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■補足:デッドプールがブームだった頃

 前回のエントリで回想した、2008年以降のアメリカでのデッドプール・ブームと、2010年代の日本でのデッドプール・ブームについて、その後思い出したことを散漫に書き連ねていくエントリ。

 本当に取り留めのない話しかしないが、まあ、そういう雑話の端々から、当時の空気を多少なりとも汲んでいただければ幸いである。

▼『ケーブル&デッドプール』単行本
 
 ダニエル・ウェイによる2008年度版『デッドプール』の1つ前の、デッドプール主役のオンゴーイング・シリーズ、それが2004年創刊の『ケーブル/デッドプール』である。
 
 同誌は、2004年当時、人気が最底辺だったデッドプールと(何度でもいうが、2008年の『デッドプール』オンゴーイング・シリーズがヒットする以前のデッドプールは、マニアに支持される程度の不人気キャラクターだった)、やはりこの当時、人気が低迷していたケーブルという、「根強いファンはそこそこいるけど、突き抜けられないキャラクター」な2人を、1つのタイトルで共演させることで、2人分のファン人気を得られる感じのタイトルになることを目論んで創刊されたシリーズである(ミもフタもないが)。

 その、微妙な人気のオンゴーイング・シリーズを合体させて人気回復を図る手法は、過去に『ルーク・ケイジ:パワーマン』と『アイアンフィスト』を合体させた『パワーマン&アイアンフィスト』の例がある。こちらは合体した結果、その後100号以上続く成功作となった。

 上は『パワーマン』誌と『アイアンフィスト』誌が合流して、その新路線が軌道に乗ってくあたりをまとめた単行本。『パワーマン』#48-49と、『パワーマン&アイアンフィスト』#50-70を一気に収録。


 で、こっちの『ケーブル/デッドプール』も、メインライターのファビアン・ニシーザ(デッドプールの生みの親で、ケーブルの育ての親)の力量もあり、まあ、目論見通りにそこそこの人気を獲得。その連載は丸4年間に渡り続き(全50号)、それなりに大団円を迎えて終了した。


(なお最末期は、同時期の『X-MEN』本誌の「エンデンジャード・スピーシーズ」ストーリーラインでケーブルが行方不明になった影響で、タイトルロゴの「ケーブル」部分にバッテンが描かれて、デッドプールが毎号異なるゲストキャラクターと共演する内容になった<こういう、逆境をネタにするスタンスっていいよね)


 で、この間説明したが、2000年に創刊された『アルティメット・スパイダーマン』誌を大々的に売り出そうとしたパブリッシャーのビル・ジェイマスのおかげで、2004年当時のマーベル・コミックス社は、連載作品をきちんと順番に単行本化する出版社に変革していた。

 無論、『ケーブル/デッドプール』誌もその恩恵を受け、シリーズの全話が単行本化された。有難い(なにしろその前の『デッドプール(vol. 3)』オンゴーイング・シリーズは、単行本化とは無縁だったので)。


 こちらがその単行本の第1巻『ケーブル/デッドプール:イフ・ルックス・クッド・キル』。『ケーブル/デッドプール』#1-6を収録。

 この一連の単行本は、全50号を全8巻に分けて単行本化している。なお、ケーブル不在の第8巻は、『デッドプールvs.マーベル・ユニバース』という大層なタイトルが付けられている。

 んでその後、2008年の『デッドプール』オンゴーイング・シリーズの大ヒットを受け、一般読者はデッドプールの他のシリーズも求めるようになり、『ケーブル/デッドプール』の単行本は、市場在庫がなくなるほどの売れ行きを見せた(で、マニア人気気味の名作だった『ケーブル/デッドプール』は、一般層にもそこそこ再評価された……と、思う)。
 
 そして当時のデッドプール人気の高まりに気を良くしていたマーベルは、『ケーブル/デッドプール』の単行本を新装版で出し直すことにした。──単行本の増刷ではなく、新装版を出すなんてのは、よほどの人気キャラクターでないと行われない所業だ。

