蜘蛛女のキス、思ったよりハッピーエンドだった。

妙な表現の仕方するんですが、前評判から想像してたよりハッピーエンドだったなあという印象。LOVEだよ。

モリーナは愛を貫いた自分に誇りを持って死んだし、その愛が一方向でなかったとバレンティンは返してくれて、モリーナはそれを取りこぼさず受け取っていた。永遠の愛かは知らないけどあの瞬間は真実の愛だったよ。外の世界は彼らにやさしくないままだったけど、バレンティンはモリーナそのものを大事にしようとしたしモリーナはバレンティンの希望と使命をどっちも守っていった。彼の心が折れないための支柱を。
……ほらハッピーじゃない? 彼らは彼らに優しくない世界でひとつ確かな温かいものを手に入れて生きて死んでいったよ。いえあの前評判で比較対象が「パレード」になってるからこの感想なのは己でも薄々わかっておりますが。「パレード」でただしく清らであることは何の力も持たなかったけど「蜘蛛女のキス」で愛はたしかに力だったよ。ひとりの人間が何十年積み重ねてきた色ない世界を変えるほどの。もっと穏やかなものと比較せよって話ですねはい。
うーんでも今年見た中で並べても、たとえばマタハリやマドモがハッピーエンドならこれもハッピーエンドだと思うなあ、あの2つがハッピーなのかは置いといて。(私はハッピーだと思ってるんだけど世間一般的にあれらはハッピーなの?) ハッピーかは知らんけどどれもトゥルーではあるんじゃないかな、彼らが彼らであることを貫いた、その中で掴めるだろう最良の結末。

観終わった後でじわじわ元気になったからいっぱいやってほしい演目だなって思ったけどあの演目1か月も2か月もやってたらキャストさんの胃か髪に穴が空きそうだなとも思った。10円サイズで。掛け替えのない者を喪った世界でそれでも生きていくしかない遺された者からしか摂取できない栄養素、我ながら根性が悪いと思うけどでも気のせいじゃなく体調が良くなるんだよな……。いや何の話をしてるんだ私は。
たしか東京は今週末までだから見に行くといいと思うよ。池袋はプレイハウスです。あのハコいいよね。悪意や暴力に蹂躙されるしかないようじょだったモリーナが自分のしたいと決めたことを意志もって貫く人間に育つのでそこにも感動がある。たぶん。
口当たりがハートウォーミングストーリーというよりハートフルストーリー(和製英語じゃないほう)(という言葉遊びのスラングのほう)というか、カタルシスの前にでっかいダメージがあるしカタルシスもわーよかったねー!!!ってまっすぐ言える系ではないのはそれはそう案件なので(ある意味で人魚姫みたいな話だと思う)、今みると立ち直れなさそうだなって思ったら再演を待つのもありだと思う。2幕のラスト、わたしはあそこを舞台の拍手に合わせて拍手を送り板の上が暗転してく感じがタイミングとしては自然なのかなって感じたんだけど、客の側からすると そ ん な 無 茶 を 言 わ ね え で く れ みたいな心境になるんだろうなとも感じた。LOVEだよ。あの作品はそこがLOVEなので……。あれは外に出たモリーナが彼女として生きて死んだ、彼女が掴める悔いのない最上の結末だと思うので……。(バレンティンにとって悔いのない最上だとは言ってない。)(でもそこがいいんじゃんねあの話はね)

ところで好きなところの話をするんですが、看守ズの若いほうがちゃあんと理性と抑制の利いた人間で、その上で短絡的な暴力と悪意の役割してるのを途中で確信してしまってぐっっっってなりました。年嵩の看守の指示を目だけで確認してから囚人にぶつけてるんだよ……衝動みたいな暴力をさ……。自制のきかないあの性質なんじゃなくて仕事でやってんだよあの人格……。

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