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【中国語講座】渉ですと?

中国語と日本語は、ご存知の通り同じ文字「漢字」を使っているので、色々便利ですよね。お互いの言語を知らなくても、筆談でなんとなく相手の言いたいことが分かったりしますからね。

でも、中国は簡体字を使うし、日本は日本風の略字である常用漢字を使いますので、時々勘違いとか面白いことが起こります。

●岡/冈
この字、中国語ではgāngと読みます。でも中国語の中ではあまり使われない字のようで、たいてい上にヤマカンムリのついた「崗/岗」という字と混同されてgăngと読まれることがとても多いようです。

僕の大学時代の同級生の「中岡」さんは「Zhōnggāng」が正しい発音ですが、中国人の某先生からいつも「Zhōnggăng」と呼ばれ、最初は自分の事だと思わなかったそうですが、自分の事だと分かってからは、「私は本当は『Zhōnggāng』なのに~~~」と思っていたそうです。でも訂正はしなかったそうです(笑)。訂正すればいいですのにね。

この現象と関係あるのかどうなのか分かりませんが、山西省大同市にある有名な石窟寺院、ご存知でしょうか?

そう、雲崗の石窟ですね。中国三大石窟の1つです。この“云岗石窟Yúngăng shíkū”ですが、中国ではよく“云冈石窟”と表記されているようです。でも発音は「găng」なのですよね(笑)。どうなってるの???

●新潟
日本の新潟県、この「潟」という字がよく誤解されます(笑)。

この字、簡体字でも同じ表記で、発音は「xì」なのですが、この“潟”はあまり中国では使わないようで、「瀉」という字だと思われています。確かにソックリですね。で、この字の簡体字形“泻”で表記されてしまいます。発音は「xiè」です。

ちょっと待って、この字、「止瀉薬」の「瀉」ですよ。下痢のことですよね?(苦笑)

ひどいですよね~(笑)。皆さんも中国の人が新潟のことを「Xīnxiè」と言っていたら訂正してあげてくださいね!

●渋
東京都渋谷区の新型コロナウイルスのワクチン接種の通知の中国語ページに、なんと渋谷区のことが“渉谷”と表記されていたことがあるそうです!!(現在は見当たらないので、修正されたのかもしれません。)

「渋」という字の簡体字は、“涩”ですね。しかし、「渋」と“涩”は確かにあまり似ていませんので、印象の似ている“涉”のほうが通りがいいかもしれません。

発音も“涩”は「sè」で、“涉”は「shè」で、音も似ていますから、まぁいっそ“涉”のほうが一般中国人には訴えかけることができるのかもしれませんね。

わざとだったのか、単なるミスだったのか知りませんが(笑)。

ちなみに時々このnoteでもご紹介している『中国嫁日記』の主人公「月(ゆえ)さん」も、この「渋」という漢字について「実はこの字中国にはないデス」とはっきりおっしゃっていました。一般的には「これは日本独自の字だ」と思われている可能性は大ですね。

考えてみれば、「渋」の繁体字、いくつかありまして、その内の1つ「澀」は中国の簡体字には似ていますが、日本の常用漢字体「渋」とはかなり違っています。日本の漢字体が変な略し方をしのでしょうか?この字の混乱の元はどうやら日本にあるようです(笑)。

通訳・翻訳家 伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
「文法から学べる中国語」等、著書多数

2021年5月までの記事は弊社の「翻訳コラム」でお読みいただけます。