導入部も新規に追加)、ラッセルの熟達したアートが楽しめる1冊となっていた。

 内容は、師であるエンシェント・ワンから、従者のウォンが危険にあると告げられたストレンジが、黄金の都市ディッコポリス(無論、ストレンジの生みの親であるスティーブ・ディッコにちなむ)に旅立ち、邪悪な魔女エレクトラと対決する……的な話。

 まあ、本作は前述したような「新オンゴーイング・シリーズに繋げるための様子見のワンショット」というよりは、ラッセルが長年マーベルに出していたリメイク企画が、このタイミングで実現した、特にしがらみのない作品ではあるが、筆者個人がラッセルが好きなので、臆面もなく紹介する。

 同作はワンショットながら、Kindle電子書籍版が単巻発売もされていて、ラッセル人気の高さがうかがえる。

 なお、ラッセルのアートに興味のある方は、上の単行本『ドクター・ストレンジ:ホワット・イズ・イット・ザット・ディスターブズ・ユー・スティーブン?』をお勧めする(タイトルは同じなので、単巻発売版と間違えぬ様)。

 こちらは表題作に加えて、表題作のオリジナル版である『ドクター・ストレンジ』アニュアル#1も収録されており、新旧のアートやコマ割りを見比べられるようになっている。

 さらには、

・過去にラッセルがアートを担当したドクター・ストレンジが主役の短編(『マーベル・プレミア』#7(3/1973)、『マーベル・ファンファーレ』#5(11/1982))

・ラッセルがインカーとして参加したドクター・ストレンジが主役の短編(『ドクター・ストレンジ(vol. 2)』#34(4/1979)、『ドクター・ストレンジ(vol. 2)』#46(4/1981)後半部、『マーベル・ファンファーレ』#6(12/1982)前半部)

・ラッセルがアートを担当したスカーレット・ウィッチ&スパイダーマンが主役のオカルト短編(『マーベル・ファンファーレ』#6(1/1983))

・ラッセルがアートを担当した怪奇短編(『チャンバー・オブ・チルズ』#1(11/1972)巻頭、『チャンバー・オブ・チルズ』#2(1/1973)中程、『ジャーニー・イントゥ・ミステリー(vol. 2)』#4(4/1973)中程)

 ……と、P・クレイグ・ラッセルがアートやインクを担当した『ドクター・ストレンジ』他のオカルト系のコミックを網羅した上に、『ドクター・ストレンジ:ホワット・イズ・イット・ザット・ディスターブズ・ユー・スティーブン?』の刊行時にマーベルの自社広告に掲載されたラッセルのインタビューや、ラッセルがアートを担当したストレンジ関連のコミックの表紙・ピンナップ、原画などを収録した、充実した内容となっている。


 後は、1998年に、当時の人気オンゴーイング・シリーズだったカート・ビュシークの『アントールド・テールズ・オブ・スパイダーマン』の増刊号として、ワンショット『アントールド・テールズ・オブ・スパイダーマン:ストレンジ・エンカウンターズ』#1(6/1998)も刊行されている。こちらは、デビュー直後のスパイダーマンとドクター・ストレンジの初遭遇を描いた作品。

 上は単話版の電子書籍。


 さてその後1998年、マーベル・コミックス社は、インディーズ・コミック出版社の雄、ジョー・カザーダ&ジミー・パルミオッティを招いて新規レーベル「マーベル・ナイツ」を立ち上げ、『デアデビル』、『ブラックパンサー』、『パニッシャー』と言った「マーベルの看板作品からやや外れるものの、根強い人気とポテンシャルを持ったヒーロー」のリバンプを担当させる、ということをし、結果、コンスタントなヒット作を出していく(この成功を受け、カザーダは2000年からマーベルの総編集長に就任する)。

 で、この「マーベル・ナイツ」レーベルで、「マーベルの看板作品からやや外れるものの、根強い人気とポテンシャル(多分)を持ったヒーロー」の一人として、ドクター・ストレンジにも白羽の矢が当たり、かくて1999年にリミテッド・シリーズ『ドクター・ストレンジ(vol. 3)』全4号(2-5/1999)が刊行される。

 同作は、他者に魔力を与える力を持ったジョナサン・ホワイト率いるカルト集団の野望に、ドクター・ストレンジが立ち向かうという、現代的なストーリーで、トニー・ハリス(ペンシル)&レイ・スナイダー(インク)のアートに、ダン・ジョリー&トニー・ハリス&レイ・スナイダーの3人が共同で脚本を担当するというスタイルで描かれた。

 トニー・ハリスのアートは、ノワールな雰囲気で『ドクター・ストレンジ』の世界を再解釈し(当時のオカルト系コミックの最先端であるマイク・ミニョーラの影響も見える)、ストレンジのダンディで落ち着いた雰囲気を良く描いていたのだが……まあ、ぶっちゃけ地味で、その後オンゴーイング・シリーズを獲得できるほどのヒットとはならなかった。

 このリミテッド・シリーズは、2016年に刊行された『ドクター・ストレンジ:ザ・フライト・オブ・ボーンズ』にて初収録された。刊行から17年経ってようやく単行本化されたというあたりに、本作の人気の微妙さがうかがえる(ミもフタもない)。

 この単行本には、リミテッド・シリーズ全4号に加えて、2010年に刊行されたモノクロ・コミックのワンショット『ミスティック・ハンズ・オブ・ドクター・ストレンジ』#1(3/2010)に、短編集『マーベル:シャドウ&ライト』#1(2/1997)と、『シャドウ&ライト』#2(4/1998)に掲載されたドクター・ストレンジ主役のモノクロの短編、それにアンソロジー・コミック『マーベル・ダブルショット』#4(4/2003)掲載のストレンジ主役の短編と、前後の時期の単行本にまとまりづらい細かな短編を、ここぞとばかりに入れ込んでいる。


 で、マーベル・ナイツからはその後2004年に、人気ライターのJ・マイケル・ストラジンスキーを招いてドクター・ストレンジのオリジンを再解釈したリミテッド・シリーズ『ストレンジ(vol. 1)』全6号(11-12/2004, 2, 4, 6-7/2005)も刊行された。

 が、同作は(例によって)それほど人気を得られず、せっかく再解釈したオリジンも、以降のコミック上で踏襲されることはなかった。現在では同作の話は平行世界「アース-41101」を舞台とした、別のスティーブン・ストレンジの物語、ということになっている。

 こちらが単行本『ストレンジ:ビギニングズ&エンディングス』。リミテッド・シリーズ全6話を収録。


 これら『ドクター・ストレンジ』が主役のワンショット&リミテッド・シリーズが散発的に刊行される一方で、2001年には、かつてドクター・ストレンジが所属していたヒーローチーム「ディフェンダーズ」の新オンゴーイング・シリーズ『ディフェンダーズ(vol. 2)』#1(3/2001)が創刊されている。同誌にはドクター・ストレンジもレギュラーで出演していたが、クセの強い絵を描くエリック・ラーセン(カート・ビュシークとの共著でライターも担当)を起用したのが裏目に出たか、わずか12号で打ち切られた。

 なお、同シリーズは、単行本化も、単話での電子書籍化もされていない(言っては悪いが、それくらい当時の人気は微妙で、後年になってもその評価は覆っていない)。


 あと、『ディフェンダーズ(vol. 2)』が打ち切られた2ヶ月後には、リミテッド・シリーズ『ジ・オーダー』全6号(4-9/2002)が刊行されている。こちらは『ディフェンダーズ(vol. 2)』の共著者だったカート・ビュシークが単独で脚本を担当し、アートはカルロス・パチェコが担当(要は『アベンジャーズ・フォーエバー』コンビ)。