 結果、2010年から、各巻18話程度を収録した、全3巻の分厚い新装版単行本『デッドプール&ケーブル アルティメット・コレクション』が刊行された。

 こちらがその単行本第1巻。『ケーブル/デッドプール』#1-18を収録。当時のデッドプール人気を受け、タイトルがシレッと『デッドプール&ケーブル』に改称されているのがポイント。

 でー、この『アルティメット・コレクション』も、結構な売れ行きを叩き出し、店頭在庫はたちまち尽きて、Amazonマーケットプレイスではプレミア価格で売られた。

 なお、その後2014年に、マーベルはオンゴーイング・シリーズ全話+αを1冊にまとめ上げた1200ページ強のハードカバー単行本『デッドプール&ケーブル オムニバス』を刊行。この単行本もそこそこ売れて、2023年に新装版が刊行されたりしている。

 こちらがその単行本(2023年版)。『ケーブル/デッドプール』#1-50と、増刊号『デッドプール/GLA サマー・ファン・スペキュタクラー』#1、それに『デッドプール(vol. 5)』#27掲載の短編(現物を持っていないので詳細は不明だが、多分、ニシーザの書いた「With This Hand, I Thee Wed」だろう)を収録。


 ちなみに『ケーブル/デッドプール』は、ヴィレッジブックスから邦訳版も刊行されていたが、こちらはオリジナルの全8巻版を底本としており、4巻まで刊行された(現在絶版なのでリンクは貼らない)。

 なおニシーザは、『ケーブル/デッドプール』の完結から7年後の2015年に、新作リミテッド・シリーズ『デッドプール&ケーブル:スプリット・セカンド』を手掛けており、こちらは小学館集英社プロダクションから邦訳版が刊行された。

 こちらは邦訳版『スプリット・セカンド』の電子書籍版単行本。『スプリット・セカンド』#1-3と、『トゥルー・ビリーバーズ:デッドプール・バリアンツ』#1(デッドプールが主題のバリアント・カバーを集めて1冊の本にした奴)を収録。


 ▼『デッドプール・クラシック』
 
 他方、2008年版オンゴーイング・シリーズの創刊に先駆けて、2008年5月から、単行本『デッドプール・クラシック』の刊行もスタートしている。こちらはタイトル通り、デッドプールの過去作品を刊行順に再録したシリーズになる。
 

 こちらがその第1巻。収録作品はデッドプールの初登場号である『ニューミュータンツ』#98と、「バッドガイ・ブーム」時に刊行された『デッドプール』のリミテッド・シリーズ2作、それに1997年創刊の『デッドプール(vol. 3)』(最初のオンゴーイング・シリーズ)の第1号……と、デッドプール入門には最適なチョイスとなっている。
 
 前述したように、『ケーブル/デッドプール』以前の『デッドプール』のコミックは、単行本化の機会に恵まれておらず(確かリミテッド・シリーズ2作が単行本化されていたが、部数が少なく後からの入手は困難だった)、コミックショップでバックナンバーを1冊ずつ買い揃える以外に読む手段がなかった。

 そんな訳で、デッドプールの過去作品を手軽に読みたいファンにとっては、この『クラシック』は、正に待ち望んだ1冊だった。

 そして、この『クラシック』もそこそこ売れ行きが良かったようで、1冊どころかコンスタントに続刊が刊行されていき、遂には『デッドプール(vol. 3)』全71号+『エージェントX』全15号(『デッドプール(vol. 3)』を打ち切って新規に創刊されたタイトル。編集者にギャグのセンスがないせいでライターに見限られ、低空飛行のまま打ち切られた)をすべて単行本化すると言う快挙を成し遂げた。
 
