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中国の”100年マラソン”戦略暴いた米対中強硬派=ピルズベリー氏を招いた中国指導部の腹の中~トランプ勝利を予測?


【画像① 訪米首脳会談の際、突然、シリアのロシア空軍が展開している基地にミサイル攻撃をして、それをいきなり相手に告げるようなトランプ前大統領に、強面の習近平主席も振り回され”手ごわい相手”と認識している可能性がある。】


◆米要人訪中者の中に対中強硬派マイケル・ピルズベリー氏が


来年の米大統領選を前に、中国が米要人や政党・政府ブレーンを次々に自国に招いている。注目されたのは、民主党の大統領選有力候補と見られるカリフォルニア州知事ギャビン・ニューサム氏が北京を訪れ、10月25日に習近平主席と会談したことだ。


「中国の習近平国家主席は(10月)25日、米カリフォルニア州で来月開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に先立ち1週間の予定で中国を訪問しているギャビン・ニューサム知事と会談した。…11月12日から同州サンフランシスコで開催される首脳会議では、ジョー・バイデン大統領と習主席が会談すると見られている」


「ここ数カ月で北京を訪問した米国の閣僚には、アントニー・ブリンケン国務長官やジャネット・イエレン財務長官、ジーナ・レモンド商務長官が含まれている。10月初旬には、チャック・シューマー上院院内総務と共和党のマイク・クラポ上院議員が率いる議員団が北京を訪問した」


「(カリフォルニア)州知事室によると、ニューサム知事は習主席と気候変動対策や経済、文化交流、観光について協議。さらに、香港や新疆ウイグル自治区、台湾における人権侵害や反民主主義的な取り締まり、2006年から中国で拘束されているカリフォルニア州の牧師デビッド・リンについても話したという」


(参考)「訪中のカリフォルニア州知事、習主席と会談 気候問題など協議」2023/10/27 Russell Flannery、Forbes JAPAN(フォーブス日本語版)

https://forbesjapan.com/articles/detail/66977



【画像② 10月25日、習主席との会談に臨むため、北京の人民大会堂に入るカリフォルニア州知事・ニューサム氏。】


香港、ウイグル、台湾の人権問題や拘束中の米牧師の問題など、習主席には耳の痛い話も出る会談だったが、それを許容してでも面談したのは、11月12日のバイデン大統領との訪米会談のワンステップとして重視したことがあるだろう。これは「対米関係改善」の意思のアピールとも言える。あわせて、中国側の思惑としては、ここのところ心身の衰えを隠せなくなったジョー・バイデン大統領が来年不出馬の場合、”二番手”の位置につけて民主党候補になる可能性が一番高いと見られるニューサム氏との関係作りに着手したということだとも考えられて いる。


中国はここのところ”不動産バブル崩壊”に見られるような経済不振に直面している。またロシアのウクライナ侵攻で世界の政治・経済構造がガラッと様変わりしつつある中で、それまで”台湾侵攻の可能性近し”と世界を揺るがす震源地になる国と見なされてきた状況が変わってしまい、何よりも自国が経済不振からどう立ち直るかが優先課題となっている。そのため、数年にわたって冷え切りつつあった対米関係の持ち直しを図らねばならない状況に置かれている。


むしろ、米バイデン政権の方が、”台湾防衛”を前面に政治的に中国を追い込むポーズをとっているが、実際のところ米政府周辺からは「中国による台湾への軍事攻撃、侵攻は当分の間ない」という認識が語られているところだ。しかし、一方で米国の対中強硬姿勢を背景に欧州でもドイツなどで「対中関係見直し」など、経済利益優先で中国に対して宥和的だった外交政策の見直しが進んでおり、これが中国の国内経済立て直しにも影を差す要素になっている。そのため、中国は「政策研究レベルでの交流」を打ち出し、「一帯一路」政策を掲げ直しながら「平等互恵の経済成長路線」の追求など聞こえの良いスローガンを付け加えながら、欧米シンクタンクから研究者を招聘しての国際会議を開いている。


その中で、10月下旬、ちょうどカリフォルニア州知事が訪中した時期に重なって注目すべき人物が中国シンクタンク主催の国際会議に参加した。中国の”100年マラソン”戦略を暴いた対中強硬派の地政学者、マイケル・ピルズベリー氏である。同氏の著書『China 2049-秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』(日経BP社)は、我が国でも話題を呼んだ。