 ディフェンダーズの仇敵であるヨンドロスの放った呪いにより、ディフェンダーズの創設メンバー(ドクター・ストレンジ、ハルク、サブマリナー、シルバーサーファー)が狂奔し、絶対的な秩序を追求する新チーム「ジ・オーダー」を設立。これに対してディフェンダーズのメンバーらが対抗していくという、ヒネりの入った話。

 こちらも単行本化はされていないが、幸い単話版で電子書籍化されているので、現在でも容易に読むことはできる。


 更に2005年には、カルト的な人気を誇るキース・ギフェン&J・M・デマティスのライターコンビと、「味のある表情を描く」ことに定評のあるケヴィン・マグワイアの3人(かつてDCコミックスの『ジャスティス・リーグ・インターナショナル』誌で熱狂的な人気を博した作家陣)を招いたリミテッド・シリーズ『ディフェンダーズ(vol. 3)』全5号(9/2005-1/2006)が刊行されている。

 こちらは、ドクター・ストレンジの仇敵ドルマムゥと、その双子の妹ウマー・ジ・アンホーリーが同盟を組むという未曽有の事態が勃発したのを受け、ストレンジがディフェンダーズの再結成を決意。創設メンバーの元を訪れるが、元々チームとしてまとまっていたのが不思議なくらいの唯我独尊なメンバーが、歳をとって一層性格をこじらせていたがために、足並みが全くそろわず、気づけばドルマムゥによって地球は支配されていた……的な、オフビートなコメディ。

 こちらが本作の単行本『ディフェンダーズ:インデフェンシブル』。キース・ギフェンは非常に読者を選ぶカルト作家だが、まあ、前述の2作よりは読者人気は高いため、普通に単行本化&電子書籍化がなされている(普通って素晴らしい)。収録作品はリミテッド・シリーズ全5号。ケヴィン・マグワイアの顔芸と、ギフェンのコマ割りの妙(※)、デマティスの軽妙なセリフ回しが楽しめる快作であるので、ドクター・ストレンジとは関係なくお勧めする1冊(いや、筆者がギフェン&デマティスが大好き過ぎるだけだが)。

※キース・ギフェンは、アーティスト出身のライターであるため、通常のライターのような脚本形式ではなく、既定のページ数にコマを割り、大まかなキャラクターを描いていくスタイル(日本のマンガで言うところの「ネーム」)でライティングを行う。共著者のJ・M・デマティスは、「このページではこんな内容の会話が繰り広げられる」的なギフェンの説明を受けて、それに即したセリフを考えるという、特異な役割分担となっている。

 以上、1996~2000年代前半までのドクター・ストレンジの「不遇期」の概要説明終了。


 さてその後、2000年代の中頃に入ると、ドクター・ストレンジは徐々に「良い感じのサポートキャラ」としてのポジションを確立させていくのだが、そのイメージの確立に貢献したのは、2005年に創刊された『ニューアベンジャーズ』誌のライター、ブライアン・マイケル・ベンディスであった。

 ベンディスは、『ニューアベンジャーズ』誌の作中で、ストレンジをサポートキャラとして度々登場させる一方、彼が手掛けた同時期のマーベルの大型クロスオーバーの中でもドクター・ストレンジをサポートキャラとして描いていった。この結果、ストレンジは「良い感じのサポートキャラ」であると同時に、ベンディスの「持ちキャラクター」として、続く10年間ほど活躍していくこととなる。

 ──その、人気ライターの持ちキャラになるのは、出番も増えてめでたいことではあるが、逆にベンディスが『ニューアベンジャーズ』のライターを降りるまでは、他のライターがストレンジを使いづらくなり、単独作品の企画なんかも通りづらくなるため、ストレンジというキャラクターにとっては痛しカユしな時期ではあった(しかもベンディスは、かなり長期間『アベンジャーズ』関連誌のライターを続ける)。


 でー、まずベンディスは、彼がメインライターを務めた2005年の大型クロスオーバーイベント『ハウス・オブ・M』#1(6/2005)の冒頭で、プロフェッサーX、マグニートー、X-MEN、ニューアベンジャーズらによる「『アベンジャーズ・ディスアッセンブルド』で狂奔したスカーレット・ウィッチをこの先どうするか会議」にドクター・ストレンジを登場させ、「オカルトの専門家としての見地から、スカーレット・ウィッチをどうすべきか」について意見を述べさせた(X-MENのホワイトクイーンと、1ページに渡りダラリとした「ベンディス会話」をやり取りした)。

 更に『ハウス・オブ・M』の後半、ストレンジはニューアベンジャーズ&X-MENと共に最終決戦に参加し(背景で何かしら魔法を打ってる程度の活躍だが)、クライマックスではスカーレット・ウィッチの記憶に触れて事件の真相を読者に明かすものの、事件の決着には関与できず、全てが終わった後にニューアベンジャーズの前に現われて「こんな風に世界は大変なことになったのだ」と説明するという、絶妙な「良い感じのサポートキャラ」ぶりを発揮した。


 また、同時期の『ニューアベンジャーズ』#7-10(7-10/2005)で展開された「セントリー」ストーリーラインにも、ドクター・ストレンジはゲスト出演しており、記憶を失った超超人セントリーに対応すべくニューアベンジャーズ&X-MENが集結したシーンで、しれっとコマの端の「メインではないが、そこそこ視認しやすい位置」に露出。セントリーの精神から生まれた怪物ボイドとニューアベンジャーズ&X-MEN連合の戦いでも、最後まで戦い続ける(が、アップになったりセリフを発したりはせず)という役割を演じた。ただし、「セントリーの記憶に接触し、事件の真相を知る」という『ハウス・オブ・M』におけるストレンジの役回りは、本作ではX-MENのテレパス、ホワイトクイーンに取られた。

 またこのセントリー編では、アイアンマン、ミスター・ファンタスティック、サブマリナー、ブラックボルト、プロフェッサーX、そしてドクター・ストレンジという、マーベル・ユニバース屈指の頭脳派による秘密組織「イルミナティ」が初登場。「ニューアベンジャーズの行く末を訳知り顔で後方から見守るサポートキャラ」としてのストレンジの立場をより強固にした。

 こちらは単行本『ニューアベンジャーズ:セントリー』。『ニューアベンジャーズ』#7-10を収録(かつてはヴィレッジブックスから邦訳版も出ていたので、興味のある方は古書店を探すのもいいだろう)。「マーベル グラフィックノベル・コレクション」33号、『ニューアベンジャーズ:ブレイクダウン』の続きでもある(なお「マーベル グラフィックノベル・コレクション」では『セントリー』以降の刊行予定はない)。


 で、翌2006年の大型イベント『シビル・ウォー』(ライターはマーク・ミラー)でも、ドクター・ストレンジは「サポートキャラ」としての立場を維持する。

 同イベントのプロローグとなるワンショット『ニューアベンジャーズ:イルミナティ』#1(5/2006)では、ストレンジは「過去のイルミナティの会議ではアイアンマンに協力的なスタンスを取っていたが、超人登録法に関しては明白に反対の立場を執る」という、そこそこおいしい立場に就く。

 こちらは『ニューアベンジャーズ:イルミナティ』の単話版電子書籍。「シビル・ウォー」のイベント全体をフォローする気があるなら、以前紹介した、このワンショットを収録した単行本『シビル・ウォー:ザ・ロード・トゥ・シビル・ウォー』の単行本を買うのもいいだろう(同書はヴィレッジブックスから邦訳版も出ていたので、古書店を探すのもいい)。