 おまけに、デッドプールのデビュー直後~最初のオンゴーイング・シリーズ展開期にデッドプールがゲスト出演していた『ウルヴァリン』、『X-フォース』、『ヒーローズ・フォー・ハイアー』他のタイトルを集めた追補編の『デッドプール・クラシック・コンパニオン』全2巻も発売された。

 こちらはその第1巻。収録作品は、『ノマッド』#4に『アベンジャーズ』#366掲載の短編「ソードプレイ」、『シルバーサーブル&ワイルド・パック』#23、『シルバーサーブル&ワイルド・パック』#30で1コマだけデッドプールが登場してたページ、『シークレット・ディフェンダーズ』#15-17、『ウルヴァリン(1988)』#88、『ウルヴァリン』アニュアル'95と'99に掲載掲載された短編よりデッドプールが登場している奴、『X-フォース(1991) 』#47(1995/10)、『X-フォース』#46のラスト2ページ、『X-フォース(1991) 』#56、『ヒーローズ・フォー・ハイアー(1997) 』#10-11、『コンテスト・オブ・チャンピオンズII』#4のデッドプールがメインで登場している5ページ分、『ウルヴァリン(1988)』#154-155、『マーベル・コミックス・プレゼンツ(2007) 』#10掲載の短編(8ページ)、『ブレイキング・イントゥ・コミックス・ザ・マーベル・ウェイ』#2掲載の短編、そのほかハンドブック用の三面図や、「WIZARD」の表紙イラスト、トレーディングカード用イラスト等々。正に落穂拾い。

 挙げ句の果てには、すでに単行本化されている『マーク・ウィズ・マウス』や『デッドプール・チームアップ』、『デッドプール・コァ』などを、あらためて『デッドプール・クラシック』の名を冠して再刊行するわ、『ウェイド・ウィルソンズ・ウォー』や『スプリット・セカンド』といった短めのリミテッド・シリーズをまとめて何冊かの本をデッチあげるわ、『アルティメット・スパイダーマン』や『エグザイルズ』、『ホワット・イフ』等々の、他の平行世界を舞台にした作品で、デッドプールを名乗るキャラクターが登場するイシューをピックアップして無理矢理1冊にまとめた『デッドプール・クラシック:アルティメット・デッドプール』を出すわ、恐るべき執念でデッドプールの過去作を拾い上げ、実に全25巻もの単行本(多分、この種の再録単行本でも屈指の巻数)を刊行したのだった。どこまで人気だったんだ。

 こちらは『デッドプール・クラシック』第20巻、『アルティメット・デッドプール』表紙はアルティメット版デッドプール。収録作品は、アルティメット版デッドプールの登場回である『アルティメット版デッドプール・スパイダーマン』#91-94に、「ヒーローズ・リボーン」世界のデッドプールが登場する『ヒーローズ・リボーン:レムナンツ』#1、並行世界を巡るチームもの『エグザイルズ』#5-6, 12-13, 66-68(要は別世界のデッドプールが出てくる回)、『ヴェノム/デッドプール:ホワット・イフ』#1、『5ローニンズ』#1-5、『マーベル・アドベンチャーズ スーパーヒーローズ』#4、『マーベル・ユニバース アルティメット・スパイダーマン:ウェブ・ウォリアーズ』#8、それに『J2』#11、『シークレット・ウォーズ:バトルワールド』#3、『シークレット・ウォーズ トゥー』#1掲載の短編。これも落穂拾いに過ぎる。


▼オンゴーイング・シリーズ以外のデッドプールの露出
 
 さて、ダニエル・ウェイの『デッドプール』の大ヒットは、他のタイトルにデッドプールが「人気キャラクター」面でゲスト出演することにも繋がった。
 
 例えば、当時、正体不明の新キャラクター、レッドハルクの正体を巡り盛り上がっていたジェフ・ローブの『ハルク』誌や、ワカンダ国王ブラックパンサーとラトヴェリアの独裁者ドクター・ドゥームとの国家間戦争を描いたリミテッド・シリーズ『ドゥームウォー』、あるいは「ダーク・レイン」展開で盛り上がりを見せていた『ヴェンジャンス・オブ・ムーンナイト』誌などの当時の注目作品に、割と重要な役どころでデッドプールはゲスト出演している(挙げ句にガンマ線を浴びて「ハルクプール」になったりもしている)。
 
