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■アベンジャーズ:ディスアセンブルド

■Avengers: Disassembled
■Writer:Brian Michael Bendis
■Penciler:David Finch
■翻訳:クリストファー・ハリソン ■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0B8RJ3CPM

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第16号は、2004年に展開された「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」イベントの中核となる、『アベンジャーズ』誌のストーリーラインを単行本化。

 アベンジャーズの暗黒の日々を目撃せよ! 終わりの見えない悲劇の連続が、チームを屈服させる。しかし、アベンジャーズの多くの敵の中で、だれがこのような陰湿な計画を企てたのだろうか。征服者カーン? ウルトロン? ネファリア伯爵? それとも、アベンジャーズ内部からの犯行なのだろうか? 混迷を極めるなか、ひとつだけ確かなことがある。それは世界最強のスーパーヒーロー・チームは、もう二度と元には戻れないということだ……。(第16号表4あらすじより抜粋。「中」と「なか」の表記が混在しているのは原文ママ)

 収録作品は『アベンジャーズ(vol.1)』#500-503(9-12/2004)と、エピローグである特別号『アベンジャーズ・フィナーレ』#1(1/2005)。

 ちなみに本作は、2019年にヴィレッジブックスからも邦訳版が刊行されている。

 が、まあ、昨年末にヴィレッジブックスが公式にアメリカン・コミックスの出版から手を引いたために、ヴィレッジのメジャーどころの邦訳作品は軒並み売り切れて、マーケットプレイスでヒドいプレミアが付けられているので、入手は手間だ(一応リンクは貼りはするが)。

 で、だ。

 前回のエントリや、こちらのエントリで言及した、カート・ビュシーク、マーク・ウェイドら「王道回帰」派のライターらを中心に、マーベルの看板たるべきタイトル群──『アベンジャーズ(vol.3)』、『ファンタスティック・フォー(vol.3)』、『キャプテン・アメリカ(vol.3)』、『アイアンマン(vol.3)』、『ソー(vol.2)』の5誌を新創刊した「ヒーローズ・リターン」イベントが1998年のことで。

 それから6年ほどが経ち、王道回帰の流れもだいたい一区切りがついて落ち着いたので、新しいカンフル剤を投入することで「次」の潮流を生み出し、各誌を再び活性化することを目論んだのが、この2004年の「ディスアセンブルド」イベントである(過去のエントリでも説明はしていたが、まあ、もう一度説明する)。

 この、新たなカンフル剤として起用されたのが、ライターのブライアン・マイケル・ベンディスである。彼は1990年代末にイメージ・コミックスの『パワーズ』など、インディーズ・コミック出版社での仕事で注目を集めた後、2000年に創刊されたマーベルの『アルティメット・スパイダーマン』誌の最初のライターに起用され、さらに2001年からは青年層向けの「マーベル・ナイツ」レーベルの看板タイトル『デアデビル』のライターも任され、アイズナー賞他の名だたるコミック賞を獲得していた気鋭の作家だった。

 こちらが『パワーズ』。超人たち(パワーズ)が街を闊歩する世界で、ヒーロー絡みの殺人事件に取り組む刑事たちの奮闘を描く。


 んで、「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」イベントは、ベンディスが担当する『アベンジャーズ(vol. 1)』500-503+α(※)で、アベンジャーズの一時代の終わりを描いたストーリーライン「ケイオス」を展開し、その一方で『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』、『キャプテン・アメリカ&ファルコン(vol. 1)』、『アイアンマン(vol. 3)』、『ソー(vol. 2)』の4誌でも、それぞれのヒーローの物語に一区切りをつけるストーリーを行い、その物語の終わりをもって、各誌をいったん打ち切り、新たな作家陣を起用しての新シリーズの創刊に繋げる……という具合の構成となった。

(※)『アベンジャーズ』誌は、前月は『アベンジャーズ(vol. 3)』誌が#84(9/2004)まで刊行されていたのだが、『アベンジャーズ』誌通巻500号を記念し、volumeを「1」に戻した上で、ナンバリングを累計の「#500」にしている。