 他方、『シビル・ウォー』本編では、#1(7/2006)の冒頭で、いつもの様に「ヒーローらが今後の方策を話し合うため集結した際に、知恵者らしいセリフを二言三言述べる」役回りを務めるものの、超人登録法の施行後は姿を消し、その後の『シビル・ウォー』#6(12/2006)で、「ソーサラー・スプリームである彼は、シビル・ウォーを即時終結させられるだけの力を持っているが、それ故にどちらにも加担せず、中立の立場を採る」という彼の立場が説明され、格を落とさずに物語から身を引く。

 一応、『シビル・ウォー』電子書籍版単行本。


 ちなみに『シビル・ウォー』の最終号である#7(1/2007)と同月に刊行された『ニューアベンジャーズ』#26(1/2007)は、『アベンジャーズ・ディスアッセンブルド』で死亡したホークアイが復活を遂げた経緯を描いた過去回想話だったが、作中でドクター・ストレンジは、スカーレット・ウィッチを探し求めるホークアイに助言を与えるという、実に彼らしい役回りでゲスト出演している。


 で、この『シビル・ウォー』イベントの末期のタイミングで、本書『ドクター・ストレンジ:ジ・オース』全5号(12/2006-4/2006)がスタートする。

 ちなみに本作『ジ・オース』は、特に時系列が定められていない話なのだが、冒頭でアイアンフィストやアラーニャといったクライム・ファイターがそこそこ自由に活動してるらしき描写から、『シビル・ウォー』で超人登録法が施行されるよりも前だと推測される。

 ちなみにkindleunlimitedでは、『ジ・オース』は無料で読める。さすがドクター・ストレンジのオールタイム・ベスト。


 一方、『シビル・ウォー』完結の翌月からは、ベンディスによるリミテッド・シリーズ『ニューアベンジャーズ:イルミナティ(vol. 2)』全5号(2-3, 7, 9, /2007, 1/2008)がスタート。こちらでは『シビル・ウォー』以前から現代まで、イルミナティの面々が密かに地球防衛のために活動していたエピソードが描かれ、ストレンジもイルミナティの一員として主役格の活躍を見せた。

 こちらがその単行本。同作もヴィレッジブックスから邦訳版も出ていたので(略)。


 また、『ニューアベンジャーズ』#27-31(4-8/2007)で展開された「レボリューション」ストーリーライン以降、超人登録法に反対して流浪の身となったニューアベンジャーズの面々は、ドクター・ストレンジの拠点サンクタム・サンクトラムに居候し、移動にもドクター・ストレンジの空間転移魔法を利用するようになる。

 この「レボリューション」編は、ニューアベンジャーズの面々がストレンジの魔法で日本へテレポートし、忍者軍団ハンドを支配下に置いた女暗殺者エレクトラと戦う……という話で、物語のラストで殺害されたエレクトラが、実は異星人スクラルが化けていたことが判明。続く大型クロスオーバー『シークレット・インベージョン』(こちらもライターはベンディス)への伏線が貼られていく。

 こちらは単行本『ニューアベンジャーズ:レボリューション』。前述の『ニューアベンジャーズ』#26と、「レボリューション」編(#27-31)を収録(ヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。


 で、「レボリューション」編の最終話と同時期には、この年のマーベルの大型イベント『ワールド・ウォー・ハルク』(メインライターはグレッグ・パック)がスタートする。

 同作は、アイアンマン、ストレンジらの所属する秘密結社イルミナティの策謀により、外宇宙に追放されたハルクが、『ハルク』関連誌で展開された長編ストーリー「プラネット・ハルク」編を経て、仲間と共に地球に帰還。イルミナティに宣戦布告したハルクらに対し、『シビル・ウォー』以来、地球のヒーロー・コミュニティの筆頭となったアイアンマンや、ハルクの長年の仇敵サンダーボルト・ロス将軍らが総力を挙げて対抗する……という話。

 こちらの作中の冒頭で、ストレンジはアイアンマンから魔術を用いて再びハルクを地球外に追放するよう求められるも、「我々がこの状況を作り出したのだ、我々で解決しなければならない」としてこれを拒否。
 ブラックボルト、アイアンマン、ミスター・ファンタスティックらがハルクに倒される中、ストレンジは魔術でハルクの精神の奥底に居るブルース・バナーと接触し、彼との和解を試みる……が、怒れるハルクに対話を拒否された上に、両腕を砕かれる(『ワールド・ウォー・ハルク』#3(10/2007))。
 やむを得ず、ストレンジは妖魔ゾムの力をその身に宿し、ハルクと直接対決。当初は圧倒的な憤怒のパワーでハルクを圧倒するも、自身の暴力に飲まれて周囲の市民を巻き添えにしかけたことで理性を取り戻してしまい、その隙を突かれてハルクに打ち倒される(『ワールド・ウォー・ハルク』#4(11/2007))……と、いった具合に、そこそこ良い感じの「悪役」としての活躍を見せる──ストレンジはイルミナティの中では、最もハルクと近しい仲だったため(ディフェンダーズのメンバー同士だったので)、必然、本作ではこうした良い役回りを与えられたのだろう。

 こちらが『ワールド・ウォー・ハルク』単行本(ヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。


 この後、『ニューアベンジャーズ』#32-37(9/2007-2/2008)と『ニューアベンジャーズ』アニュアル#2(2/2008)で展開された「トラスト」ストーリーラインでも、引き続きドクター・ストレンジはニューアベンジャーズの一員として活躍している。

 で、この、「トラスト」の冒頭で、先のエピソードに登場した「スクラル・エレクトラの遺体」が、ニューアベンジャーズの初期からのメンバーであるスパイダーウーマン(実はアイアンマン側のスパイ)によって持ち去られるという事態が勃発。この結果、「仲間がスクラルかもしれない」「仲間がアイアンマンのスパイかもしれない」という疑念に囚われたニューアベンジャーズのメンバーは、ひとまず解散して、三々五々それぞれの日常に戻る。──なお、この時ストレンジはサンクトラム・サンクタムに帰還し、ナイト・ナースとベッドインしている(『ジ・オース』以降、恋愛関係となった模様)。

 やがて頭を冷やして再集結した一同は、当時の『マイティ・アベンジャーズ』誌の方で展開されていた、「宇宙から飛来した謎のウィルスの影響により、無数のニューヨーク市民がシンビオートに取り憑かれてヴェノムに!」事件と微妙にクロスオーバーして、マイティ・アベンジャーズと呉越同舟した後、当時ニューヨーク市の暗黒街で名を挙げていたフッド率いるヴィラン軍団と大規模な決戦を繰り広げる。

 この時、フッドに致命傷を負わされたストレンジは、『ワールド・ウォー・ハルク』で用いたゾムの暗黒の魔力を再び引き出すことで、ニューアベンジャーズを巻き込みつつも(ヒデェ)ヴィラン軍団を無力化することに成功する。しかしながら、暗黒の魔術を御しきれると思っていた己の傲慢さが、仲間を傷つけたことを深く恥じたストレンジは、光の魔術を再度身に着けるために、チームを辞して次元の彼方へ消え去るのだった。

 例によって『ニューアベンジャーズ:トラスト』電子書籍版単行本(例によってヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。


 なお、「トラスト」と同時期に刊行された、『ニューアベンジャーズ:イルミナティ(vol. 2)』#5(1/2008、シリーズ最終話、『シークレット・インベージョン』とタイイン)で、スパイダーウーマン経由でエレクトラ/スクラルの遺体を確保したアイアンマンは、イルミナティの面々を招集(今は敵対する立場になったストレンジもアストラル体ながら出席し、アイアンマンを驚かせる)。今後の方策を討議するのだがが……的な話が展開される。

