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安定同位体比を用いて農地生態系の食物網を探る

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土壌動物の種間の関連や機能を明らかにし、農地生態系の食物網構造を正確に把握することは、そのはたらきを栽培に活かすうえで重要です。 一般に多くの動物では、体の炭素安定同位体比は餌と… もっと読む
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安定同位体比を用いて農地生態系の食物網を探る

農地に棲息する動物のはたらきを把握する 有機物を利用した有機農業畑では、慣行農業畑に比べ、多様な土壌動物が棲息しています。土壌動物はそれぞれの食性によりその機能(はたらき)が異なります。 土壌動物の種間の関連や機能を明らかにし、農地生態系の食物網構造を正確に把握することは、そのはたらきを栽培に活かすうえで重要です。 これを可能にする手法として注目されているのが安定同位体比分析法です。一般に多くの動物では、体の炭素安定同位体比は餌とほぼ同じか、体の方が1‰(パーミル、10

持続可能な農業、社会は、私たちの暮らしの見直しから

食べることは、生命(いのち)の刷新 ヒトの体は、3か月もすれば食べたものが分子レベルで入れ替わるといわれています。生き続けるには、食べ続けなければなりません。すなわち、食べものを生産する農業こそが、持続可能な社会を実現するための核心だと思います。 有機農業は持続可能な生産システム 国際有機農業運動連盟は、有機農業を「土壌・自然生態系・人々の健康を持続させる農業生産システム」であり、「自然環境と共生してその恵みを分かち合い、そして、関係するすべての生きものとヒトの間に公

土から生まれ、土に還る―安定同位体比から見える動植物の連鎖

畑地の動植物は、土壌を起点とした栄養分を利用し、再び土壌に還元されていきます。 動植物が、畑地で窒素や炭素の物質循環に関与していることを炭素および窒素安定同位体比を比較することで明らかにしました。 有機農業・不耕起畑に棲息する動植物の関係 採取された動植物および土壌の窒素および炭素安定同位体比を比較すると、C3植物およびC4植物を起点とした生食連鎖および腐植を起点とした腐食連鎖が、三角形の3つの頂点を形成し、その中心に土壌があることが分かります(図1)。 C3植物とC4

土壌団粒と窒素安定同位体比との関係~生きものを育む土壌とは?

土壌団粒とは 土壌微生物、ミミズなどの土壌動物および作物の根のはたらきにより、土壌団粒が生成されます。 いっぽう、団粒の崩壊は、水分過少、過多時の耕耘、土壌の乾燥と湿潤の繰り返し、凍結と融解の繰り返し、粒子の結合剤となっている有機物の分解などによって絶えず起こっています。すなわち、畑地の土壌では絶えず団粒の生成と崩壊が行われています。 ミミズ糞と窒素安定同位体比との関係 ミミズに摂食された土壌よりもミミズから糞として排出された土壌の窒素安定同位体比がが高くなることを紹

食性の異なるミミズ類が、畑地にいることの意味とは?

ミミズと言えども、種類が違えば餌や生息場所が異なります。 様々な生きものが棲息し、それらが物質循環に関与することで、有機農業畑にそなわる機能も高まり、より栽培しやすい環境になります。 安定同位体比を用いて食性を推定する ミミズ類は土壌の団粒構造を発達させ、土の物理性、化学性を良くする生きものとして知られています。しかし、種類によって大きさや生息場所が異なります。 同じ畑の異なる微環境で、どのような棲み分けが行われているのかを知るために、有機農業・不耕起栽培畑に棲息している