 この辺の待遇の変化は、従来「突飛な個性故に共演させづらいキャラクター」と見なされていたデッドプールが、ウェイの『ウルヴァリン:オリジンズ』という良作を経て、「扱い方次第で物語を望んだ方向にかき回せるジョーカー的キャラクター」としてライター側に再評価されたためではないか……と思う(筆者の主観が強いので鵜吞みにせぬように)。
 
 あとこの時期のデッドプールは、「もしもデッドプールがシンビオートに寄生されてしまったら」という仮想のシチュエーションを描いた『ホワットイフ・ヴェノム・ポゼスド・デッドプール?』(2010~2011年初出)の主役を務めたり、中世日本を舞台としたハードボイルドな復讐譚『5ローニン』(2011年初頭)の狂言回しとして登場したりと、言うなれば「シチュエーションありき」の話に、その特異なキャラクター性を見込まれ、割と便利に登場させられてもいる(『ホワットイフ・ヴェノム・ポゼスド・デッドプール?』と『5ローニン』は、前述の『デッドプール・クラシック:アルティメット・デッドプール』に収録)。

 その最たるものが、2012年に刊行された全4話のリミテッド・シリーズ、『デッドプール・キルズ・ザ・マーベル・ユニバース』だろう。

 突如として“世界の真実”に目覚めたデッドプールが、マーベル・ヒーローたちを救済するために、彼らを皆殺しにしていく……という、最悪なシチュエーションを描いた本作は、デッドプールという「キチガイ」キャラクターであればこそ成立しうる物語であり(そもそもの元ネタは1995年にガース・イニスが書いたワンショット、『パニッシャー・キルズ・ザ・マーベル・ユニバース』ではあるが)、ライターのカレン・バン(シチュエーションありきのリミテッド・シリーズをサッと書くのが得意なタイプ)の目論見通りにヒットとなり、続編『デッドプール・キラストレイテッド』(2013年)に、完結編である『デッドプール・キルズ・デッドプール』(2013年)が刊行された。

 この3作はひとまとめに『キルロジー』シリーズと呼称され、後に『デッドプール・クラシック vol. 16:キルロジー』としてまとめられもした。

 

 その上、数年後には素知らぬ顔をして新作『デッドプール・キルズ・ザ・マーベル・ユニバース・アゲイン』(2017年、やはりライターはカレン・バン)までもがリリースされた。どんだけ殺す気だ。

 ちなみにヴィレッジブックスは、同社のデッドプール初邦訳作品として、この『デッドプール・キルズ・ザ・マーベル・ユニバース』をチョイスしているが(元々は単行本1冊で完結していた話なので、最初の1冊として出すには手頃だったのだろう)、この売り上げがそこそこよかったと見え、続刊『デッドプール・キラストレイテッド/デッドプール・キルズ・デッドプール』(リミテッド・シリーズ2本を全1巻にまとめた合本)と、『キルズ・アゲイン』を刊行し、バンの『キルズ』シリーズすべてを邦訳した。

▼X-フォースとデッドプール
 
『X-フォース』誌は、元々はデッドプールの生みの親である、ロブ・ライフェルドとファビアン・ニシーザが1991年に立ち上げた、『X-MEN』のフランチャイズ誌である。
 
 同誌は、1991~2001年まで10年間継続した後に休刊し、その後、ライフェルドが復帰してのリミテッド・シリーズ『X-フォース(vol. 2)』全6号(2004年)を経て、2008年のクロスオーバー企画「メシア・コンプレックス」にて、ウルヴァリンが創設した新たなX-フォースの活躍を描く、『X-フォース(vol. 3)』が新創刊された。

