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『インドネシアのムスリムファッション なぜイスラームの女性たちのヴェールはカラフルになったのか』ムハンマドというより、クルアーンに影響されている(イスラーム)

 この本は面白い。私が日本のファッション業界に属しているなら、周りの人にこの本を読むことを勧める。

 そもそも中東のムスリムの人はおしゃれをどのようにとらえているかを理解するところからはじめると、本書の理解が深まる。まず、中東のムスリムがなぜ黒い服を着ているかというと、預言者ムハンマドの妻の服が黒かったから、それを真似するところからはじまっている。では、女性のおしゃれの欲望はどうしているかというと、私は2つの仮説をもっている。一つは、カラフルな下着などを身に着けることで満たしているのではないか。というのも、エルサレムの旧市外にあるムスリムの女性下着屋さんの派手なことに驚いたことがあるからだ。もう一つは、中東のダイソーの売上ナンバーワン商品が女性のつけまつげだということから、ヒジャブで露出する目に対する化粧が重要視されているということ。

 しかし、この本を読んで、中東から離れたASEANのイスラームは、中東の女性と感覚が違うということをはじめて知った。彼らは中東の女性と違いムハンマドの存在が遠いのだ。その代わりクルアーンに対しての崇拝が強い。インドネシアのムスリムはクルアーンの「色染め」(雌牛章138節)を解釈し、ヴェールを黒ではなく、カラフルに仕立てている。さらに、巻き方もそれぞれが工夫し、Youtubeにアップしているという。

 日本人の感覚からすると、近代化することで、イスラームという不自由な宗教から離れていくと感じる人が多いと思うが、アッラーの寛容力はインドネシアのイスラームを魅了し、人気があるのだ。したがって、ヴェールを外すことは、女性の開放につながるというフェミニズム的な論理展開は成立しない。この傾向は、1980年代にクルアーンがインドネシア語に翻訳されてから都市部の大学生を通じて広がったという。

 著者の野中葉氏は、やはり、930事件の研究者である倉沢愛子氏の弟子だった。慶應義塾大学のイスラム研究者の層は厚い。

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