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帰巣本能

車中泊が面白そうだと思う理由がもう一つある。家を拠点とする生活では当たり前だった概念が大きく変わるのではないかということだ。

普通、外出には終わりがある。買い物でも旅行でも、とくにあてのない散歩でもなんでもいい。一歩でも家から離れれば頭のどこかに帰り道が意識される。家に着くまでが遠足であり、それを途中で止めることは基本的にない。

家に縛られている。

家の布団で寝たくて帰るのだから自由意志ではあるのだが、そのせいで行動範囲が制限されている点は無視できない。行きの距離が長ければ帰りの距離も長くなる。終電の時間や、車があれば渋滞予測も気にかけねばならないだろう。

行く道と同じ長さであるにもかかわらず、えてして帰り道は退屈なものだ。旅行の帰路ではいつも爆睡していた。修学旅行の新幹線でも家族旅行の後部座席でも。運転していた父は本当にお疲れ様だと思う。

車を拠点に生活するとその行程がごっそり無くなる。拠点ごと移動するのはどんな気持ちなのか。

常に前進する生き方は物事の考え方にも影響するのか。
帰らなくていいという気楽さは心のゆとりに繋がるのか。
あるいは退屈な帰り道こそが安心感に包まれるかけがえのない時間だったと気づくのだろうか。

体験してみないと得られない感情がきっとたくさんある。