 で、その後の『ニューアベンジャーズ』誌は、#38-47(4/2008-1/2009)の10ヶ月に渡り、ベンディスがメインライターを務める2008年度の大型イベント『シークレット・インベージョン』#1-8(6/2008-1/2009)とタイインした話を続ける。

 が、先の話で次元の彼方に消えたドクター・ストレンジは、『シークレット・インベージョン』本編および『ニューアベンジャーズ』の作中には一切登場しなかった(『ニューアベンジャーズ』#44(10/2008)に、スクラル人の作り出した「クローン・ドクター・ストレンジ」が登場した程度)。

 ていうか、『シークレット・インベージョン』は、「潜伏していたニック・フューリーが復帰して市井のヒーローらを糾合してスクラルへの抵抗軍を率いる」、「アイアンマン、ミスター・ファンタスティック、イエロージャケットら科学系ヒーローが協力してスクラルへの対抗策を発見する」という2本の筋が物語の重要なポイントであるため、それらの筋を活かすためにも、サポートキャラとして万能過ぎるドクター・ストレンジを事前に外していたのだろう。

 こちらは『シークレット・インベージョン』本編の電子書籍版単行本。リミテッド・シリーズ全8話を収録(ヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。

 こちらは『ニューアベンジャーズ』の『シークレット・インベージョン』タイイン期の単行本。タイイン期間が長かったため、2冊の単行本として刊行。Book 1は『ニューアベンジャーズ』#38-42、Book 2は#43-47を収録(いずれもヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。


 ちなみに、この『シークレット・インベージョン』のイベントの最中に、それとは全く関係なく、リミテッド・シリーズ『ザ・ラスト・ディフェンダーズ』#1-6(5-10/2008)が刊行される(ライターはジョー・ケイシーとキース・ギフェン)。

 この話は、『シビル・ウォー』後に、50ステート・イニシアティブ(全米の50州にそれぞれ独自のヒーローチームを創設し、防衛に当たらせる計画)の一環として、元ディフェンダーズのナイトホークをリーダーに創設された新ディフェンダーズが主役。

 ナイトホーク以外は、従来のディフェンダーズとは関係のない面々(シーハルク、コロッサス、ブレイジングスカル)が揃えられたためか、初任務でチームワークが十全に発揮できず、周囲に甚大な被害を撒いたチームは、アイアンマンによって即時解散される。
 しかし一度関わった任務から手を引くことを良しとしないナイトホークは、チームに残ったシーハルクと共にテロ組織サンズ・オブ・サーペントの陰謀に立ち向かうのだった……的な話。

 で、このシリーズの#3に、2ページほどこの当時のドクター・ストレンジが登場。「現世に戻っては来たものの、まだ魔力も体調も全然戦えるレベルじゃない、今は単独で行動すべき時だ」とか説明セリフを述べつつ、旧ディフェンダーズのメンバーであるダイモン・ヘルストームに「多分、君の運命はじきにナイトホークと絡み合うだろう」的な助言をして、己の代わりにディフェンダーズの援助を促していた。

 なお、『ラスト・ディフェンダーズ』は、当時単行本化はされたものの、電子書籍版の単行本化はされず、単話版の電子書籍が配信という扱い(『ジ・オーダー』以上、『ディフェンダーズ:インデフェンシブル』以下、といったところか)。


 さて、『シークレット・インベージョン』後、従来のヒーロー・コミュニティの顔役だったアイアンマンは、スクラルによる侵略に充分な対応ができなかったことからシールドの司令官の座を降ろされ、代わりにノーマン・オズボーンが新組織ハンマー(H.A.M.M.E.R.)の司令官となり、ヒーロー・コミュニティを牛耳ることになる。

 で、以降のマーベルの各コミックブックでは、フッドらヴィラン軍団を密かに味方につけたオズボーンによって支配されるヒーロー・コミュニティの暗黒期を描いた「ダークレイン」展開が始まる(具体的には、コミック各誌の表紙に「ダークレイン」のロゴが冠され、オズボーンによる支配下で、各ヒーローらが苦悩する内容の話が語られていく感じ。『シークレット・インベージョン』の様に、一本筋の通った話を語るのではなく、各コミック誌で「コミュニティ全体の雰囲気」を語ることが目的のイベント)。

 これを受けて『ニューアベンジャーズ』誌でも、#48-55(2-9/2009)で、「ダークレイン」とのタイインをするのだが、この#51(5/2009)で、ドクター・ストレンジが再登場する。

 この作中で、ドクター・ストレンジは、彼の持っていた「ソーサラー・スプリーム」の称号を返上していたことが判明(世界の均衡をつかさどるソーサラー・スプリームには純粋さが必要とされるため、『ワールド・ウォー・ハルク』以降、暗黒魔術へ傾倒していたことがマズかった模様)。
 で、最近になってそこそこ魔力も回復したドクター・ストレンジは、自分に代わるソーサラー・スプリームを探し求めていたのだが、そこへストレンジの持つ魔法の呪具「アガモットの目」を狙うフッドが現われ、彼に重傷を負わせる。このためストレンジはニューアベンジャーズに助けを求め、彼らと共にフッドと戦いつつ、新ソーサラー・スプリームを探していく……。

 で、ネタバレになるが、最終的にアガモットの目は、ブラザー・ブードゥー(ジェリコ・ドラム)の手に渡り、彼とダイモン・ヘルストーム、ドクター・ストレンジの3人の合力で、フッドに憑りついていた妖魔ドルマムゥを祓う。そしてストレンジは、ブードゥーを新ソーサラー・スプリームとして鍛えることなる。

 こちらは「ダークレイン」期の『ニューアベンジャーズ』の後半、ドクター・ストレンジ関連の話のみを収録した『ニューアベンジャーズ:サーチ・フォー・ザ・ソーサラー・スプリーム』。『ニューアベンジャーズ』#51-54を収録(ヴィレッジブックスからは#48-55を収録した『ニューアベンジャーズ:ダークレイン』として刊行)。


 なお、同時期の『ハルク(vol. 2)』#10-12(4-6/2009)では、ハルクによって再結成されたオリジナル・ディフェンダーズ(ハルク、サブマリナー、シルバーサーファー、ドクター・ストレンジ)が、レッドハルク率いるオフェンダーズ(レッドハルク、タイガーシャーク、テラックス、バロン・モルド―)と戦うという話が描かれているが、この話に登場するドクターは、過去の世界から連れてこられて来てるので、それほど気にしなくてよろしい(ベンディス側のストレンジの話に干渉しないよう、「現在のストレンジではない」ことにしたのだろう)。

 上の話はこちらの『ハルク:ハルク・ノー・モア』に収録。収録作品は『ハルク』#10-12と『インクレディブル・ハルク』#600。


 さて、「ダークレイン」以降の『ニューアベンジャーズ』は、オズボーンと共闘関係にあるフッド率いるスーパーヴィランとの戦いがメインとなっていく。……が、ブラザー・ブードゥーを鍛えるので忙しいストレンジは、同誌からはしばらく姿を消す。

 代わりにドクター・ストレンジは、J・マイケル・ストラジンスキーがライターを担当していた『ソー』#602(8/2009)にゲスト出演。ソーから機能不全を起こしている魔法のハンマー「ムジョルニア」の修復を求められた彼は、「自分には無理だがソーがこうすれば治せる」的な助言をし、ソーの次なる行動の指針を示すという、名バイプレイヤーぶりを見せた。

