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ファミレス(1/4)

 ひどく落ち込んだ気分に身体を圧迫されるような日がある。そんなときはだいたい夜中に悪夢を見る。悪夢の内容はいつも同じだ。あたりは黒い霧に覆われていて、ごおーっという太い音で突風が拭いている。その風の音がまるで人の声のように聞こえるのだ。声はとてつもなく大きな音で耳の奥に響き渡る。「お前のせいだ」と声は言っているようだった。

 最近は悪夢を見る日が以前よりも増え、それにともない次第に眠りも浅くなった。そのせいで、日中の会社業務でつまらないミスをすることも増えた。

「キミさあ、何年この会社でやってるの?給料貰ってるんでしょ?ああもう、どうしたらもう少し真面目にできるかなあ」

 上司からの注意に、はい、はい、と頷いて返事をして、退勤後、ファミレスに行って夕食とコーヒーを頼んだ。煙草の吸い過ぎで胸が痛い。

――あの、ここ、空いてますか。

 はじめのうち、おれは自分に言われていると気付かなかった。「すみません」とふたたび声がして、しばらく間があったことで、はじめておれに言ってるのだと気がついた。

 小学生だろうか。女の子が立っていた。

 おれは周囲のテーブルを見渡した。店内は空いており、他に座れるところはいくらでもあった。

――ここ、座ってもいい、ですか?

 え、ああ、いいけど、と返事をすると、ありがとうございます、と言って女の子は座った。

 茶色のゴムで束ねたポニーテールに、グレーのパーカーという服装だった。沈黙。おれは考えた。近所の子かな?いや知らない子だよな?最近は子供一人でファミレスに行ったりもするのかな?でもバッグもなにも持ってないしな?そうしているうちに店員がデザートを持って来た。「お待たせしました。バニラアイスでございます」

 テーブルに置かれるアイスを見つめる女の子と目が合う。

「…なにか頼む?」

――え。

「い、いいよ、ほら」と言っておれは女の子にメニューを渡した。子供のときにびびりながら野良犬に餌をあげたときのことをなぜか思い出す。女の子は急いでメニューをめくった。

――じゃあ、これで。

 女の子はわらびもち(単品)を指さした。どうせだからセットにしたら、というと

――じゃあ、緑茶(ホット)を一つ。

 最近の小学生はチョイスが渋いなとおれは思った。

<つづく>

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