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■アルティメッツ:ホームランド・セキュリティ

■the Ultimates: Homeland Security
■Writer: Mark Millar
■Penciler: Brian Hitch
■翻訳:クリストファー・ハリソン
■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BK27S9XY

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第21号は、マーク・ミラー&ブライアン・ヒッチによる『アルティメッツ』の第2巻目。

 収録作品は、『アルティメッツ』#7-13(第1シリーズ最終回まで)。

 前回の第1巻のエントリで、『アルティメッツ』のシリーズの流れについては一通り解説したので、本エントリでは特に語ることはない。

 ……しょうがないので、本作の主要登場人物であるアイアンマンことトニー・スタークの設定の変遷について、解説でもしたく思う(まあ、筆者の趣味だ)。


 さて、アルティメット・ユニバース版のアイアンマン(トニー・スターク)は、そもそも『アルティメット・チームアップ』#4-5(7-8/2001)で初登場した。同誌は「スパイダーマンとアルティメット・ユニバースのヒーローが共闘する」というコンセプトの雑誌で、作中でゲストのヒーローのオリジンも語ることで、生まれたてのアルティメット・ユニバースの世界観を拡張する狙いもあった(ライターは、『アルティメット・スパイダーマン』と同じく、ブライアン・マイケル・ベンディスが担当)。

 で、この#4-5は、クラシカルな画風で知られるマイク・オールレッドがゲスト・アーティストとして参加したこともあって、作中に登場するアイアンマンは、シルバーエイジ期のアイアンマン・アーマー・モデル3をモチーフとしたスーツで描かれていた(新世代の読者の獲得を目指して立ち上げられた「アルティメット」レーベルの新アイアンマンのデザインとしては、少々保守的な感は否めない)。

 同号で語られた、アルティメット・ユニバース版アイアンマンのオリジンは、大よそ以下のような具合であった。

・トニー・スタークは「全てのアメリカの家庭が、その製品の恩恵を受けている」と称される世界的大企業スターク・インダストリーズを一代で立ち上げた人物で、同社のチェアマン兼、主任科学者を務める。──なお、オリジナルのマーベル・ユニバース(アース-616)のトニー・スタークは、父ハワード・スタークからスターク・インダストリーズ社を継いでいる。

・母親のマリアは普通の教師。父親の素性は言及なし(本話の時点では、名前がハワードかも不明)。トニーは幼い頃から頭脳が優れ、クイズ番組で賞金を稼いでちょっとした資産を築いていた。

・長じたトニーはハーバード大学に進学。同大学の学生であったリード・リチャーズとも知己になる(後に正式に誕生するアルティメット版ファンタスティック・フォーのリード・リチャーズは、トニーの一回り以上年下になるので、この設定はなかったことになっている模様)。トニーは在学中に初期のアイアン・テック・アーマー用のプログラミング言語を開発。しかし3年時に大学を辞め、スターク・インダストリーズを起業する。

・いつ頃からかは不明だが、トニーは致命的な脳腫瘍を発症。生化学の技術を盛り込んだアーマーを開発し、それを定期的に装備することで、延命を図っていく。

・本編の10年前、従弟であり共同経営者のモーガン・スタークと共にグアテマラを訪れたトニーは現地のテロリスト「レッド・デビル」の人質にされる(休暇でグアテマラに来た彼を、「独裁政府に武器を売りに来た」と勘違いしたレッド・デビルに拉致された)。8ヶ月間に渡る抑留生活の合間にモーガンが殺され、トニー自身もアーマーによる延命措置が不能となっていたため死に瀕する。

・意を決したトニーは、レッド・デビルに協力すると見せかけ、彼らの機材・施設を用いて、試作型のリパルサー・レイを開発。それを用いてレッド・デビルを倒し、他の人質と共に脱出する。

・解放後、思うところのあったトニーは、2年ほど表舞台から姿を消す。その間にリパルサー、ユニビーム他の武器を組み込んだアイアンマン・アーマ―を開発。正体を公表した上で、ヒーロー・アイアンマンとして活動を開始する(なおデビュー当初から、モデル3系の赤と金のアーマーを着用)。

