蜘蛛女のキスキャスト別感想(メイン3人のみ)

こないだの読んだら抑揚がしんでる怪文書をお届けしてしまっており頭を抱えているアカウントです、お元気ですか。こっちはこないだのよりは文章してると思う。
フォロワー!フォロワーもnote書こう!!!めちゃめちゃ通ってるの知ってるんだからな!!!!私はあなたのpostでこの演目知ったんだからな!!!!!!

○安蘭けいさん演ずるオーロラ/蜘蛛女
いやあ……綺麗でしたね。綺麗というかうつくしいというか。魅力的という概念を形にして表したみたいな。
私はあそこにいるオーロラのことをあんまり個人と感じていないというか、モリーナの宝物、この世界にあるうつくしいものの象徴でしょ?みたいな認識をした。うつくしくて完全で誰もが彼女に夢中になる。スクリーンに映る何よりも鮮やかな、銀幕のなかにいる彼女のかみさま。
銀幕のオーロラが現れると劇場の空気が彼女を見るみたいな、なんかそんな感じだった。キラキラの衣装着たスター役の大スターオーロラが個人的には一等好み。白いスーツを着たオーロラもすごいかっこよかったけど(あのシーン、かっこいい役をしている大女優って雰囲気であくまで女性の印象受けるのがすごいかっこいいなと思った。)

言うて私がいちばん好きだったのはオーロラ(幻想)がモリーナの肩を抱いて「馬鹿だねえ」「愛しているからだよ」って教えてやるところなんですけどね!!! オーロラの慈しむようなあの声聞いた……? ものを知らない幼いものを愛しむようなさあ……それはもう家族の愛なんよ(個人の感想です)
ママじゃん……となったしその後のマルタとの対比でママじゃん!!!!ってなった。マルタとのデュエットで、1幕ではモリーナママが立ってたところにオーロラがいるんですよ。
愚痴ひとつ言わずにモリーナを育て上げて"男らしくない"モリーナのありのままを誇りに思ってくれたモリーナママはもちろん素敵ママだけど、幼いモリーナの子守をしてくれたのは銀幕に映るオーロラで、彼女の姿もモリーナを守り育てたものなんだよなあって思った。

モリーナのベッドに並べて飾られた2枚の写真、モリーナママは(たぶん)モリーナに笑顔をまっすぐ向けている一方で、オーロラはカメラに背中を向けてうつくしい横顔を見せている。モリーナのほうを向いていない。あの対比が好きなんですよね。モリーナを愛おしい家族みたいにしてくれる彼女はオーロラという本人ではなく、あくまでモリーナが銀幕に見た幻想なんだなって感じがして。演者が生きた物語の外側で、かれらを見た者が勝手に思い入れて勝手に救われていく。『夢を与える』だよ。

蜘蛛女の話してないな。蜘蛛女、死の概念って感じでヒトの形をしたヒトでないものが好きなおれは大勝利だった。人の目を惹きつけるのに性的な艶やかさでは一切ないの、あれどうなってるんだろうね。
2幕だったかなー、蜘蛛女のソロで順々に視線をやりながら指さしていく仕草がすごい好きです。彼女の指先に意識がすうっと持っていかれる感覚が楽しかった。ギミック?仕組み?としては1幕でバレンティンが毒飲まされたときは彼をずっと目で追ってる彼女が2幕で出てくるときはモリーナをただただ見てるのがひぇ……ってなりますね。拷問ごりごりされてるバレンティンは殺される予定はなく、綱渡りしてるモリーナのほうが死に近いところにいるんだなって思った。
同じ衣装なのにラストシーンで観客やってるときはにっこにこしてて可愛かったですねー! あの場面は蜘蛛女という概念じゃなくて映画館の観客だから存在の異様さも圧もなく綺麗な女の人なの。モリーナに指名されたときの『わたし?』みたいな表情と身振りげきかわだった。


○石丸幹二さん演ずるモリーナ
出てきたときのモリーナに「ようじょ!!!!!」とテンション爆上がりしたことをここに白状します。膝の上に置いた人形に両手で触れて、荒々しいものに肩をびくりと振るわせて。外界から心を閉じるしか身を守る術がなさそうなのとても好きでした。
ここでいうようじょは世界の悪意に抗う術のない者みたいな意味です。現実を変える力がないから見ないふり気がつかないふり、何も感じていないふりをするしかできない弱い者。自分の心を守るために痛いと感じている感覚のほうを否定する生き物、愚かで哀れましくて可愛いと思う。
馬鹿に思わせとけばいいこともあるって彼女は言うけど、愚かな弱い者と振舞って得られる安全は侵略を許し続けることでしか維持できず、僅かな抵抗で破壊されるので……。枕元に大事に飾っているポスターを目の前で破かれるのとかさ。

(馬鹿にされても従順でいとけば)「新しい服ももらえるしね」と言ってたモリーナが"協力"の見返りで柔らかい赤系のセーターを着ていて、でもその服は端っこがぼろぼろの粗末な古着なの最高じゃなかったですか? 私あそこちょう好き。自分を大事にしないことで得た施しはやっぱり、自分の代わりにモリーナを大事にしてくれなんかしないんだなって感じがして。モリーナ自身が無視した彼女の心を大事なものだと思ってくれるやつなんざ世界にそうそういないのよな。

