藤田 正雄

学生時代に有機農業の露地栽培イチゴを農家に勧められるままに畑で食べた味が忘れられず、有…

藤田 正雄

学生時代に有機農業の露地栽培イチゴを農家に勧められるままに畑で食べた味が忘れられず、有機農業に関わる仕事に従事しました。これまでに経験した有機農業の基本技術、有機農業を支える土のこと、有機農業が広がるために必要なことなどを紹介していきます(アイコンはヒメミミズの卵胞)。

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有機農業を科学する~すべてはいのち育む土から始まった

有機農業の研究機関、有機農業を推進するNPOで働き、約50年、多くの研究者、自治体職員、実施農家などにお会いしてきました。 現在も、菜園にて畑の生きものとともに野菜づくりに勤しんでいます。 noteでは、今までに有機農業について知りえたこと、経験したことを、より分かりやすく発信し、これから有機農業に関与される方々の参考にしていただきたいと考えています。 有機農業実施者の栽培管理をヒントに、人と自然の関わり方を工夫し自然の力を活用する栽培管理を科学的知見をもとに紹介していき

    • 有機農業への転換時期を見極める、指標とは?

      収量・品質を落とさずに慣行農業から有機農業に転換するために必要なことは? 作物の栽培に化学肥料や農薬が欠かせないと考えている農家に、有機農業の本質(しくみ)を理解していただき、農地の生物密度を高めたうえで、有機農業への転換を図ることが必要です。 化学肥料や農薬を使用しないから必要としない生産システムへ 2006年に施行された「有機農業の推進に関する法律」において、有機農業とは「化学的に合成された肥料および農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本とし

      • 有機部会にJA、市、県が支援――鹿児島県姶良市

        鹿児島県姶良市の有機農業に取り組む農家数は現在約40戸。市には毎年就農希望者があり、年々数世帯の有機農家が誕生しています。 この成果は、30年以上も前に農家主導でJA管内に「有機部会」がつくられ、自治体やJAが支援しやすい組織として生産から販売、消費者との交流などの活動を継続してきたことによると考えられます。 JA管内に有機部会が設置 旧姶良町(2010年に姶良郡3町が合併し姶良市)では1970年代中ごろより有機農業の実施者が現れ、1989年に「姶良町有機農業研究会」を発

        • 不耕起栽培畑では、集中豪雨時に土壌の排水性を保持

          不耕起処理で土壌の排水性が良かったのは、ミミズ類などの土壌動物の土壌への継続的な作用と動植物由来の孔隙の維持が土壌の物理性の改善に寄与したと考えられます。 排水性に優れた不耕起 長野県松本市の耕起法を比較した畑では、2004年10月の台風23号による豪雨時に冠水しました。土壌の排水性は耕起処理に比べて不耕起処理で良く、有機物の集積層では冠水はしませんでした(図1)。 豪雨後の土壌の気相率(排水性の良さ)に差 台風23号(10月19-20日)による豪雨後の10月22日に

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          農産物の品質は、どのように決定されるのか?

          科学的データにもとづいた有機農産物の品質解明への期待は大きく、「有機農産物の味や香りの特徴がどのようなものか、その特徴はどのような経路をたどって形成されるか」という消費者の疑問に対して、客観的な説明が求められます。 ここで紹介するように、有機農業で栽培した農産物が必ずしもその品質を保証するものではありません。まずは、自ら「美味しい」と思える農産物の栽培に心がけることが大切だと思います。 有機農産物の特徴 有機野菜には、 包丁で切ると、バリバリと音がするほど硬いが、よく

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          地温の変化を和らげる緑肥間作の効果

          緑肥間作が、地温の上昇を和らげ、生きものにとっても棲みやすい環境を創出していることを紹介します。 緑肥間作は地表面を保護し有機物を供給する 緑肥間作を導入した栽培では、主作物を栽培しながら、土壌の侵食を防ぎ、地表面を保護し、土壌動物の餌や生息場所となる有機物を生産補給できるなどの利点があります。しかし、緑肥作物を単作してすき込む方法に比べて実施者が少なく、その導入方法について十分な理解が得られていないのが現状です。 緑肥間作導入が地温に及ぼす影響 長野県松本市の畑で、

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          コウノトリが認めた「野生復帰」の取り組み――兵庫県豊岡市

          2015年10月、兵庫県豊岡市を訪問し、自治体とJAおよび農家が協力して推進している「コウノトリ育む農法」の取り組みを取材しました。 この取り組みをコウノトリが評価し、現在では豊岡市だけでなく日本の野外で400羽近くのコウノトリが暮らすようになりました。 コウノトリの野生復帰への取り組み 兵庫県豊岡市の中央部を流れる円山川に沿って湿地や森林、水田、中洲などが発達。このような自然環境は、鳥類をはじめ多くの生物に豊かな生息環境を提供しています。しかし、土地改良事業や河川の改修

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          有機農家を訪ねて 梁瀬義亮さん

          奈良県五條市の開業医として農家の奇妙な病状を農薬禍と診断されたのは、1950年代後半。食べものと健康のつながりへの関心をきっかけに有機農業を実践された財団法人慈光会の梁瀬義亮(やなせぎりょう、1920-93)さんを訪ねたのは、1987年5月でした。 直営農場にも案内いただき、畑の土壌動物相を調査させていただきました。 農家の病状を診断し、自ら農薬禍を体験 梁瀬さんは、診察に来られる農家の臨床状態を整理し、当時使用されていたホリドールをはじめとする農薬が人体に慢性中毒症状を

