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いのち引き継ぐこと

 4月。前回本宮町に行く直前に飛び込んできた恩人サイトーさんの訃報。

 白血病の闘病を丸10年以上。白血病の中でも5年生存率が3割を切る型であるにも関わらず、造血幹細胞移植に無事成功、更に移植後の5年生存すら果たし。

 更に更に、移植や放射線治療の後遺症を抱えながら自力で日本酒専門の酒屋を立ち上げ、亡くなる直前まで営業を続けてきたのでした。

 戦国武将の話が好きで、現代に生まれ落ちた武士のように、命を燃やし尽くしたことを、尊敬しつつも、その死がただ悼まれ『あなたの生き方はかっこいいとも思うけど、もっと長く生きる道を選べなかったのだろうか』と、本宮町への道すがら、運転しながら涙しました。

 5月、運転しながら同じくサイトーさんに思いを馳せたとき、「サイトーさんを生かし続けるには」とふと思いました。

 近しい人が亡くなると、DNAがほどけて自分に入り込むような感覚を過去にも感じたことがあります。その方のエッセンスが自分に染み渡るような感覚。

 サイトーさんが元気だったころ、私はサイトーさんが働く酒屋さんに週に1・2回仕入れに行っていました。私は居酒屋で働いていて、とても質の良い鮮魚が入るお店だったので、日本酒を是非看板商品に。と勉強に通っていたのです。

 お酒の味の特徴や管理方法はもちろん、蔵元さんがどんな人こんな人、ラベルのデザインのうんちく等々等等、……とても生き生きと語ってくれました。

 予約のお客様の好みや、前回仕入れたお酒と似通った感じのお酒がほしいというニーズにももちろん的確なアドバイスを頂け、お客様にもとてもとても喜んでくれていました。

 東京の下町で、閑古鳥の泣いていた赤字の居酒屋は、連日6時には満席になる繁盛店に生まれ変わっていました。

 さて、私、これからまた、生きていく上で、サイトーさんの教えてくれたことを、いかに生かせるだろうか。

 熊野本宮で沢山の方と助け合って田畑や生活を共にする道を選んだ時に、私の強みってなんだろう。と、掘り下げました。

 知って、そして、伝えることだ。お客様の知りたいことを探る事。それを知る人から学ぶこと。

 飲食店ホール時代に、自分の仕事の芯に据え、人にも語っていたこと。

『ホール(お伝え係・ニーズ探求係)は、調理場が作ってくれたお料理や、蔵元さんが醸したお酒たちをを80点なら100点に、100点ならば120点にしてお客様に手渡すのがお勤め。おいしいと聞いたら評判は調理場さんにも酒屋さんにも返そう。そうしたら客足が伸びて、業者さんの売り上げも伸びて、関わったすべての人を幸せにできるのだ』

 そんな思いで働けたのは、サイトーさんに姿から教わったからでした。

 武士のごとく咲いて散ったあなたに、恩返しができるならば、あなたに教わったことを、これからも活かして私が生きていくことだ。

 熊野の仲間たちが育てたあれこれを詰め込んだ移動販売車がほしい。そんな構想の後押しをしてもらいました。

 まずは皆様と出会って知る事、学ぶ事。誰に対しても謙虚で誠実だったあなたの姿勢を改めて学ぼう。

 最後にお会いしたお店で、和歌山から新しく仕入れようと思うんです。と勧めて頂いた太平洋の春限定酒。仲間と美味しくいただきました。献杯。

 ありがとう。

 


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