 こちらがその単行本の第1巻。『X-フォース(vol. 3)』#1-6を収録。今回のチームは、反ミュータント勢力への積極的な対処(テロリストを事前に暗殺したり)を使命とした特務部隊。任務の性質上、各メンバーのコスチュームは黒とグレーのツートンで統一されている。

 
 同タイトルは高い人気を博しつつ(あのウルヴァリンが創設した、血で血を洗う秘密の暗殺チームの物語だ。人気が出ない訳がない)、2010年に一旦終了し、その物語は後継タイトルである『アンキャニィX-フォース』に継がれることとなる。

 こちらは同シリーズ全35号+αを、全2巻にまとめた分厚い単行本『アンキャニィX-フォース・バイ・リック・リメンダー:ザ・コンプリート・コレクション』の1巻。『アンキャニィX-フォース』#1-19、#5.1と『ウルヴァリン:ロード・トゥー・ヘル』掲載の短編を収録。

 でー、この『アンキャニィX-フォース』の創刊号で新たに再編成されたミュータント特務部隊X-フォースに、当時の大人気キャラクターであるところの、デッドプールが電撃参加することとなる(そもそもデッドプールはミュータントではないのだが)。
 
 これまで『X-MEN』編集部からシリーズが刊行されていたものの、ケーブル以外の『X-MEN』関連のキャラクターと絡ませてもらえなかったデッドプールが、『X-MEN』系のチームのメンバーに起用されるのは、無論、初めてのことであり、デッドプールにとっては大いなるブレイクスルーだった。人気ってスゴい。

(ちなみに『アンキャニィX-フォース』誌のデッドプールは、他のメンバーが割かし余裕なく殺伐としている中で、軽口を叩きながらも割と真っ当かつ気を遣った言動をするし、任務で保護した子供にも優しい、むしろチームの良心的なポジションであった)


 さらにその後デッドプールは、2012年末に創刊された『サンダーボルツ(vol.2)』#1(2/2013)で、レッドハルクの創設したヴィジランテ・チーム、サンダーボルツの創設メンバーとしても起用され、ノンミュータント系のチームにもその活動の場を広げた。

 こちらが『サンダーボルツ』の単行本第1巻(ちなみにダニエル・ウェイ&スティーブ・ディロンの『ウルヴァリン:オリジンズ』コンビが担当)。レッドハルク、エレクトラ、パニッシャー、エージェント・ヴェノム、デッドプールという統率できなそうな奴らがメンバーで、案の定、各メンバーが好き勝手に行動する。


 更に2015年末に刊行された『アベンジャーズ(vol. 6)』#0(12/2015)で、デッドプールはついにアベンジャーズにも加入し、新創刊された『アンキャニィ・アベンジャーズ(vol. 3)』でレギュラーメンバーとして活躍した。

https://amzn.to/3VfH2sj

 上がその単行本第1巻。表紙最前面にデッドプールが配されると言う大抜擢ぶり。なおこちらは、当時オンゴーイング・シリーズ『デッドプール(vol. 5)』、『デッドプール(vol. 6)』のライターを務めていたゲリー・ダガンが脚本を担当。


 なんという成り上がりか(まあその後、ダガンの『デッドプール(vol. 6)』の作中で、デッドプールは天国から地獄に叩き落されるのだが)。

▼デッドプールとアクションフィギュア
 
 で、デッドプール・ブームの盛り上がりを受け、この当時複数の玩具会社から、結構な数のデッドプールのアクションフィギュアが出ていた。

 それ以前のデッドプールのアクションフィギュアと言えば、「バッドガイ・ブーム」当時にトイビズ社から出た5インチ2種(+リカラー版)と、「マーベル・レジェンズ(トイビズ版)」から6インチサイズのフィギュアが1種出た程度(あと、パニッシャーのフィギュアの首をすげ替え、シャッタースターのカタナを持たせてデッチ上げた10インチもあったか)だったが……。
 