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          不耕起栽培の長所を生かし、土の機能を引き出す

          不耕起栽培には、多くの長所があるにも関わらず、実施している方は限られています。そこで、不耕起栽培の長所を伸ばし、短所を小さくする方法を紹介します。 不耕起栽培の長所と短所 不耕起栽培とは、作物を栽培する際に通常行われる耕起を省略し、作物の刈り株、わらなどの作物残渣を田畑の表面に残した状態で次の作物を栽培する方法を言います。 不耕起栽培は耕起栽培に比べ、作業時間が短縮でき、省エネルギー的であるとともに、土壌浸食(風食、水食)を抑制し、土壌水分の湿潤性や保水性に優れるなどの

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          土から生まれ、土に還る―安定同位体比から見える動植物の連鎖

          畑地の動植物は、土壌を起点とした栄養分を利用し、再び土壌に還元されていきます。 動植物が、畑地で窒素や炭素の物質循環に関与していることを炭素および窒素安定同位体比を比較することで明らかにしました。 有機農業・不耕起畑に棲息する動植物の関係 採取された動植物および土壌の窒素および炭素安定同位体比を比較すると、C3植物およびC4植物を起点とした生食連鎖および腐植を起点とした腐食連鎖が、三角形の3つの頂点を形成し、その中心に土壌があることが分かります(図1)。 C3植物とC4

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          土壌団粒と窒素安定同位体比との関係~生きものを育む土壌とは?

          土壌団粒とは 土壌微生物、ミミズなどの土壌動物および作物の根のはたらきにより、土壌団粒が生成されます。 いっぽう、団粒の崩壊は、水分過少、過多時の耕耘、土壌の乾燥と湿潤の繰り返し、凍結と融解の繰り返し、粒子の結合剤となっている有機物の分解などによって絶えず起こっています。すなわち、畑地の土壌では絶えず団粒の生成と崩壊が行われています。 ミミズ糞と窒素安定同位体比との関係 ミミズに摂食された土壌よりもミミズから糞として排出された土壌の窒素安定同位体比がが高くなることを紹

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          有機(オーガニック)食品への消費者ニーズは?

          2024年3月22日、第3回みどりGXセミナーに参加し、産直通販サイト「食べチョク」を運営するビビッドガーデン取締役執行役員COOの山下麻亜子氏の講演を聞き、感じたことをまとめました。 生産者のこだわりを評価 「食べチョク」は、生産者のこだわりが正当に評価され、利益を得ることができるように、生産者とともに一次産業の課題を解決することを目的に運営されているとのことです。 消費者意識の多様化 買う場所の選択肢が増え、食へのこだわりが多様化し、「消費」以上の価値を求めるよう

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          食性の異なるミミズ類が、畑地にいることの意味とは?

          ミミズと言えども、種類が違えば餌や生息場所が異なります。 様々な生きものが棲息し、それらが物質循環に関与することで、有機農業畑にそなわる機能も高まり、より栽培しやすい環境になります。 安定同位体比を用いて食性を推定する ミミズ類は土壌の団粒構造を発達させ、土の物理性、化学性を良くする生きものとして知られています。しかし、種類によって大きさや生息場所が異なります。 同じ畑の異なる微環境で、どのような棲み分けが行われているのかを知るために、有機農業・不耕起栽培畑に棲息している

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          有機農家を訪ねて 木村秋則さん

          2016年6月、青森県弘前市で開催された日本土壌動物学会公開講演会「木村リンゴ園の土壌を考える」に参加し、木村秋則さんのリンゴ園も見学しました。 苦労の末、無肥料・無農薬のリンゴ栽培に成功 リンゴには感染後に落葉を引き起こす斑点落葉病や褐斑病、果実に黒い病斑をつけ品質を損なう黒星病といった病原菌や、ハマキガなどの葉食性昆虫、果実に潜行し内部を食害するシンクイガなど多様な病害虫が発生するため、無肥料・無農薬での栽培は不可能と言われてきました。 しかし「奇跡のリンゴ」で知られ

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          「世界に自慢できる学校給食」に 福島県喜多方市

          子どもたちに大人が自信を持って提供できる学校給食は、生産者と消費者の距離を縮め、食や農の大切さを知る役割も担っています。 「世界に自慢できる」学校給食の実現へ 福島県喜多方市では、合併前の市町村時代からそれぞれの地域で特色を生かした学校給食の取り組みが行われています。 市では、子どもたちが食への楽しみや関心を高める給食の提供を進めるべく、2023年1月に「喜多方市学校給食基本方針」を定め、「世界に自慢できる」学校給食の実現に向けた取り組みをしています。 具体的には、地域の

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          近代化農業(慣行農業)の忘れもの

          持続可能な環境、農業を次の世代につなげるためには、効率化、生産第一の近代化農業体系から自然のめぐみを積極的に活用した循環型生産体系への再構築が必要です。 作物以外の生きものを排除した農業の近代化 農業基本法(1961年施行)が目指した農業生産性と農業所得の向上による農業の近代化(慣行農業)は、食糧難の時代にその使命を果たしたことは評価できます。しかし、その後の消費者の食の安全・安心への関心や環境保全への意識の高まりには、十分対応できたとは言えません。 生産性の向上を第一

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