 こちらは『ソー バイ・J・マイケル・ストラジンスキー』の3巻目(最終巻)。『ソー:リボーン』(1巻目に相当)から続いてきた、ストラジンスキー期の最終巻。収録作品は『ソー』#601-603と『ソー:ジャイアント・サイズ・ファイナル』。


 やがて2009年末、『ニューアベンジャーズ』#60(2/2010)で、ストレンジはブードゥー(今やドクター・ブードゥーに改名)と共に再登場。ニューアベンジャーズの中核メンバーであるルーク・ケイジの体内を魔術で走査し、彼の体内にオズボーンが爆弾を仕掛けていたことを暴き、ハンク・ピム博士の物体縮小技術でケイジの体内に潜り、爆弾の除去手術を行うという、久々の「良い感じのサポートキャラ」の役目を果たす。

 同話を収録した『ニューアベンジャーズ:パワーロス』。『ニューアベンジャーズ』#55-60を収録(ヴィレッジブックスの邦訳版もあり)。
 

 で、この『ニューアベンジャーズ』#60の翌月から、ブライアン・マイケル・ベンディスがメインライターを務める、2010年の大型イベント、『シージ』全4号(3-6/2010)が始まる。

 同作は、当時、オクラホマ州の郊外に再建されていた(詳細は「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第8号『ソー・リボーン』を参照)、北欧の神々の都アスガルドに対し、ハンマーの司令官ノーマン・オズボーンが言いがかりをつけて侵攻を開始。これに対してソーや復活したキャプテン・アメリカ、オズボーンに追われる身となっていたアイアンマンの3人を中心に、ヒーロー・コミュニティが一致団結して対抗するという話であり(「シージ」は都市への侵攻を意味する)、最終的にオズボーンの野望は挫かれ、再びヒーローらの時代が戻ってくる。

 ただし、『シージ』本編にはドクター・ストレンジは未登場である(本編のクライマックスで、「アスガルドのジョーカー、ロキの犠牲によって生じた魔法の加護で、ヒーローらが強化され、恐るべきラスボスに対抗する」的な展開が用意されていたので、あんまりストレンジやブードゥーら、人間側の魔法系のキャラクターに出張らせたくなかったのだろう)。

 こちらは電子書籍版単行本。『シージ』全話と、増刊号『シージ:カバル』#1を収録(ヴィレッジブックスから出ていた邦訳版も内容は同じ)。


 なお、『シージ』本編での出番のなさを補うため……という訳でもなかろうが、『シージ』と大体同時期に、ストレンジを主役としたリミテッド・シリーズ『ストレンジ(vol. 2)』#1-4(1-4/2010)が刊行されている。

 こちらは、ソーサラー・スプリームとしての称号を返上し、いくらか肩の荷が下りたストレンジが、ケーシー・キンモントなる女性と共に、いくつかのオカルトがらみの事件を解決していく話(ブードゥーは未登場)。まだハルクに破壊された腕が癒えていないストレンジは、最初の事件を解決する際に、ケーシーに簡単な解除呪文を教え、自分の代わりに行使させており、事件後に彼女がその呪文を使ったことで、更なる騒動に巻き込まれていく……。

 こちらがリミテッド・シリーズ全4号を収録した『ストレンジ:ドクター・イズ・アウト』。表紙はコントラストの強いペン画調だが、中身の方はいわゆる「マンガ・スタイル」で、カラーリングもセル画調になっている(リンク先のサンプルを参照)。


 また、ストレンジの弟子であるドクター・ブードゥーも、『シージ』と同時期にリミテッド・シリーズ『ドクター・ブードゥー:アベンジャー・オブ・ザ・スーパーナチュラル』全5号(12/2009-4/2010)が刊行され、自身初となる主役誌を獲得している。

 内容的には、ドクター・ブードゥーと、彼の相棒であるダニエルの霊魂が、フッドに力を貸していたドルマムゥを封じたり、アガモットの目を求めるドクター・ドゥームと対決したり、現世への顕現を目論むドクター・ストレンジの旧敵と交戦したり……といった、「ソーサラー・スプリームとしての使命」に邁進していく話。ドクター・ストレンジも#1と#4に少し登場。

 こちらが電子書籍版単行本。リミテッド・シリーズ全話と、増刊号『ドクター・ブードゥー:ジ・オリジン・オブ・ジェリコ・ドラム』#1(2/2010、『ストレンジ・テールズ』誌に掲載されたブラザー・ブードゥーのオリジン話を再録)を収録。


 それから、2010年初頭に刊行された『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』#7-8(3-4/2010)に、ドクター・ブードゥーがゲスト出演している。前回のエントリでも紹介したヘッドプール(ゾンビ・デッドプール)を元の世界に戻そうとするデッドプールに、ソーサラー・スプリームらしく助言を与えつつ次元門を開き、デッドプール一行をアース-2149に転送させている(なおその際デッドプールは、「ソーサラー・スプリームには口ヒゲが付き物だろ? 生やさないの?」などと軽口を叩き、ブードゥーを閉口させた)。

 前回もリンクを張ったが、こちらは『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』全話を再録した『デッドプール・クラシック』第11巻の電子書籍版単行本(小学館集英社プロダクションから邦訳版も発売中)。


 で、『シージ』とのタイインした『ニューアベンジャーズ』#61-64(3-6/2010)をもって、『ニューアベンジャーズ』誌は5年余に渡る連載を終了。最終号と同月に刊行された増刊号『ニューアベンジャーズ・フィナーレ』#1(6/2010)で、長らくの仇敵だったフッド率いるスーパーヴィラン軍団との決戦をもって物語の幕を閉じる。

 こちらが『ニューアベンジャーズ』最終第13巻、『シージ:ニューアベンジャーズ』。『ニューアベンジャーズ』#61-64と、『ニューアベンジャーズ・フィナーレ』、『ニューアベンジャーズ』アニュアル#3、特別号『ダークレイン:ザ・リスト アベンジャーズ』を収録(ヴィレッジブックスから邦訳版も刊行されている)。


 そして『シージ』の後、マーベルは新たなヒーローの時代を描いた「ヒロイック・エイジ」イベントを開始(こちらは「ダークレイン」と同様、各コミックブックの表紙に「ヒロイック・エイジ」のロゴが冠され、それぞれのヒーローが迎えた新たな時代について描いていく)。

 で、この「ヒロイック・エイジ」とタイインする形で、『ニューアベンジャーズ』の系譜を継いだ新シリーズ、その名も『ニューアベンジャーズ(vol. 2)』が創刊される(そのまんまだ)。こちらもライターは引き続きブライアン・マイケル・ベンディスが担当。

 で、この『ニューアベンジャーズ(vol. 2)』の最初のストーリーアークとして#1-6(8/2010-1/2011)で展開された「ポゼッション」編で、ドクター・ストレンジに思いがけない転機が訪れる。

 ──キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソーらによってアベンジャーズが再編成される一方で、ルーク・ケイジを中心とした今一つのチーム、ニューアベンジャーズも始動する。ケイジによって新メンバーが揃えられた直後、チームはドクター・ブードゥー、ドクター・ストレンジ、ダイモン・ヘルストームらと共に、アガモットの目を狙う謎の存在との戦いに巻き込まれてしまう。
 やがて、近年の時空を揺るがす戦いによって超自然界のパワーバランスが崩れていたこと、ヴィシャンティ(アガモット、ホゴス、オシュターの、3柱の神性による同盟。ソーサラー・スプリームに加護を与える)からアガモットが追放されていたこと、それ故にアガモット当人が、自身の魔力を取り戻すためにアガモットの目を求めていたことが判明する。
 最終的に、ドクター・ブードゥーは、アガモットに決闘を申し出、勝者が「目」を手にすることとする。で、色々あって、ブードゥーは、アガモットの手に「目」が渡るのを阻止するため、アガモットを道連れに自爆し、アガモット、ドクター・ブードゥー、アガモットの目が失われるのだった。そしてブードゥーの兄ダニエルの霊魂は、ストレンジのためにブードゥーが死んだとして、彼への復讐を誓うのだった……。

