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山にはスーパー高齢者がいる


 もちろん、身近にも信じられないほど知と力を持ち合わせているベテランハイカーはいるのだが、いろいろな山に登ると、ものすごくエネルギッシュな後期高齢者に出逢う。
 
 わたしが登山を始めた頃、涸沢小屋のテラスで夜空の星を眺めていると、小さな人だかりができていて、その中心であった小柄な人物はもし電車内で見かけたなら、席をお譲りする様なお婆さんだった。他の若い登山客に凄いですねぇと称えられ、「わたしは90歳」と答えていた。わたしの耳に何気なく入ってきたその言葉で目が釘付けになり、しばらく固まってしまった。目を横にやると、さらに小柄で痩せ細ったお爺さんもいらした。どうやらご夫婦で登ってこられたようだった。

 つい先日の苗場山では、休憩中に「あれは至仏山、その向こうは…」などと一緒に行ったメンバーと話していると、下からやってきた72歳の男性が、山の名前を色々と教えてくれた。その男性は滋賀県から1人で車を運転してきて、3日間一座づつ山を堪能するとのことだった。滋賀県から苗場だってなかなかの距離だ。若い頃からの延長だと言っても疲れは出ないものだろうか?
その方は地元で山岳ガイドをしているとのことで、その方曰く「50歳から60歳くらいまでは初心者でもぐんぐん登れる。60歳から登山するのはやめた方がいい、65歳で登山を辞めようかどうかの選択をし、75で辞める目安」と仰っていた。いろんな登山客を見てそう確信したのだとか。

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 次の日の雨飾山は、もっと凄かった。ストックを使ってゆっくりゆっくりと上がって行く年配の女性を見かけた。少し耳が遠いようで、話しかけると大きな声でいろいろと答えてくださった。その大きな声が元気だという印象をさらに与えた。
その方は何回も雨飾山に来ているという。わたしはてっきり、地元の方なのだと思っていたら、三重からひとりで車を運転してきて、さらに凄いのは、駐車場の脇にテントを広げて一泊してきたと言う。思わずえっ?という声と共に信じられない気持ちでいっぱいになった。このお歳でテント?この時期朝方は冷えるだろうし、身体は痛くならないのだろうか?帰りの駐車場でもばったり会い「これから下の温泉に入りに行くんだけど一緒に行かない?」と運転席から顔を出してにこやかに誘ってきて、ブゥーンとエンジンをふかして行ってしまった。歳は伺わなかったけれど、後期高齢者であることは間違いない。とにかく元気なその女性は、以前の秋、突然雪が降り始めた時も雨飾山のブナ平までやってきて紅葉と初雪を愉しんだそうだ。それは綺麗な景色だったと言ってらした。

 苗場山も雨飾山も百名山で、結構な急登だ。ストックをしまい、三点確保で岩場を登る所がある。頂上からの眺めは最高に綺麗で、遠くの北アルプスや富士山まで見渡せる。登ってきて良かった〜と清々しい気持ちになる。けれどピストンで登るその山々は、這いつくばった岩の数々を淡々と下りていかなければならない。登りよりも下りの方が苦手だという人は多いと思う。そんな山行をものともしない後期高齢者たち。自分が何座が山行を重ねて行くと、そういうスペシャルな高齢者が珍しくはないのを知る。今まで、何人かと会話をする度、自分の感覚も麻痺しかけ、大したことではないのかと騙されてしまうほどだ。今回もまた、山の出会いは凄い人だらけだったと肌で感じた。

 わたしも自分なりで良いから、いつまでも山旅が出来る身体でありたいと願うばかりだ。


"写真はニセピークを超え雷清水より苗場山"
頂上はひらけていて、池塘がところどころにあり、木道を歩いて散策する。さながらミニ尾瀬の様な。

"雨飾山は名前にそぐわない男性的な山で殆どが岩場だった。登って下ってまた登る。途中にある荒菅沢の水の流れが癒される。6月山頂のカタクリの花が咲く頃が良いらしい"

追伸:スーパー高齢者は尊敬に値するが、山での事故は70代高齢者が多いのも事実だ。特にソロ山行は危険を伴う。凄いとは思うがお勧めはしたくない。山のスーパー高齢者は、みんな無理はしていない、ただそれが自然体のようだ。









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