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「漫画村の真相」星野ロミ(ベストセラーズ)

ご存知漫画村を作って逮捕された人の手記。
そうです、もう出所してます。
2022年11月出所。逮捕が2019年7月、実刑3年。
罪状は著作権法違反ならびに組織犯罪処罰法違反なので、海外で逮捕されて極悪人みたいに報道されましたが罪としてはこんなものかもしれません。 

前半部は自身の半生が語られます。
イスラエルとドイツの二重国籍を持つ父親と、日本人の母親の間に生まれ(「ロミ」は本名)、東京の立川で生まれ育ったこと。
中学受験して東京電機大学付属中学という私立中高一貫校に進学。
しかしだんだん勉強が嫌になり成績が下降。
進級するための次第点にも及ばず、卒業はするものの進路のないニートに。
両親は途中から不仲になり、高校生の時に離婚。
母親に引き取られたもののニートを養える経済環境でなく、母親は郊外のアパートを契約してきてそこに星野を引っ越しさせると「半年間は補助するが、その先は援助しないから自分でなんとかしろ」と通告します。

星野は人付き合いが苦手で友だちがおらず、部活にも馴染めず、勉強もダメ…とあって高校時代の後半は慢性的な抑うつ状態にあり、ずっと家にいる状態だった。
その状況で金を稼がないといけない。
そこで彼が考えたのが「インターネットで金を稼ぐ」ということだった。
高校時代に「情報」という授業でHTML言語を習っていたことも大きかった。
ここで「働きにいく」という選択肢をとってたら、人生は違ってたんでしょうね。

最初にやろうとしたのは当時(2010年)流行っていた「まとめブログ」だった。
なにせ一日中時間があるのでせっせとやれる。
やってるうちにシステムも覚えていった。
ところがどれだけ手をかけてもある一定数以上のアクセスが伸びない。
当時はまとめブログ戦国時代で、有力サイト同士で連携していると他のサイトになかなかいかないようになっていた。
収入はあったが月5万円前後。
これではやっていけない─ということで路線変更を迫られます。

次に目をつけたのが更新されたブログ記事を集積するアンテナサイト。
当時すでにいくつかあったが、星野は後発で作った自分のアンテナサイトにある特性を持たせた。
それはブログ記事をただ収集するだけのシステムでなく、星野のアンテナを登録すると自動で元のページにアクセス数が返されるシステムで
(注:ここの説明がフワッとしていてよく理解つかなかった)
それが功を奏して登録者数が一気に増え、このアンテナサイトは始めてすぐ月40~50万、最終的には月収300万くらい稼ぐようになった。

ところが東日本大震災のあと、収益が急激に落ちた。
減少の理由は企業が広告宣伝費を削るようになって広告の数と単価が下がったからだった。
すぐに生活の支障が出るほどではなかったが、これはアンテナ以外にも別の収入手段を見つけなければいけない、と星野は考えた。

目をつけたのがアダルト動画サイトだった。
自分でアダルトコンテンツを作ったりアップロードするのではなく、他でアップロードされている動画のリンクを張り、アクセスを飛ばす「リーチサイト」というシステムで「ShareVideos」というサイトを作った。

当時こういったアダルト動画を張り付けるリーチサイトはいくつもあったが収入源はアフィリエイトリンクを踏んでもらった数や、その先で商品購入してもらった数に支払いが発生する仕組みで、張り付けられた動画が何回再生されようとそれ時代には金銭が発生しなかった。
なので星野は「ShareVideos」で張り付けた動画が再生された数に応じて、元のサイトにお金が入る設計を作った。
それによって動画とユーザーが爆発的に増え、月収で1000万から2000万くらいの収入を得るようになった。

この頃になると星野は高度なプログラムを作れるようになっており、同じようなアダルト動画を張り付けるサイトに過去貼ってある動画を全部「ShareVideos」に変換させるコードをばら撒いたりしている。
彼にとってインターネットビジネスは「技術とアイデアを使った陣地取りゲーム」みたいな側面があって、もちろん収入が入るにこしたことはないが、それ以上に「ユーザーにとって便利なサイトを作って、それまで他人が持っていた陣地をすべて自分のものに変える」ことの方により強い快感や達成感を得ていたフシがある。