※要は、アルティメット・ユニバース版アイアンマンは、アルティメット・ユニバース版スパイダーマンがデビューする約7年と4ヶ月も前からヒーロー活動を行っている大ベテランということになる。

・以降、アイアンマンは副大統領の暗殺を防ぐなどの活躍を見せる一方で、会社のマスコットとしても露出していき、彼をモチーフとしたマーチャンダイジングも大成功する。近年には、アイアンマンをモデルにした映画『I. M. 1』(トム・クルーズ主演、ジーン・ハックマン出演)がヒットしたことで、その名声は伝説的なものとなる。

 ……と、言った具合。

 アイアンマン・アーマーの開発に係るくだりは、オリジナルの「ベトナム戦争で現地のゲリラに拉致され、アイアンマン・アーマーを開発して脱出」というオリジンを、グアテマラの反政府ゲリラに置き換えて語り直したものだが、アイアンマン・アーマーを開発する代わりに、リパルサー・レイを内蔵したガントレットのみを開発と、リアリティを盛り込もうとして、少々スケールが小さくなっている感はある。

 また、オリジナルのオリジンでの、「ゲリラの地雷の爆発に巻き込まれ、心臓近くに金属の破片が食い込んだため、電磁石を内蔵した胸部アーマー(アイアンマンの装甲も兼ねる)を常に身に着けなければいけない」という、トニーの“悩み”は、アルティメット・ユニバース版では「ゲリラに拉致される以前から致命的な脳腫瘍を患っており、その治療のために生化学技術を組み込んだアーマーを開発した」という具合に変化している。何故脳腫瘍の治療にボディアーマーを着用しなければならないかが良く分からないし、オリジナルのアイアンマンの「アーマーの電源が切れたら死に瀕する」的な切迫感もないので、個人的にはいまひとつピンとこない弱点にされた感はある。

 ちなみに、『アルティメット・マーベル・チームアップ』誌は、2001~2002年にかけて全16号が刊行され、全3巻の単行本が刊行されたのだが、この単行本、なぜか『アルティメット・マーベル・チームアップ』#6-8の3話が未収録という、なかなか困った仕様で(それらは同時期に出たハードカバー単行本のみに収録された)、その中途半端な仕様が祟ってか、電子書籍にもなっていない。

 こちらが『アルティメット・マーベル・チームアップ』単行本の1巻目。『アルティメット・マーベル・チームアップ』#1-5を収録。ちなみにリンク先のページの「Kindle版(電子書籍)」のボタンを押すと、『アルティメット・マーベル・チームアップ』の電子版単行本のページではなく、単話販売されている『アルティメット・マーベル・チームアップ』#1のページに飛ばされる。飛ばされた先で「なんか安い!」とクリックしないように(数話まとめた単行本でなく、1話だけの値段なので、そりゃ安い)。

 幸い、2006年に『アルティメット・マーベル・チームアップ』の全話を1冊にまとめた厚い単行本『アルティメット・マーベル・チームアップ アルティメット・コレクション』が刊行され、こちらは電子書籍化もされている。収録作品は『アルティメット・マーベル・チームアップ』#1-16と、特別号『アルティメット・スパイダーマン・スーパースペシャル』#1。

 まあ、Kindleでは、『アルティメット・マーベル・チームアップ』の単話ずつの発売もしているので、アルティメット・アイアンマンの話を読みたければ、単話版の#4-5だけ買えば済む話ではある(ミもフタもない)。

 閑話休題。


 その後、アイアンマン/トニー・スタークは、『アルティメット・スパイダーマン』#16(2/2002)に再登場した……と言っても、作中でピーター・パーカー/スパイダーマンが眺めていたデイリー・ビューグル新聞社のモニターに、1コマ映っていただけだが。

 一応、単話版『アルティメット・スパイダーマン』#16へのリンク。アルティメット・アイアンマンの出演イシューの完全フォローを目論む方に(滅多にいないだろうが)。

 そしてその翌月、『アルティメッツ』誌が創刊され(創刊号カバーデート:3/2002)、トニー・スターク/アイアンマンは同作の主要登場人物の一人として、本格的にアルティメット・ユニバースでの活動を開始する。同作での彼の設定は『アルティメット・マーベル・チームアップ』のものを引き継ぎつつも、物語の進行と共にいくらか発展を遂げていく。

