見出し画像

正露丸 商標の歴史

「正露丸」の商標について面白い記事を見つけました。

この商標は大幸薬品の商標ですが、実は一般名称であり、どの企業も使えるという事実があります。
しかしそのように言いつつも、「正露丸」の商標は登録されています。

第545984号 (大幸薬品)

J-PlatPatで調べると、「正露丸」商標は大幸薬品によって数多く登録されていますが、「和泉正露丸」が和泉薬品により登録されています。

第2721229号(和泉薬品工業(株))

これは「正露丸」の言葉が一般名称であることを示しています。もし識別力ある部分であれば、大幸薬品の「正露丸」という登録商標の存在を理由に拒絶されるはずです。「和泉」という識別力ある言葉だからこそ登録されました。

大幸薬品の「正露丸」商標は、「セイロガン糖衣A+ラッパのマーク」「ラッパのマーク」「セイロガン糖衣のパッケージ」などさまざまなバリエーションで登録されています。

       第5049430号            第4604849号                     第2547908号                   (いずれも、大幸薬品)


「正露丸」の名称にはさまざまな経緯があり、非常に長い歴史があります。
日露戦争前の1902年に中島佐一薬房(大阪)が「忠勇征露丸」という薬を販売する許可を大阪府から得て、日露戦争中は軍人全員が胃腸薬としてこれを服用することが命じられていました。
第二次大戦後、大幸薬品が忠勇征露丸の販売権を譲り受けています。また、「征露丸」の「征」が国際関係上好ましくないため、「正」に変更されて今日にいたっています。
 
そして、CMでお馴染みのラッパのメロディーの音商標も、2015年の音商標の導入と共に出願し、登録を受けています。

第5985746号(大幸薬品)


しかし、この音商標もすんなりと登録されたわけではありません。音商標導入の当日である2015年4月1日に出願されたものの、識別力を定めた商標法3条1項(正確には書類閲覧が必要です)違反を理由に拒絶理由がされ、いくつかの書類提出を経てやっと登録されています。

文字商標は一般名称化することありますが、音やパッケージはそのおそれがないとはいいつつも、日本で音商標が登録できなかった期間があまりに長かったため、テレビCMを通じてメロディーが先行して有名になり、それゆえに商標登録が難航するケースもありました。特にメロディーは、文字より人々の耳に残りやすいため、企業のイメージを特徴付けやすい半面、識別力がないという判断がされる場合もあります。
正露丸の例をとってみても、企業があの手この手でブランドを守ってきた歴史を感じます。

 弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。