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有機農業技術の確定事例 ナス育苗時のアブラムシ対策

2006年、有機農業推進法が施行されたのを機に、埼玉県農林総合研究センターの研究員が埼玉県小川町の有機農家を調査し、有機農家とともにナス育苗時のアブラムシ類対策を検討した事例を紹介します。


有機栽培で見られる害虫と天敵

ミナミキイロアザミウマやマメハモグリバエ、アブラナ科野菜におけるコナガなどの害虫は、土着天敵によって密度の増加が抑制され、無農薬条件下ではほとんど問題になることはありませんでした。
しかし、育苗期間中のアブラムシ類をはじめ、ハムシ類やニジュウヤホシテントウ、またアブラナ科野菜におけるアオムシなど、皆殺しタイプの殺虫剤で排除されている害虫が顕在化する傾向にありました。

露地ナスの育苗時に天敵を利用

育苗期間中に寄生したアブラムシ類などにより定植後の初期生育が抑制され、収量に影響を及ぼすことが知られています。
有機農家が露地ナスの育苗時に、テントウムシを採集しハウス内に放飼していたことを参考に、有機農家とともに野外はまだ気温が低く土着天敵の活動が始まっていな時期の対策を検討しました。
その結果、下記の対策を確定しました。

ハウス周辺の除草により、アブラムシ類などの侵入を阻止する。
・ハウス開口部に防虫ネットを設置することにより、アブラムシ類などの侵入を阻止する。
ムギクビレアブラムシ(ナスの害虫とはならない寄主昆虫)が寄生したバンカー(天敵の代替餌が定着している植物、ここでは大麦をプランターで栽培)を用意し、低温期でも活動できるコレマンアブラバチを放飼する。
・野外でテントウムシ類が観察できるようになったら積極的に採集し、ハウス内に放飼する (定植後、トンネル内に放飼するのも有効)。

図 ナスのアブラムシ類を抑制するバンカー法(近畿中国四国農業研究センター 2005)

地域の育苗技術として共有

育苗時のアブラムシ類対策が功を奏し、有機露地ナスの収量は大幅に増加しました。
この方法は近隣の有機農家にも口コミで広がり、地域の育苗技術として共有されるようになったとのことです。

ただし、バンカー法については、この時すでに農業技術者の中では共有されていました。有機農家と技術者がもっと早く情報を共有し課題解決に取り組むことができていれば、有機農業技術の確定が早まったと思います。

参考資料

近畿中国四国農業研究センター(2005)『アブラムシ対策としての「バンカー法」技術マニュアル

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