 上が『アベンジャーズ』誌でのストーリーをまとめた『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』の単行本。おそらくアシェット版も、ヴィレッジ版も、この単行本を定本としている。

 で、こっちがタイインの『キャプテン・アメリカ(vol.4)』#29-32、『アイアンマン(vol.3)』#84-89、『ソー(vol.2)』#80-85、『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン(vol.1)』#5-7を収録した単行本『アベンジャーズ:ディスアセンブルド アイアンマン,ソー&キャプテン・アメリカ』。


 なお、「ディスアセンブルド」イベントは、『ファンタスティック・フォー(vol. 1)』#517–519(※)と、『スペキュタクラー・スパイダーマン(vol. 2)』#15–20、それに『エクスカリバー(vol. 3)』#8の3誌ともタイインしていたが、これらのタイトルは最終回は迎えず、そのままシリーズは続いた。

(当時の『ファンタスティック・フォー』誌はマーク・ウェイドを起用したテコ入れが成功しており、刷新の必要がなかった。『スパイダーマン』編集部も、「ディスアセンブル」イベントの盛り上げに協力てタイインしたものの、テコ入れは必要としていなかった。また『エクスカリバー』は、ライターのクリス・クレアモントが好き勝手に書いてたタイトルで、「ディスアセンブルド」のイベントに協力する気は薄かった)

(※)『ファンタスティック・フォー』誌も、『ファンタスティック・フォー(vol. 3)』#70を刊行した翌月に、通巻500号記念で、『ファンタスティック・フォー(vol. 1)』#500にナンバリングが改められていた。

 こちらがタイイン分を収録した『ファンタスティック・フォー:ディスアセンブルド』の単行本。『ファンタスティック・フォー(vol.1)』#514-519を収録。ライターは、この間紹介した『ファンタスティック・フォー:アンシンカブル』と同じく、マーク・ウェイド。

 内容的には「ディスアセンブルド」の後日談で、突如マンハッタン島に襲来した巨大宇宙船の引き起こした災害に、ファンタスティック・フォーの4人が奮闘する(なにせこういう時に頼りになるアベンジャーズが活動停止してしまったので)。やがて、宇宙船の乗組員の目的が、ファンタスティック・フォーの一員、インビジブルウーマンにあることが判明し……と言った具合の話。


 ちなみに、ウェイド期の『ファンタスティック・フォー』誌に興味がある人間は、上の単行本ではなく、『ファンタスティック・フォー バイ・マーク・ウェイド&マイク・ウィーリンゴ アルティメット・コレクション』(全4巻)の4巻を買う方が後々良いだろう(逆に『ディスアセンブルド』にしか興味のない方は上記の単行本でよろしい)。

 要するにこちら。収録作品は『ファンタスティック・フォー(vol.1)』#514-519(「ディスアセンブルド」編)と、#520-524(ウェイド期の最終エピソード、「ライジング・ストーム」編)。

 こっちは『スペキュタクラー・スパイダーマン』誌のタイインをまとめた『スペキュタクラー・スパイダーマン:ディスアセンブルド』の単行本。『スペキュタクラー・スパイダーマン(vol.2)』#15–20を収録。

「ディスアセンブルド」のプロローグと銘打たれたタイインだが、あまり本編とは関連していない(『スパイダーマン』誌では珍しく、全編に渡りキャプテン・アメリカがゲスト出演しているが)。

 内容的には、遺伝子に「虫因子」を持つ人間(人類の1/3が持つとされる)を意のままに操るヴィラネス、クイーンが現われ、キャプテン・アメリカとスパイダーマンが立ち向かう。しかし、クイーンの能力により、スパイダーマンは巨大なクモに変じてしまう……といった話。

 ちなみにクイーンとスパイダーマンの因縁は、その後、2011年の『スパイダーマン』関連誌での大型イベント「スパイダー・アイランド」編にて決着が付けられる(こちらでもキャプテン・アメリカが重要な役割で登場する)。

 こちらは2021年に小学館集英社プロダクションから刊行された、邦訳版『スパイダー・アイランド』。

 上はタイインの『エクスカリバー(vol. 3)』#8を収録した単行本『エクスカリバー:サタデー・ナイト・フィーバー』。『エクスカリバー(vol. 3)』#5-10を収録。