 まず、映画『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』の公開に合わせて、ハズブロ社から映画版デザインの「ウェポンXI」のアクションフィギュア(映画『デッドプール』内で、ウェイドがイジってた奴。3.75インチの小さめサイズ)がリリースされた(まあ、これはデッドプール人気とは無関係だが)。
 
 で、この『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』のフィギュアシリーズ後半には、明らかに当時のデッドプール人気にあやかる形で、コミック版デザインのデッドプールのフィギュアが2種(通常版とデラックス版)発売された。
 
 さらにはハズブロは、2010年に「マーベル・レジェンド」レーベルで、「デッドプール&ワーパス」の限定2パックセットを2種リリース(デッドプールのコスチュームが通常の赤と、バリアントの青)。
 
 でもって、コミック問屋ダイヤモンド・ディストリビュート社の子会社であるダイヤモンド・セレクトからも、2010年末頃にデッドプールの8インチ・フィギュアがリリースされた(アナウンスは結構前だったが、かなり延期していた記憶がある)。
 
 2011年には、「マーベル・ユニバース」(当時ハズブロが展開していた3.75インチサイズのアクション・フィギュア)レーベルから、デッドプールとタスクマスター(デッドプールとは、歴代オンゴーイングで幾度も対戦している、密かなライバルキャラクター)の2パックも発売。これはそんなに流通していなかったとかで、瞬く間に市場から消えた(この辺、割とうろ覚えで語っているので、勘違いもあるかもしれないが)。
  
 でもって、翌2012年の秋頃には、ハズブロのマーベル・レジェンドの「エピック・ヒーロー」シリーズから、待望の一般流通でのデッドプールの6インチフィギュアが発売されることになる。──ちょっと前まで慢性的な不人気にあえいでいたデッドプールは、もはや「エピック(最高の)・ヒーロー」なるタイトルを冠されてフィギュア化される格のキャラクターになっていた。

 なお、このエピック・ヒーロー版デッドプールは、通常版が『X-フォース』版の白いコスチュームで、レアなバリアント版として、お馴染みの赤いコスチュームのデッドプールがアソートされる予定だった。

 が、その初期出荷分は、なぜかは知らないが「バリアントが1つたりとも入っていない」という、災害レベルのアソートがなされていて、バリアント目当てで2セット予約していたファンの元に白いデッドプールが2個届くという珍事が発生した(この当時のマーベル・レジェンズは、2セット注文すれば、ノーマルとバリアントが1個ずつ入ったアソートが届くのが割と暗黙の了解になっていた)。

 その後、ごく少数流通したデッドプール(赤)の値段が異様に高騰した挙げ句、アジア方面から流れてきたデッドプール(赤)の海賊版(パッケージこそないものの、本体はオリジナルと遜色ない仕上がりだったので、多分、オリジナルの生産工場が勝手に量産して流した奴じゃないかと思う)が大量に出回るという地獄絵図が展開された(正直に言うが、筆者も当時、海賊版を買った)。
 
 あと、ハズブロは、2013年のサンディエゴ・コミコンで、マーベル・ユニバース版のデッドプール・コァのフィギュアセットをリリースし、人気を博したが、これもそこそこコピー品が出回った。

 こうした海賊版フィギュアが出回るのも、デッドプール人気の指針と言えるだろう。
 
 あとは、サイドショウ・トイが、2015年にコミック版のデッドプール12インチ・フィギュアを出してたが……コイツ、年単位で発売延期したから、最初にアナウンスされたのがいつだったかは覚えていない……ので、詳細はパスする。