【画像③ トランプ氏ブレーンと見られる対中強硬派、マイケル・ピルズベリー氏。】


◆”100年マラソン仕上げの時期”に許されぬ失敗~ライバル国内に”保険”をかける習近平指導部


”100年マラソン”とは、中国共産党が”革命成功”で中国のほぼ全土を支配下に押さえた1949年を起点に、次の100年で”世界の覇者”の地位に到達するという息の長い世界覇権(革命)戦略を特徴づけた言葉だ。これは歴代の中国共産党指導部が掲げてきたもので、私自身、北京オリンピックが開催された2008年の段階で、当時の胡錦涛国家主席の経済ブレーンの1人から直接次のような話を聞いたことがある。ちなみに、2008年はGDP=国民総生産額で中国が日本と並んだ年である。


「21世紀に中国は世界の中で経済的にも政治的にもトップの座に躍り出る。これは欧米の立場の異なる学者たちにも、共通認識となりつつある。2010年から中国は国防力で空母数隻を持つ世界に乗り出せる軍事力を持つ国家となり、2030年にはGDPでトップの米国に並ぶ地位に到達する。2040~49年に軍事力、経済力共に文字通り世界のトップの座を中国が占めることとなり、世界秩序をコントロールする米国の現在の”一強的地位”を担うことになるだろう」


ピルズベリー氏は、中国のトップ学者が述べる以上のような見通しを、より具体的に著書の中でデータの裏打ちもしながら明らかにした。もちろん、それが中国共産党の思い通りに進めるかどうか、という意識を持ちながらである。そして、これまでの中国の振る舞いを見るなら、それが世界にとって何を意味するかも明らかにしている。



【画像④ ピルズベリー氏の『China 2049-秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』(日経BP社)は、我が国でも話題となった。中国共産党の世界制覇に向けた長期戦略を白日の下に暴露した。】



「50年前、リチャード・ニクソン大統領が進めた中国共産党の支配する中国との和解と協調の路線は、中国が経済発展を遂げていくなら同時に自由と民主主義の面での体制変化も進むに違いないとの楽観的考えに基づいたものだった。実際に鄧小平氏が最高指導者の時期である1978年から導入された市場経済導入による経済発展路線『改革・開放』は、文化大革命で展開された壮大な規模での人権蹂躙を反省するような言論を許すなど、外形的に民主主義の拡大を思わせるような外観も伴った。これが将来とも進むと考えた欧米諸国は、ソ連への対抗という思惑をも込めて中国の新路線への支援、経済及び技術面での協力を惜しまず進めた。しかし、結局、これは急速な経済成長はかちとらせたが中国共産党の一元的な政治支配の基盤を強めることとなり、1989年6月4日の第二次天安門事件での軍による民衆弾圧で『経済成長と共に民主主義拡大』という幻想は吹き飛ばされた」


およそ、こんな認識の下に中国共産党の”100年マラソン”戦略が解き明かしたのが、ピルズベリー氏の「世界覇権100年戦略」である。この認識の下、同氏はトランプ政権での対中政策に影響力を及ぼしていた。現在、ヘリテージ財団上級研究員である同氏は、引き続きこの中国の”100年マラソン”成就を許さないための対中強硬策を提示する立場を堅持している。


その対中強硬派であるピルズベリー氏が、北京での欧米と中国のシンクタンクが合同開催した国際シンポジウムに招かれたのだ。同氏を招いた中国側の意図について、中国人民解放軍系のシンクタンクと関係の深いある研究者はこう述べている。


「米国の来年の大統領選挙の状況は混とんとしており、中国側から見て結果が予測しにくい。場合によっては共和党・トランプ陣営の勝利だってあり得る。一方、先の中国共産党全国代表大会で異例の3期目最高指導者の地位を獲得した習近平主席は、しかしながら『改革・開放』路線始まって以来の大規模経済不振に襲われて、自国内経済の調整だけではこれを乗り越えられない局面を迎えている。21世紀半ばに米国を押さえて世界のトップに躍り出て、『偉大な中華民族の復興』を成し遂げられるかどうか、その仕上げの時期に入る。そのため、バイデン陣営、トランプ陣営の双方に保険をかけるというのが、ピルズベリー氏を招聘した意図でもある」


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