 こちらが、「ポゼッション」編を全話収録した単行本、『ニューアベンジャーズ バイ・ブライアン・マイケル・ベンディス Vol. 1』。


 そんな訳で、ベンディスが『ニューアベンジャーズ』の前シリーズで地道に紡いできた、ドクター・ストレンジ、ソーサラー・スプリーム、ドクター・ブードゥー絡みの話は、新シリーズの冒頭で、いきなりブードゥーが死ぬという急展開で、それ以上の発展が止まってしまう。

 なぜこんなことになったかは不明である。元々ドクター・ブードゥーのソーサラー・スプリーム継承をごく短期間で終わらせるつもりだったのかもしれない。あるいは、ブードゥーがソーサラー・スプリームになる展開が、思ったほどに読者の興味を惹けなかったのかもしれない。

 ともあれ新ソーサラー・スプリーム、ドクター・ブードゥーは、リミテッド・シリーズ1作と、幾度かのゲスト出演をした程度でマーベル・ユニバースから退場した。

 他方、ドクター・ストレンジは、続く『ニューアベンジャーズ(vol. 2)』#7(2/2011)から、正式にニューアベンジャーズのメンバーとなり、まだ完全に魔力が回復しきっていないながらも、チームの重鎮として活躍を続けていく(なお、ブードゥーの死後も「ソーサラー・スプリーム」の座は空位のまま)。

 かくて、「良い感じのサポートキャラ」から「『アベンジャーズ』誌の正規のレギュラー」に昇格したストレンジは、その後2011年の大型クロスオーバー『フィアー・イットセルフ』(メインライターはマット・フラクション)や、2012年の大型クロスオーバー『アベンジャーズvs. X-MEN』(メインライターはベンディス)にもニューアベンジャーズのメンバーとして参加していく。

 こちらは『フィアー・イットセルフ』とタイインした『ニューアベンジャーズ』#14-16と、『アベンジャーズ』#13-17を収録した単行本『フィアー・イットセルフ:アベンジャーズ』。


 なお、『フィアー・イットセルフ』のタイインとして刊行された一連のリミテッド・シリーズの一つ『フィアー・イットセルフ:ザ・ディープ』#1-3(8-10/2011)で、ストレンジはサブマリナー、シルバーサーファー、シーハルク(ライラ)、ロア(アラニ・ライアン、サブマリナーと親しい若手ミュータント)と共にディフェンダーズを再結成。サブマリナーの仇敵アトゥマ(『フィアー・イットセルフ』の黒幕であるサーペントの加護を受けパワーアップしている)と戦っている。

 上は『フィアー・イットセルフ:ザ・ディープ』全3号と、『フィアー・イットセルフ:アンキャニー・X-フォース』全3号をカップリングした単行本『フィアー・イットセルフ:アンキャニー・X-フォース/ザ・ディープ』。


 こっちは『アベンジャーズvs. X-MEN』とのタイインを全話収録した『ニューアベンジャーズ バイ・ブライアン・マイケル・ベンディス Vol. 3』。『ニューアベンジャーズ』#24-30を収録。


 また、『フィアー・イットセルフ』が完結した直後の2011年末には、新『ディフェンダーズ(vol. 4)』オンゴーイング・シリーズが創刊されている。同作は、ドクター・ストレンジ、サブマリナー、シルバーサーファー、レッドシーハルク、アイアンフィストの5人が新たにディフェンダーズを創設し(後にブラックキャットも加入)、時空を揺るがす事件に当たる内容で、ライターに『フィアー・イットセルフ』のメインライターだったマット・フラクションを迎え、アーティストには当時の一線級のアーティストであるテリー・ドッドソンを充てるなど、そこそこ力の入った企画だったが……わずか12号で終了した(どうも近年の『ディフェンダーズ』は、12号を越せない)。

 この2012年度版『ディフェンダーズ』は、『ディフェンダーズ バイ・マット・フラクション』全2巻にまとめられている。収録作品は1巻が#1-6、2巻が#7-12を収録。


 なお、『ディフェンダーズ(vol. 4)』の終了から3ヶ月後に、新たなオンゴーイング・シリーズ『フィアレス・ディフェンダーズ』#1(4/2013)が創刊されているが、こちらは元ディフェンダーズのバルキリーが創設した女性チームであり、ドクター・ストレンジは特に関係ない。ちなみにこっちは13号で終了した(前シリーズよりも1話分頑張った)。

 上は全2巻が刊行された『フィアレス・ディフェンダーズ』の単行本1巻目。#1-6までを収録。


 閑話休題。

 さて、ベンディスによる大型クロスオーバー『アベンジャーズvs.X-MEN』の完結後、『ニューアベンジャーズ(vol. 2)』#31-34(12/2012-1/2013)と『アベンジャーズ(vol. 4)』#31-34(12/2012-1/2013)で展開された長編ストーリーライン「エンドタイムズ」編をもって、『ニューアベンジャーズ(vol. 2)』と『アベンジャーズ(vol. 4)』誌はひとまず完結することとなる──というか、2005年の『ニューアベンジャーズ』創刊以来、連綿と続いていたブライアン・マイケル・ベンディスによる『アベンジャーズ』関連誌の超長期連載が完結することとなる。

 そしてこの「エンドタイムズ」編の中で、『ニューアベンジャーズ(vol.  2)』の最初のエピソード以来、放置されていたドクター・ブードゥーの兄ダニエルの霊魂が再登場。ダイモン・ヘルストームを殺し、更にニューアベンジャーズのメンバーに憑りついて、ドクター・ストレンジへの復讐を遂行していく。

 で、紆余曲折の末に、ドクター・ストレンジは暗黒の魔術を用いてダニエルの怨霊を祓うことに成功。と、その直後、ストレンジの前にダイモン・ヘルストームの霊魂と、彼の師であるエンシェント・ワンの霊魂が現われる。
 そしてエンシェント・ワンは、今回の事件を仲間を傷つけることなく切り抜けたこと、ダニエルを倒す上で、暗黒の魔術に飲み込まれなかったこと、ソーサラー・スプリームの称号を返上したストレンジが、それでもなおこの次元を守ろうとし、ヒーローとして無償の献身を行ったことなどを称え、彼に修復したアガモットの目とクローク・オブ・レビテーションを与え、ソーサラー・スプリームに復帰させるのだった。

※この辺の描写だが、なぜ(一応、先代ソーサラー・スプリームとはいえ)一介の魔術師に過ぎないエンシェント・ワンがストレンジを「ソーサラー・スプリーム」に任命できたのか、なぜアガモットの目が元通りになっていたのか等、不可解な描写があるが、おそらくは、ソーサラー・スプリームを加護するヴィシャンティが関与していると思われる。

・根拠:「エンドタイムズ」の作中で、ヘルストームの霊魂が、別次元(あの世)から一連の事件の顛末を観察し、「この次元にはソーサラー・スプリームが必要である」ことを指摘すると、彼の傍らにいる何者かが「我々もその意見に同意しよう(We agree.)」と返事をしている。ここで「我々も」と言っていることから、おそらくはこのセリフを言っているのはエンシェント・ワンではなく、ヴィシャンティの面々であろうと推測される。