出所後の仕事場とガブリエルとのシーンがまじでそういう感じ(モリーナが大事にしなかったモリーナの心は誰も大事にしてくれない)だなと思っている。仕事場の同僚もガブリエルも、別にモリーナを傷つけたり嫌な思いさせたりするつもりはないんだよね……。どちらかと言えばモリーナに優しい側の人々なんだよ彼ら。
同僚は「前みたいに」「女子トーク」を(たぶんお互い)楽しみつつ仕事をしようとしただけ、ガブリエルも「気持ちには応えられない」「すまない」と逮捕前の逢瀬からずっと言っている。嫌だと思っていた現実にそれでいいとしてきた、それじゃ嫌だと伝えてこなかったのはモリーナ自身なんだよね。
モリーナは店のオトコをそういう目で見る話は好きじゃないと言ってこなかったし、プレゼントや私的な会話を拒まないだけの人じゃなくてデートをしたい私を欲しいと思ってくれる人がいいと行動してこなかった。だからモリーナが悪いって言うんじゃなくて、モリーナがそれをしなければモリーナの本当の気持ちなんて他人にわかってはもらえないよね(モリーナママのような、積極的に受容して愛そうとしてくれる存在でもない限り)という話。
まあね……でもモリーナが自分が変われば世界も変わるなんて期待を持てるほどモリーナが見てきた世界は彼女に優しくなかったんだろうね……。

自分でも世界を変えられるという幻想を必死に握っているバレンティンがモリーナのためを想って望んだだろう約束、自分を蔑めることで社会を生き延びてきたモリーナはあれを守ろうとしたら社会で生きていけないのすごく残酷でテンション爆上がりしちゃった(2回目)
でもモリーナは傷つきながら痛いのを見ないふりして生き続けるより自分で選んで信じたもののために誇らしく生きて死ぬことを決めて、貫きとおしたからあれはきっとハッピーエンドなんだよ。彼女が取り得ただろうもののなかできっと一番ほんとうだった。世界に対して無力で無様でいるしかなかったモリーナがやるべきと思ったことを選んで貫いたって意味でも成長譚、ハッピーエンドだと思う。幸福ってそれ以外のものが見えない状態であるからして、世界の優しくないところを味わいつくしているモリーナが幸福になれるとしたら、それは大事なものだけ抱きしめたまま生を終えられることだと思うので。


○相葉裕樹さん演ずるバレンティン
無骨というか無粋というか無神経というかまあなんつーか悪いやつじゃないんだけどなみたいな男(好きです)なんですが、でもそれバレンティンのせいじゃないしな……という印象。与えられなかったものを与えるなんて、どだいヒトには無理なので。彼が社会から大事にしてもらえなかったことは彼のせいではないし、彼が教養を与えられなかったのは彼の責ではないし、彼が生き延びるために現実を見続けるしかなかった環境は彼が望んだものではない。1789のロランとかMAのマルグリットとかそっち側の人間だよね彼。誰かには当たり前に与えられているものを誰も与えてくれなかった、だから彼は与えてくれた唯一を絶対として握りしめるしかない。
モリーナにとってのオーロラがバレンティンにとっての革命思想だから、憎めないというか彼を責めてもしょうがないというかおまえの手からそれを奪うなんて酷なことできないよみたいな、こう……。うーんふわふわしたこと言ってるな。
例えばさ、バレンティンが食い入るように小さな本を見ているときって、たぶんあれ外で起きていることから心を守る防衛反応じゃん? モリーナに背を向けて本を開くのもそうだったし、後の場面ではモリーナが人形を抱きしめているときに彼は本を開いている。2人して、檻の外で起きている悍ましいものに背を向けて。
苦しい人間が生きる希望を失わないための装置が信仰で、神さまが自分たちを救ってくれないと気がついてしまった人間は代わりの何かがなければ生きていけない。
豊かで恵み深い神様はバレンティンと妹の貧しさを救ってはくれなくて、モリーナのように心を逃がす夢想も与えられないできて。苦しいだけの現実で生きるためにバレンティンは革命に縋るしかなかったんだろうな、彼は思想を選んだんじゃなくて他に掴めるものがなかったんだなと、彼が「1本だけ知ってる」「映画」の話を聞いて思った。差し出されたものを掴まなければ絶望しかない状況で、それを掴んだからって選択したとは言わない(と私は思う。)

革命思想はバレンティンに残った唯一の希望で、優しくない世界から彼の心を守る唯一の鎧だったんじゃないかなあと思っているんですがどうなんでしょうね。バレンティンがモリーナに初めて心を開くそぶりを見せたのも思想の話だったし。あのちょろさ(というか現金さというか)、彼にとって大事なものはそれしかないんだなってちょっと痛ましかった。仲間を見殺しにしても手放すわけはないんだよね、他に彼を救ってくれるものなんてないんだからさ。革命は彼の状況を救ってくれないけど、彼の存在を価値のあるとしてくれる唯一だったので。だったというのは、モリーナが約束と自分で決めた献身で、貴方は私にとってかけがえのない存在なのだをくれたので。

ところで相葉さんの頬から顎にかけての黒い模様が無精ひげだと気が付くのに割と時間がかかり(傷や汚れのひとつだと思ってた)、あっそういう人物造形ー!と気が付いてから一挙に解像度が上がるオモシロ体験をした。モリーナのタイプじゃない言うけど顔が綺麗な若い男じゃんと思ってたけどむくけき(あとたぶんちょっとたるんだボディの)男だった。解像度と言えばバレンティンの服、元は青っぽい服に細かーく赤が入っていてその差し色は彼の血ですね感がえぐさ満点だったと思います。脛には殴打の、背中には棒状のもので殴った痕があるのとかも。

村井さんのバレンティンは観てないんだよねチケット取り損ねちゃって。いつか観たいですね。

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