 具体的には、以下のような具合の変化をしている。

・『アルティメッツ』#2で初登場した、本作版のアイアンマン・アーマー(アイアン・テック・アーマーとも)は、ブライアン・ヒッチが1からデザインした、アルティメット・ユニバース独自のデザインになった。

・具体的には、ヘルメットの形状が独特のものとなり(本エントリのヘッダー画像を参照)、全体のプロポーションも、胴体が膨らんでいたり、脚部が大型化している(推進機が内蔵されているのだろう)など、素直な人間型を外したものとなった。またアーマーの色はグレーをベースに、上半身の一部に赤の差し色が加わり、フェイス部が金色という配色となる(なお作中では、スターク社に陳列されている旧型アイアンマン・アーマーの中に、『チームアップ』版のアーマーが1コマ描かれている)。

・また、アイアンマン・アーマーの運用・維持には、それなりに大掛かりな施設と、相応のスタッフが関わっていることが描写された(『チームアップ』では、出先でトニーが手軽にアーマーを装着していたので、技術的には退化しているようにも見える)。またアーマー内に(衝撃緩衝用と思しき)緑色のゲルが充填されているなどのディテールも挿入される。

・トニーの飲酒シーンがたびたび挿入され、彼が(オリジナルのトニーのように)飲酒により将来的にトラブルを招くであろうことが、ほのめかされた。

・トニーの「脳腫瘍」の設定は継承され、彼の余命は「半年から5年」であることが判明する。彼がアルティメッツに参加し、シールドを通じてアイアン・テックの一部を解放し、常に酒に溺れているのは、自身の寿命が長くないから……という具合に、脳腫瘍は本作のトニーの行動の動機として説明される(とはいえ、こちらの作中でも「自分は脳腫瘍を患っている」とセリフで説明するだけで、あんまり切迫感は伝わってこない)。

 以上。大体にして、アイアンマンの設定をリアルに(現代的に)するため、運用面のディテールを足しつつ、トニーのドラマを動かすために脳腫瘍の設定を強調した感じの補完になる。

 ただし、その後の『アルティメッツ』の物語で、トニーの脳腫瘍の話はそこまで重要なものとして描かれなかった(忘れた頃に、モノローグで「脳腫瘍が……」とか呟く程度)。

 ……それから10年後の『アルティメット・コミックス:アルティメイツ』の作中で、「実は脳腫瘍は、トニーとは別の自我を持つ生命体だった! なおトニーの寿命には特に影響してなかった!」なんてぇ設定が唐突に開陳され、さらに後には、「トニーの脳味噌の中には神秘の宝珠インフィニティ・ジェムが隠されていた! それを取り出す過程で脳腫瘍は除かれた!(脳腫瘍は手術不能と言われていたが、取り出したのが世界最高の天才のリード・リチャーズだったので、まあ大丈夫だったのだろう)」みたいな話も描かれ、それで脳腫瘍関連の話は終わった。


 さてその後、『アルティメッツ』は2004年に刊行された#13(4/2004)でひとまず完結し、同年末から、新シリーズ『アルティメッツ2』が始動する(創刊号カバーデート:2/2005)。

 で、これに合わせ、2005年春から、アルティメット・ユニバース版アイアンマンの正式なオリジンを描いたリミテッド・シリーズ『アルティメット・アイアンマン』#1-5(5, 7, 9, 11/2005, 2/2006)が刊行された。

 同作のライターには、人気SF作家のオースン・スコット・カードが招かれた。彼はアイアンマンの物語を大胆に(時には大胆過ぎるほどに)換骨奪胎し、オリジナリティに溢れつつ、アルティメット・ユニバースの世界観にもいくらか合致したオリジンを生み出して見せた。