 こちらは「エンドタイムズ」編の『ニューアベンジャーズ』パートのみを収録した単行本『ニューアベンジャーズ バイ・ブライアン・マイケル・ベンディス Vol. 5』。『ニューアベンジャーズ(vol. 2)』#31-34を収録。


 ちなみに、本エピソードの時点でアガモットの生死は不明だが(アガモットの目が復活した以上は、その魔力の源であるアガモットも復活したと考えるのが筋だが)、一応、2022年の『ストレンジ・アカデミー』#16(4/2022)の冒頭で、ヴィシャンティの一員としてアガモットが再登場しているので、『ニューアベンジャーズ(vol. 2)』でドクター・ブードゥーに倒されて以降、何らかの事情で復活を遂げた模様。

 こちらは該当号を収録した『ストレンジ・アカデミー:ウィッシュ・クラフト』。『ストレンジ・アカデミー』#13-18を収録。

 なお、『ストレンジ・アカデミー:ウィッシュ・クラフト』は、2024年1月に小学館集英社プロダクションから邦訳版も発売されている(宣伝)。


 ついでに言えば、ドクター・ブードゥーとダニエルの霊魂は、2014年のマーベルの大型イベント『アベンジャーズ&X-MEN:アクシズ』(メインライターはリック・リメンダー)の作中で、ドクター・ドゥームがとある「亜神(Demigod)」と取引(魂なりを売るレベルだろうが詳細は不明)をしたことで復活を遂げた。またその直後、物語の重要キャラクターである“悪に転じた”スカーレット・ウィッチにダニエルが憑依することで、彼女を無力化する殊勲を挙げている。


 上は『アクシス』単行本。キャプテン・アメリカの仇敵レッドスカルが、「レッド・オンスロート」に化身し、アベンジャーズ&X-MEN連合軍を蹴散らす。これに対して、マグニートーは、ドクター・ドゥーム他の悪人たちを集め、最終決戦を挑む。この時、ドゥームとスカーレット・ウィッチが用いた反転魔力の影響で、ヴィランたちが善人に、ヒーローたちが悪人になってしまうという変事が生じる……という話。


 話を戻す。

 さて、『アベンジャーズ(vol. 4)』と『ニューアベンジャーズ(vol. 2)』の完結をもって、長らく続いたブライアン・マイケル・ベンディス期が終了し、2013年初頭から、新たにジョナサン・ヒックマンをメインライターに迎えた『アベンジャーズ(vol. 5)』(2/2013)と、『ニューアベンジャーズ(vol. 3)』(3/2013)が創刊される。

 で、このうち『ニューアベンジャーズ』誌は、タイトルに反してニューアベンジャーズというチームは登場せず、代わりにドクター・ストレンジ、アイアンマン、ミスター・ファンタスティック、ブラックボルト、サブマリナーらに加え、新メンバーとしてブラックパンサーやビースト(『アベンジャーズvs.X-MEN』で死亡したプロフェッサーXの後任)、キャプテン・アメリカ(すぐに脱退)を加えた新生イルミナティが堂々の主役を務める話であった。で、当然ながら、ドクター・ストレンジはチームの知恵者として活躍することとなる。

 この新シリーズの最初のエピソードでは、平行世界同誌が衝突する超宇宙的災害「インカージョン」に際し、イルミナティの面々があらゆる手を尽くしてアース-616を守るという物語が描かれた。

 こちらは最初のエピソードを収録した、『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』。『ニューアベンジャーズ(vol. 3)』#1-6を収録。ヴィレッジブックスから邦訳版も出ていた。


 続く『ニューアベンジャーズ(vol. 3)』#7-12(8/2013-1/2014)は、2013年度の大型イベント『インフィニティ』(メインライターはジョナサン・ヒックマン)とのタイイン。

 『インフィニティ』本編は、深宇宙にて超宇宙的存在「ビルダーズ」との戦いにキャプテン・アメリカらアベンジャーズ本隊が赴いた隙を突き、サノスと腹心ブラックオーダーに率いられる軍勢が地球への侵攻を開始。これに対し、イルミナティの面々が立ち向かう……という話。『アベンジャーズ』のタイインではビルダーズとの戦い、『ニューアベンジャーズ』のタイインではサノスの軍勢との戦いの詳細が、それぞれ描かれていった。

 なお、『インフィニティ』本編でのドクター・ストレンジは、サノスが求める「サノスの息子」の居場所を探知するものの、サノス配下のエボニー・マウにその情報を奪われ、記憶を消される(『インフィニティ』#3)という物語の転機となる事件に関わった他、イルミナティの面々と共に、ワカンダでの最終決戦に参加もしている。

 こちらは『インフィニティ』とのクロスオーバー分を収録した単行本『ニューアベンジャーズ:インフィニティ』。ちなみにヴィレッジブックスからは、『インフィニティ』本編に、『アベンジャーズ』誌と『ニューアベンジャーズ』誌のタイイン話を時系列に沿ってまとめて、全3巻の日本オリジナル編集の邦訳単行本が刊行されていた。


 あと、『インフィニティ』合わせで創刊された新オンゴーイング・シリーズ『マイティ・アベンジャーズ(vol. 2)』の#1-3(11/2013-1/2014)では、ゲスト出演したドクター・ストレンジが、エボニー・マウに操られ、ニューヨーク市市街に邪神シュマ=ゴラスを召喚するという、中々に派手な展開があった。

 こちらがその単行本『マイティ・アベンジャーズ:ノー・シングル・ヒーロー』(なお、同シリーズのライターはアル・ユーイング)。『インフィニティ』タイインの#1-3と、同時期の『インヒューマニティ』イベントとタイインした#4-5を収録(『インヒューマニティ』は、『インフィニティ』でのサノスとインヒューマンズとの戦いの結果、地球全土にインヒューマンズの超能力の源であるテリジェン・ミストが撒かれてしまい、新たなインヒューマンズが誕生する……という話。新ミズ・マーベル/カマラ・カーンも、このイベントを期に超能力を得ている)。


 で、続く『ニューアベンジャーズ』#13-23(2-10/2014)でも、引き続きイルミナティはインカージョンに対処していき、アース-616を守るために、さらなる奮戦・秘闘を繰り広げていく。
 他方、ドクター・ストレンジは、イルミナティの他の面々が重大な決断をしているのに、己はそれらを見ているだけなことに耐えかね、伝説の「レゾリュート・スローン」に自身の魂を売ることで、インカージョンを止め得る神域の力を手に入れようとする……が、スローンの管理者である「ザ・レディ」から、「お前の魂には欠けがある故、取引の材料になりえない」と告げられ、計画は頓挫する。

 こちらは#13-17を収録した『ニューアベンジャーズ:アザー・ワールズ』。ストレンジは#14でスローンを訪れ、ラストで彼の魂を全て売ることを宣言するが、取引きの結果は描かれぬまま誌面からしばらく退場する。

 こっちは続刊で#18-23を収録した『ニューアベンジャーズ:パーフェクト・ワールド』。ストレンジは#18でアース-616に帰還し、そのままイルミナティの面々とアース-4290001を滅亡させる任務に赴く。で、#20の冒頭でストレンジが取引きに失敗した経緯と、代わりに彼が禁忌の魔導書「ブラッド・バイブル」に手を出したことが説明される。そして続く#21で、アース-4290001の地球を守るヒーローらは、ストレンジが禁術によって呼び出した妖魔によって滅ぼされる。
 しかし、いざアース-4290001を破壊する段になり、イルミナティの面々は倫理的な葛藤に陥り、最終的にサブマリナーが破滅爆弾のスイッチを押して滅亡を回避したものの、イルミナティは解散してしまう……。が、その直後、次のインカージョンがわずか8時間後に迫っていることが判明。これ以上、他の平行宇宙を破壊することを望まないイルミナティの面々は、滅びを受け容れ、静かにその時を待つが……。
(ちなみにヴィレッジブックスの『ニューアベンジャーズ』の邦訳は、この第3、4巻は飛ばされている)


