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最新刊の冒頭紹介

最新刊「18回目の初恋」の冒頭を少しだけ
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【冒頭】
第1章「余命宣告」

2024年1月。

真一は、医師より余命一ヶ月を告げられ、失意のどん底にいた。思い返せば真一自身の臆病さが招いたことであったが。

5年前。会社の定期健康診断の結果、再度精密検査を受けるよう通知が来たが、真一は無視をした。いや、病気が見つかるのが怖くて、現実逃避してしまったのだ。

それから1年後、再び精密検査を要請する通知が届き、流石に落ち込んでしまい、その姿を不審に思った妻に言い詰められた。その結果、渋々精密検査を受けたところ、末期の肺がんであることが分かったのだ。当時、余命半年を宣告されるも、妻の加奈子が全国各地のガンに良いという、ありとあらゆる健康食品を集めてきては、真一に飲ませていた。その甲斐あって、4年もの年月の延命がかなった。だが、日々の抗がん剤治療の結果、ついに余命一ヶ月を告げられるほど、真一の身体はボロボロになっていた。

ある日のこと、加奈子が一輪の可愛らしい花を花瓶に挿して病室に入ってきた。その姿を見て、真一は恐る恐る聞いた。

「その水色の花って、もしかして、僕らが初めて会った時の料亭の入り口に飾ってた花かな?たしか、ムーンなんちゃらって花?」

「ええ、そうよ。ムーンダストって花よ。よく覚えてたわね。あなたが綺麗な花だねって言ってたから、時々こうして花瓶に挿してるんだけど、今まで気づかなかった?」

「ごめんな。全然気づかなかったよ。抗がん剤の治療の苦しさで、周りのことなんて全然気にしてなかったよ」

「仕方ないわ。抗がん剤の治療は苦しいものよ。私は体験したことないから、どれだけ苦しいかはよく分からないけどね。あなたを見ていると、相当苦しいのかなって思うわ」

そう言いながら、窓際に花瓶を置こうとすると、ドアをノックする音が聞こえた。

「あらっ、誰かしら?は~い!どうぞ!」

そう言って加奈子がドアを開けると、真一の小学生の頃からの同級生である、畑中和也が花束を持って立っていた。

「真一!そして、これはこれは奥様も。ご機嫌うるわしゅう」

そう言いながら帽子をとり、軽くお辞儀をした。

「和也!久しぶりだなぁ、俺たちの結婚式以来だなぁ。元気そうで良かったよ!」

すると、和也は苦笑いしながら

「まさか末期ガンのヤツに、元気そうでと言われるとは思ってもみなかったよ。真一の方こそ、思ったよりは顔色がいいなぁ」

「おまえが来てくれたから、一気に元気になったよ!ありがとうな!」

「まぁ、お礼は奥様に言うことだね。わざわざ友達づてに連絡して下さったからね」

真一は、すぐに加奈子の方を見て

「加奈子!ありがとうな!グッジョブ!!」

加奈子は、フフフっと微笑みながら

「それにしても、和也さんはアグレッシブに世界中を飛び回っていらっしゃるから、連絡取るのが大変だったわ」

和也は微笑みながら

「ハハハッ!いやいや、奥様の方こそ流石ですよ!奥様のお仕事は探偵ばりで驚きました!まさかアマゾン川のほとりで、黒スーツの人が手紙を持って、なんと3日間も私のことを待っていたんですから!スマホ全盛の21世紀に、まさか手書きのお手紙を受け取るとは、ビックリ玉手箱でしたよ!」