そして星野のもう一つの特性として、枠組みやシステムを構築するのは好きだが、コンテンツそのものにはそんなに興味がない。
「ShareVideos」を成功させたのに、彼はアダルトコンテンツでビジネスをすることに嫌悪感を抱いていた。
なので早いうちにノンアダルトなビジネスもやりたいと考えていた。

このころ、彼は小さな失敗をしている。
知人から中野にあるコスプレバーが経営危機になっていると聞き、その店に行ったあとで「じゃあ自分が買うよ」とオーナーになることにした。
ところが星野がオーナーになった直後にお店のスタッフが一斉に退職、店は閉店せざるをえなくなった。
あとから星野に経営権を売った前オーナーが別の場所で新しい店を開き、そこに前の店のスタッフを呼び入れていたことがわかった。
星野はその前オーナーにハメられて残務処理だけさせられていたのだ。
それは今思い返しても漫画村事件以上に悔しくて腹立たしい出来事だったそうだが、一方で「リアルな会社や店の運営には経験とスキルが必要」ということを学んだ出来事でもあった。

そんなことを経験していた矢先、ノンアダルトなネットビジネスを模索していた星野はかつてメイド喫茶の経営をしていた伊達(仮名)という男と出会う。
伊達は当時仕事がなく、「ネットで何か儲かるビジネスはないか」と星野に相談してきた。
そこで星野は「こういうビジネスはどうか」といくつか伊達に提案した。
その中に他の人間の話を聞いてから頭に浮かんでいた「漫画の閲覧サイト」があった。
星野は著作権法を勉強し、自分のサイトに漫画をアップロードすれば違法だが、リバースプロキシというリクエストを別のサーバーに転送させるやり方であれば法律上は罪に問われない、と喝破していた。
(2016年当時・現在は違法)

こうして伊達が主導、星野がサイト構築・設計をする形で2016年に始めたのが「漫画村」だった。
星野としては先のコスプレバー買収の失敗があったので「これは伊達のビジネスで、何かあっても責任を問われるのは伊達である。自分はシステム構築を手伝っているだけ」という認識だった。
むしろ何度も「これだったら自分一人でやれるんだけどな…そうしたら利益も一人占めなのに…」と考えており、伊達のことは疎んじていた部分が見受けられる。
しかしその後警察は「漫画村を作ったのは星野」と判断、メディアでも主犯として扱われる。
ここに星野は立腹しているが、実情は伊達や、他の第三者の見解も聞いてみないとわからない。

繰り返しになるが、星野という男は枠組みやシステムを作るのは好きだが、コンテンツには興味がなかった。
漫画に興味がないからこそ、彼は漫画村を作り、それは爆発的な人気を集め、膨大なユーザーを呼び込むことに成功する。
彼にとって誤算だったのは、たとえリバースプロキシで現行法律上は責任を問えなかったとしても、漫画村は出版業界を揺るがす大問題になっており、自民党の知的財産調査会で甘利明と菅義偉が問題視する存在にまでなったことだった。
結果、政府が「緊急対策」として超法規的にサイトブロッキングを発動、漫画村は閉鎖される。
星野はこの直後フィリピンへ逃亡するが、約一年後、フィリピンから香港へ移動しようとしたところをフィリピン入国管理局に拘束され、逮捕される。

以上が「漫画村事件」のおおかたのなりましで、この本の中で星野は一貫して「納得がいかない」という主張をしている。
彼は根っからのプログラマー気質で、インターネット上の隙間みたいな「穴」を見つけてデバッグする作業が好きだったのではないかと思う。
一方で規範意識や、「苦労して作ったものを奪われる」人の感情には無頓着だったりする。
もう少し違った環境であれば彼の才能は正当に評価されたのでは…と思わなくもない。
星野はもう罪を終えたので、普通にXもしている。

https://x.com/romi_hoshino?t=Eh3ho78yddkXaQ8NgKPwzQ&s=09

固定ポストには
「漫画村が作れるプログラミングスクールを開設します」
という告知が貼り付けられている。

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