 で、続く『ニューアベンジャーズ』#24-33(11/2014-6/2015)と、『アベンジャーズ(vol. 5)』#35-44(11/2014-6/2015)で、長編クロスオーバー・ストーリーライン、「タイム・ランズ・アウト」編が展開される。

 ──インカージョン現象を止めるために密かに他の平行世界を滅ぼしていたイルミナティの所業を知った、キャプテン・アメリカ率いるアベンジャーズは、イルミナティの面々を「敵」と断じて捕らえようとする。一方、アベンジャーズのサンスポットは、インカージョン現象の原因を断つことを目論み、オーディンサン(元ソー)、ハイペリオンら有志と共にニューアベンジャーズ(マルチバーサル・アベンジャーズとも)を創設し、次元の彼方に旅立つ。他方、サブマリナーは、サノスらを味方に引き入れ、独自にインカージョン現象を阻止するチーム、「カバル」を創設し、アース-616と衝突しようとする他の平行世界を躊躇なく滅ぼしていく。そんな中、独自に探索を行うドクター・ドゥームは、全ての元凶にして、多元宇宙の彼方に潜む超宇宙的存在ビヨンダーズに迫る……てな感じのてなもんやの末に、遂に最後のインカージョンが起き、アース-616は不可避の滅亡の時を迎える。

 作中でのドクター・ストレンジは、物語の中盤で、インカージョンを止めることを目的とした集団「ブラック・プリースト」(インカージョンの焦点である2つの平行世界の「地球」を共に破壊することで、双方の宇宙の滅亡を防ごうとする勢力)のリーダーとなっていたことが判明。サンスポット率いるニューアベンジャーズと合流したストレンジは、共にインカージョンの原因とされるアイボリー・キングスと、“偉大なる破壊者”ラブム・アラルの双方を倒す任務に赴く。
 ニューアベンジャーズがアイボリー・キングスの下に向かう一方(※その後全滅した)、ストレンジとブラック・プリーストらはラブム・アラルの拠点を襲撃し……彼一人を除いて全滅する。そしてストレンジは、ラブム・アラルの正体が、時間と空間を超えてビヨンダーズと敵対してきたドクター・ドゥーム(と、相棒のモレキュールマン)であることを知る。

 この「タイム・ランズ・アウト」編は、『アベンジャーズ:タイム・ランズ・アウト』全4巻の単行本としてまとめられている(上はその1巻目)。ちなみにヴィレッジブックスからも「タイム・ランズ・アウト」の邦訳版が刊行されていたが、こちらは全3巻であった(収録内容は一緒)。

 で、「タイム・ランズ・アウト」編の完結と共に、『アベンジャーズ(vol.5)』、『ニューアベンジャーズ(vol. 3)』は終了。物語は翌月から開始された2015年度の大型クロスオーバー『シークレット・ウォーズ』#1-9(7/2015-3/2016、メインライターはジョナサン・ヒックマン)に続く。

 この『シークレット・ウォーズ』#1のラストで、アース-616は消滅。同世界を舞台としていた全てのオンゴーイング・シリーズも終了する。これを受け、続く数ヶ月に渡り、マーベル・コミックス社は通常のコミックの刊行を停止し、しばらくの間、『シークレット・ウォーズ』とそのタイイン・タイトルのみを刊行していくという、思い切った展開をしていく(その後、2015年10月から「オールニュー・オールディファレント・マーベル」と銘打ち、「『シークレット・ウォーズ』後の再生したアース-616」を舞台にした各ヒーローの新オンゴーイング・シリーズが一斉に創刊されていく)。

 で、「タイム・ランズ・アウト」の末期に、ドクター・ストレンジとモレキュールマンを伴い、超宇宙的存在ビヨンダーズ(アイボリー・キングス)との最終決戦に赴いたドクター・ドゥームは、ビヨンダーズを滅ぼすことに成功し、彼らの持つ全能のパワーを奪い、宇宙を再生する。
 この結果、誕生したドゥームの統治する新世界「バトルワールド」においてストレンジは、「かつてあった世界」とその滅亡の記憶を持つ、ごくわずかな人間の一人となる。そしてストレンジは、偉大なる統治者ゴッドエンペラー・ドゥームの腹心、シェリフ・スティーブン・ストレンジとして、新世界の平定に尽力する。
 が、やがてインカージョンを生き延びていたミスター・ファンタスティック、スパイダーマン(マイルス・モラレス)らヒーローらの一団と、サブマリナー、サノスらカバルがバトルワールドに顕現。かつての世界の生き残りである彼らが、世界再生の鍵となることを悟ったストレンジは、彼らを自身の拠点にかくまうが、ほどなくしてドゥームに彼らの存在を知られてしまう。希望を消さぬため、ストレンジは魔法で一同を遠方へと転送し、ドゥームに処刑されるのだった(『シークレット・ウォーズ』#4)。

 その後、紆余曲折を経て、『シークレット・ウォーズ』#9(最終話)で、ドクター・ドゥームは最大のライバルであるミスター・ファンタスティックに敗北し、世界は元の姿を取り戻すのだった(ドクター・ストレンジも復活)。

 こちらは『シークレット・ウォーズ』の単行本。リミテッド・シリーズ全9話と、『フリー・コミックブック・ディ2015:シークレット・ウォーズ』#0に掲載されたプロローグを収録。かつてはヴィレッジブックスから邦訳版も刊行され、『インフィニティ』、『タイム・ランズ・アウト』、『シークレット・ウォーズ』のヒックマン3部作のトリを飾った。


 ……で、前述したように、『シークレット・ウォーズ』と平行して、2015年10月から始まった「オールニュー・オールディファレント・マーベル」の新創刊タイトルの一つとして、ジェイソン・アーロンによる『ドクター・ストレンジ(vol. 4)』#1(12/2015)が創刊。ドクター・ストレンジは20年の雌伏の時を経て、久しぶりに新オンゴーイング・シリーズを獲得したのだった。

 ちなみに「オールニュー・オールディファレント・マーベル」の一環として、
・『オールニュー・オールディファレント・アベンジャーズ』(ライター:マーク・ウェイド)
・『ニューアベンジャーズ(vol.4)』(ライター:アル・ユーイング)
・『アンキャニィ・アベンジャーズ(vol. 3)』(ライター:ゲリー・ダガン)
 が、創刊されたが、いずれのチームにもストレンジは参加していない(あと『イルミナティ』なる新オンゴーイング・シリーズも創刊されたが、こちらはフッドが創設したヴィラン・チームで、ストレンジらは関係ない)。

 ……まあ、アーロンの『ドクター・ストレンジ』で、「この世界の魔法が消滅する!」的な展開をする以上、『アベンジャーズ』関連誌で顔を出して、魔法でサポートさせてるのはどうか、的な判断がなされたのだろう。

 以上。ストレンジの不遇の歴史を語るつもりが、『ニューアベンジャーズ』関連誌の歴史の流れを長々と語ってしまい(いや待て、前回のエントリよりも文字数多いぞ!?)、疲れたのでこの辺で終わる。



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