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害虫を害にならない存在(ただの虫)にする栽培

豊かな生物群集をもつ農地では、生食連鎖と腐食連鎖が連結した複雑な食物網を形成し、害虫を害にならない存在(ただの虫)にします。


食物網-害虫を抑制するしくみ

複雑な食物連鎖によって構成される食物網の構造は、そこで生活している生きものたちの密度の安定性を保っています。
しかし、慣行農業畑では食物連鎖は単純になりやすく、害虫と天敵の密度は変動しやすくなります。したがって、害虫の発生を制御するには農薬に頼らざるを得ません。

農薬を用いると最初はよく効きますが、しばらくすると抵抗性のもつ害虫が現れてきて効きにくくなります。さらに、天敵を殺すことによって新たな害虫の発生を招き、農作物への農薬残留や野生生物への悪影響なども生じます。
このように農薬に頼った場当たり的な防除法では、本質的な解決にはなりません。

いっぽう管理の工夫によって、害にもならないが役にも立たない存在と考えられているさまざまな生きものが存在する畑では、複雑な食物連鎖を可能にし、天敵の密度を安定させ、害虫の密度を低く保つはたらきが生まれます

有機農業畑には植食性の動物もいますが、有機物の分解に関与する多種多様な動物と、クモ類やムカデ類などのさまざまな動物を餌とする広食性の捕食動物が多くみられます。

分解に関わる土壌動物の密度が年間を通じて安定している環境では、作物がなく害虫の発生しない時期にも捕食性動物群集が維持されています。すなわち、豊かな土壌動物群集は、生食連鎖と腐食連鎖が連結した複雑な食物網の形成を可能にします(図)。

図 栽培様式と生物群集の関係(藤田 2006を改変)

害虫を害虫にしない

「作物を加害する虫がいる」という現象でも、作物と虫、そしてそれらを取り巻く環境の見方が変わり、考え方が変わると今までとは違った世界がみえてきます。

生きものの「食べる-食べられる」の関係を理解することは、畑地で害虫を大発生させない栽培法のヒントとなります。すなわち、害虫をつくり出してきたのは、生態系のしくみを十分理解できなかった私たちヒトなのです。
したがって、農薬に頼らなくても、害虫を害にならない存在(ただの虫)にすることは可能なのです。

※生食連鎖と腐食連鎖が連結した食物網については、「不耕起・有機農業畑の有機物集積層にみられる複雑な食物網のひみつ」をご覧ください。

参考文献

藤田正雄(2006)土を育てる生きものたち(5)土壌生物の目線で「農」を考える.ながの「農業と生活」, 43(4):42-45.
高橋史樹(1989)『対立的防除から調和的防除へ-その可能性を探る-』,農文協.

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