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食性の異なるミミズ類が、畑地にいることの意味とは?

ミミズと言えども、種類が違えば餌や生息場所が異なります。
様々な生きものが棲息し、それらが物質循環に関与することで、有機農業畑にそなわる機能も高まり、より栽培しやすい環境になります。


安定同位体比を用いて食性を推定する

ミミズ類は土壌の団粒構造を発達させ、土の物理性、化学性を良くする生きものとして知られています。しかし、種類によって大きさや生息場所が異なります
同じ畑の異なる微環境で、どのような棲み分けが行われているのかを知るために、有機農業・不耕起栽培畑に棲息している3科に属する4属のミミズについて炭素および窒素安定同位体比を調べました(図1)。

図1 有機農業畑に棲息するミミズ類の生態型

種類によって異なる食性(栄養段階)をもつミミズ

フトミミズ属とシマミミズ属の値が重なっている以外は、属によってその値がはっきり異なっていました。すなわち、ハタケヒメミミズ属とフクロナシツリミミズ属では、窒素安定同位体比が6‰以上も異なりました。
栄養段階が1あがるごとに窒素安定同位体比が約3‰増加するとされていることから、同じ畑土壌に棲息する種類でも少なくとも2段階以上の栄養段階が異なると推測されました。
フトミミズ属もその中間に位置し、ハタケヒメミミズ属とフクロナシツリミミズ属およびツリミミズ科の2種(シマミミズ属とフクロナシツリミミズ属)では異なる栄養段階と推測でき、分解者のなかでも異なる餌を利用していることがわかります。

図2 有機農業畑に棲息するミミズ類の炭素および窒素安定同位体比

分解者のなかでも利用している餌は異なる

栄養段階とは、生態系内のエネルギーの流れや物質循環における生物の役割の類型で、生産者、消費者、分解者の3つの段階に分けられます。
同じ土壌に棲息し分解者として位置付けられるミミズでも、種類によって餌の嗜好性が異なることが明らかになりました。
同じような環境に棲息し、同じような土壌を胃の内容物として留めていても、実際に利用している餌は異なっていると考えられます。

畑にそなわる機能を高めるには

分解者のなかで実際に利用している餌が異なることは、それらが担う腐食連鎖についても、複雑な物資の流れが存在することを意味しています。

全面耕起による均一な管理ではなく、異なる微環境が混在する畑地に管理することで、多種多様な生きものの生息場所と餌資源を保障することできます。
多様な生きものが棲息し、それらが物質循環に大きく関与できる管理をすることで、有機農業畑にそなわる機能(はたらき)もいっそう高まることが期待できます。

※安定同位体については、「安定同位体比を用いて農地生態系の食物網を探る」を参照してください。


参考資料

青木淳一編(1991)『日本産土壌動物検索図説』, 東海大学出版会.
藤山静雄・藤田正雄・U. K. Aryal(2002)農業生態系の土壌圏-安定同位体比を用いて食物網を探る-.環境科学総合研究所年報21:59-64.

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