 というか、この新オリジンは、カードの意欲が溢れすぎた結果、『アルティメット・マーベル・チームアップ』版のものとは全く異なるものとなった。

 具体的には、

・トニーの本名はオリジナルの「アンソニー(トニー)・スターク」から、「アントニオ(トニー)・スターク」になった。作中では彼の母、マリア・スタークの弟(若くして死んだ)の名を継いだと言及される。

・トニーがスターク・インダストリーズを立ち上げた、という従来の設定はなかったことになり、オリジナル同様、トニーの父ハワード・スタークが、スターク・インダストリーズ社の先代の経営者となった。

・またトニーの母親マリアは教師ではなく、優秀な遺伝子学者となった。さらにはハワードには、マリアの前にロニという女性と結婚していたという設定も加わる。

・このロニ・スタークは、有り体に言えば悪女であり、ハワードが「バイオテック・アーマー(後述)」の研究に没頭して会社の経営を傾かせているのを見て取るや、スタークと離婚し、さらにスターク社のライバルであるスターン・コーポレーションの経営者ゼベディア・スターンと再婚し、スターク・インダストリーズを買収してしまう(『アルティメット・アイアンマン』の物語の序盤は、ハワードの発明したバイオテック・アーマーを狙うゼベディアが、ハワードとその息子トニーの生命を陰湿に狙う企業もののサスペンスの側面も持つ<そっちに紙幅を割かれてしまい、トニーのオリジン話があまり進まなかったりもしているが)。

・トニー・スタークは、母マリアが妊娠中に、とあるウィルス(生物の全身の細胞に、胚細胞並みの再生力を持たせるもの)に感染した影響で、生まれついての超人という設定になった。

・具体的には、トニーの全身には、未分化の神経細胞が張り巡らされ、全細胞を脳細胞として活用できる。結果、彼は生まれついての大天才となった。また、彼の全身の細胞は、非常な速度で再生する(四肢を欠損しても、数日で再生できる)。

・ただしその肉体は、神経がむき出しになっているのも同然で、外気に触れるだけで全身が重度の火傷並みの痛みを受ける。

・この状況を改善すべく、ハワード・スタークは、誕生直後の息子の身体を、開発中のバイオテック・アーマーで覆った。このアーマーの正体は、特殊な能力を持つバクテリアで、皮膚よりも薄い厚さで身体を覆っているにも関わらず、外気からトニーを完全に隔離してくれる上、バットで殴る・アイスピックで突くなどの、そこそこの暴力から着用者を守る機能を持っていた。ただ、バクテリアは着用者の皮膚を食うため、常人では3時間以上はまとえなかったのだが、驚異的な再生能力を持つトニーは、バクテリアに食われた皮膚を即座に再生できるため、常時アーマーを着ていられた。

・また、2004年創刊の『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の設定が取り入れられ、少年~青年時代のトニーは、天才少年を集める政府のシンクタンク「バクスター・ビルディング」に所属し、自身の科学的才能を発揮していた、という設定になった。

・彼がまとうアイアンマン・アーマーは、少年時代~青年期にかけてトニーが段階的に開発していったもの。トニーの学生時代の友人ジム・ローズとそのガールフレンドのニファーラもバクスター・ビルディングに所属し、トニーと平行して「ウォーマシン・アーマー」を開発していた。

・作中のアイアンマン・アーマーは、アメフトのプロテクターに回路を取り付けたもの、ロボットと間違えられるほどの大きさの試作モデルなどを経て、おなじみのアイアンマン・アーマーに近いものに進化していく。

・ちなみに「テロリストにさらわれて、アイアンマン・アーマーを開発」といったおなじみのオリジン要素は本バージョンには存在しない(逆に、アメリカ政府の要請で、アイアンマン・アーマーを着用して中東のテロ組織のアジトに乗り込み、組織を壊滅させている)。

・後々にトニーは、バクテリアに加えてナノマシンを体内に持つようになり、手の届く距離のメカの分析・ハッキングなどをさせられるようになる。

・なお、これまでのアルティメット版アイアンマンのオリジンに係る「脳腫瘍」の要素は作中では一切言及されない。「脳腫瘍の治療のためにアイアンマン・アーマーを開発した」という、従来のアーマーの開発経緯も無視された。