▼初のデッドプールの翻訳
 
 デッドプールの初の邦訳作品は、一般には2013年9月末に出た、小学館集英社プロダクションの『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』で、その次がヴィレッジブックスの『デッドプール・キルズ・ザ・マーベル・ユニバース』であるとされている。
 
 が、筆者の記憶が確かならば、これらと同時期に、ヴィレッジブックスが通販限定で刊行していた『シビル・ウォー:X-MENユニバース』(『ケーブル/デッドプール』#30~32を収録)も配本されていて、こいつは少なくとも『キルズ』よりも先で、下手をしたら『マーク・ウィズ・ア・マウス』よりも数日先んじてた……ような気がする(うろ覚え)。

 ヴィレッジブックスのホームページも既になく、リリース時期を確かめる術がないので、裏を取れないが(じゃあ言うな)。

 ともあれ当時は、小学館集英社プロダクションとヴィレッジブックスの2社が、コンスタントに『デッドプール』の邦訳版を出していた時期であった。

 結果、『マーク・ウィズ・ア・マウス』の前日譚である『マーベル・ゾンビーズ2』をヴィレッジブックスが出していたり、ヴィレッジブックスの『ケーブル/デッドプール』の最終章である『デッドプール&ケーブル:スプリット・セカンド』を小学館集英社プロダクションが出したりと、図らずも両社の刊行物が補完し合う事態も生じた。良い時代だったと思う。


▼邦訳アメコミ史上もっとも売れた『デッドプール』
 
 で、このデッドプールの初邦訳作品であるところの『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』だが、当時の小学館集英社プロダクションのTwitter公式アカウント(及びFacebook)には、

・同社の邦訳アメコミ史上最大・最高の初動であり(※2013年当時)、平均的な邦訳アメコミの初版部数の2倍を刷っていたが、たちまち重版が決定し、累計1万部に達した。

 と、言った旨の報告がポストされていた。「邦訳アメコミ」という狭い市場とはいえ(※)、デッドプールがかつてない人気を博していたことがうかがえる。
 
※大手の集英社や小学館のマンガ単行本の市場(初版数十万部規模)と違い、邦訳アメリカン・コミックスは、初版部数が数千部単位の規模。『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』にしても、「通常の邦訳アメコミの倍の初版部数+重版部数」の累計が1万部なので、文字通り桁が違う。


▼『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』とデッドプール
 
『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』は、2014~2015年にかけ、玩具会社のバンダイのスポンサードの元、放映されたTVアニメである。タイトル通り、キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソーらアベンジャーズの面々をメインに据えた物語(主役はアベンジャーズをパートナーとする5人の少年たち)ではあるが、各話ごとに他のマーベル・ヒーローや、ヴィランがゲスト出演する、にぎやかな内容の作品となっていた。
 
 で、同作には、当時のデッドプール人気を受けて、2話ほどデッドプールがゲストとして登場しており、しかも、作中のデッドプール(演:子安武人)は、『MARVEL VS. CAPCOM 3』の影響により、「俺ちゃん」という一人称を用いていた(ゲストキャラクターの分かりやすいキャラクター付けとして、適切だと思う)。
 
 なお、デッドプールは、ゲストキャラクターという立場ながら、アニメの放映中に行われた人気投票において、「ヒーロー部門」の1位を獲得するという珍事も成し遂げている。ここからも、当時の日本でのデッドプールの妙な人気はうかがえる。
 
 当時のバンダイは、アニメの放送に併せてアーケードゲーム『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ 魂ロワイヤル』を稼働させ、さらにはメンコ風ホビー『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ バチ魂バット』をリリースするなどの展開を行っていたが、これらのコンテンツにもデッドプールは登場していた。特に「バチ魂」のデッドプールは、UR(ウルトラレア)の高性能ユニットとして、ガチ勢に人気だったらしい(伝聞)。
 
