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[外国企業決算を読む(6)] クアルコム


会社概要

クアルコム(Qualcomm)もNVIDIA、AMDなどと同様、自社で製造工場を持たず半導体の設計に特化しているファブレスメーカーです。そしてQualcommが開発しているのはSoC(System on Chip)。現状、売上の半分以上がモバイル向けではあるものの、自動車の運転支援用途、IoTデバイス向けなど、販売先の拡大を進めています。

モバイル(スマートフォンなど)向けのSoCはそれひとつでスマートフォンをコントロールする必要があるので、Qualcommはプロセッサだけでなく通信技術にも強みを持っています。コンピュータの心臓部を作っているという点ではQualcommもNVIDIA、AMD、Intelと同じですが、プロセッサに特化して演算能力の高さを追及していくNVIDIA、AMD、Intelとは少し毛色が違うと言っていいでしょう。

そんな QualcommにはQCT、QTLの2つの事業部門があります。

QCT

Qualcomm CDMA Technology。CDMAは通信方式の1つなので、いうなれば通信技術開発部門。スマートフォン向け、IoT向け、運転支援向けなどの各種SoCを開発しています。モバイル向けのSoCを手掛けるQualcommならではの事業セグメント。収益の大半を稼ぐQualcommの主力部門。税引前利益率は20~30%。

QTL

Qualcomm Technology Licensing。ライセンス料を収入としている部門です。収入はQCT部門の6分の1程度ですが、税引き前利益率は70%近いという、超高収益な事業セグメントです。


Qualcomm自身による自己紹介

Qualcomm is enabling a world where everyone and everything can be intelligently connected. Our one technology roadmap allows us to efficiently scale the technologies that launched the mobile revolution – including advanced connectivity, high-performance, lowpower compute, on-device intelligence and more – to the next generation of connected smart devices across industries. Innovations from Qualcomm and our family of Snapdragon platforms will help enable cloud-edge convergence, transform industries, accelerate the digital economy, and revolutionize how we experience the world, for the greater good.

quoted from Earnings Release

Qualcommは、誰もが、そしてすべてが賢くつながる世界を目指しています。Qualcommの技術ロードマップにより、我々は、モバイル革命―――より発展したコネクティビティ、高い性能、低消費電力でのコンピューティング、手元のデバイスに搭載できる知能―――をもたらした技術を効率的に、さまざまな産業分野で、次世代のコネクテッドスマートデバイスに拡大していくことができます。QualcommとSnapdragonシリーズが起こした革新は、cloudとedge の境界をなくし、産業を変化させ、デジタル経済を加速し、私たち人類の体験に革命的なすばらしい変化を起こす助けとなるでしょう。


Technology Roadmap

ここで言及している技術ロードマップについては、2021年11月のInvestor Dayの Presentation 資料に説明があります。
ここには、Qualcommはスマートフォンなどで必要になるあらゆる技術を保有しているため、スマートフォン以外の端末、IoTデバイスや果ては自動車(運転支援システムやコネクテッドカーに搭載する通信モジュールなど)に至るまで事業の幅を広げていくことができる、と書いています。

from Presentation by Chief Technology Officer, on November 2021
from Presentation by Chief Executive Officer, on November 2021


財務情報

4半期決算リリースはすべて以下のページから辿れます。


筆者流の決算の読み方ーQualcommの場合ー

20年分 Earnings Release をざっと確認しましたが、2~3年ごとに書式が少し変わったり時に大幅に変わったりしているため、長期分析はしにくかったです。たとえばある年は営業利益を載せていたが翌年は営業利益が消えて税引前利益になっていたり。
とりあえず全期間を通して売上と純利益だけは必ず記載があったので、以下の業績推移も売上と純利益に着目しています。

なのでまずは Earnings Release に記載の売上と純利益を見て、中長期的な成長率を見ます。そのまま Earnings Release で部門別の売上高や税引前利益など見ても良いですが、Qualcomm自身が重要と考えている決算数値をぱっと見るなら Earnings Presentation がオススメです。最近は税引前利益(EBT, Earnings Before Taxes)とその利益率を重視しています(以前は営業利益だった時も😅)

FY23Q4 Earnings Presentation より引用


業績推移

2004年度から20年間の業績推移は以下のグラフのとおりです。
売上高はいったん2014年度をピークに2019年度まで下がり気味でしたが、コロナ禍を経て再び力強く成長しています。2023年度は失速していますが、それでも2022年度に次ぐ過去2番目の売上高。24年度Q1は23年4Qより売り上げ、利益とも改善を見込んでいるので、22年度を上回る過去最高益を期待したいところです。

20年間の売上高推移

純利益率は20年前の30%台後半から緩やかに低下してきていましたが、コロナショックの翌年(2021年)から上昇に転じました。23年度はまた低下してしまいましたが、24年度はおそらく23年度よりは改善するでしょう。まずは目指せ30%超、でしょうか。
ちなみに2009年度にがくんと利益率が大幅悪化しているのはリーマンショックの影響です。大幅悪化とはいえ、赤字転落する企業が続出したあの大不況下で20%を超える純利益率というのは驚きですが😅

20年間の純利益率(Non-GAAP)の推移


事業構成比

部門別の売上データが取れる直近4年間の部門別売上高をグラフ化すると下の図のようになります(縦軸の単位は100万ドル)。24年度Q1はQualcomm自身による予想値です。Handsets、つまりモバイル向けが収益の大半を占めています。

セグメント別の売上高推移
23年度はRF-front end の売上が0になっていますが、Handsets に統合されたためです。

売上自体はまだ小さいですが、自動車の伸びは大きいです。技術ロードマップに沿って、モバイル偏重の事業構造が少しずつ変わっていくのかなと思います。

具体例

以上を踏まえて、別の記事になっている実際の決算を読んでみましょう。


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