 以上。

 その、スキンタイトなパワードスーツを着用した、アイアンマンという、少々リアルさを追求しづらいヒーローに説得力を与えるために、

・トニーは普段からバイオテック・アーマーを着用しているので、軽度のダメージは無効化できる。

・その上、トニーは四肢の欠損程度は簡単に再生できる。

 という設定を導入し、むしろトニーの肉体の方を強化することで、パワードスーツ・ヒーロー、アイアンマンを成立させてるのが、SF作家らしい発想ではある。

 オースン・スコット・カードによる『アルティメット・アイアンマン』は、第1作『アルティメット・アイアンマン』#1-5(5-6, 9, 11/2005, 2/2006)と、その2年後に描かれた第2弾『アルティメット・アイアンマンⅡ』#1-5(2-5, 7/2008)の、全10話分が刊行された。物語はまだまだ語る余地はあったが(ハワード・スタークが健在だったり、アイアンマンというヒーローが、大衆の前にデビューしてなかったり)、それに続く『Ⅲ』は描かれることはなかった。

 上の『アルティメット・コミックス・アイアンマン:アルティメイト・コレクション』は、その全話を収録した分厚い単行本になる。


 さて、オースン・スコット・カードというビッグネームを招いて、アルティメット・ユニバース版のアイアンマンのオリジンを非常に革新的に設定してもらった訳だが……この新オリジンが、あまりにも突拍子もないものだったためか、この当時『アルティメッツ3』や『アルティメイタム』、『ニューアルティメッツ』などのアイアンマンが登場するシリーズを担当していたジェフ・ローブ、アイアンマンが単独で主役を務める2009年の『アルティメット・アーマー・ウォーズ』を書いたウォーレン・エリスらは、カード版の設定は触れずに、「自罰的でアルコールにおぼれ、女たらしで、手術不可能の脳腫瘍を持ってるセレブ」という、カード以前の『アルティメッツ』作中で描かれていたアルティメット・アイアンマンのキャラクター像を踏襲して物語を展開していく(「全身が脳細胞」かつ「異様に新陳代謝が速い」トニーが、深酒におぼれたらどんな具合になるのかとか、常にバクテリア・アーマーを着たトニーのセックスライフはいかなるものかなど、カード版の設定も掘り下げようで面白い話ができたと思うが)。

 また、同時期の『アルティメット・アベンジャーズ』誌(ライターは『アルティメッツ』、『アルティメッツ2』のライター、マーク・ミラー)には、カード版『アルティメット・アイアンマン』の設定をガン無視した新キャラクターとして、「トニー・スタークの双子の兄」、グレゴリー・スタークが初登場した。

 更に、カード版に登場したものとは明らかに設定の異なるウォーマシン・アーマー(どうやらトニー開発のものをグレゴリーがアップデートした模様)も登場していた(ジム・ローズの設定も、『アルティメット・アイアンマン』版の「トニーの親友」ポジションから『アルティメット・マーベル・チームアップ』版路線の「トニーの部下」ポジションに戻った)。

 上は、『アルティメット・アーマー・ウォーズ』#1-4(11-12/2009, 1, 4/2010)を収録した、『アルティメット・コミックス:アーマーウォーズ』。『アルティメッツ』作中で登場した、おなじみのアルティメット版アイアンマン・アーマーは、本作のラストで大破。その後創刊された『ニュー・アルティメッツ』では、本家マーベル・ユニバース版に近いデザインの(というか、2008年公開の映画『アイアンマン』と似たデザインの)アイアンマン・アーマーに着替えている。

 オリジナルのマーベル・ユニバースとは一味違うデザイン・設定を意欲的に取り入れていったアルティメット・アイアンマンが、『アルティメッツ』版の革新的なデザインから、保守的な“皆さんおなじみの”アイアンマン・アーマーに戻り、革新的な設定の扱いに困って“皆さんおなじみの”トニー・スターク像に戻ってく、この辺の紆余曲折は、まあ、残念な感じではある。