 
▼デッドプールの一人称
 
『MARVEL VS. CAPCOM 3』において、「オレちゃん」という一人称を使うデッドプールが人気を博したことは、上記のアニメ『ディスクウォーズ』を筆頭に、映画『デッドプール』や、邦訳コミックなど、他メディアでのデッドプールの一人称にも大きな影響を与えることとなった。
 
 なお、「デッドプール 俺ちゃん」で検索したら、下のnote記事で、各メディアのデッドプールの一人称を洗い出すという、恐るべき忍耐の要る調査を行っている方がいたので、ここでこれ以上語ることはない(敬礼)。
 

 
 この記事を読むと、
 
・本家の『MARVEL VS. CAPCOM 3』におけるデッドプールの一人称は、実はカタカナの「オレ」が基本であり、要所で「オレちゃん」という一人称を使っている程度だった(その「要所」で、印象に残る使われ方をしていたので拡散したのだろう)。
 
・「俺ちゃん」という表記の初出は、小学館集英社プロダクションの『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』である(こちらもデッドプールの一人称は基本的に「俺」)。
 
・おそらく「デッドプールの一人称=俺ちゃん」が広く定着したのは、映画『デッドプール』のTwitter公式アカウントが、呟きで「俺ちゃん」を多用していたから? ではないか。
 
 ……等々の事柄が推測できる。
 
 ちなみに、リンク先の記事でも指摘されているが、ヴィレッジブックスから刊行されていた『デッドプール』の邦訳版では「オレちゃん(俺ちゃん)」という一人称は1回も使われていない。
 
 この件に関して、当時のヴィレッジブックスの『デッドプール』関連の邦訳の大部分を担当した小池顕久氏にコメントを求めたが、
 
「原文にないニュアンスを訳文に盛り込むことに抵抗があったので、"オレちゃん”という訳語は避けていた」
 
 とのこと。
 
 
▼デッドプールとwiki
 
 この時期(2011年以降)の日本でのデッドプール人気を受け、方々のブログや、事典(wiki)系のサイトに、デッドプールを紹介する記事が執筆されていった。この当時のマニアは自分の好きなキャラクターの長文のブログや、wikiを執筆するのが、大好きだったのだ(語弊がある)。
 
 なお、これら事典系の記事は、デッドプールの概要紹介で、なんのてらいもなく、「マーベルで1、2を争う人気キャラクター」的な形容をしており、かつての不遇の時代を知る者からしてみると、隔世の感があった(年寄りの感想)。

 あと、デッドプールのコミックの歴史に関する記述が、だいたい2014年の「デッドプールが妖魔シクラーと結婚した」あたりで終わっている感じで、まあ、その位の時期が『MARVEL VS. CAPCOM 3』以来のデッドプール人気のピークだったのかもしれない。──あるいは、wikiやブログのエントリを書き連ねるというファン活動のスタイルがこの前後で衰退していたのかもしれない。
 
 その後、2016年に映画『デッドプール』が公開されたことで、新たなデッドプール・ファン層が生まれるが、この頃にはブログやwikiの文化はすっかり衰え、Twitter他のカジュアルなSNSの方にファンは集っていた……と、思う。そんな時代だからこそ、映画『デッドプール』のTwitter公式アカウントの使う「俺ちゃん」が浸透していったのだろう。多分。
 
 ついでに言えば、映画『デッドプール』公開から1年後の2017年9月には、デッドプールとスパイダーマンの共演するコミック『スパイダーマン/デッドプール:ブロマンス』の邦訳版がヒットとなり、また別口のデッドプールのファン層(スパイダーマンとデッドプールのブロマンスに惹かれる層)が流入してくる。
 
 そんな感じに、2010年代のデッドプールは、折々でゲーム、コミック、映画に、人気の契機となるメディア展開があり、その度に毛色の違うファン層が流入してきていたのが、割と面白いところだと思う。

 と、まあ、なんとなくまとめらしきことを呟いたところで、今回のエントリを終える。 



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