加奈子は恥ずかしそうにしながら

「やっぱり手書きの方が想いが伝わるかなぁと思いまして。字は下手っぴで自信はなかったのですが、主人のこと、きちんと伝えておきたかったので」

「はいっ!しっかり伝わりましたよ!だからこそ、アマゾンでの仕事を急きょキャンセルして急いで帰国しましたから!」

すると、加奈子は深々とお辞儀をして

「本当にありがとうございます。では、私は買い物に出て参りますので、2人でゆっくりと話してください。失礼いたします」

そう言って、加奈子はそそくさと部屋から出ていった。

加奈子を見送ってから、和也は振り向き

「それにしてもなぁ、真一!スマホ落として、俺との連絡途絶えさしてしまうなんてなぁ、おっちょこちょいは昔から変わらんなぁ」

「すまんな、和也。それにしても、あの文字嫌いの加奈子が、よく手書きでおまえに手紙を出していたもんだ。それにビックリしてるよ」

「とても丁寧な文字で、お前への愛に溢れた手紙だったぞ!この幸せモンがぁ!」

「ハハハッ!そうかそうか。そういえば、和也は結婚はまだか?」

「今回の大型プロジェクトが済んだら、プロポーズする予定だ!だがな、今回の帰国で、少し延期になりそうだよ」

と、和也はイタズラっ子のような目で話している。

「あちゃちゃ!こりゃ和也に損害賠償請求されちまうかね?」

負けじと真一も童心に戻ってお茶らける。

すると、和也は窓の外の遠くの山を見ながら

「しかしなぁ、お前が末期の肺がんとはなぁ。まだ俺ら67歳だぞ!年金も貰ってないぞ!早過ぎるじゃないか……」

最後の方は声が詰まって言葉になっていなかった。

真一は、和也の頬に一筋の光を見つけ、言葉に詰まってしまった。

長い沈黙の後、ようやく真一が声を発した。無理やり話題を変えて

「そういえば和也の恋人、大学の同級生だったっけ?恋愛結婚になるのか、羨ましいよ!俺たちは、お見合いだったからなぁ」

和也はまだ窓の外を見ながら

「そうだな。俺たちは大学の同級生で、俺がいろんなライバルを蹴散らして付き合うことになったからな。そりゃあ武勇伝の一つだぜ!」

「そうだったな。是非お前たちの結婚式で、その武勇伝ムービーを流してくれよな!」

「おう!そうだな。そういえば、話しはまたガラッと変わるけどよ、小中学校の時の同級生で、川口美花ちゃんって、真一は覚えてるか?」

真一は一瞬顔が引きつったようになって

「お、おう。覚えてるさ。その子がどうしたんだ?」

「先月、亡くなったんだよ。通夜と葬儀に参列したんだ。流石に小中学校の同級生は、俺だけだったよ」

「そ、そうか。か、彼女、亡くなったんだ。そうか……」

和也は、明らかに動揺している真一の様子に

「どうしたんだよ!同級生が亡くなるなんて、もう俺たちのこの年になったら、そう珍しくないだろ!あ、もしかして、その子にホの字だったとか?いやいや、もう何十年も経ってるんだから、そんなこと関係ないかっ!」

真一は、大きく深呼吸すると

「せっかくお見舞いに来てくれたんだからな、土産話として聞いてくれよな。美花ちゃんは、俺の初恋の人なんだ。小学2年の時に同じクラスになって、一目惚れしたんだ。笑うなよ?こんな時に話すことかって」

すると、和也はビックリした顔になって

「お前もかっ!お、俺も彼女が初恋の人なんだよ!俺は小学3年の時に同じクラスになったんだよ。俺も一目惚れだったよ!いやぁ、初恋がカブることってあるんだなぁ。まぁ、2クラスしかない小学校だったしな」

真一も目を丸くして

「まじかよっ!和也も美花ちゃんが初恋の人だったのかぁ。まぁ彼女、可愛かったからなぁ。それにしても驚いたぜ!この30年で1番驚いたぜ!」

「そ、そうか。そんなに驚いたか。その勢いでガンも消し去ってくれよな!」

「お、おう。頑張るよ。今日はわざわざ、仕事キャンセルしてまで来てくれて、本当にありがとうな!」

「な~に!気にするな!ってか、あんな優しい奥様、大事にしろよ!加奈子さんだっけ?お見合い結婚とか、恋愛結婚とか、そんなのどうでもいいよ!素敵な奥様じゃないか!手紙、お前に渡しとくよ。この愛に溢れた手紙は、やっぱり旦那様が持っておくべきだと思うからさ」

「そ、そうか。有難う。後で読んでみるよ」

「1人でゆっくり読めよな。絶対に泣くと思うから」

「お、おう。そうするよ」

「それじゃあ、次会うときは、俺の結婚式だろうな!絶対に主賓で呼ぶから覚悟しろよ!」

「冗談止めろよなぁ!主賓ってことは、挨拶があるんだろ~?苦手なんだよなぁ」

「ハハハッ!もちろん冗談だ。じゃあ、そろそろ行くよ。元気でな!」

「あぁ、有難う!和也も元気でな!」

2人は固い握手をして、和也は病室を後にした。


※続きは本書にて、お楽しみ下さい

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