 その後、2011年に創刊されたリミテッド・シリーズ『アルティメット・アベンジャーズvs.ニュー・アルティメッツ』(ライターはマーク・ミラー)の#2(5/2011)の作中で、カードの『アルティメット・アイアンマン』に登場したものと同じデザインのアイアンマンが、「アルティメット・ユニバースで放送されているアニメ『アルティメット・アイアンマン』のキャラクター」として登場し、「オースン・スコット・カード版のアイアンマンは、アルティメット・ユニバースで放送されているフィクションの登場人物である」ということにされた。ヒドい話だ。

 で、最終的に2012年に若手ライター、ネイサン・エドモンドソンを招いて刊行されたリミテッド・シリーズ『アルティメット・コミックス:アイアンマン』#1-4(12/2019-3/2013)で、新たなトニー・スタークの“アイアンマン以前”の姿(父ハワードの創業したスターク・インダストリーズの後継者となることを拒み、ガールフレンドのジョーシー・ガードナーと共にJTテクノロジーズ社を創設するが……)が描かれ、『アルティメット・マーベル・チームアップ』版のオリジンも、カード版のオリジンもすべて「なかったこと」にされた。

 ついでに言えば、同作中では双子の兄のグレゴリーの存在は一切言及されず、ハワードはまるでグレゴリーがいないかのように、執拗にトニーにスターク・インダストリーズを継がせようとする。その一方で、本作後半に登場するウォーマシーン・アーマーのデザインは、グレゴリーが手を加えた『アルティメット・アベンジャーズ』版だったりもする。

 更には、ウォーマシーンの中の人であるジム・ローズは、元はスターク社の社員だったが、トニーの面前でハワードを批判したせいでクビにされた、という設定が与えられた。単なる社長と秘書ではなく、トニーとはそこそこ腹を割って話せるくらいの仲だった模様。

 こちらが『アルティメット・コミックス:アイアンマン』の単行本。全4話を収録。スターク・インダストリーズが割とヒドい理由で大企業に成長していて、その因縁で10年前にハワードは殺された、とかいうあんまり歓迎できない新設定も導入されている。


 その後2015年の大型クロスオーバー『シークレット・ウォーズ』の作中で、アルティメット・ユニバースことアース-1610は滅亡し、アルティメット・アイアンマンも故郷と共に死亡する。

 更にその後、2017年の『アルティメッツ2(vol.2)』#9(9/2017)と、続く#100(10/2017、景気づけに今までのナンバリングを統合して通巻100号とした)で、悪人メイカーの干渉により、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ハルクら旧アルティメッツは唐突に復活を遂げた。

 やがて彼らはメイカーに反抗し、キャプテン・マーベル(キャロル・ダンバース)率いる、アース-616のアルティメッツと共闘。物語のラストでは、アルティメッツの面々(キャプテン・アメリカのみ、また死んだ)は、逃亡したメイカーを追い、宇宙船で次元の彼方へと旅立つ。

 こちらがそのエピソードを収録した『アルティメッツ2:エターニティ・ウォー』。表紙をよくよく見れば分かるが、作中に登場するアイアンマンは、『アルティメッツ』版のレッド&グレーのアルティメット・アイアンマン・スーツを装着している(アルティメット・ユニバースのアイアンマンだと、分かりやすくするためだろう)。


 ちなみにこの『アルティメッツ2(vol.2)』の話は、前シリーズ『アルティメッツ(vol.3)』から、ライターのアル・ユーイングが連綿と書き続けてきた壮大なコズミック・サーガの総決算的な話で、これ単体で読んでも割とワケは分からない。

 ユーイングの『アルティメッツ』は、上の『アルティメッツ・バイ・アル・ユーイング:ザ・コンプリート・コレクション』に全話が収録されているので、まあ、興味のある方はこちらを買うのもいいだろう。収録内容は『アルティメッツ(vol.3)』#1-12、『アルティメッツ2(vol.2)』#1-9, 100、それと『アベンジャーズ(vol.6)』#0に掲載された短編(メイカーが登場)。

 以上、「消え去った設定」について延々と話して虚しくなったので、今日はここまで。
  
  

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