 同シリーズの主人公の一人、マグニートーが、壊滅したジェノーシャ(テロにより消滅したミュータント国家)の復興に尽力していたところ、「ディスアセンブルド」事件のニュースが飛び込んで来、即座にアメリカに飛んでワンダを連れ帰ってくる……という内容だが、物語の大部分はジェノーシャ島での騒動に割かれ、ラスト数ページでマグニートーがあわただしくワンダを連れ帰ってくる(ライターのクリス・クレアモントの「勝手にワンダの設定をいじりやがって」的なイラつきが、このあわただしく雑な回収に現われていると感じるのは、うがち過ぎだろうか)。

 その後、マグニートーは、友人のプロフェッサーXに娘ワンダの治療を依頼。物語は続刊の『ハウス・オブ・M プレリュード:エクスカリバー』を経て、2005年のマーベルの大型クロスオーバー、『ハウス・オブ・M』(ライターはブライアン・マイケル・ベンディス)に続く。

 この『ハウス・オブ・M プレリュード:エクスカリバー』は、『エクスカリバー(vol. 3)』#11-14を収録(ちょっと薄め)。『ハウス・オブ・M』自体は、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」38号として刊行予定(ヴィレッジブックスからも邦訳は刊行されていたが、省略)。


 で、この一連の『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』イベントを経て、『アベンジャーズ』関連誌は、ブライアン・マイケル・ベンディス他の新世代の才能あるライターらによって再始動するのだが、まあ、その辺の話は、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第33号、『ニュー・アベンジャーズ:ブレイク・アウト』のエントリででも語ることとしよう(筆者がそこまで飽きずにこのブログを続けられたらの話だが。


 ちなみに『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』と、各タイインの時系列は以下のような具合になる。

・『アイアンマン(vol.3)』#84–85:前日譚。当時、国防省長官を務めていたトニー・スターク(アイアンマン)が、再起動してしまった冷戦時代の秘密兵器「アーセナル・アルファ」に、アベンジャーズと共に立ち向かう。

・『ソー(vol.2)』#80–81:同誌の最終エピソード、「ラグナロク」編の前半部。魔法の鎚ムジョルニアの「鋳型」を手に入れた欺瞞の神ロキは、炎の巨人スルトの協力で、魔法の鎚を量産した上で、北欧神話の九つの世界への侵攻を開始する。敵軍勢との戦いの煽りで、ミッドガルド(地球)に漂着したソーは、キャプテン・アメリカ、アイアンマンと共にアスガルドに戻り、「鋳型」を破壊する。しかし、天上の闘いに人間たちを巻き込むことを望まぬソーは、キャプテンらを地上に戻す。

・『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン』#5–7(9-11/2004):アメリカ海軍が開発した超人兵士「アンチ・キャップ」を追うキャプテン・アメリカと相棒のファルコン。しかしスカーレット・ウィッチの魔力が密かに2人の精神に影響を及ぼし、捜査を困難にする。なお、『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン』誌は、その後の#8-14(12/2004-6/2005)で、「アンチ・キャップ」絡みの話に決着をつけた上で休刊。

 こちらが#8-14を収録した単行本『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン:ブラザーズ&キーパーズ』。


・『キャプテン・アメリカ(vol.4)』#29(9/2004):今日も今日とてミスター・ハイドを倒し、相棒のダイヤモンドバックと共にヒドラの拠点を強襲するキャプテン・アメリカ。しかし彼は、ニック・フューリーへの反抗を目論むシールド隊員マーク・ノーランが仕組んだ陰謀に巻き込まれていく。

・『アベンジャーズ(vol. 1)』#500-503(9-12/2004):『ディスアセンブルド』本編。「ケイオス」編。

・『エクスカリバー(vol. 3)』#8(2/2005):時系列的には「ケイオス」編ラストと同時期(刊行自体は、『ディスアセンブルド』完結の2ヶ月ほど後)。マグニートーがワンダを迎えに行くまで。

