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農産物の品質は、どのように決定されるのか?

科学的データにもとづいた有機農産物の品質解明への期待は大きく、「有機農産物の味や香りの特徴がどのようなものか、その特徴はどのような経路をたどって形成されるか」という消費者の疑問に対して、客観的な説明が求められます。

ここで紹介するように、有機農業で栽培した農産物が必ずしもその品質を保証するものではありません。まずは、自ら「美味しい」と思える農産物の栽培に心がけることが大切だと思います。


有機農産物の特徴

有機野菜には、

  • 包丁で切ると、バリバリと音がするほど硬いが、よく刃が通る

  • 煮るとすぐに火が通って、軟らかくなる。しかも煮崩れせず、歯ごたえがあるのに、歯にすじが残らない

  • 味はエグ味や苦さがなく、後味もさわやかである

などの特徴があると言われています。

ただし、有機農産物と言えども、肥料を施しすぎるとこのような特徴は見られません
慣行農業でも、できるだけ肥料を使わないことで、このような味に近づけることができます。また、堆肥の材料に家畜の糞尿など動物質を多くすると、病虫害が発生しやすくなるとともに、収穫した農産物もアクが強く、味が悪くなると言われています。

有機農産物の品質に関する研究の動向

有機物の分解過程からの窒素は作物にゆっくり吸収されやすくなるので、有機農産物が生育期間に吸収する窒素量は慣行栽培の農産物より少ない事例が多く見られます。
作物の糖含量は窒素吸収量が増加するほど低下するため、窒素量が野菜の糖など品質成分の上昇に結びつくと考えられています。
しかし、有機農業においても窒素施用量が増すとともに作物の窒素吸収量も増え、有機農産物が必ずしも高糖度・低硝酸とは言えない分析例が多々見られるようになっています。

有機肥料で栽培した作物は、窒素をアミノ酸で吸収しているから、硝酸濃度が少なくアミノ酸が多いとよく言われていますが、これは多くの分析例で否定されています。

糖など主要な品質成分含量には、養分吸収や生育速度、収穫のタイミングや流通が大きく影響していることもわかってきました。

品質を特徴づける管理とは

一般的に、有機農産物の緩やかな生育や適正な養分吸収と、新鮮さや完熟の度合い、土壌の良好な物理性(水分状態)などが品質関連成分の含有量に影響すると考えられます。
その他に養分吸収面では、アミノ酸の直接吸収や堆肥中の有効態リンなどが、品質を押し上げる要因となる可能性があります。

共生微生物には植物由来の物質の代謝経路を改変する能力があることから、農産物や加工食品の「美味しさ」にも多大な影響を与えると考えらています。
今後、農地に棲息する生きものが直接的、間接的に農産物の品質に及ぼす影響に関する研究も期待されます。
有機農産物をひとくくり(たとえば、有機JAS認証を受けた農産物など)で慣行栽培の農産物と比較するのではなく、個々の栽培の特徴を加味しながら品質成分に影響する管理を明らかにしていくことが求められます。

農家自らが「美味しい」と思える農産物を

有機農業をしていること、それだけでは農産物の品質保証にはならないことが理解いただいたと思います。
農家として心がけるべきは、自らが消費者として「美味しい」と思える農産物を栽培し、その価値を流通業者、その先にいる消費者に伝えることだと思います。
有機農産物であることが評価され買ってもらえるのではなく、品質がよく「美味しい」から商品としての価値があり評価されるのです。
それには、近隣の実施農家とともに技術の磨き、より品質のよい栽培方法を求め続けることが大切だと思います。

※「作物の品質向上のメカニズム」も参照ください。

参考資料

池田成志(2016)「植物共生微生物と農業」有機農業実践講座 落葉果樹 有機栽培はどこまで可能か,9-17. 有機農業参入促進協議会
田中福代(2015)「成分分析からみた有機農産物の風味」第16回有機農業公開セミナー 資料集,17-20. 有機農業参入促進協議会
西村和雄(2012)「西村和雄氏にきく有機栽培徹底Q&A」第11回有機農業公開セミナー 資料集,32-39. 有機農業参入促進協議会
林 重孝(2013)「有機野菜栽培の基本」就農希望者のための有機農業夜間講座,47-54. 有機農業参入促進協議会

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