・『アイアンマン(vol. 3)』#86–89(9-12/2004):後日談。『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』冒頭の、国連会議での失態により、国防長官トニー・スタークの権威は失墜する。そんな中、トニー・スタークを逆恨みする男が、偽アイアンマン・アーマーを着て、スタークの関係者を次々に殺害していく。辛うじて事態を収拾したスタークは、自身がアイアンマンだと明かしていたことが関係者の殺害に繋がったことを反省し、アイアンマンを引退する旨をアナウンスし、同時に長官職も辞す(その後の「エクストリミス」でアイアンマンに復帰)。

・『エクスカリバー(vol. 3)』#9-10(3-4/2005):タイインとは銘打たれていないものの、作中ではワンダをジェノーシャに引き取ったマグニートーの苦悩が描かれる。

・『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』#30-32(10-12/2004):#30の冒頭で、#29と#30の間に、『ディスアセンブルド』事件があった旨が言及される。ダイヤモンドバックと共に、悪人軍団サーペント・ソサエティを打倒したキャプテン・アメリカだが、仇敵レッドスカルの急襲を受け、ダイヤモンドバックが殺害されてしまう。……が、全てはシールド長官ニック・フューリーの遠大な策謀であり、やがて死んだはずのダイヤモンドバック(その正体は精巧な人造人間)によってレッドスカルは捕縛され、スカルを利用していたノーランもフューリーに逮捕されるのだった。

・『ファンタスティック・フォー(vol. 1)』#517-519(10-12/2004)

・『スペキュタクラー・スパイダーマン(vol. 2)』#15–20(8-12/2004)

・『ソー(vol. 2)』#82–85(9-12/2004):ロキ、スルトとの戦いの末に、全能の力「オーディンパワー」を得たソーは、北欧の神々の戦いを糧とする超越神「影の中に腰を下ろす者たち」の存在に気づき、あえてアスガルドを滅亡に導いた後、宇宙の歴史を紡ぐ“糸”を断ち切ることで神々を永遠の闘争の宿命から解放し、自らは虚空に消える(詳細は、こちらのエントリを参照)。

・『アベンジャーズ:フィナーレ』#1(1/2005):アベンジャーズ、公式に解散。

・『ニュー・サンダーボルツ』#1(1/2005):タイインとは明言されていないものの、表紙に「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」のロゴが配され、「『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』を受けての物語」であることが明示されている。アベンジャーズの解散を受け、元悪人たちによるヒーローチーム「サンダーボルツ」が再結成される。


・余談:

 ちなみに本作『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』の作中では、アベンジャーズの代表的なメンバーが死亡・退場しているが、「あの世へのドアが回転ドアになっている」ことでお馴染みのマーベル・ユニバース故、その後全員生き返っている。

 もう一度言う。全員、生き返って、いる。

 具体的には、こんな感じだ。

・ホークアイ(自爆):『ニューアベンジャーズ』#26(1/2007)で、実はワンダの現実改変能力によって蘇生していたことが判明。

・ジャック・オブ・ハーツ(ゾンビとして復活した後、自爆):ミニシリーズ『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』#1-5(5, 5, 6-8/2011)の中で、未知のZエネルギーにより復活。

・アントマン(爆死):ミニシリーズ『アベンジャーズ:チルドレンズ・クルセイド』#1-9(9, 11/2010, 1, 3, 6, 8, 11/2011, 1, 5/2012)の作中で、時間を遡ったヤング・アベンジャーズの面々により、爆死する寸前に救助される(つまり、「死んでなかった」ことにされた)。

『チルドレンズ・クルセイド』は邦訳版も刊行されている名作なので、興味を持った方は読んでみるのもいいだろう。


・ヴィジョン(大破):トニー・スタークが余暇に修理しており、『アベンジャーズ(vol. 4)』#19(1/2012)で、アベンジャーズのメンバーが再編成されるタイミングで復帰。

 ……と、まあ、『ディスアセンブルド』から8年を経た2012年の時点で全員が復帰した。本作の余韻が割と台無しになったと見るか、物語を盛り上げるために殺された犠牲者が、生き返ることができて良かったと見るかは、あなた次第ではある。


 

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